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【全盛期、再び!】世界を熱狂させたル・マン24時間レース「第一章 グループCカーで日本人が夢を見た!(80年代〜90年代)」 | ル・マン24時間レース2024 開幕直前特集!
モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ世界三大自動車レースの一つ「ル・マン24時間レース」の季節がやってきました。2024年のル・マンにはハイパーカー、GTカー合わせて62台が出場。合計14社もの自動車ブランドが総合優勝、クラス優勝を争う大激戦になっています。全盛期が再び到来!という感じです。
今年もJ SPORTSでは「ル・マン24時間レース」を完全生中継!かつてこのレースに熱狂した方々にもう一度、このレースを見ていただきたいという思いから、ル・マン24時間がとてつもなく盛り上がった時代を振り返っていきます。
2023年 ル・マン24時間レースのスタート
ル・マンが世界的に注目を集めたのは、映画俳優スティーブ・マックイーンが私財を投じて制作したアメリカ映画『栄光のル・マン』(1971年)の公開でしょう。1970年の実際のレース映像を使って作られた映画で、スクリーンに映るポルシェとフェラーリの対決に世界中の若者やモーターファンが大興奮し、ル・マンに強い憧れを抱いたのでした。
余談ですが、主演・制作指揮を務めたスティーブ・マックイーンはその名前から想像できる通り、ディズニーピクサーの映画『カーズ』の主役、ライトニング・マックイーンの名前の由来とも言われています。海外ではマックイーン=レース好き、クルマ好きの代名詞なのですよ。
さて、ちょっと話がズレました。映画『栄光のル・マン』の影響で世界的な有名レースイベントとなったル・マンですが、その後の1970年代は自動車メーカーが環境問題への対応に奔走していた時代であり、中東危機(オイルショック)の影響もあり、自動車メーカーが大々的にはモータースポーツ活動をしづらい時代でした。
それが1980年代になって急激に盛り上がり始めます。「グループCカー」と呼ばれる高性能スポーツプロトタイプカーの登場です。「グループC」とはFIA(国際自動車連盟)が定めた耐久レース用の新車両規定で、1レースで使えるガソリンの使用量が決められているだけで、あとはエンジンタイプもデザインもかなり自由なマシンを製作できるものでした。
グループCカーの時代を代表するポルシェ(写真はポルシェ962C/1987年)
レースに勝つためには速さと燃費の両立が必要となり、このミッション、テーマが世界中の自動車メーカーに大歓迎されることになります。当時、環境問題、エネルギー問題に対応せざるを得なかった自動車メーカーにとっては、モータースポーツへの本格参戦に好都合すぎるルールだったわけです。
1970年代もル・マンに挑戦を続けていたポルシェは耐久レースのノウハウを詰め込んだグループCカー、「ポルシェ956」を製作。1982年のル・マンにワークスチームで参戦し、表彰台を独占したのです。翌年以降は同型車がプライベートチームにも販売され(鍵や説明書も付いていたそう)、ル・マンでポルシェ956が一大勢力になっていきました。
このポルシェ956がベンチマークとなり、世界中の自動車メーカーのやる気に火がつきました。1980年代後半にはマツダ、日産、トヨタが総合優勝を狙って本格参戦をし、さらに海外メーカーではランチア、ジャガー、アストンマーティン、さらには1955年以来一切のモータースポーツ活動を休止していたメルセデスベンツまでが参戦。ル・マンはまさにスポーツプロトタイプカーの世界大戦状態になっていったのです。
日産は積極的にル・マンや国内のグループCカーレースに挑戦した。写真はニッサンR90CK(1990年)
当時は日本が「バブル景気」で活気に溢れた時代であり、若者たちの海外に対する憧れはとてつもなく大きなものになっていった時代でした。やる気に満ちた日本の技術者たちの挑戦は時代に後押しされ、日本の自動車メーカーはついにル・マン24時間やWSPC(世界スポーツプロトタイプカー選手権)への挑戦を通じて、海外の有名自動車メーカーに対峙していくことになるのです。
1990年のル・マンにはトヨタが3台、日産が7台、そしてアメリカのGTP規定のクラスでマツダが3台。ついに13台もの日本車が参戦することになり、日本車初優勝の期待が高まりました。その年に日産はNME(ニッサン・モータースポーツ・ヨーロッパ)が走らせる日産R90CKで日本車として初のポールポジションを獲得。しかしながら、決勝レースでは信頼性の低さでジャガーやポルシェのプライベーターに完敗し、星野一義/長谷見昌弘/鈴木利男の日本人トリオで挑んだNISMOの23号車(日産R90CP)の5位が最高位となりました(当時の日本車最高記録)。
1990年はまだレーシングカーの信頼性が低い時代で、24時間レースではマシンが普通に壊れ、まさに耐えるレースでした。1990年の完走は50台出場中28台(56%)。2023年はアクシデント等でリタイアするマシンが多かったものの、2022年の完走は62台出場中53台(85%)と今は多くのマシンが24時間を走り切れるということを考えると、80年代90年代は完走するだけでも大変だった時代です。モータースポーツ専門の技術者たちを長年に渡って起用してきたヨーロッパのメーカー、チームに日本のサムライたちが勝つことは簡単ではありませんでした。
歴史を変えた1台、マツダ787B(1991年)
しかし、その歴史が変わる時が突然訪れます。1991年、マツダが2600cc・4ローターのロータリーエンジンを搭載したマツダ787Bで日本車初の総合優勝を達成したのです。この年のル・マンは特殊で、世界選手権シリーズ「SWC(スポーツカー世界選手権)」のメインカテゴリー(C1)がF1と同じ3.5L自然吸気エンジンを搭載する新グループCカー規定に変更された移行期であったため、その開発に注力したメーカーの勢力図が分散した年でした。
マツダはロータリーエンジンで出場できる最後の年ということで、これまで1970年代のプライベート体制時代から積み上げてきたノウハウを全集中で投入。燃費と速さを競う旧グループCカー規定(C2)最後の年に、巧妙な燃費とペースのコントロールでメルセデス、ジャガーを苦しめ、日本車で初めての総合優勝を成し遂げたのでした。ル・マン24時間レースで日本車が勝つ、数年前までは夢の中の世界だったことが現実になったのでした。ドライバーはジョニー・ハーバートら外国人トリオだったものの、日本のモータースポーツの歴史が変わった瞬間でした。まさに日本におけるル・マンのピークだったと言えるでしょう。
その後、1992年以降のル・マンは自然吸気エンジンの新グループC規定になり、その中ではトヨタがV型10気筒のエンジンを搭載したトヨタTS010で1992年、93年と総合優勝を狙いましたが、予選では同じ規定のプジョー905に5秒もの大差を付けられたことからも分かるとおり惨敗。1993年にはプジョーに表彰台を独占されてしまいました。
1992年 トヨタを最初のル・マン優勝に近づけたトヨタTS010
新グループC規定は93年のル・マンをもって完全に崩壊。新規定で参戦していたメルセデス、ジャガー(当時はフォード傘下)、プジョーはスプリントレースの最高峰F1へと目を向け、1994年以降のル・マン24時間レースはプライベーター中心の単体耐久レースとして新たな道を模索していくしかありませんでした。
グループCカーはその後もル・マンの総合優勝を狙う主役ではあり続けましたが、本格的な自動車メーカーの世界大戦は約10年で消滅。ル・マンの歴史、スポーツカーレースの歴史はその後もまさにその繰り返しです。
グループC、当時を知る方はあの時代が懐かしく感じますか?今のル・マン、FIA WECは性能調整を行うハイパーカー規定によって、それぞれのメーカーの独自のデザインやエンジン形式のマシンを参戦させることができます。かつてのグループCカー時代と同じくマシンに個性があるのが大きな特徴ですね。自動車メーカーが参戦意義を見出しやすいようにしたという点ではその時代と共通するものがあり、その効果がハイパーカークラスの9メーカー23台出場という盛り上がりに繋がっています。自動車メーカーによる世界大戦。あの時代を懐かしみつつ、今年のル・マンに目を向けてみませんか?
辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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