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【ハイライト動画あり】アルゼンチン代表プーマス 初めてオールブラックスを破る快挙 ニコラス・サンチェス全25得点あげる
村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一11/14 ニュージーランド vs. アルゼンチン
歴史的勝利はあまりにも唐突にやってきた。2020年11月14日、オーストラリア・シドニーのバンクウェストスタジアムは興奮のるつぼと化した。アルゼンチン(プーマス)が、25-15でニュージーランド(オールブラックス)を破ったのだ。アルゼンチンは、2015年のラグビーワールドカップ(RWC)でベスト4になり、南半球4強国(ニュージーランド=NZ、南アフリカ、オーストラリア、アルゼンチン)によるザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)に参加する強豪だが、ニュージーランドには過去29戦して一度も勝ったことがなかった。たった一度の引き分けも、1985年のことである。
今年のTRCはコロナ禍で南アフリカが参加できず3カ国での開催となった。アルゼンチンは大半の選手が感染者の少ないウルグアイで検疫を受け、フランス、イングランドのクラブでプレーする13選手は直接オーストラリア入り。自主隔離を経ての参加だった。彼らにとって今大会初戦となるNZ戦は、テストマッチ(国代表同士の試合)としてはRWC2019のアメリカ代表戦以来402日ぶり。大会前はオーストラリア代表選手を含むオーストラリアAと2戦して2勝したが、わずかな準備で初戦を迎えた。
対するNZはオーストラリアと4試合を経ており、大半の選手が7月から8月にかけてスーパーラグビー・アオテアロアでプレー。準備の差は明らかだった。しかも、NZは前節オーストラリアに敗れ、必勝態勢のベストメンバーで臨んでいた。
シドニーでの一戦は、アルゼンチンSOニコラス・サンチェスのキックオフで始まった。そのボールをNZのパワフルWTBケイリブ・クラークがキャッチして突進する。これをアルゼンチンのFLパブロ・マテーラキャプテンがタックル一発で倒す。気迫みなぎる表情に売り出し中のWTBを一歩も前に出さないという決意がにじんだ。その後も、アルゼンチンは素早いパスワークで攻勢に出て、4分、SOニコラス・サンチェスがハーフウェイライン付近からPGを決めて先制する。
【ハイライト】ニュージーランド vs. アルゼンチン|トライネーションズ(ザ・ラグビーチャンピオンシップ)2020
NZのSOリッチー・モウンガにPGを返されたが、アルゼンチンは好タックルを連発する。上体を抱えるチョークタックルでボールを停滞させたかと思えば、低いタックル一発で攻撃を寸断。フィジカル面でもまったく引けを取らず、NZが誇るFLシャノン・フリゼル、NO8アーディ・サヴェアといった突破役にも前進を許さなかった。加えて何度も小競り合いが起こったようにアルゼンチンのボール争奪戦での激しさが、NZの選手たちを苛立たせた。前半18分、アルゼンチンはラインアウトからの連続攻撃でFLマルコス・クレメルらが突進してNZ陣深く入り、サンチェスが防御背後にショートパントを蹴り上げ、これをNO8ロドリコ・ブルーニがインゴール方向に蹴り、サンチェスがポスト下に押さえてトライ。ゴールも決まって10-3とリード。さらに2PGを加えて、16-3とリードを広げて前半を折り返した。
前半なかばからは、NZの流れが悪くなる出来事が次々に起きた。HOデイン・コールズが相手の顔をはたいて反則を取られ、WTBジョーディー・バレットがキックした後の選手へのチャージで反則を取られ、CTBアントン・レイナートブラウンが脳震とうのチェックで一時退場、SOリッチー・モウンガはPKからのタッチキックをインゴールに蹴り込んでチャンスを失ってしまう。
後半に入ってもNZの攻撃をアルゼンチンが的確なタックルで寸断し、7分にサンチェスがPGを追加して19-3。ようやくNZがトライを返したのは、12分のことだった。PKからのタッチキックでアルゼンチンのゴール前のラインアウトを得てモールを押し込み、FLサム・ケインがゴール左隅に飛び込む。モウンガがゴールを決めて、19-10。だが、数分後にはサンチェスがPGを決めて、22-10と点差が詰まらない。その後も、いつものNZには見られないハンドリングエラーやキックミスがあり、アルゼンチンの力強いタックルの前にスピーディーな攻撃ができず、時間が過ぎていく。
後半35分、アルゼンチンは、サンチェスがハーフウェイライン左中間という50m以上のロングPGを決めて、25-10。勝利をほぼ手中にした。スタンドでは、メンバー外の選手たちが大盛り上がり。アルゼンチンの国旗を振るサポーターの姿もあった。試合終了間際にNZのクラークがトライを返したが直後にノーサイドの笛が鳴った。「アルゼンチンラグビーにとって、ビッグデーだ」。ジャッカル、タックルでNZの前に立ちはだかったパブロ・マテーラキャプテンは、涙をこらえながらコメントした。NZからの悲願の初勝利は、絶対不利を予想された状況下で成し遂げられた。
ボールを持って突進したキャリーの回数は、125-100でNZが多く、進んだ距離も327m-240mとNZが上回っている。光ったのはアルゼンチンのディフェンスで、152回のタックルを成功率90%で決めた。出色の活躍だったSOニコラス・サンチェスは、1トライ、1ゴール、7PGを決め、チームの全得点をあげた。アルゼンチンの次戦は、11月21日、対オーストラリア。11月28日には、2011年以来のテストマッチ連敗となったニュージーランドと、再び相まみえる。牙をむくNZにアルゼンチンがどんな戦いを見せるのか楽しみだ。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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