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プレイヤーオブザマッチ 明治大学 飯沼蓮主将
戦前の予想とは裏腹にスコアは大きく開いた。1対1のバトルで当たり勝ち、攻守の起点となるセットプレーを支配、2人目のサポートの速さでも上回って、堅固な組織ディフェンスは最後まで乱れなかった。80分間を通して質の高いプレーを維持し続けた明治大学が、今季好調の筑波大学をあらゆる局面で圧倒し、第4節最注目の一戦で快勝を収めた。
明治大学の気迫と集中力はキックオフ直後から際立っていた。開始6分、ゴール前でマイボールラインアウトのチャンスをつかむと、キャッチ後すぐにブラインドサイドを突くサインプレーでLO山本嶺二郎が抜け出し、早々に先制のトライを刻む。7分後には同じ位置のラインアウトから今度はがっちりとモールを組み、真っ向勝負で押し切ってHO田森海音がグラウンディング。まさに機先を制する連続得点で、ゲームの主導権を力強くたぐり寄せた。
その後も紫紺の15人は一貫した姿勢を維持し、自分たちのペースで試合を進める。帝京大学や早稲田大学にも接点で互角に渡り合った筑波大学を相手に激しいヒットで圧力をかけ、縦横を組み合わせた自在の攻めでジリジリと前進。20分にはラインアウト起点の連続攻撃でゴールラインに迫り、最後はWTB松本純弥が狭いスペースを突き抜けて19-0とリードを広げる。
この日の明治大学の充実ぶりが表れていたのは、その直後のシーンだ。キックオフでキープし損ねたボールを筑波大学に拾われ、崩れた状況でエースのFB松永貫汰主将にオープンサイドを走られたが、全員がただちに反応して自陣ゴール前まで戻り、またたく間に危険なスペースを埋める。これまでならトライになっていた相手の得意な攻撃パターンをしのぎきったことで、ゲームの流れはより決定的になった。
以後、筑波大学の鋭いタックルに停滞する時間帯もあったものの、明治大学の15人は決して安易なプレーに逃げず、スクラムとラインアウトの優位性を存分に生かしてじわじわと相手を追い詰めていく。35分以降は敵陣22メートル線内に居座り続け、40分に好判断で抜け出したSO伊藤耕太郎のスラロームランから外をフォローしたFB石田吉平が左中間にトライ。ハーフタイムを前に、スコアは24-0まで拡がった。
後半も明治大学の意欲は衰えない。7分、連続攻撃で得たペナルティからタッチキックで前進してゴール前まで攻め込むと、またもモールをドライブしてFL福田陸人が左隅に押さえる。
筑波大学も12分にゴールラインドロップアウトのボールをFB松永が切り返し、WTB植村陽彦のあざやかなランからFL岩田真樹へとつながってようやく初得点を挙げる。しかし明治大学は直後のキックオフからテンポよくアタックを継続し、最後はCTB江藤良がミスマッチを抜いてノーホイッスルでインゴールへ。失点後、すかさずトライを取り返して相手の勢いを断ち切る。ここにもこの日の明治大学の強さは浮かび上がった。
筑波大学 松永貫汰主将
続くキックオフでボールがこぼれたところに筑波大学がよく反応し、右のオープンスペースへ振ってCTB谷山隼大がこちらもノーホイッスルトライを挙げたが、明治大学は動じなかった。統制のとれた組織防御としぶとい球への絡みでそれ以上の追撃を許さず、自慢のセットプレーでプレッシャーを与えてみずからの土俵でゲームを進める。終盤は交代出場選手のフレッシュレッグも生かしてさらにたたみかけ、35分以降にHO紀伊遼平とWTB松本が3トライを追加。得点を50の大台に乗せて、フルタイムを迎えた。
過去3試合は本来の力を発揮できない戦いが続いていた明治大学にとって、この秋最初の関門となった筑波大学戦で今季ベストのパフォーマンスを披露できた意義は大きいだろう。焦点がぼやけたような前節までのプレーぶりから一転、強みを前面に押し出して難敵の筑波大学に完勝できたことで、選手たちはあらためて自分たちのポテンシャルを実感したはずだ。ここで手にした自信はきっと、慶應義塾大学、帝京大学、早稲田大学という強豪との終盤戦に向けチームの成長を加速させる推進力になる。
「前の試合で思うようにプレーできず、危機感を感じていました。そこから全員で切り替えていい準備をできたことが、今日のような試合をできた理由だと思います」(SH飯沼主将)
ラグビー 関東大学対抗戦2021
【ハイライト】明治大学 vs. 筑波大学
一方、思わぬ完敗を喫した筑波大学。重さのあるPRの選手をLOで起用し、鍵ともくされたスクラムにフォーカスする布陣で勝負を挑んだが、「バランスが崩れてしまった」と嶋崎達也監督が悔やんだように、結果としては強みであるディフェンスでこれまでのように前に出られなかったことが敗因となった。ここまでの連戦で防御面での手応えを得ていたからこその秘策だったが、裏を返せばそれだけ明治大学の一人ひとりのインパクトが想定以上だったということの証だろう。
試練を見事に乗り越えた勝者は飛躍への貴重なきっかけをつかみ、分厚い壁に勢いをはね返された敗者は、もう一段上のステージに進むための大切な教訓を胸に刻んだ。そんな一戦だった。
文:直江 光信
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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