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ニッサン フォーミュラEチームのマシンには桜の花があしらわれている
いよいよ「フォーミュラE世界選手権」の東京大会「2024 Tokyo E-prix」が2024年3月30日(土)にお台場で初開催されます。J SPORTSでは今大会を含めて「フォーミュラE世界選手権」全戦をライブ中継します!
日本の多くのファンは初のホームレースとなる「日産自動車(ニッサン)」を応援することになるのでしょう。「フォーミュラE」には「ニッサン」だけでなく、数多くの自動車メーカーがワークスチームを率いたり、パワートレインを供給したり、スポンサーとして関与するなどして関わっています。今回は「ニッサン」を中心にそれぞれの自動車メーカーが電気自動車の最高峰レース「フォーミュラE」に参戦する思惑を探りながら、このレースの魅力をご紹介していきましょう。
2024年の「フォーミュラE」にはニッサン/ジャガー/ポルシェ/ステランティス/ERT/マヒンドラという6つのマニュファクチャラー(メーカー)がパワートレインを供給して戦っています。パワートレインとは内燃機関の自動車でいうエンジンにあたるもので、モーターやインバーター、さらにはギアボックスや冷却システムに至るまで様々なパーツの総称のことです。車体は全車が同じシャシー(GEN3カー)を使用し、タイヤ(ハンコック)、バッテリー(ウィリアムズ)など同じものを使用する部分もありますが、動力関連の部分はパワートレインサプライヤーが独自の哲学で開発発展させる余地が残されています。
少し前まではメルセデスやBMW、アウディなどドイツの自動車メーカーが参戦していた時代もありましたが、彼らはル・マン(FIA WEC)やF1などにモータースポーツのリソースを集中させることにしました。ドイツの巨大メーカーの撤退で盛り下がってしまうのでは?との懸念があったのですがそんなことはなく、GEN3カーに変わってからはレースがさらに面白くなっていて、レースとしての盛り上がりは今の方が上と言えます。
上記のメーカーのうち、自動車メーカーの体を成しているのはニッサン/ジャガー/ポルシェ/ステランティス/マヒンドラの5つ。「ステランティス」はクライスラー、フィアット、アルファロメオ、プジョー、シトロエン、マセラティなど数多くの有名ブランドを束ねるグループです。その中からシトロエン系のフランス車ブランド「DSオートモービル」とイタリアのスポーツカーメーカー「マセラティ」がメーカーワークスチームとして参戦。近い将来の全製品EV化を目標にフォーミュラEで技術開発を行い、プロモーションに活用しているのです。
ヨーロッパの有名ブランドとして最も力を入れているのは、今では唯一のドイツ車メーカーとなった「ポルシェ」です。同社は2019-2020シーズンから参戦し、昨シーズンは同社のパワートレインを搭載する「アンドレッティ」のジェイク・デニスがドライバーチャンピオンに輝きました。「ポルシェ」は市販車でもEVカーのタイカンをリリースしていますし、同社の収益の多くを占めるSUVモデルは電動化が進められていくと考えられています。電動化の時代を迎えるにあたり、モータースポーツでの覇権をEVモータースポーツの最高峰でも取りに行こうとしています。
日本でもお馴染みのニック・キャシディ
ポルシェの対抗馬として、近年の「フォーミュラE」で強さを見せているのがイギリスのブランド「ジャガー」です。現在はインドの自動車メーカー「タタ」の傘下にあるブランドですが、2016-17シーズンよりフォーミュラEに参戦。市販車でもEVに力を入れ、その展示会では盛んにフォーミュラEへの挑戦をアピールしてきました。そして近年では成績が鰻登りに上昇。昨シーズンはジャガーのパワートレインを使用する「エンビジョン」に所属したニック・キャシディがチャンピオン争いを展開しました。彼は今年ついに「ジャガー」ワークスチームに引き抜かれ、ランキング首位で「Tokyo E-prix」にやってくることになりました。今年のチャンピオン筆頭候補と言えるでしょう。
そんな中でアリア、リーフ、サクラなどのEVラインナップがあり、国内メーカーの中で最もEVに力を入れているメーカーである日産自動車=「ニッサン」はどうなのかというところですが、近年はフォーミュラEのレースで苦戦気味でした。「ニッサン」のプロジェクトの源流は「ルノー」としての参戦にあり、「ニッサン」ブランドへのバッヂ変更をおこなったのは2018-19シーズンから。ルノーの活動を引き継いだ状態だったのですが、昨シーズンからは完全な日産のチーム「Nissan Formula E Team」として参戦しています。
ニッサンのオリバー・ローランド (左)とサッシャ・フェネストラズ(右)
そんな体制の変化もあり、今シーズンはいよいよその改革を結果に結びつけないといけない年です。しかし、優勝からは3シーズン遠ざかっており、今年の目標はまず1勝。「ニッサン」の最後の優勝となった2020年のドライバー、オリバー・ロウランドを今年再雇用しましたが、これがドンピシャの当たり。ロウランドは持ち前の速さとこのシリーズでの長い経験を活かし、今季は4戦中3戦で3位表彰台に乗り、勢いをつけた状態で東京へやってくることになりました。東京では「ニッサン」にとって4年ぶりの優勝が見られるかもしれませんし、そうなれば、日本国内での「フォーミュラE」の注目度はかなり上がると思います。
また、チームとしてはスーパーカーメーカーとしても地位を確立した「マクラーレン」がニッサンのパワートレインを使用して参戦。2021年までアウディのワークスチームだったアプトは同じフォルクスワーゲングループのスペインメーカー、セアトのスポーツブランド「クプラ」の名前を冠して「アプト・クプラ」として参戦しています。
自動車メーカーがこうして「フォーミュラE」に参戦するのはまず自社のEV技術に活かしたいという開発的理由、自社のEVをプロモーションしたいという思惑があるでしょう。「フォーミュラE」は世界選手権レースの格式に昇格していますし、中南米、中東、アジア、ヨーロッパと世界各エリアを転戦する全10ラウンド(16レース)のグローバルなシリーズです。10年目を迎え、YouTubeチャンネルの登録者数はル・マン24時間レースをシリーズに持つFIA WECを上回っています。
シリーズとして10年でここまで成熟できた背景には「フォーミュラE」が発足当初から掲げてきたサステナブルな取り組みやプロモーションがあるでしょう。主催者の希望次第で1ラウンド2戦開催のレースもありますが、「Tokyo E-prix」のように1ラウンド1戦の場合、予選と決勝を1日で終わらせてしまうスケジュールになっています。これは参戦するチームにとっては参戦コストが抑えられるメリットがあります。1日開催の場合は土曜日に開催されることが多いため、ファンは日曜日にその街を観光することもできるのでシティセールスに結びつけやすく、主催者する側にもメリットがあるわけです。
とはいえ、都市部の市街地レースは特設サーキットを作り、インフラを整備しなくてはならない負担も大きいので、今季はミサノ(イタリア)、上海(中国)など常設サーキットでの開催が増えました。この背景には「フォーミュラE」マシンのスピードアップもあるでしょう。距離が長く、その性能を活かせるコースレイアウトが必要になってきています。さらに今後は急速充電ピットストップ「アタックチャージ」も導入される予定で、よりスピード域の高いレースになっていくので、今後常設サーキットでのレースは増加するかもしれません。
そんな中で今季唯一の「新しい都市部での市街地レース」となる東京開催は「フォーミュラE」の未来がどういう方向に向かっていくのかを決めるキーとなるイベントです。参戦する自動車メーカーもその成功を注視しているはずです。全てが初めてづくしで、日本初の公道自動車レースとなる東京大会「Tokyo E-prix」の成功を祈念します。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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