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ラグビー コラム 2019年1月8日

手に汗握る激闘が多かった 全国高校ラグビー大会総括

村上晃一ラグビーコラム by 村上 晃一
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平成最後の「花園」は、大阪桐蔭の初優勝で幕を閉じた。神奈川県の桐蔭学園との決勝戦は、互いに持ち味を出し合って攻め合い、守り合った。26-24のスコアが示す通り、実力拮抗の好勝負。大阪桐蔭のディフェンスでの圧力が最後に勝利を呼び込んだ。桐蔭学園の最後の反撃の芽を摘んだCTB高本幹也のタックルは、攻撃の判断を司るプレーメーカーとしてアタック面で好プレーを連発していた高本の気迫があふれた。「タックルは苦手なほうです。肩を当てるのが得意ではないので」。そう話す高本がビッグヒットを決めたところにディフェンスの練習に多くの時間を割いてきたチームの成長が表れていた。

2年生の奥井章仁が言っていた。「今回の優勝は昨年の3年生がいたからこそ。今年の3年生にもお世話になった。感謝しかありません。ちひろ君(松山千大キャプテン)が、『しんどいときは俺の顔を見ろ。俺がしっかり前に出るから』と言ってくれました」。誠実に語るコメントにチームの絆が垣間見えた。

第98回全国高等学校ラグビーフットボール大会は、ラグビーワールドカップ2019のために改修された東大阪市花園ラグビー場にて、2018年12月27日に開幕。47都道府県から集った51校が2019年1月7日の決勝戦まで熱戦を繰り広げた。1回戦で注目されたのは、79大会ぶりの出場となった早稲田実業と、日本代表、パナソニック ワイルドナイツで活躍した霜村誠一監督率いる桐生第一だった。J SPORTSのプロデューサーでもある大谷寛監督に率いられた早実は、名護を55-3で破り、桐生第一は米子工業から110得点。初出場チームの三桁得点は初という記録を残した。しかし、シード校の壁は厚く、ともに2回戦で姿を消した。

2回戦から登場したAシード3校(桐蔭学園、大阪桐蔭、東福岡)、Bシード10校(日本航空石川、報徳学園、常翔学園、黒沢尻工、佐賀工、流通経済大柏、茗溪学園、長崎北陽台、天理、中部大春日丘)は、多くが順当に勝ち進んだが、佐賀工業は京都成章に、日本航空石川は國學院栃木に敗れた。もともとシード校並みの実力があると評判だった京都成章が、どこまで勝ち進むか注目されたが、3回戦で流経大柏が立ちはだかった。試合巧者の京都成章を、45-14で破った戦いぶりは力強く、準々決勝では大阪の常翔学園を破り、26回目の花園出場で初のベスト4進出を成し遂げた。

就任4年目の相亮太監督は、リコーブラックラムズでプロ選手としてプレーした経歴がある。このほか、長崎北陽台の品川英貴監督(東芝ブレイブルーパス)、岡谷工業の勝野大監督(トヨタ自動車ヴェルブリッツ、神戸製鋼コベルコスティーラーズなど)、霜村誠一監督ら、元日本代表、トップリーガーなどが教員免許を取得して指導するチームが増えてきた。高校ラグビーの新しい風である。

手に汗握る激闘も多かった。3回戦の長崎北陽台対茗溪学園は、互いにリアクションが速く、目まぐるしく攻守が入れ替わった。15-14と茗溪学園リードで迎えた後半23分、長崎北陽台はラインアウトからモールを組み、最後はFL山内裕斗がトライして勝負を決めた。

準々決勝 流経大柏vs.常翔学園

準々決勝 流経大柏vs.常翔学園

準々決勝の流経大柏と常翔学園も紙一重の僅差勝負となった。前半は常翔学園が14-0でリード。しかし、流経大柏は「45分我慢して最後の15分で勝負」(相亮太監督)という言葉通り、後半17分、相手のパスをインターセプトして反撃を開始すると、この大会で大活躍だったCTB土居大吾がトライして2点差に迫り、最後はHO作田駿介が決勝トライを決め、19-14の逆転勝利をあげた。天理対桐蔭学園も、最終スコアこそ、44-29と開いたが、トライ数は5-5。パスに対して常に3人、4人と走り込んでディフェンスをかく乱する天理のフラットラインは強烈なインパクトだった。しかし、桐蔭学園には正確無比のプレースキッカー津田貫汰がいた。津田はトライ後のコンバージョンゴールをすべて決めたほか、3PGを成功させてチームを勝利に導いた。今大会のNO1キッカーだ。

振り返れば、FW、BKに偏らないバランスのとれたチームが多かった。ボール争奪戦や、パス、キックといった基礎的なスキルも向上し、コーチングのレベルアップが感じられた。基礎スキルを徹底して鍛え上げ、精度高くフィールドで表現したチームがファイナリストになったということだろう。桐蔭学園は数年前より「ライフスキル」を学んでいるという。スポーツ心理の専門家を招き、選手が主体的に考え判断し、問題を解決していく能力を伸ばすのだ。ピンチにあわてず、次に何をすべきかを考える。天理、東福岡という強力なライバルを下した試合の中でそれは生きていたはずだ。

パス、キック、ラン、タックルなど多様なテクニックを身に着け、ベースになる肉体を鍛え、状況判断能力を磨く。強いチームを作ることの難しさを痛感する。ほとんどの監督が教員であり、授業、生活指導、進路指導などと並行してラグビー部の強化にあたっている。その向上心、選手を勝たせてやりたいという熱い思いに、今大会も感心させられた。

開会式の選手宣誓は、大津緑洋(山口)の末次遥人キャプテンが立派に務めた。「ラグビーを愛し、ラグビーにおいて育てられた私たちはこの新たな聖地、花園ラグビー場において世界中の方々に感動を届けます。品位、情熱、結束、規律、尊重、ラグビー憲章に掲げられている5つの言葉を胸に刻み、この地で培われた数多くのドラマと栄光を継承しながら愛と勇気を持ってプレーします」。その言葉通りの50試合だった。来年の大会は、ラグビーワールドカップ日本大会が終わった後になる。いったいどんな景色が広がるのだろう。楽しみに待ちたい。

村上晃一

村上 晃一

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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