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TJ・ペレナラ
キヤノンイーグルスの沢木敬介監督と、NTTドコモレッドハリケーンズのヨハン・アッカーマンヘッドコーチ。チームの潜在力を最大限に引き出し、何より魅力的なアタッキングスタイルを作り上げることで数々の実績を残してきた新指揮官が就任した両チームの注目の一戦は、期待通りの拮抗した展開で進み、期待を上回る劇的な幕切れでスタジアムを沸かせた。
チーム紹介
前半主導権を握ったのは、ホームのキヤノンだった。PR東恩納寛太、HO庭井祐輔、PR船木頌介の第1列を軸にスクラムで強烈なプレッシャーをかけ、9分にはコラプシングの繰り返しでドコモPR北島大をシンビンに追い込む。17分にPGでドコモに先制を許したものの、29分に流れるようなライン攻撃から左ライン際をWTBホセア・サウマキが迫力満点のランで駆け抜け逆転。PGで1点差に詰め寄られた直後の34分には、SO田村優が鋭いランで縦に抜け出し、CTBマイケル・ボンド-CTBジェシー・クリエルとつながってインゴールへ。14-6とリードしてハーフタイムを迎えた。
もっとも、沢木監督が試合後「前半4トライくらい取れるチャンスがあったのに、しっかりフィニッシュできなかった」と振り返ったように、キヤノンにすれば得点機を仕留め切れず、安全圏まで突き放せなかったのも事実だった。そして、ともすれば大きく流れが傾きそうな場面をよくこらえ、ビハインドを8点にとどめて折り返したことで、ドコモは後半に息を吹き返した。
自陣でのディフェンスの時間をしのぎ切って迎えた後半18分。ドコモは相手の反則に乗じて敵陣22m内に攻め込み、ラックから抜け出したLO杉下暢をSHのTJ・ペレナラがフォローしてゴールラインを超える。さらに26分、今度はペレナラがペナルティからのクイックタップで突破し、FL李智栄のトライをアシスト。18-17と逆転する。
勢いに乗るドコモはなおも攻勢を緩めず、32分にFWが密集脇をしつこく前に出て相手防御の注意を内側に寄せたところで、タイミングよく右オープンに展開。WTB茂野洸気が切れ味鋭い走りでタックラー3人をかわして右スミに押さえ、23-17とリードを6点に広げた。
【ハイライト】キヤノン vs. NTTドコモ|トップリーグ 2021 第1節
残り時間は約6分。しかし、本当の勝負はここからだった。勝利への強い意欲を見せるキヤノンは、自陣22m戦付近のキックレシーブからボールを継続してディフェンスを揺さぶり、右ブラインドサイドへ移動しながらパスを受けたSO田村がすり抜けるような走りでラインブレイク、一気に切り返す。最後はサポートした途中出場のFL安井龍太がディフェンダーを振り切って右スミにトライ。こちらも途中出場のFB小倉順平が、足を痛めた田村に代わって蹴った難しい角度のゴールを見事に成功させ、24-23と逆転する。
これで決着か――と思われたこの場面。しかし、最後にドラマが待っていた。陣地挽回のキックに対する相手のレイトチャージでドコモが自陣ゴール前から一気に敵陣に入ると、キヤノンの激しいディフェンスに圧力を受けながらも懸命にアタックを継続し、ゴール正面の約30mの位置で値千金のペナルティを獲得する。フルタイムのホーンが鳴り、しびれるような緊張感がスタジアムを包む中、決まれば逆転、外せば敗戦というPGをドコモSO川向瑛が見事に成功させ、劇的な逆転勝利を呼び込んだ。
ともに新体制のもとでクラブの変革と大幅なスタイルチェンジに取り組んできた両チームだけに、この一戦は単なる開幕節の1試合にとどまらない重要なゲームという認識があっただろう。勝利という結果が選手たちに自信をもたらし、成長のスピードを加速させる。数々の修羅場を乗り越え実績を残してきた指揮官は、そのことを熟知しているはずだ。
もっともドコモのアッカーマンヘッドコーチは、就任後最初の試合での白星発進に「もちろん勝利はうれしい」と笑顔を見せながらも、「まだシーズンは始まったばかり」と気を引き締める言葉を口にした。
「これからどんどんいいチームが出てくる。毎回リセットして、次の試合に向けてしっかり準備する。ひたすらそれを繰り返して、勝利を重ねていくことが一番大事だと思っています」
一方、キヤノンの沢木監督が課題として語ったのは、最後に守り切れず逆転を許したことよりも、チャンスを作りながら突き放せず、相手に反撃の余地を与えてしまった前半の内容だった。
「ああいう展開になるまでに仕留め切れていないのがそもそもの問題。前半4トライくらい取れるチャンスがあったのに、しっかりフィニッシュできていない。でも、現状をしっかり受け入れないと成長もできない。改善できるよう取り組みます」
ひとつのゲームで得た収穫と課題を整理し、次の試合に結び付けていく。それもまたコーチの腕の見せどころだ。第1節屈指の激戦となったこの試合を経て、両チームがどのようにステップアップしていくのか。この先のシーズンが楽しみになる一戦だった。
文:直江 光信
直江 光信
1975年生まれ、熊本県出身。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。早大時代はGWラグビークラブ所属。現役時代のポジションはCTB。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。ラグビーを中心にフリーランスの記者として長く活動し、2024年2月からラグビーマガジンの編集長。
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