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ラグビー コラム 2020年5月22日

鉄人・大野均、灰になってもまだ燃え続けた男の引退会見

ラグビーレポート by 斉藤 健仁
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先日、今シーズン限りでジャージーを脱ぐことを発表した、ラグビー日本代表最多キャップ数『98』を誇る東芝ブレイブルーパスのLO(ロック)大野均(42歳)の引退会見が、5月22日(金)にオンラインで行われた。

冒頭、大野はやや緊張した面持ちで「大学からラグビーを始めて、素人同然の私を誘っていただき、(東芝の)社員のみなさまをはじめ、多くの人に励まされここまでやってこられました。

『灰になってもまだ燃える』が私の信条ですが、1年ほど前から膝の痛みがでてきて、昨年末、別メニューで調整してきたが回復が見られず、昨年のワールドカップの(日本代表の)躍進や東芝のラグビー部内でも若い選手の台頭が見られてとても頼もしく感じ、これ以上、選手としてやり残したことはないとの思いを感じ、引退を決意しました」と話した。

続いて「これまでの長い間 東芝、日本代表のプレーを多くの方に応援していただき、頑張ってくることができました。スタジアム内外の声援のおかげでここまで現役をまっとうできました。

今後は私を育てていただいた株式会社東芝、東芝ブレイブルーパスに恩返しができるような活動をしながら『大野均』として、これから自分のできること、自分にしかできない道を見つけて、日本ラグビー界に貢献していきたいと思っております」と真っ直ぐに前を向いた。

やはり、両膝の痛みが慢性化し、走ることが難しいこと、悪化したことが引退の大きな要因となったようだ。誰かに相談することはせずに、自ら引退を決めた。

「今年の1月、トップリーグが開幕し、漠然と今シーズンが最後になるのかなとシーズンを過ごしてきました。

新型コロナウィルスの影響で、グラウンドでの練習ができず、ふと朝起きて走れるかなと思って2・3歩走ってみたら、それでも膝が痛くて ここが潮時なのかなと思いました。

『身体を張る』という部分では(東芝の後輩LOの)梶川喬介、小瀧尚弘に受け継いでいってほしい。また、日本中の日本人LOが日本代表として活躍できるのを楽しみにしています」。

42歳まで現役としてプレーを続けられた原動力を聞かれた大野は「やっぱりラグビーをプレーすることが好きだったということですね。

そして、スタジアム内外でいただく、たくさんの声援に背中を押していただきました。東芝の先輩である松田努さんの記録を超えられればいいなと漠然と思っていましたが、あと数ヶ月足りませんでした」と悔しそうな表情で語った。

ラグビーのどういうところが自分に合っていたかと聞かれると「大学からラグビー初めて パスもキック下手な中、それを考えたら自分の中ではシンプルでした。パス、キックが上手なら何をプレーするか迷って、ここまで現役を続けることができなかったかもしれない。

自分が所属した日本大学工学部ラグビー部、東芝ブレイブルーパス、日本代表、サンウルブズもそう、本当に魅力的なチームで、このチームで勝ちたいと思わせてくれた集団だったので、そのチームのために自分ができることを全部投げだそうという思いでやってきました」とコメントした。

また、大野は2004年に日本代表としてデビューを飾り、史上最多98キャップを誇る。

「日本代表に入った2年目、フランス遠征で日本から移動してホテルの宿舎まで24時間かかった。みんなヘロヘロでしたが、チェックインしたとき、その部屋割りが伊藤剛臣さんと同じだった。

剛臣さんがジーパンに着替えて、飲みに行くので、おまえもついてこいと言われてホテルのロビーに降りたら、箕内(拓郎)さんもいて、こういったタフな人がジャパンでは活躍できるんだなとそのときに再認識させられました。

また、箕内さん、剛臣さん、大久保直弥さん、渡辺まんきち(泰憲)さんといった大先輩に憧れて(日本代表として)プレーを続けられたと思います」としみじみと語った。

そして、ラグビーワールドカップは2007年から3大会連続出場した。「4年に1度、ワールドカップに立てる選手は本当に一握りです。

31名の中からグラウンドには23名、さらに先発できるのは15人。その1人として責任を感じさせてくれた舞台です。どの大会も国を挙げても祭りでした」と振り返った。

写真:2013年ウェールズ戦

ワールドカップの中で一番思い出に残っている試合は、2011年ニュージーランド大会のオールブラックス戦、そして日本代表として一番印象深い試合は2013年のウェールズ代表戦だという。

「桜のジャージーを着て出場したすべての試合が印象に残っています。強いて言うのであれば、もちろん2015年ワールドカップの南アフリカ代表戦もそうですが、13年にウェールズに勝った試合ですね。

私が日本代表に入った2004年、100点差(0-98)で負けた試合で、その9年後に秩父宮ラグビー場で勝てるとは、当時の私は思っていなかった。

私は先発で出て、ノーサイドはベンチで見届けたんですが、勝ちを手中に収めたと感じたときは涙が出て、グラウンドが見えなかったことを覚えています」。

今後、具体的にどういった活動をしていくのか聞かれて、「まずは東芝が王座奪還するための何かしらのサポートをしたいなと思っています。やはり、いろんな地方などに出向いてラグビー普及、ラグビーの人気を上げる活動にも尽力したいと思っています」という。

多くの監督やヘッドコーチに指導されてきた大野だが、理想のコーチは、初代サンウルブズのマーク・ハメットHC(ヘッドコーチ)だという。

「彼はサンウルブズが船出するときに、多くの批判的な意見がある中、選手を常にポジティブなマインドにしてくれましたし、彼自身もラグビーを楽しんでいた。そういった姿勢を持っていたので、彼がサンウルブズの最初のコーチとしてよかったと思いました」。

今後の日本代表がどう強くなってほしいかと聞かれると、「この10年間、エディー(ジョーンズ)さんが監督になって、本当に選手を厳しく鍛えてくれて2015年の結果があって、その上に2019年の結果が積み重なったと思っています。

本当に、日本ラグビーはいい歩みをしている。2023年大会に向けて、ギアを落とすことなく突き進んでほしい。

日本代表が世界で勝つには、ハードワークというキーワードは必ず欠かせない。昨年のワールドカップで日本代表が躍進できたのは、ハードワークの上にジェイミー(・ジョセフHC)が自主性を尊重してくれたからだと聞いています。

その2つ、ハードワーク、自主性が大きなキーワードになる。昨年のワールドカップで日本代表が4勝し、日本中のラグビーをやっている選手が自信を感じられたと思う。

日本のラグビーが強いという自信を積み重ねていっていけば、フランス大会でもベスト8以上の成績が残せると思っています」とエールを送った。

さらに日本ラグビーがどう発展していってほしいかと尋ねられ、大野は「昨年のワールドカップの後から、公園などで、ラグビーボールで遊ぶ子どもがよく見られるようになった。

そういった子どもたちが、もっともっと増えてほしい。そのためにはやっぱり日本代表強いことが不可欠だと思っています。日本代表が世界の強豪に勝つこと。

それを見た子どもたちがラグビーの魅力を感じてラグビーを始めて、ラグビーの競技人口が増えて日本代表が強化される。そういった、いいスパイラルの中で発展していってほしいと思います。

私のようにラグビーは何歳からはじめても、できるポジションがあります。私のような人間でも気軽にラグビーが始められる環境を整えていければと思います」とコメントした。

現役を引退して、一番やりたいことを聞かれて大野「個人としては、娘が韓流アイドルのファンなので、新大久保をデートしたいなと思います」と言い、酒豪として知られる選手だけに「節度を持って、楽しい範囲で飲みたいと思います」と笑顔も見せた。

最後に、自粛の中でラグビーができない子どもたちに向けて「本当にこの状況で、くやしい、せつない思いをしている高校生はたくさんいると思いますが、こういう思いをしているのは自分だけではない、いっぱいいることを胸に刻んで過ごしてほしいなと思います」と語りかけるように話した。

今後は、東芝に在籍しながらラグビーの普及活動にも携わっていくつもりだという大野は、「自分は大学に入って、LOというポジションだったから、ここまで長くできたのかなと思います。

ラグビーはパスが下手でもキックができなくても、得意なもので勝負できるポジションが必ずある。本当に少しでもラグビーに興味持ったら、少しでもラグビーに触れてほしい」と語気を強めた。

大野は24年間に渡るラグビーキャリアにピリオドを打った。それでも98キャップ、ワールドカップ3大会出場という豊富な経験を糧に、第2の人生でもきっと日本ラグビー界に大きく貢献してくれるはずだ。

なお、大野均の引退会見の模様は、J SPORTSオンデマンドで無料配信される。

文/写真:斉藤健仁

斉藤健仁

斉藤 健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパン全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡」(ベースボール・マガジン社)、「ラグビー日本代表1301日間の回顧録」(カンゼン)など著書多数。≫Twitterアカウント

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