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川合孝汰選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)「“いつもどおりに行こう”と、みんなが口に出して準備した」 | SUPERGT 2023 第8戦 モビリティリゾートもてぎ【SUPER GT あの瞬間】
モータースポーツコラム by 島村 元子川合孝汰選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)
レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!
チームがSUPER GTに参戦して7シーズン目にGT300クラスのシリーズタイトルを掴み取った埼玉トヨペット Green Brave。ディーラーチームながらモータースポーツ室を構え、チーム運営も担うという稀有な存在でもある。レーシングカーも店舗勤務のスタッフが手掛けるなどアットホーム色の強いチームではあるが、ついに、GT300クラスの頂点に達した。今回は、スタッフとともにドライバーとして成長を遂げた川合孝汰選手に、戴冠までの道祈りを振り返ってもらう。
── 自身初のGT300クラスチャンピオン獲得、チーム、コンビを組む吉田広樹選手と一緒に掴んだ初タイトルですが、 改めて今のお気持ちを聞かせてください。
川合孝汰(以下、川合):素直にうれしいですし、正直まだ実感が湧かなくて。時間もそんなに経ってない(11月9日に取材)というのもあると思うんですが、今まで自分があまり経験をしたことがないことをしたので、これから少しずつ(うれしさが)湧いてくるんじゃないかなと思ってます。
── 一方、周りの反応は大きかったと思います。
川合:SNS含め、応援していただいてるスポンサーさんや、ファンの皆さんから連絡をたくさんいただきました。ただ、そこまでの環境になったことがなかったんで、結構パニくってたんですけど(笑)。返信にもちょっと時間がかかってて、今日はS耐で富士に来てるんですが、そこでまたスーパー耐久の関係者にお会いして、“おめでとう”って言っていただけたのはうれしかったです。
── 最終戦を前に、すでにランキング2位の2号車 muta Racingとの差が20点ありましたが、予選でポールポジション獲得がマストだった2号車がトップタイムをマーク。このライバルの動きを、川合選手はどのように受け止めましたか?
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川合孝汰選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)「いつもどおりに行こう」 | SUPERGT 2023 第8戦 モビリティリゾートもてぎ【 #SUPERGT あの瞬間】
川合:開幕前から、2号車は、チームとしても僕らドライバー間でも、一番意識していたチームだったんです。今年、僕らがどうこうということとは別に、2号車は確実にチャンピオン争いするだろうと予想していたので、そのとおりになったというのもありますし、また、個人的には、堤(優威)選手とは10年前にカートレースでずっと争っていた仲だったんで、懐かしいと思いつつも、またこうして違う舞台ながら、こうやって戦えたことは素直にうれしかったですね。
── 手強いライバルと見てた2号車がポールポジションを獲るなか、レース前のチームミーティングは、どういう話になりましたか?
川合:チャンピオン争いのなか、しかも、ほぼほぼ(52号車と2号車の)1対1だったんで、やっぱり意識しない方がちょっと難しかったんですけど、なんか意識をすることによって、ポイントが獲れなかったりとか、いつものチームからちょっと状態がずれてしまったりすることがあったので、ミーティングでは、いつも以上に“今回はいつもどおりに行こう”と、みんなが口に出して準備してきました。(タイトル争いでは)圧倒的に有利なポジションだったので、周りの方から見ればそんなことはないだろうと言われがちですが、実は去年、僕ら(のチーム)はスーパー耐久で、“最終戦で完走できればチャンピオン”っていう、ほぼ(タイトルを)獲れるだろうと言われていたときに、エンジン系のトラブルが出てしまって完走できず、チャンピオンが獲れなかったんです。だから、“絶対大丈夫だろう”と言われても、“絶対ってないだろうな”っていうことを身に染みて感じていたんです。
── 「いつもどおりに」と心がけて挑んだ予選では、吉田広樹選手がQ1・A組を3番手通過。川合選手はQ2担当で7番手に。やはり、いつもと違う感じはありましたか?
川合:やっぱりありました。周りから、“緊張してる”って言われました。僕自身は“いつもどおり、いつもどおり”と思ってたんですけど、やっぱり周りの人から見れば、ちょっと口数が多かったり、落ち着いてない感じがあったと言われて。そう言われたあとに自分のことを客観的に見たら、“緊張より不安要素がちょっとあるな”みたいな感じで……。ちょっと表現が難しいんですが、“なんかあったらどうしよう”とか、考えなくてもいいことをいろいろ無駄に考えてしまうというか、そういったことがいろいろと出ていたなという感じはありました。
でも、ハンドルを握ったら意外と落ち着いていて。多分、“ドライバーさん、あるある”なのかもしれないですけど、クルマに乗るまでが緊張……じゃないですけど、プレッシャー含めて、そういう不安だったりがあるんですよね。自分のコックピットに収まってしまうと、そこから見る景色はいつもどおり、何かが変わったわけでもないですし、いつも見るもてぎの光景だったので、その辺はすごい落ち着いてスタートもできました。アタック自体、僕自身はFP(公式練習)であんまりいい感触が正直なかったんですけど、アタックに行ったときのフィーリングがものすごく良くて。僕のなかは結構まとめられたんです。でも、上位勢っていうか、僕らより上に行ったチームのクルマに、ちょっとずつ取られてしまった(先行された)っていうのがあって。終わったあと、少し取りこぼしてる部分はないのか、みたいことをチームでミーティングしていたんですが、アタック自体は、そこそこいいタイムアタックができたのかなと思ってます。
── であれば、決勝前夜は穏やかな眠りにつくことができたかと。
川合:チャンピオン争いとか関係なく、僕は、SUPER GTでもスーパー耐久でも、(サーキット)入りの日に寝られないことが多いんですよ。一睡もできなくて、そのまま走行したりってのが結構あるんです。でも、今回はなんか珍しいぐらい寝付きが良くて。決勝前日でも、気持ちの切り替えじゃないんですけど、結構サウナに行ったりするんです。今回は部屋に戻ったら、あっという間に寝ちゃってて。ただ、自分の中では感じ取れない部分なのか、目覚ましの時間よりも、ちょっと早く起きてしまいました。
── 決勝日の朝は、予選日よりも晴れていたものの、風がすごく冷たく、のち曇り空になりました。気温、面温度が下がるコンディションになりましたが、チームにはどう作用すると考えていましたか?
川合:正直、僕らの予想では雨はないと思ってて。ただ、僕らの選んでいたタイヤのことだけを考えると、日が出るよりは陰ってくれた方がいい方向でした。路温もなるべく低い方がいいかなっていう風に考えていたんです。逆に、前回のオートポリスはすごく寒くて、これ大丈夫なのかなと思ったときに、用意してもらったタイヤが、その温度でも発動してくれたので、僕らとしてはいいパフォーマンスが出せました。今回も、ちょっとした気温の差があっても戦える自信はあったんですが、陰ってくれた方が僕らとしては良かったです。雨が降るどうこうっていうのは頭になかったんで、決勝で降り始めたときはちょっとびっくりしましたけど、決勝前のグリッドにいるときに、結構明るかった空がだいぶ暗くなってきていたので、僕らとしてはいい方向なのかなっていう気持ちでしたね。
── 手応えを得ながら序盤を走行。ところが、前方車両前から“デブリ”と思われる何かが飛んできて、ボンネットのカナードあたりが破損した様子が映りました。ヒヤリとした瞬間だったと思いますが、どう対処しましたか?
No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT
川合:あのとき、6番手争いで前に31号車(apr LC500h GT)がいて。その前には、BRZ(No.61 SUBARU BRZ R&D SPORT)さんもいたんで、多分、結構僅差で前と走ってたと思うんです。ある程度、距離も走ってきて全体の流れも見えてきて、ガソリンやクルマのバランスもちょうど落ち着くタイミングで、チャンスがあれば仕掛けたいなと思っていたときでした。もてぎって“ストップ&ゴー”のコースなので、僕らが使ってるスープラのGTA-GT300車両は、ストレートというか、中間のトルクの加速部分でやっぱり(前方車両から)離れていってしまうんです。うしろについてたとしても、ブレーキングするときまでに離れる……みたいな展開がずっと続いていました。バトルがあったりとか、ちょっとしたときにチャンスがあったら入りたい(前に出たい)と準備をしてた矢先、瞬間的に前のクルマが跳ねた……多分、デブリだと思うんですけど、ちょうどボンネットに当たってきた瞬間、とっさに、“はっ!?”と思ったんですけど、あまりにも瞬間すぎて避けれなくて。ボンネットのちょっとしたパーツを破損させてしまいました。そのときに、嫌な予感、じゃないですけど、これが影響して何かあったらどうしようって、ちょっと肝を冷やしたんですけど、チームとのコンタクトでクルマをよく見てもらって、(破損したのは)走行に対して影響が少ないパーツではあったんで、そのまま状況を随時伝えながら走行してました。
── 19周終わりくらいからライバル勢がルーティンのピットインを始めました。一方、52号車が22周終わりに実施。想定どおりでしたか? また、タイヤ無交換も作戦のうちでしたか?
川合:思った以上に(前方の車両を)抜けず、周りのクルマのペースで走らなきゃいけない状況がずっと続いてしまっていたので、エンジニアといろいろ話をした結果、やはりミニマム(の数回数)で入るしかないという感じでした。もちろん、(タイヤ)無交換が大前提で。ただ、状況によって4輪交換であったり、リヤ(タイヤ)2本交換というのも作戦としてアリかなっていうのはあったんです。でも、今回はタイヤ交換義務がないレギュレーションだったし、タイヤに対してきついコースでもないので、ライバル勢も(タイヤ無交換の作戦を)してくることを考えると、もう迷わず無交換で行こうということになりました。
── そのなかで、レースは何度か雨が降りました。場所によっては本降りにもなり、結構ハラハラしたのでは?
川合:雨はまったく予想してませんでした。実は、僕のスティントのときも、ストレートから1コーナーにかけて雨が降っていて……。スピード域が速いとどれぐらいの雨量なのか、わかりづらい。“傘を差すレベルの雨なのか?”って、エンジニアとコンタクトを取りながら走ってたんです。1コーナーは、ドライのラインがちょっと走りづらくなるような雨が一瞬だけ降っていたし。ただ、他のコーナーでは降ってなかったんで、そこだけしっかりミスしないように走りつつ、僕らとしてはチャンスもあるのかなとポジティブにも考えていました。前のクルマもちょっとタイムが落ちてきてたんで、チャンスがあったら入りたい(抜きたい)なっていう風には考えてました。雨はその瞬間だけかと思ってたんですが、最後、吉田さんのパートでも、2、3回降ったり止んだりがあったと思うんですけど、残りの10周ぐらいのときに結構な本降りになってきてしまって……。あのときは水しぶきも上がるぐらいの路面状況だったんで、正直、ウエットタイヤに替えるクルマもいたという状況を見ながら、うちらはどうしたらいいかなっていうことを考えていたんですけど、残り周回数が短いことや、雨が止むだろうということを予想して、そのままステイする作戦を採りました。吉田さんには、残り周回数を耐えていただくっていう感じでしたね。
── 最後まで落ち着きのない天候になりましたが、“これはチャンピオンを獲れる”という確信は、どのぐらいのタイミングで巡ってきましたか?
吉田選手とチャンピオン獲得を喜ぶ川合選手(左)
川合:2号車がずっと最初からトップを走ってましたし、僕らは7番手からのスタートだったので、正直、“黄信号”(の状態)ではあったと思うんですが、レース中に、“チャンピオン、獲れそうだな”と思ったことがあまりなくて。それこそ、去年のスーパー耐久の件に戻るんですが、“何かがあったとしても大丈夫だよ”って言われてるときに限って、そういうことがあったりとか。それこそ2戦前のSUGO(※ただし、結果は繰り上げ優勝)もそうですし。(SUGOでは)最終コーナーでガス欠になるなんて誰も思ってもいないですから。やはり残り1周でマージンがあったら勝つよねっていうときに、目の前でそういうの(ガス欠症状が出て、他車に先行されたこと)を見てきてるんで、チェッカーを受けるまではもうまったくわからなくて。そのあと車検もあったりするんで、正直、どこまで行ったら(優勝が)確定するのか、チェッカー後もわからないのが今のレースなんで。あんまり安心はできてなかったですね。
ただ、あのときは2号車が確かウエットタイヤを履いて、多分、賭けに出られたと思うんですけど、そういう展開をしてたので、僕らが7番手でチェッカーを受けたときは、ほぼ(タイトル)確実でもいいんじゃないかなっていう風にはなりましたね。うれしさもあるんですけど、デビュー当時(2020年)はコロナ(ウィルス感染拡大の影響)もあって、今までのSUPER GTのスケジュールとは全然違うスケジュールだったし、FIA F4から(のステップアップで)右も左もわからないなか、吉田さんと組んでいろんなことを教えていただきながら、たくさん迷惑もかけていました。そういう意味では、今回の結果でチームに少しでも恩返しができたのかなと思うなかで、会場にいたメカニックのみなさんのうれしそうな顔とか安堵した顔を見られて、“あぁ、やってきてよかったな”って。“感極まる”じゃないですけど、僕自身のうれしさと良かったっていう安心感含め、喜びが爆発したっていう感じですね。
── コロナ禍の2020年にSUPER GTにデビュー。チームと一緒に成長してきたという感じでしょうか?
川合:ディーラーチームなので、スタッフの皆さんは、普段は店舗のメカニックとして働かれていて、週末はレースに来られてます。短い時間のなかで練習もしながら、本番に向けてみんなで一致団結して戦う、ということを僕らはやってるんですが、“家族みたいな輪”じゃないですけど、初めてプロの世界に入ったなかでも馴染みやすくて。ドライバーとしてよりも、人として教わった部分がたくさんあったかなと思っています。コミュニケーションの部分でもたくさん取れる機会があったり、プライベートでも話し合う機会が多かったり、接点という部分でも、サーキットに行ってからというよりも、サーキットに行くまでの普段の生活のなかでレースに関する会話がいっぱいできたり、クルマに触れ合う機会というのをたくさん作っていただける環境にありました。なので、焦る必要もなく、落ち着いてレースができる状況にはしていただいたと思っています。そのなかでもまだまだ足りない部分だとか都度課題があって、いろいろご迷惑をかけてしまったり、助けていただいたりというのがずっと続いていたので、恩返しという部分では、チャンピオンになれたことは、すごく大きかったのかなと思います。
── “大きな家族”である皆さんで掴んだタイトルだったのですね。
川合:そうですね。なので、一緒に頑張ってきたというか、僕は(チーム加入)4年目ですけども、チームは創設から11年目、SUPER GT(参戦)は7年目になるんです。そのなかで、過去に携わってくださった皆さんの努力も含めて今があると思うし、僕の知らない、これまでの努力の部分が、最終的に11年目にして形になったと思います。そういう意味でも、初期から(チームに)入られてる方たちの安心した顔が見えたとき、大きなことを成し遂げられたのかなという気持ちになりました。そして、そこに自分が携われたのが、すごいうれしかったですね。
── 足掛け4年、特に去年から今年にかけて、自分の中でドライバーとして成長するために課したものはありましたか?
川合:“今年に限って”っていうことではなく、毎年、“必ずチャンピオンを獲る”って思ってやっていたんですけど、今年、(チーム)4年目をやらせていただくことになったときも、ずっとチャンピオン争いをしていても2位が多く、(タイトルまで)あとちょっとが届かなかったりっていうことがずっと続いていたので、“今年こそ決め切らないと、じゃあいつ決めるの!?”っていうことを、思っていたんです。自分も来年30歳になるんですが、やっぱり20代でチャンピオンを獲りたいという思いも強くて。今年は、“何がなんでもチャンピオン”、“1戦1戦、優勝目指して”っていうことを、必ず口に出して言ってたんです。しっかり口に出したのが、良かったかなと思います。
── では、最後にこの企画恒例である「24時間以内のちょっとした幸せ」を教えてください!
川合:24時間でっていうと、ちょっと難しいんですけど。もてぎには、スポンサーの皆さんがお見えになっていて、皆さんの目の前で(チャンピオンを)決められたことはうれしかったんですけど、同じように家族も来てたんです。今までの苦労とかを一番知ってくれて、支えてくれた家族にも、“やっと勝てたよ”、“やっと(タイトルを)獲れたよ”っていう報告ができたことが一番うれしかったですね。カート時代から、レースでのチャンピオンって実は初めてで。その前のいろんなカテゴリーでは、2位ばっかりだったんです。1位を獲れないまま四輪に上がりましたが、家族の支えがあって初めてチャンピオンが獲れました。SUPER GTに上がったときも、影で支えてくれたのは家族だったんです。最後に家族の目の前で決め切れて、チャンピオンの報告ができたことがうれしかったですね。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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