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ラグビー コラム 2019年11月18日

まれなる時代は去って~帝京、充実の早稲田に惜敗の現在地~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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岸岡智樹

帝京大学の時代が終わった。と、書き出して、すぐ、まさにいま、誤解を招くなあ、と思った。消去しようか。いや続ける。学生ラグビー史の真紅の巨人、帝京が弱く脆くなったという意味ではない。今季、全国制覇を遂げても同じことを記したい。

11月10日。早稲田との関東大学対抗戦の前半。スクラム起点の効果的なムーブ(サインプレー)で、強靭鋭利なランの光る15番、奥村翔がトライを記録した。カウンター攻撃後、裏への的確なキックで切り札の11番、尾﨑泰雅がインゴールを陥れる。自軍投入ラインアウトの捕球に失敗、しかし、こぼれ球の行方が味方して確保、意図せずショートサイドに攻略可能のスペースとタイミングが生じ、また尾﨑がスコア。直後、こんども尾﨑がインターセプトで走り切った。4トライのすべてが「サッと」や「あっさり」と表現できそうだった。

昨年度までの帝京なら、これで、対早稲田に限らず、どの大学との対戦であれ勝利できた。あっけなくトライを奪う力。それこそが群れを引き離す戦績を担保していた。でも、そうはならなかった。早稲田も球さえ手にすればトライを返せる。むしろ仕掛けと仕留めの連動性では、この午後は上回っていた。

帝京からの得失点で25ー17のハーフタイム。先にどちらがトライをものにするかを勝負の分かれ目と見た。帝京、攻める。ノックオン。すかさず早稲田が切り返して、背番号10 、岸岡智樹が空間察知能力と俊足を利してポスト下へ躍り込んだ。ここで心理的な優劣は入れ替わった。

後半29分、1点リードの帝京がトライ。23フェイズの猛攻、スクラムでのP獲得をはさんで、さらに11フェイズを重ね、怪力プロップ、細木康太郎が力攻めを実らせた。ゴール前で獲り切る。ここも帝京の隆盛の象徴だった。「今季も踏襲されている」の解釈も成り立つ。ただし手間がかかったし、なんならバックスでも外をアタックできる、という、ふてぶてしいような駆け引きの気配も薄かった。再び8点先行。それでもJ SPORTSの解説席で、早稲田はここから挽回する、と感じた。実は「たぶん勝つだろう」という言葉も頭をよぎった。

この感覚を言語化するためにコラムはあるのだが、なかなか難しい。過去の蓄積(こういう場合はたいがいこうなる)と現場の雰囲気、具体的には、芝の上にたちのぼる選手の自信や不安、それにいずこより落ちてくる「一滴のひらめき」の融合が予感を呼ぶ。

帝京は、反則を重ね、3点差に詰められ、最後の最後、早稲田の主将、4年後のワールドカップに出場して不思議のない9番、齋藤直人に劇的幕切れのトライを許した。32ー34。当該の対戦の星を落とすのは9年ぶりだった。

さて冒頭の「帝京の時代は終わった」はやはり正確ではない。本当は「帝京の黄金時代は終わった」。いや「黄金より輝く時代は終わった」か。一昨年度までの全国大学選手権9連覇は絶対に偉業である。勝率という実績はゴールドよりもゴールドに光る。運営予算を含む環境や全国より集う選手層の分厚さ、強力な留学生の存在などで他校を寄せつけない期間はあったはずだ。しかし、それは惜しくも退けられた大学が「負けたからといってダメなクラブではない」という文脈に引かれるべきで、勝ち続けた側の評価を下げるものではない。ラグビーに限らず、スポーツでは「勝ったからといって、すべてにえらいわけではない」が「勝ったことはえらい」のである。

黄金期の終焉とは人間社会の必然だ。際立つ者を倒すために敗者は考え、行い、努力を重ねる。まず東海大学がフィジカリティーで迫り、明治をはじめ、他校もみずからの許される範囲でグラウンド内外における「無敵王者の強み」を学ぶ。

相良昌彦

早稲田の6番、ルーキーの相良昌彦は、花園に初めて出場の早稲田実業から入学、世代別の代表歴もないのに、すでに帝京の主力にも伍す体つきになっている。それも一例だ。本人の努力はもちろん、栄養やトレーニングの環境を整えたゆえ。トップリーグでヤマハ発動機が強力なスクラムを創造、身体化して猛威をふるうと、ほどなく他チームも対抗するためにセットピースの力をどんどんつけた。あれも似ている。

昨年度の大学選手権準決勝。天理に敗れ、オーラという黄金の膜は剥がれた。すると、たとえば赤黒ジャージィが簡単に失点を重ねながらも自信をなくさず逆転できるようになった。悪口ではない。オールブラックスだって、たまにそうなる。先のワールドカップのアイルランドは、ジャパンに負けて、みるみるエメラルド色の輝きをなくした。開幕時の世界ランク1位の貫禄はもうなかった。では、イングランドに蹴散らされたオールブラックスは、そのオールブラックスにもっと蹴散らされたアイルランドは、弱いチーム、弱いラグビー国になるのか。ならない。ただ「まれなる黄金期」が去っただけである。これからもトップ級としてラグビー史にとどまる。

進む時計で後半42分。帝京は早稲田の攻勢を断った。乗り越えるターンオーバー。だが指先に球は当たりノックオンの笛は鳴った。まさに指の先で白星はこぼれた。黄金より輝く時代は終わり、ひとつの強いチームは残った。

文:藤島 大

【ハイライト】ラグビー関東大学対抗戦2019

早稲田大学 vs. 帝京大学

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。『 ラグビーマガジン 』『just RUGBY 』などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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