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この11月は主にヨーロッパでテストマッチ(国代表同士の試合)が行われ、僅差の好勝負が相次いでいる。ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会に向かって、強豪国の実力差がこれまで以上に接近していることを感じさせる戦いばかりだ。世界ランキング2位のアイルランドが16-9で世界王者のオールブラックス(ニュージーランド代表)を破り、スコットランドが南アフリカに、20-26という惜敗を喫したのと同日、日本代表はRWCの優勝候補の一角であるイングランドと戦った。
イングランドのホームスタジアム、トゥイッケナムには、81,151人が集った。日本代表史上最多の観客数である。日本代表は改築前のトゥイッケナムで1986年にプレーしているが、当時はイングランド側が正式なテストマッチとは認めておらず、イングランドの選手にはキャップは与えられなかった。今回は正真正銘のテストマッチとしての対戦である。日本が世界に認められるために歩んできた足跡を思い起こすと感慨深かった。
イングランドは11月11日のオールブラックス表戦(15-16の惜敗)から先発で11名の変更をしたが、リザーブ(控え)も含めれば23名中18名が同じメンバーだった。筆者は日本からツアーを組んで応援にやって来た日本代表サポーターの皆さんと一緒に観客席で観戦した。君が代に続いてのイギリス国歌「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」の大合唱は腹の底まで響き渡った。
この雰囲気の中で日本代表が力を発揮できるのか。そんな不安はキックオフ直後からのアグレッシブなプレーで打ち消された。体格の大きな選手を揃えたイングランドを低いタックルで止め、素早いパスワークでボールを動かしていく。開始3分、激しい攻防の中でボールを奪い、自陣から攻めた日本代表だが、SO田村優が防御背後に蹴ったボールは地域獲得でもなく、チェイスする(追いかける)選手が競り合えない位置に落ちた。あっというまにイングランドのカウンターアタックからSHダニー・ケアにトライを奪われる。チェイスする選手の少ないときのキックの怖さを思い知らされるシーンだった。
しかし、この後は日本代表が圧倒的なボール支配率で攻める。16分、田村が40m以上のPGを決め、22分にはイングランドのゴール前5mの右中間スクラムからSH田中史朗のフラットなパスに走り込んだ中村亮土がトライをあげ、7-10と逆転に成功した。PGを一本返されたが、その後もボールをキープしながら攻撃し、31分、相手陣深く入ったところで左右にボールを動かし、最後は右タッチラインでパスを受けたFLリーチ マイケルが4人のタックルを振り切ってトライ。10-15とリードする。日本代表サポーターがもっとも盛り上がったシーンだ。
前半の日本代表は無駄な反則やミスもなく、課題だったスクラム、ラインアウトも安定し、互角以上の戦いを披露する。中村亮土が何度も縦に切れ込み、CTBラファエレ ティモシー、FBウィリアム・トゥポウを軸にしたパスワークでWTB福岡堅樹を走らせる。指で弾くようなスピーディーなパス回しには、たびたび観客席から感嘆のため息がもれた。気が付けば、イングランドの応援歌である「スイング・ロー、スウィート・チャリオット」の合唱も聞こえてこない。「それどころではない」というのが多くのサポーターの気持ちだっただろう。
後半開始早々、イングランドのエディ・ジョーンズヘッドコーチが手を打ってきた。チームのキャプテンであるオーウェン・ファレルをCTBの位置で投入し、彼が攻守に激しく前に出ることで徐々に流れを変え始めたのだ。前半はパワフルな攻めは影を潜めていたが、後半は大型FWがダニー・ヘアのフラットなパスに次々にスピードをつけて走り込んだ。懸命のディフェンスで耐えた日本代表だが、16分、フォードにPGを決められて、13-15とされると、19分、FWの波状攻撃から最後はフォードからパスを受けたFLマーク・ウィルソンにトライを許し、20-15と逆転されてしまう。
25分には、1PGを追加され23-15とされてしまったが、日本代表は飽くなき闘争心で反撃を開始。ボールを継続キープし、29分、イングランドのゴールラインに迫る。しかし、15フェイズを重ねたところで、ラファエレがタックルされてボールにからまれ、PKを与えてしまう。その直後に、イングランドのSHリチャード・ウィグルワースのハイパントからWTBジョー・コカナシンガにトライを奪われたことを考えれば、この数分の攻防が勝敗を分けたとも言えるだろう。36分、ラインアウトからのモールでもトライを追加され、35-15と突き放されたが、さらに、もう1トライを狙ったイングランドのモール攻撃は食い止めた。疲労困憊の中で地力のついたことを証明するディフェンスだった。
トライ数は4対2ながら、ボール保持時間は63%、地域獲得も64%で日本が大きく上回った。英サンデータイムス紙の数字によれば、タックルされながらのオフロードパスも、日本の15に対してイングランドは7、ボールを持って走った回数は、182対97、ディフェンスラインをクリーンに破った「クリーンブレイク」回数は、12対6、タックルされながらも前に出た「ディフェンス突破」回数は、31-17と、いずれも日本が圧倒した。トライを奪う決定力では劣ったが、十二分に手ごたえを感じる数字が並んでいる。
「素晴らしいね。ほんとに良くなった。ケンキは良い選手ね」と、エディ・ジョーンズヘッドコーチは、2015年までは自らが率いた日本代表の成長と、攻守にワールドクラスの活躍を続ける福岡堅樹を称賛した。「勝てる試合だった」とは、打倒エディに燃えたリーチ マイケルだ。サンデータイムス紙は出場した全選手の評価ポイントを掲載したが、リーチは10点満点中9点という最高の評価だった。
来年のRWCでベスト8を狙うチームとして課題は多いが、ニュージーランド、イングランドという強豪国と戦ったことで、ベスト8に向かって目指すスタンダードがはっきりしたことも確かだ。RWCで同じプールに入るアイルランド、スコットランドの充実ぶりを思えば、ここから大きな上積みがないと決勝トーナメント進出は難しい。今回の戦いを見ても明らかなように、強豪国のディフェンスを、ボールをキープするだけで崩すのは難しい。セットプレーから少ない手数でトライを獲り切るプレー、安易に相手にボールを渡さないことは大前提に防御背後への的確なキックを磨いていかなくてはいけないだろう。次週にロシアとの対戦があるが、RWC2019に向かって弾みをつける内容を期待したい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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