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ラグビー コラム 2021年9月1日

【日本ラグビーを支えるスペシャリスト】毎日ラグビーをしても青々。「なんぼでも荒らしてくれ!」レッドハリケーンズを支える芝生職人の心意気

村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一
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隅田昌宏さん、梅名裕介さん

ラグビー選手のパフォーマンスに芝生のコンディションの良し悪しが影響するのはよく知られるところだ。しかし、ラグビーの芝生管理は難しい。体格の大きな選手が走り回り、スクラムを組めば、どうしても芝が荒れてしまう。トップチームでは天然芝と人工芝などグラウンドを2面保有するチームも多い。そんななか、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪の練習グラウンドは天然芝が一面しかないのに良好な状態が保たれている。多くの選手の証言もある。いったい、どんな人が、どんな思いをもって芝生管理をしているのか。レッドハリケーンズのグラウンドの管理を担当するのは京阪園芸株式会社。今回は、実際に手入れを担当する梅名裕介さん(72歳)、隅田昌宏さん(67歳)にお話を伺った。

――お2人がNTTドコモレッドハリケーンズのグラウンドの管理をするようになったのはいつからですか。
梅名 私は6年前からです。以前は運動施設のサラリーマンで多少芝生には関わっていたのですが、そこを定年退職して今の仕事を始めました。
隅田 私は2年目です。それまでは奈良市の鴻ノ池運動公園にある「ロートフィールド奈良(奈良市鴻ノ池陸上競技場)」の管理をしていました。

――芝生の管理というのは、具体的にはどんなことをするのですか。
梅名 芝生の刈り込み、肥料散布、薬剤散布、散水、年に2回オーバーシード(夏芝に冬芝の種子を蒔くなど一年中緑の芝生を維持する管理方法)という作業があります。大きく分類するとそんなところです。

――毎日、グラウンドには行くのですか。
梅名 ほとんど毎日ですね。芝を刈るのは3日に一回くらいのサイクルです。散水、肥料散布、薬剤散布、それらが日々のメインの仕事です。

――ラグビーの練習をすると、芝が荒れると思うのですが。
隅田 掘れてしまったところには砂を入れます。芝生は穴が開いてしまうと、そこから芽が出にくいのですが、砂を入れるとそこから芽が出てくるんです。穴を放っておくと選手がつまずいて怪我をしてしまうこともありますので。

――サッカーとラグビーの芝生の違いはありますか。
隅田 サッカーは芝の長さを15~20ミリで刈ります。すると試合の時には23~25ミリになります。ラグビーの場合は、25~30ミリくらいで刈り、数日後の試合で33~35ミリくらいになる。このあたりでプレーするのが選手にとってベストなんです。また、ラグビーはスクラムを組んだりするので、どうしても芝が荒れます。その補修には気を使うところです。

整備の様子

――年間を通して緑にするためにはどのようなことをしていますか。
隅田 冬の時期は寒地型の芝で、寒いときでもグラウンドを緑で覆ってくれます。これを4月、5月に10ミリ以下に刈ってしまい、下に眠っている暖地型の夏芝を目覚めさせます。本当はそこから鮮やかな緑になっていかないといけないのですが、今年は日照時間が短く、雨が多いので、なかなかそこまで育っていないのが現状です。10月になると寒くなってきますので、暖地型の芝を刈り、冬芝の種をまき、冬のシーズンを迎えます。

――梅名さんは、6年前にNTTドコモのグラウンドに関わる前、ラグビーをご存じでしたか。
梅名 まったく知りませんでした。ここの仕事をすることになってから勉強しまして、多少わかってきました。
隅田 私も同じです。私は中学、高校とサッカーをしていたので、こちらに来てからいろいろと教えていただきました。

――梅名さんは、何かスポーツはされていましたか。
梅名 ヨットですね。

――芝生とまったく関係ないですね(笑)。6年前から関わる梅名さんからすれば、2021年のレッドハリケーンズの躍進は嬉しかったのではないですか。
梅名 あれが目標で練習していましたから。やっと日の目が当たったという感覚でした。

――試合の応援には行くのですか。
梅名 隅田さんと一緒に、しょっちゅう行きますよ。
隅田 私の妻も連れていきます。妻の友人の外科医が全国高校ラグビー大会のドクターをしていましてね。話は聞いていたけど、そんなに関心がなかったんです。でも見てみると、面白いですね。正々堂々として、紳士のスポーツだと感じます。
梅名 若い選手が入ってきて、1年目から見ていると、どんどん伸びるのもわかるし、それを観察するのも楽しみのひとつです。

――練習もしっかりご覧になっているのですね。
梅名 練習は細かいところまで見てますよ。

――よく話をするのは、どの選手ですか。
梅名 私ね、李智栄(リ・チヨン)選手の大ファンなんです。たまにしか話はできませんけど、通路で会うたびに私が声を掛けて、いろんな情報を聞いています。
隅田 私も李智栄さんなんです。あとは、もうチームを離れましたが、ペレナラさんがフレンドリーで、話しかけていただきましたね。

――2021年のシーズンで印象に残る試合はありましたか。
隅田 花園ラグビー場で見た試合(対リコーブラックラムズ)です。あれは、感動しましたね。

――ペレナラ選手が最後に決勝トライをした試合ですね。梅名さんはどうですか。
梅名 私は試合よりも練習が印象的で、ヘッドコーチ(ヨハン・アッカーマン)が変わって練習が変わりました。選手たちのレベルが上がってきているのを感じていました。
隅田 「先シーズンまでは、グラウンドがこんなに荒れなかった」という声を聞きます。コーチ陣が変わって、グラウンドが荒れるようになった。それだけ練習が厳しいということでしょう。そこに結果もついてきた。だから、私らにしたら、グラウンドをめちゃくちゃに荒らしてくれたほうが嬉しいわけです。「補修はするぜ!」という気持ちでおりますから。
梅名 たしかに、コーチ陣が変わって、かなり芝の消耗が激しい使い方になりました。でもね、選手には「まかしとけ。少々荒れてもワシがおる!」と言っていました。

――特に荒れる場所はありますか。
梅名 スクラムマシーンでの練習が一番痛みますね。その練習のときも、「なんや、この程度の練習か、もっと痛めてもかまへんで! あとは面倒見るから」と選手には声をかけていました。

整備の様子

――それは心強いですね。白線はどのように引いていますか。
隅田 水溶性の溶液ですが、ラインカーがありますので、ピンを立ててロープを張って引いています。芝を刈りこんだ後が良いのですが、2週間に1回くらい引きますね。線があったほうが練習の目印になるし、消えてしまうと練習にも支障をきたしますから。

――試合会場の芝生は気になりますか。
隅田 一番先に気になりますね。芝の長さとかラインの濃さとか見てしまいます。花園ラグビー場は綺麗なラインが引いてありますよね。
梅名 時間があるときは、試合会場に早い目に行ってグラウンドの芝を見せていただくことがあります。そんなときには、「勝った!」と思っています(笑)。

――2022年1月から新リーグの「リーグONE」が始まります。レッドハリケーンズには、どんな期待をしていますか。
隅田 今は南半球のラグビーシーズンで、そこに参加している選手は来ていません。日本人選手や移籍選手は今がチャンスです。もっともっとアピールしてポジションを獲得してほしいです。
梅名 選手一人一人が責任をもってプレーし、上に行ってほしいです。選手が怪我をしないように私らもグラウンドの整備だけはきっちりしていきますので。

隅田昌宏さん、梅名裕介さん

ラグビーフットボールは本来、芝生の上で行うスポーツだ。日本では残念ながら芝生のグラウンドが少なく、いまだ土の上でプレーすることも多いが、ふかふかの芝生は選手を怪我から守ってくれる。また、芝生の上で練習するとスキルの上達も早いとも言われる。練習グラウンドの芝生が常に良いコンディションなのは、チームにとって何よりの財産なのだ。それにしても、梅名さん、隅田さんは頼もしい。どんなに荒れても「俺らに任しとけ!」と言ってくれるのだから。ラグビー場がなければラグビーはできない。日本ラグビーを支えるスペシャリストの中でもまっさきに語るべきは、選手が戦う場を整備する人たちだと思いを新たにするインタビューだった。

文:村上 晃一

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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