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別のチームに生まれ変わったような躍動感あふれる戦いぶりでリーグ戦を席巻したNTTドコモレッドハリケーンズに対し、Honda HEATは開幕から6連敗とどん底を味わった。しかし過去2シーズンを振り返ると、Hondaは上位勢にも互角の勝負を演じるなど着実に進歩を遂げており、最終節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦ではそれを証明するように55-7の快勝を収めている。何より、リーグ戦の額面通りにはならないのが負ければ終わりのノックアウトステージのおもしろさだ。試合はまさにそんな流れで進んだ。
先に主導権を握ったのはホワイトカンファレンス6位のHondaだった。風上を利して効果的なキックで陣地を進め、2019年のワールドカップ優勝メンバーである南アフリカ代表LOフランコ・モスタートを軸にした安定感あるラインアウトを起点に、ゴールラインに迫る。しかしNTTドコモは渾身のタックルで何度も相手を押し返し、最後の一線を死守。17分にSO呉洸太のPGでHondaに先制を許したものの、再三のピンチを最少失点で切り抜けたことが、その後の反撃を呼んだ。
ローレンス・エラスマス(NTTドコモ)
FW、BKが一体となったテンポのいいアタックで再三好機を作ると、26分に長い連続攻撃からBKがワイドに振ってWTBマカゾレ・マピンピが左コーナーにトライ。39分にもFWの力強い縦突進から突破口を開き、キャプテンのLOローレンス・エラスマスがインゴールに飛び込む。風下のNTTドコモが14-3とリードして、前半を折り返した。
後半は風に加え6分にHondaのCTBショーン・トレビーが危険なタックルでシンビンになったことも重なり、NTTドコモが敵陣で攻める時間が続く。Hondaも途中出場の日本代表PR具智元らの奮闘で劣勢だったスクラムを立て直し、懸命のディフェンスでよく持ちこたえていたが、17分にキックボールがイレギュラーにバウンドする崩れた状態から驚異的な嗅覚でサポートしたSHTJ・ペレナラがトライを挙げ、スコアは21-3に広がった。
【ハイライト】Honda vs. NTTドコモ|トップリーグ 2021 プレーオフ2回戦
生方信孝(Honda)
風と残り時間を考えれば、NTTドコモが勝利に手をかけたかと思われたこの曲面。しかしHondaはあきらめなかった。23分、ハーフウェーライン上のスクラムから右サイドを攻め、大外でパスを受けたWTB生方信孝があざやかにペレナラを抜いてインゴールへキック。弾むボールをみずから押さえ、反攻の口火を切る。さらに4分後には途中出場のCTBクリントン・ノックスのビッグゲインで敵陣22メートル線内に攻め込み、最後はLOモスタートが200cm、112kgの巨躯を伸ばしてインゴールにねじ込んだ。
スコアは8点差。残り時間は12分あまりで、モメンタムはHondaに傾いている。NTTドコモにとってはまさに真価が問われる正念場。そしてこの勝負どころで、レッドハリケーンズの今季の充実はあらためて証明された。
気迫を前面に出して攻守に圧力をかけてくるHonda。しかしNTTドコモはそれを上回る激しさで献身的に体を当て続け、相手を敵陣に押しとどめる。34分過ぎにHondaの鋭いアタックにあわやというシーンを作られたものの、懸命のカバーディフェンスでエラーを誘い、危機を脱出。最後まで高い集中力を維持したまま、残り時間をしのぎ切った。
多くの注目を浴びる中でプレーオフを迎え、さらにこの試合は相手の挑戦を受ける構図だっただけに、NTTドコモには少なからずプレッシャーがあったはずだ。そしてその状況で、苦しみながらも要所に地力を発揮し、きっちりと勝ち切ったことは大きな価値がある。過去の最高成績は2014年度の11位で、これがクラブとして初のベスト8進出。試練を乗り越えた経験によって、チームの自信はさらに深まるだろう。
「チームメイトを誇りに思います。歴史を変えるのは簡単なことではありません。ただ、トップ8で満足はしていない。そのためにやってきたわけではないし、もっと高みを目指していきます」(SHペレナラ)
敗れたHondaも、突き放されそうな場面でよく踏みとどまり、逆転をイメージできるところまで追い上げた戦いぶりは立派だった。鬼気迫るハードヒットを連発したLOモスタートが象徴するように誰もが猛然と体を張り、ファイティングポーズをとりつづけた姿勢には、今季の確かな足跡が表れていた。思い描いていたようなシーズンを送ることはできなかったが、最後にベストゲームといえる内容で戦いを終えたことは、きっと来シーズンにつながるはずだ。
「この1週間、自分たちの持っている力を最大限出すための準備をしてきました。満足しているといったらおかしいですが、準備してきたことをしっかり出すことができて、チーム全員を誇りに思います」(FL小林亮太主将)
フルタイムの瞬間までテンションが途切れず、ここという勝負どころでこのゲームのために作り上げたスペシャルプレーが繰り出されるなど、これぞノックアウトステージというべき緊張感に満ちた80分。準々決勝以降がさらに楽しみになる一戦だった。
直江 光信
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。熊本高校→早稲田大学卒。熊本高校でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に「早稲田ラグビー 進化への闘争」(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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