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写真:勝敗が決した後のコンバージョンキックも全力でプレッシャーをかけた
12月15日、筑波大学が1年ぶりに戻ってきた秩父宮は、大学選手権が行われるこの時期らしい曇天の空。「白」のセカンドジャージを着た筑波大は、準々決勝で東海大学と戦った。
筑波大は前半こそ、3-7の僅差で折り返すも、後半突き放され3-24でノーサイド。日本一を目指した筑波大の夢はベスト8で潰えた。
嶋崎達也監督(体育系・助教)は「FW(フォワード)の頑張りもあり、前半のロースコアは想定通りだった。ただ、チャンスが多くあった中で、相手のディフェンスを崩せなかったのは誤算。それでも、みんなよくやってくれた」と称えた。
セットプレーは大学一とも評される東海大に対して、この日はスクラムに強いHO(フッカー)吉田隼人(4年・長崎北陽台)をスタメンに抜擢。
また、ロングキッカーのSO(スタンドオフ)島田悠平(4年・國學院久我山)が同志社大学戦で負傷したため、キックを極力封印し、ボールポゼッションを高める作戦で勝負に挑んだ。
序盤は筑波大のペースで試合が進んだ。開始早々、スクラムでは相手から2本連続でミスを誘うなど、優位に立った。「相手の3番、PR(プロップ)中野幹選手(4年・東海大仰星)の力を抑えるために、しっかりと対策を練った」と吉田は話す。
6分にはLO(ロック)中原健太(3年・法政第二)が隙を突いてターンオーバーするなど、FWの奮闘が際立った。だが、先制トライは東海大に奪われた。ラインアウトから一瞬の隙を突いた中野がゴール中央に飛び込み、トライ。
その後は硬直状態が続いた。筑波大がゴール前でハンドリングエラーをすれば、相手もゴール前のラインアウトでミスをするなど、スコアが動かなかった。
接点でも相手にジャッカルを決められれば、筑波大もノックオンを誘う鋭いタックルを決めるなど、一進一退の攻防が続いた。
NO8(ナンバーエイト)田上徳馬(4年・熊本)は「接点で各々戦えていた。当たり負けしている感じはなかった」と話した。
前半終了間際にペナルティーゴールを決め、3-7のビハインドで折り返すも、「ロースコアで追いかける展開は想定していた」と副主将・石川千暁(4年・洛北)は落ち着いていた。
写真:杉山と眞野は旧知の仲であり、ライバル対決でもあった
筑波大が東海大と対戦した2012年、14年は、いずれもロースコアで追いかける展開から逆転勝利を収めていたからだ。
いいイメージを持って迎えた後半。立ち上がりには、スクラムで押したり、ゴール前でアタックを仕掛ける時間を作るも、トライには結び付かなかった。
逆に13分、ターンオーバーされると、東海大の主将・眞野泰地(4年・東海大仰星)の正確なキックパスから、SO丸山凜太朗(東福岡・2年)がトライ、追加点を奪われた。
後がない筑波大は、相手の固いディフェンスをこじ開けられない焦りから、要所でハンドリングエラーを招いた。田上は「取り急いだことで、逆に相手のペースにしてしまった。1本取れるか取れないかで違った」と悔やむ。
勢いを失った筑波大は38分、これまで抑えていたモールでもトライを奪われ、試合を決められた。
FL(フランカー)土谷深浩(4年・福岡)は「スクラムも多く消耗が激しかった。攻めてもミスで終わり、気持ちを高く維持できなかった」と語る。
3-24。筑波大はついに一本もゴールラインを割ることができず、試合を終えた。
主将・杉山優平(4年・大阪桐蔭)は「東海大の最後の壁を崩せなかったことが全て。自分たちのミスもあるけど、相手のプレッシャーが大きかった。眞野らしい良いチームだった」と語る。
一方、東海大の主将・眞野は「(僅差の時は、)筑波が取り切るか、自分たちが守り切るかで、試合が決まる重要な場面だった。全員でハードワークしようと声をかけた」と話した。
杉山と眞野、両主将が目指すチームはどこか似ていた。LO後藤海夏人(4年・茗溪学園)は「筑波がこれまで相手にやってきた粘りのディフェンスを逆にやられてしまった」と話す。
両主将は共に大阪府出身で、敵として戦うこともあれば、大阪府代表や高校日本代表などで同じチームになることも多かった旧知の仲だ。
杉山は「眞野のチームに一度も勝ったことがなかったから、今度こそ勝てるチャンスが来たと思った。勝つことはできなかったけど、大学最後に負けたチームが眞野で良かった」と話した。
眞野も「筑波の思いも背負って戦いたい」と語った。正月越えを決めた東海大の戦いに期待したい。
写真:誰よりも泥臭いプレーをし続けた主将杉山
だが、筑波大も今年のスローガンに「CHANGE」を掲げ、杉山が中心となって、チームに大きな変革をもたらした。
「泥臭い「筑波」らしさを取り戻したい」(杉山)という思いで始まった2019年シーズン。嶋崎監督は「抽象的な言葉だけど、全員が理解してグラウンドでのプレーでそれを発揮してくれた」と話す。
気持ちを前面に出したタックルやリロードの速さ、キックへのチャージなど、選手全員の泥臭さが幾度となくピンチを救い、チャンスを演出してきた。
ただ、この泥臭さを全員が共有できたのは、4年生全員が作ったチームの一体感にある。杉山は「筑波大ラグビー部は、試合で戦う23人だけじゃない」と話す。
石川も「ジュニア選手権で戦うメンバーも、Cチームのメンバーも、目指すべき姿は同じ。下のメンバーができたことは全員の自信になる。そうなれるチームを求めたし、それができている手応えがあった」と語る。
チームを引っ張ったのは、杉山や石川だけではない。「頼れる仲間ばかりだった」と杉山は言う。全体練習の最後に行った「4年生の一言」というコーナーでは、4年生1人ひとりが熱のあるスピーチを自分なりに表現した。
嶋崎監督は「メンバーに選ばれない4年生もチームのために動く文化が筑波らしい。筑波の良さが色濃く出た代だった」と振り返る。こうした4年生全員で作り上げた一体感がチームを「CHANGE」した。
FWは関東大学対抗戦を重ねるにつれて、筑波の強みと言えるまでに成長。春は接点やセットプレーで苦しんでいた。土谷は「FWが一番変わった。それを4年生として引っ張れたのは誇りに思う」と語る。
後藤も「ラインアウトへのこだわりは見せられた。ここまでやらないといけないということを示せた」と話す。
ラグビー全国大学選手権 準々決勝
【ハイライト動画】筑波大学 vs. 東海大学
春にチームが完成され、秋に成長がないと揶揄されることもあったという筑波大。今年は違った。
対抗戦だけでなく、ジュニア選手権やC戦、どの試合でも成長し続けた。WTB(ウイング)仁熊秀斗(3年・石見智翠館)は「試合が続く中で、チーム全体が成長していた」と話す。
毎試合成長しているという実感は、いつしか「日本一を狙えるチームになった」(仁熊)と思えるまでになった。
「どちらに転ぶかわからなかったからこそ、(東海大に)負けた時の実感がなかった」とSO山田雅也(3年・桐蔭学園)は語る。それは出場メンバーだけでなく、ベンチで見守ったメンバー全員が同じ思いだっただろう。
改めて、4年生がチームにもたらした影響は大きい。だが、石川は「いい先輩方に恵まれた。先輩方がいたからこそ、自分たちもそうなりたいと思えた」と語る。
今年の4年生はどうだっただろうか。HO安里大吾(3年・名護)は「チームを変えてくれた4年生がいなくなる。4年生の思いを引き継ぎながらやっていきたい」と話す。先輩から後輩へ受け継がれる想い。
学生ラグビーの面白さがここにある。
文/写真:明石尚之(筑波大学新聞)
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