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モーター スポーツ コラム 2024年7月18日

テストで見えた勢力図、YARTは今年も驚速か? | 鈴鹿8耐2024 プレビュー

モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ
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Yamalube YART Yamaha

Yamalube YART Yamaha

45回目の大会となる「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(通称、鈴鹿8耐)は2024年7月21日(日)に決勝レースが開催されます。年間でFIM世界耐久選手権を放送する「J SPORTS」はもちろん鈴鹿8耐も生中継。見どころが満載の鈴鹿8耐をいくつかの話題に絞ってプレビューしていきましょう。第5弾は「合同テストで見えてきた2024年の勢力図」です。

6月に2回、合計4日間のテスト走行が鈴鹿サーキットで開催されました。今年はオリンピック開催の関係で決勝開催日が7月21日と早いことと、近年設けられているテスト制限のため、鈴鹿8耐参戦チームは6月中に色んなメニューをこなして準備しておかなくてはなりませんでした。

6月19日、20日の2日間で行われた合同テストにはFIM世界耐久選手権のレギュラーチームも一部参加。さらにスポット参戦組でもホンダワークス「Team HRC with 日本郵便」からはMotoGPライダーのヨハン・ザルコが参加するなど何かと話題の多いテスト走行になりました。

今年はスケジュールがタイトなだけでなく、スーパーバイク世界選手権と英国スーパーバイク選手権の日程がバッティングしたため、各チームはライダー探しに相当苦労していたようです。ロードレース世界選手権(グランプリ)のライダーたちはスケジュールが空いており、さらに6月のグランプリスケジュールには比較的余裕ができたため、Moto2などから多くのライダーが参戦するのではないかと予想されていましたが、なかなか交渉がまとまらないケースも多かったようです。

そんな中、表彰台を争うと考えられるトップチームでは「YAMALUBE YART YAMAHA」だけが唯一昨年と同じラインナップでの参戦に。あとは「Honda Dream RT桜井ホンダ」が伊藤和輝と日浦大治朗の2人体制になったくらいで、他のチームはホンダワークス「Team HRC with 日本郵便」を含めてライダーラインナップが昨年とは違うメンバーになっています。

合同テストは仕上げに入っているというよりは、まだライダー同士の合わせ込みの部分に時間を費やしたり、オーディションを行ったりするチームが多く、最も精力的に走り込んで順調にテストをこなしていたのは「YAMALUBE YART YAMAHA」くらいだったという印象です。

「YAMALUBE YART YAMAHA」は今年もニッコロ・カネパ、マービン・フリッツ、カレル・ハニカのEWCレギュラー参戦の3人が乗ることになり、どのセッションも2台同時にピットアウトし、お互い離れずに同じペースでロングランを続けていました。3人のペースがほぼ同じで、なおかつラップタイムのペースが良いという好循環でテストをこなし、ピットでも仲の良い3人が常に笑顔でいるという状況でした。

今年の鈴鹿8耐にヤマハ純正オイルのYAMALUBEが冠についたことを考えても日本のヤマハ発動機の力の入れようは昨年以上だと考えて良いでしょう。今はワークスチームのYAMAHA FACTORY RACING TEAMは全日本ロードレースだけの活動になっていますが、ピット裏には全日本チームのクルーが裏に控えており、ワークスチーム的雰囲気が漂っています。

昨年はホンダワークスにかなり肉薄したYART。レースではトラブルに見舞われましたが、今年もホンダワークスの対抗馬となることは間違いないでしょう。ただ、今年はそこにもう1チーム加わってきそうです。そのチームは「Ducati Team KAGAYAMA」です。

ドゥカティ・パニガーレV4Rのファクトリーマシンを引っ提げて初参戦する同チームはもっとバタバタなテスト走行になるのかと思いきや、トラブルもなく順調にテスト走行を重ねました。テスト走行ではチーム代表の加賀山就臣が自ら乗って走行するサプライズをするほどの余裕には驚きました。

ドゥカティのファクトリーマシンには耐久レース用のパーツがないため、燃料タンクなど多くのパーツをTeam KAGAYAMAが独自のノウハウで製作しているそうなんですが、加賀山代表自らの走行は燃料タンクのガス欠チェックをするための走行だったと考えられます。テストが順調ではなく、スタッフにも余裕がなければなかなか考えつかないことだと思います。それくらい今の「Ducati Team KAGAYAMA」はまとまっており、レースペースも速いですから、これはレースウィークにまた相当な進化を見せるのではないかと期待しています。

おそらく上記3チームが優勝争いを展開することになるでしょう。では第2勢力とも言える表彰台の一角を狙っていくプライベーターはどうでしょうか。FIM EWCレギュラーチームである「YOSHIMURA SERT Motul」は頼みの綱であるグレッグ・ブラックがコースイン直後に転倒。腕を骨折してしまい、レースウィークには間に合わないかもしれないとのこと。ダン・リンフットと渥美心の2人体制でレースを強いられることになるかもしれません。

そして「F.C.C. TSR Honda France」は合同テストを欠席してしまいました。チームからはスタッフの欠員、マシンが未完成との理由で参加を見合わせたとのこと。日本とフランスがベースであるTSRは日本にもマシンがあるため参加できると思うのですが、マシン未完成という言葉には鈴鹿8耐でリニューアルした2024年モデルのホンダCBR1000RR−Rを投入する計画なのではと考えられます。昨年までのモデルとは大きく特性が変わっているという新型CBRは徐々に全日本JSB1000ではポテンシャルを上げて来ていますが、TSRはぶっつけ本番の鈴鹿8耐ということになります。

そんな中、伏兵となりそうなのが清成龍一、渡辺一樹、榎戸育寛という素晴らしいライダーラインナップを作り上げた「TOHO Racing」でしょう。昨年は再車検後に失格裁定が下り2位表彰台をフイにしてしまいましたから、今年は手堅くレースを進めてくるでしょう。3人ともにアグレッシブで速いライダーですから、ホンダのプライベーター勢の中では最有力チームと言って良いと思います。

一方ライダーラインナップを変更したチームが合わせ込みに苦戦する中、スズキのプライベーター「オートレース宇部 Racing Team」はタイムこそ上位に来なかったものの良い雰囲気がチームには漂っていました。このチームはダン・リンフット、ハフィス・シャーリンが他チームに移籍してしまい、残ったのは津田拓也だけ。そこに40代のベテラン、アンソニー・ウエスト、そしてMoto2ライダーのバリー・バルトゥスを起用しました。全くの未知数ラインナップにはなりましたが、最終的にはタイムを揃えることに成功していましたから、決勝では昨年同様に追い上げてくるでしょう。

そして、更なるダークホースになると考えられるのがBMWワークスの「BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM」です。このチームはEWCのトップチームの中ではダンロップタイヤを履いているのが特徴で、ブリヂストンが優勢の鈴鹿8耐ではアウェーの舞台。しかし、鈴鹿8耐ではJSB1000で開発が再び進み始めた住友ゴム工業のダンロップタイヤを履くことになっています。昨年以上にバックアップ体制が強力になった状態で真夏の鈴鹿8耐を戦うことができるのです。雨などトリッキーなコンディションが混ざれば上位進出は十分にあり得ると考えられます。

実はあまり強い印象には残っていないかもしれませんが、昨年の6位フィニッシュは日本車以外の外国車による鈴鹿8耐のベストリザルトです。今年はドゥカティも本格参戦するので負けられない鈴鹿8耐ですが、淡々と上位を狙ってくるでしょう。

他にもスズキワークス「Team SUZUKI CN Challenge」の参戦など話題が満載の鈴鹿8耐。要素が絡み合い生まれるドラマの目撃者になって楽しみましょう!

文:辻野ヒロシ

辻野 ヒロシ

辻野 ヒロシ

1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。

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