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【全盛期、再び!】世界を熱狂させたル・マン24時間レース「第二章 もはやGTじゃない!過激なGTカーの激闘(90年代)」 | ル・マン24時間レース2024 開幕直前特集!
モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ世界三大自動車レースの一つ「ル・マン24時間レース」が今年も近づいてきました。2024年のル・マンにはハイパーカー、GTカー合わせて62台が出場。合計14社もの自動車ブランドが総合優勝、クラス優勝を争う大激戦です。
今年もJ SPORTSでは全盛期が再びやってきた「ル・マン24時間レース」を完全生中継!かつてこのレースに熱狂した方々にもう一度、このレースを見ていただきたいという思いから、ル・マン24時間が盛り上がった時代を振り返っていきます。今回は1990年代の後半に盛り上がったGTカーの時代をピックアップしましょう。
「LMGT3クラス」にBMW M4 GT3で元2輪世界王者のロッシも参戦!
その前に「GTカー」とはそもそも何でしょうか? GTはグランドツーリングの略称で「遠くまで行く旅」という意味があり、すなわちGTカー=遠くまで行くことができる高性能なクルマということ。つまりは各自動車メーカーが販売する高性能モデル、スポーツカーを指す言葉として認識されています。レースの世界では市販スポーツカー(乗用車)をベースにしたマシンをGTカーと呼んでいます。
一方で、第一章で取り上げた80年代に隆盛を極めたグループCカーなどの純正レーシングカーは「プロトタイプカー」と呼ばれます。プロトタイプ=先行開発モデル(試作車)ですので、元となる公道モデルが存在しません。今のル・マンで言えば総合優勝を争う「ハイパーカー」クラスや「LMP2」クラスの車両がこれにあたります。
プロトタイプカーに分類されるLMP2クラスのマシン
80年代から90年代はほとんどがプロトタイプカーになっていたル・マン24時間レースですが、1992年でプロトタイプカーの世界選手権SWCが消滅したため、そこに参戦していたメーカーは次々にル・マンからも去っていきました。減少した出場台数の確保のためにル・マンが採用した解決策が「プロトタイプカーとGTカーの混走」でした。
昔は乗用車とレーシングカーの区別が曖昧で、いわゆるGTカーがル・マンの主流でした。60年代半ばから、さらに高性能なスペックでレース専用に作られたプロトタイプカーが主流になりますが、1970年代はプロトタイプカーとGTカーが混走していたのです。つまりル・マンはグループCカーの時代が終焉した後、原点であるGTカーのレースに戻ろうとしたのですね。
1993年からはGTカーの参戦が可能となり、ポルシェ911、フェラーリ348、ホンダNSX、マツダRX−7など公道でお馴染みのスポーツカーを改造したGTカーがたくさん参戦し、クラス優勝を目指しました。1994年になってもプロトタイプカーのクラスは残りましたが、プロトタイプカーは大幅に性能ダウンした規定となり、燃料タンクも80Lに制限されました。
1994年 GTカーとして参戦したダウアー・ポルシェ962
一方でGTカーの「LM GT1」は市販車ベースである必要がありますが、大幅なチューニングを許され、燃料タンクは120Lとプロトタイプカーの1.5倍の容量が設定されました。ここに目を付けたのがポルシェです。元々ポルシェのプライベートチームだった「ダウアー」がグループCカーのポルシェ962Cを公道仕様に改造して販売しており、本来はプロトタイプカーであるはずのポルシェ962CをGTカーとして参戦させることができたのです。レーシングカーとしての基本性能が高く、ル・マンでのデータも豊富なポルシェ962C。タンク容量もプロトタイプクラスより大きいため、なんとGTカーとしてエントリーしながら総合優勝してしまいました。
余談ですが、日本のSUPER GTの前身である全日本GT選手権にも同じ手法でポルシェ962CがGTカーとして参戦し、優勝したことがありました(ドライバーの一人は近藤真彦)。ナンバーが付いた公道走行可能な車両が存在するので、何ら問題がないわけです。
翌1995年はオープンタイプ(屋根なし)で量産エンジンを搭載するプロトタイプカー規定「WSC」のマシンが総合優勝をするかに思えましたが、GTカーの「LM GT1」に参戦するマクラーレン・F1 GTRが雨の中逃げ切って優勝。この時のドライバーの一人が関谷正徳です。1991年の日本車初優勝から4年後、外国車ではありましたが日本人ドライバーの初優勝が達成されました。
「LM GT1」にはホンダNSX、スカイラインGT−R(R33)がベースのニスモGTR、トヨタ・スープラなどが参戦しましたが、量産スポーツカーがベースでは、レース仕様車として販売されたマクラーレン・F1 GTRの性能にはとても敵うものではありませんでした。日本のメーカーとヨーロッパのレースに対する取り組み方の違い、GTカーに対する考え方の違いが色濃く出た形です。
日本メーカーは市販車からモディファイしたGTカーで対抗。ホンダもNSXで参戦した。
そして1996年になると「ポルシェ」が再びル・マンでの栄華を取り戻そうと、ミッドシップのポルシェ911 GT1を投入。GTカーとして認められるためにロードゴーイングバージョンが25台限定で生産されたということですが、明らかにル・マンなどのレースに勝つために設計された車両であり、このポルシェ911 GT1の登場を機に、自動車メーカー各社は市販車が走るのをほとんど見たことがない「名ばかりのGTカー」をどんどん登場させていくことになります。
GTカーでありながら中身はプロトタイプカーといえるポルシェ911 GT1
1998年のル・マンには、メルセデスベンツ・CLK−LM、日産R390 GT1、トヨタGT−One(TS020)など実際の中身はプロトタイプカーと言える、なんちゃってGTカーが多数参戦。予選のラップタイムはグループC全盛時代と変わらないタイムになっており、もはやGTカーとは呼べない、過激すぎるマシンになっていきました。ポールポジションを獲得したメルセデスベンツ・CLK−LM は同じGTカークラスのマクラーレン・F1 GTRを15秒も上回っていたのですから、もはや別カテゴリーのマシンでした。
90年代後半のル・マンはこうして再び自動車メーカーが熱視線を注ぐレースになり、復活を遂げたのです。1999年はプロトタイプカーのクラス「LMP」(屋根なし)にBMW、アウディ、日産、パノスなどが参戦。GTカーのクラスを引き継いだ「LMGTP」(屋根あり)にトヨタ、メルセデスベンツ、アウディが参戦し、また自動車メーカーによる世界大戦状態になったのでした。
1999年、LMGTPクラスで参戦し、総合2位となったトヨタGT-One(TS020)
しかし、同年のレース中にメルセデスCLR(LMGTPクラス)が宙を舞う事故を起こし、途中で棄権。最大のライバルが居なくなったトヨタGT−One(TS020)に優勝のチャンスが膨らみました。しかも、片山右京、土屋圭市、鈴木利男という日本人トリオによる優勝の可能性がありましたが、トップを追い上げる最中にタイヤがバーストして緊急ピットイン。参戦僅か2年目のBMW・V12LMR(LMPクラス)に敗北を喫してしまいました。
その後、メルセデスはル・マンから完全撤退(現在まで参戦なし)、BMWは勝ち逃げ、トヨタはF1に転向するため撤退、日産は経営不振で撤退と恐ろしいほどに呆気なく自動車メーカーはル・マンから去っていったのでした。
1999年、トヨタを破ってル・マンで初の総合優勝を飾ったBMW V12 LMR。今年、BMWはハイパーカークラスで総合優勝争いに復帰する。
当時はまだ地上波テレビでル・マン24時間レースが毎年中継されていた時代であり、日本でもこの時代を覚えているファンは多いはずです。91年にマツダが優勝し、身近に感じられるようになったル・マンでしたが、日本のメーカーはそんな甘い世界ではないことを、身をもって知ったのです。若者のクルマ離れという傾向が現れ始めた時代となり、日本メーカーのル・マンへの復帰を!と願う人は少数のレースファンだけになり、日本メーカーの参戦はトヨタの2012年の参戦まで13年待たなくてはなりませんでした。2003年を最後に地上波での生中継は消滅し、ル・マンは日本では縁遠い存在になってしまいましたね。
しかし、2017年からはJ SPORTSがル・マン24時間の完全生中継をスタートし、現在も継続中。昔はスタートとゴールしか見られなかったル・マンを今は予選を含む全ての時間、オンデマンド配信やテレビで楽しむことができます。本当にいい時代になりました。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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