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サントリー vs. クボタ
トライ数は1対0。それでも最終スコアは26-9と開いた。初のトップ4入りを果たしたクボタスピアーズを心の底からリスペクトし、入念に準備したプランを淀みなく遂行する。リアリズムに徹したサントリーサンゴリアスの完勝だった。
『アグレッシブ・アタッキング・ラグビー』を旗印に掲げ、どんな状況でもプレッシャーを与え続けて相手が我慢できなくなったところでたたみかける。おなじみのスタイルで余裕の勝利を重ねてきたサントリーが、この日は序盤からキックを多用した。試合後、キャプテンのCTB中村亮土がその理由をこう明かした。
「クボタはいいディフェンスチームで簡単にゲインはできない。キックを使いながらアンストラクチャーを作って、自分たちのゲームに持っていこうと考えていた」
ボーデン・バレット(サントリー)
ゲームメイクを司る10番のボーデン・バレットは、地上随一のランナーでありパサーにして、卓越したビジョンと精緻なスキルを誇るとびきりのキッカーでもある。エリアを進めるロングパントから再獲得を狙ったコンテストキック、スペースに落とすピンポイントのキックパスなど、多彩な球質のキックをさまざまな位置に蹴り分け、じわじわと流れを引き寄せていった。
今季躍進を遂げたクボタの強みは、南アフリカ代表HOマルコム・マークスが象徴するフィジカルバトルの強さと、強固にして粘り強い組織ディフェンスだ。真正面からぶつかっていくだけでは狙い通りの展開に持ち込まれる。高精度のキックで相手の前に出る勢いをそぎ、勤勉なチェイスとすばやいディフェンスセットで優位な状況から守りを始め、接点でひたむきに圧力をかけて、たびたびペナルティやターンオーバーを勝ち取った。
クボタも立ち上がりは悪くなかった。みなぎる気迫で攻守にハードヒットを連発し、8分、23分とWTBゲラード・ファンデンヒーファーがPGを決めて6-3と先行する。しかしサントリーはまるで動じることなく自分たちのプランを貫き、主導権を渡さない。わずかな隙を逃さず突いて反則を誘うと、SOバレットが25分、30分とPGを決めて9-6と逆転する。
【ハイライト】サントリー vs. クボタ|トップリーグ 2021 プレーオフ準決勝
この日唯一のトライが生まれたのは前半33分だった。背後へのキック→ターンオーバーからの切り返しという思惑通りの形でサントリーがゴール前ラインアウトのチャンスをつかむと、BK展開で一気に大外へ振ってWTB江見翔太がゴールラインを越える。ほぼ互角に近い内容ながら、スコアの上では14-6と小さくない差がついた。大きな一本だった。
忠実にプランを実行するサントリーの妥協なき姿勢は、後半もまったく乱れなかった。開始早々にNO8ショーン・マクマーンがブレイクダウンで相手ボールにからんでペナルティを得ると、SOバレットが約40メートルのPGを成功。クボタももうひとつの強みである早いテンポの連続攻撃でじりじりと前進し、7分にWTBファンデンヒーファーがPGを返したが、続くキックオフからのプレーでペナルティを与え、バレットのPGを許してしまう。
その後はサントリーがスコアの優位を生かして余裕を持ってゲームを組み立て、バレットが2本のPGを加えて着実に勝利へと歩を進めていく。クボタも最後まで切れることなく果敢に挑み続けたが、サントリーの堅牢な防御網を崩し切るまでには至らない。終了間際、クボタが意地の猛攻で何度も相手ゴールラインに迫ったが、サントリーも懸命に体を張って対抗。驚異的な集中力で最後の一線を死守し、フルタイムの瞬間を迎えた。
「今季のスタートの時点で、アタッキングラグビーを掲げるためにトップリーグで一番のディフェンスチームになろうと話をしていた。毎試合修正しながら、今日はベストのディフェンスができたと思う」
鬼気迫るタックルでチームを牽引したサントリーCTB中村主将の勝利のコメントだ。プレーオフ初戦の4月24日のNECグリーンロケッツ戦では、大量リードを奪った終盤に防御がルーズになり、5トライ31失点を喫した。その反省から1対1のタックルにフォーカスしてトレーニングを重ね、ディフェンスを修正。この試合ではその成果を存分に発揮して厳しく体を当て続け、ブレイクダウンの肉弾戦でも絶対に一歩を引かなかった。
圧倒的な攻撃力に目を奪われがちだが、サントリーの強さを支えているのは、ラグビーのベースである格闘技的要素で相手を圧倒する高い意識だ。自分たちのラグビーを実現するために誰もがハードワークを怠らず、ゲームプランに沿って自分の役割を完遂する。だからこそバレットらの特別な才能はより際立つ。中3週のブランクを感じさせない盤石のパフォーマンスを披露し、勢いある相手にきっちりと勝ち切ったことで、チームはまさにピークの状態でファイナルに挑めるだろう。
一方のクボタ。フラン・ルディケ監督は、「スタートはよかったが、ブレイクダウンでペナルティが多く出てしまった。サントリーはキックに集中して、そこでうまくプレーされたことが敗因だったと思う。また、失ったトライは1本だけだったが、(PGにより)スコアボードでプレッシャーをかけられてしまった。戦術面でサントリーがうまく戦ったと思う」と試合を振り返った。コンタクトエリアで思うように前に出られず、攻守ともにこれまでのような推進力を生み出すことができなかった。この点については、レッドカードにより14人で50分あまりを戦い抜いた準々決勝での神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦の消耗も、少なからず影響はあっただろう。
もっとも、確固たるスタイルを作り上げて初のトップ4入りを果たし、百戦錬磨の相手とこれぞノックアウトステージとうなるような激闘を演じたことは、クラブとしてもう一段ステージを上るきっかけになるはずだ。「一つひとつの勝ちと負けを学びにして強くなってきたことは、チームの財産になると思う。今シーズンの学びを、来シーズンの成長につなげたい」とSO立川理道主将。今季の充実をあらためて証明するとともに、今後のさらなる飛躍が楽しみになる戦いぶりだった。
直江 光信
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長。
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