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日本代表の地力が上がっていることを再確認させる勝利だった。6月9日、大分県の大分銀行ドームには、25,824人の観衆が集った。試合後のインタビューで、リーチ マイケル日本代表キャプテンは、運営にあたった地元スタッフ・関係者への感謝の言葉を述べた。「来年のワールドカップに向かってみんなで盛り上げていきましょう」。来年9月に開幕する第9回ラグビーワールドカップ(RWC)では、5試合が大分で行われることになっている。そのことも意識したコメントだった。日本代表選手たちが勝利という形で、感謝の気持ちを表現したことは、運営に尽力した皆さんにとって何より嬉しいことだっただろう。
そして、この日集った観衆はラグビーという競技の多様性を楽しめたのではないか。ラグビーは手も足も使ってパスができる。激しい肉弾戦もあれば、スピードでディフェンダーを抜き去るプレーもある。競技の魅力をアピールしたという意味でも大きな勝利だった。
気温26度、雨は降っていなかったが、屋根付きスタジアムでは屋根を閉じた状態で試合をするというRWCの規定に従って行われた。午後2時45分、イタリアSOトンマーゾ・アランのキックオフで試合は始まった。立ち上がりから日本はディフェンスラインを素早く前に押し上げてプレッシャーをかけた。しかし、6分、オフロードパス(タックルされながらのパス)を決められてディフェンスを破られる。イタリアが得意とするオフロードはこの試合を通じて日本を苦しめたが、バッキングアップのディフェンスでなんとかトライを防いだ。
前半13分、一年ぶりに負傷から復帰したイタリアのCTBミケーレ・カンパニャーロに抜け出される。WTB福岡堅樹が俊足を飛ばして追いついたが、大きく攻め込まれた。すかさず、WTBマッティア・ベッリーニがインゴールに小さなキックを上げ、これをPRティツィアーノ・パスクアーリに押さえられ先制トライを奪われる。5分後、日本がトライを返す。相手キックを自陣でキャッチしたNO8アマナキ・レレイ・マフィが思い切りの良いカウンターアタックでイタリア陣に入り連続攻撃につなげる。最後はSH田中史朗、CTBラファエレ ティモシー、HO堀江翔太、SO田村優、FB松島幸太朗、マフィ、リーチ、福岡、マフィとボールが渡ってトライ。田村がゴールも決めて7-7の同点となる。
日本はタッチに出さないロングキックと、相手と競り合えるハイパントを織り交ぜながら、イタリアを後ろに走らせ、彼らのスタミナを奪っていく。観客が大いに沸いたのは、前半28分のトライだ。自陣10mライン付近でパスを受けた福岡が左タッチライン際を爆発的なスピードで駆け抜けたのだ。イタリアで売り出し中のFBマッテーオ・ミノッツィを瞬時に抜き去る約60mの独走トライで観客のボルテージは最高潮に達した。その後はイタリアにトライを奪われ、前半を17-14の3点差リードで折り返す。
ハーフタイム。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは「よいパフォーマンス。準備したことができている。引き続きプレッシャーをかけ続けたい」と手ごたえを感じていた。後半に入ると、日本はSH流大を投入し、攻撃をテンポアップさせる。互いにPGを決め合い、20-17となった後半20分、日本代表がアクロバティックなトライを決める。
イタリア陣22mライン内に攻め込んだところから、田村が右タッチライン際のHO堀江翔太へ低い弾道のキックパスを送る。キャッチした堀江には、ミノッツィのタックルを紙一重のタイミングでかわして、WTBレメキ ロマノ ラヴァにパス。レメキがインゴールに走り込み、田村が難しいゴールも決めて、27-17とした。25分にも田村の防御背後へのグラバーキック(転がるキック)をFB松島幸太朗が捕ってトライ。34-17として勝負を決めた。
田村は正確なキックだけではなく、的確な攻撃選択でチームを勝利に導く出色のパフォーマンス。リーチが好調時のパフォーマンスに戻ってきているのも心強い。彼が先頭に立ってファイトすることでチームには勢いが出た。福岡の攻守にわたる別格の働きは神々しさを感じるほど。先発では唯一今季のスーパーラグビーを経験していないLOアニセ サムエラも献身的に働いた。198cmの長身はラインアウトでも大切な戦力だ。
「練習でやっていたことが、そのまま試合で発揮できた」(松島幸太朗)。その言葉がすべてだろう。意図的にキックを多用して、相手を走らせ、後半仕留める狙い通りの展開だった。「勝って反省できるのがいい」。これはリーチの言葉。最後はスクラムで反則を取られたし、タックルミスも多く、ディフェンスを破られて大幅にゲインされることも多々あった。しかし、粘り強くディフェンスし、イタリアが得意とするスクラムでも互角に戦い、モールも止めることができた。ラグビーの根幹であるボール争奪戦の部分で堂々たる戦いができたのは自信になる。
スーパーラグビーでは苦しい戦いを続けるサンウルブズだが、そこで多くの日本代表選手がヨーロッパ勢にはないスピーディーなラグビーを経験できたことは、この日の勝利につながった。加えて、サンウルブズではコンディション重視のメンバー選考が行われてきた。それによってスーパーラグビーでは黒星が多くなっているが、コンディションの良い選手をイタリア戦に出すことができた。テストマッチ(国代表同士の試合)で7連敗中だったとはいえ、イタリアが戦ってきたのは、イングランド、アイルランド、ウェールズなど強豪国だ。日本がイタリアに6度目の対戦にして初めて勝ったのは、2014年6月のことだ。RWCを一年後に控えた今回と同じ時期の対戦だった。その時は、26-23という接戦。スコアだけでは測れないが、34-17という勝利は自信を持つべきだろう。応援し続けるファンを笑顔にできたことも、今後の日本代表キャンペーンには前向きな要素だ。
ただし、6月のテストマッチはあと2試合ある。ここを勝ち切ってこそ、本当の勢いがつく。コーチ、選手が一番分かっているはずだが、第1戦の快勝で楽観視することなく、きめ細やかな準備で第2戦に臨んでもらいたい。
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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