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ラグビー コラム 2021年11月9日

ポルトガルのラグビーは感情であふれる ~日本代表との「片思いの大試合」を前に~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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ポルトガルのラグビーは感情であふれる ~日本代表との「片思いの大試合」を前に~

ラグビーのジャパンがポルトガルと対戦する。11月13日(日本時間14日午前2時10分)。会場はエスタディオ・シダーデ・デ・コインブラ。サッカーの「ユーロ2004」で使用されたスタジアムである。

コインブラとはポルトガルの地名。人口15万弱、リスボンの北の古都である。この響きと字の並びをどこかで耳にし、目にしたことがある。たぶんジーコ。やはりサッカーのジーコだ。かつてのブラジル代表の名手で、いまひとつ成功できなかった元日本代表監督。本名はアルトゥール・アントゥネス・コインブラ。名字がラグビーのテストマッチ開催都市と重なった。ブラジルとポルトガルの結びつきをあらためて感じた。

ポルトガルはサッカーの国である。古くはエウゼビオ、ちょっと古くてルイス・フィーゴ、いまも現役のクリスティアーノ・ロナウド、丸い球のフットボールの熱烈な愛好者でなくとも、このくらいの名は浮かぶ。

そしてポルトガルは知られざるラグビーの国だ。最新の根拠がある。愛称は「オス・ロボス(Os Lobos =英語でThe Wolves)」という腹のすいた狼のごとき代表は11月6日にリスボンでカナダを20-17で破った。同国から史上初の勝利だった。7月17日には敵地でロシアを49ー26で退けている。国際統括団体のワールドラグビーの本稿執筆時のランキングは19位である。

2007年のフランスでのワールドカップに最初の、そして現時点では最後の出場を果たした。オールブラックスに13-108で敗れるもスコットランドには10-56と一定の抵抗を示した。イタリア(5-31)、ルーマニア(10-14)戦も力は届かず全敗でプール戦を終えた。

学生や会社の勤め人などで構成されたアマチュア集団の奮闘は好感を呼んだ。大会でもっとも愛されたチームかもしれなかった。スコットランドとの初戦の前に国歌が流れる。赤ワイン色のジャージーに感情はほとばしる。ワールドラグビーのサイトに映像が紹介されている(https://www.world.rugby/video/417940)。

オールブラックス戦の直前のそれはもっとすごい。ライターや解説者として「すごい」という言葉を使わないように心がけてきたが、この場合、ほかの表現が見つからなかった。列の左端(スコットランド戦の前は右端)、職業は弁護士のナンバー8、バスコ・ウーバ主将のひとり興奮を内面に押し込めるような表情はいま見返しても崇高だ。

そしてうれしいではないか。ポルトガル・ラグビー連盟(Federacao Portuguesa de Raguebi)は、このほどぶつかるジャパンを過去のワールドカップにおける「オールブラックス、スコットランド以来の重要な対戦相手」(SAPO DESPORTO)と定めた。掛け声だけではない。具体的に次の方針を打ち立てた。

「日本とのテストマッチ当日のラグビー試合を禁ずる」。国内リーグの公式戦の開催を延期、もしくは前倒しする。決定の理由は「希望する者のすべてがライブで試合を観戦できるように」(同前)。ポルトガルのラグビーにとっての大試合である。

連盟の公式レターにはこうある。

「対戦相手の価値、開催の時期においてポルトガルのラグビーのよき経験、その瞬間を国際機関、スポンサー、そして一般の人々に示す絶好の機会となります」

当日の国内ラグビーを封じる。さあ決戦に注目せよ。これは旅するチームにとっても最大級の名誉だ。「対戦相手の価値」。選手でもコーチでもないのにちょっとだけ胸を突き出したくなる。

古いファンなら記憶を倉庫から取り出すかもしれない。1968年6月8日、ジャパンがウェリントンのアスレティック・パークでニュージーランド大学選抜と同国遠征の最終戦に臨んだ。オールブラックス・ジュニアを破るなどツアーが進むにつれジャパンの評判は高まった。スプリングボクスのように強大な敵ではありえない。しかし独自の攻守で観客を魅了した。小柄なのにタフ。おそろしく素早い。ウェリントン協会は、その日のクラブの全試合を午前中に終わらせるように新聞紙上で訴えた。「ジャパンを見よ」。そういう意図なのだと当時の日本には伝えられた。テレビのダイジェスト映像に残るスタジアムには「25000」と記録されたファンがひしめいている。

ポルトガルの対ジャパンのスコッドにはフランスのクラブ在籍の主力も含まれる。チームに勢いのあった7月のロシア戦の映像などを確かめると、ボールを動かすスタイルを志向しながら、顔ぶれがそろえばスクラムやモールも弱くない。オフロードと短いパスの中間くらいの幅で突破を図るのがうまい。

先発発表の前に書いているが、背番号12の主将、本職は歯科医のトマス・アプルトンは狭いスペースで角度を変えながら縦に出る能力に富む。カナダ戦の13番、ジョゼ・リマとの連係は要注意だ。

普段はインプラント治療などに精を出すアプルトン主将は言う。

「ここから数年、経験を積めば、ポルトガルは国際ラグビーで大きな進歩を遂げるでしょう」(rugbyeurope)

ジャパンはアイルランドに完敗を喫した。ポルトガルが向上を期すなら、こちら桜のジャージーの主題は世界8強級への定着だ。対スコットランドのスコアが崩れたら評価の積み木はひとつふたつ抜かれる。それを避けるにはコインブラで引き締まった白星を挙げなくてはならない。

ポルトガルはアイルランドではない。ただしワールドクラスの情熱ならそこにある。いわば「片思いの大試合」。誠実に応えるのがラグビーの礼儀だ。オス・ロボスの魂を敬いつつ厳しく突き放す。そうすればスコットランドとの息詰まる闘争の資格は整う。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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