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小暮卓史選手(No.88 JLOCランボルギーニGT3)「四苦八苦してきた5年間だったので、ほんとにうれしかった」 | SUPERGT 2023 第8戦 モビリティリゾートもてぎ【SUPER GT あの瞬間】
モータースポーツコラム by 島村 元子小暮卓史選手(No.88 JLOCランボルギーニGT3)
レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!
GT300での初参戦から5年。No.88 JLOCランボルギーニGT3のステアリングを握る小暮卓史選手が、ついに優勝を果たした。コンビを組む元嶋佑弥選手はSUPER GTでの初勝利、またチームも2019年以来(Rd.5 富士:No.87 T-DASH ランボルギーニ GT3)となる待望の1勝だった。2010年にはGT500クラスでシリーズタイトルを手にし、トップカテゴリーでのキャリアを誇る小暮選手だが、シーズンを重ねるごとにGT300クラスならではの難しさを感じるという。挑戦を続け、ついに手にした初優勝を振り返ってもらった。
── JLOCへのチーム加入5年目にして待望の優勝でした。改めて、お気持ちを聞かせてください。
小暮卓史(以下、小暮):優勝までが相当長かったです。正直、もっと早く優勝できるのかなと思っていたんですが、GT300クラスって、ある意味、GT500クラス以上に優勝するのが難しくて。本当に四苦八苦してきた5年間だったので、ほんとにうれしかったです。
── GT300クラスならではの優勝の難しさというのは、どういう部分ですか?
小暮:やはり、いろいろな車種があって、レギュレーション(BoP:性能調整)なども違いますし、もちろんタイヤメーカーも違う。状況が違うなかで、タイヤと車両とサーキットがマッチングしているチームが一番速いということになるのですが、そこに難しさがあります。全部が合致してないと、ライバルになかなか勝てないというのを、すごく感じますね。初年度は、結構(戦績が)良かったんですよ。どちらかというと2年目からですね、すごくそれ(勝つ難しさ)を感じたのが。初年度は、僕自身がランボルギー、GT300の車両……特にHURACAN(ウラカン)いう車両の特性がGT500の車両と全然違ったので。共通する部分もあるんですけど、クセがなかなか掴めなくて四苦八苦しました。2年目からは、レギュレーション(BoP)の難しさ、厳しさ、コースに車両がマッチングする/しない、というのが(レース結果に)すごく影響すると感じましたね。
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小暮卓史選手(No.88 JLOCランボルギーニGT3)「四苦八苦してきた5年間だった」 | SUPERGT 2023 第8戦 モビリティリゾートもてぎ【 #SUPERGT あの瞬間】
── 参戦を続けるなか、いい結果を出すための“秘策”みたいなものは見つりましたか?
小暮:レースで勝つには、予選である程度、前(の順位)にいなくちゃいけない。それが重要だと思います。それから、レース中はFCY(フルコースイエロー)だったり、セーフティカーだったり、そういうのが出たときに、うまく利用して前に行けたらいいんですが、そうじゃなくても、確実に対処しなくちゃいけないことがあって。すべてを……なんていうんですかね、ミスなく高いレベルでまとめ上げることがものすごく重要かなと。特にウラカンは、レースラップが……燃費があまり良くなくて、給油時間も(他車より)ちょっと長くなっちゃうときがあるんです。ただ、クルマ自体がタイヤに優しいので、タイヤの落ち(パフォーマンスが下がる)っていうのはなくて。なので、コースによっては厳しいところもあるんですけど、逆に、“こうやれば、戦えるんじゃないか”っていう、ウラカンの特性を活かして、レースをすることはすごくありました。
── 最終戦は、公式練習から速さがあり、予選Q1・A組では元嶋選手がトップ通過。Q2担当の小暮選手としては、ポールポジションしかないと思うなか、0.152秒という僅差での2番手に。これは、チャンピオン争い中の2号車(muta Racing GR86 GT)に“花を持たせた”みたいな部分もあったのかと思いつつ、やはり悔しかったと思います。
小暮:2号車が(ポールポジションを)獲ったことによって、若干、チャンピオン争いもちょっともつれたので、周りからは、『シリーズ争いのことを考えたの?』と言われたりもしたんですけど(笑)、やはり、悔しかったですよね。特に、エンジニアさんがそうだと思うんですが、やっぱり自分のクルマが一番速いことを証明する……ドライバーとしてもそうですけど、速さを証明する一番大切な場所だったので、すごく悔しかったですね。走り自体、そんなに大きなミスもなく……でも、0.15秒かぁ。終わってみたら、もうちょっとリスクを負って行ったら、なんとかなったんじゃないかな、なんていうのもあるんですが。力を出し切って、2番手というポジションも悪くなかったので。決勝を考えれば悪くはないんですが、個人的には、まだ1回もGT300クラスで……2番手は何回も獲ってるんですけど、ポール(ポジション)が獲れてないんで。いやほんと、獲りたかったですね。
── レースを追うごとに、段々とポテンシャルが上がりました。第4戦富士では、ランボルギーニ・ウラカンGT3エボから、エボ2にスイッチ。いきなり予選4位、決勝8位。続く鈴鹿では決勝4位に。躍進できたポイントは、何だったと思いますか?
小暮:(第3戦)鈴鹿で、(シスターカーの)87号車の方に(レース中に他車との接触したことで)問題が出てきまして。クルマを新しくしなくちゃいけないっていうことで、本来、エボ2を投入する段階ではなかったタイミングで投入することになったんです。正直、(エボ2で初めての)富士では、なんにもわからないままレースをやって、そこそこうまくいったなっていう感じだったんです。たまたまそのときのクルマの状況が、富士に合っていたんです。最終戦のもてぎほどではないですが、(クルマとコースコンディションが)合ってて、すんなり行けちゃっただけですが。ただ、富士を戦ったあとのレースからが大変で……これからまだ開けてない引き出しをいっぱい開けなくちゃいけないっていうのが発覚していくんですが(苦笑)。やはり、いろいろセッティングを試していくうちに、 “こっちがいい、こっちが悪い”っていうことを見つけながら、ドライバーとエンジニアのなかで理解はすごく深まりましたよね。ただ、気温が暑いと、やっぱりエンジンが回りづらかったりとか、そういう問題もありました。いろいろセッティングを試しましたが、どうしてもテスト時間が短くて、試せるものが限られる。“もっとこういう風にやりたい、こういうことやりたい”といったなかで、どうしても、まだ決勝中にはクルマがピーキーに動くことがありました。ただ、富士に比べると、鈴鹿ではかなり理解度は増えてましたね。第7戦オートポリスからは、イタリアからエンジニアも来て、ブレーキも進化しました。セッティングも本国の仕様を試させてもらったし。クルマの問題部分も解決していくなか、確実にポテンシャルがあることはわかりました。
── いい流れで最終戦を迎えることになり、決勝もフロントロウから元嶋選手がスタートを決めて、早々にポールポジションの2号車を逆転しました。今回、どのような戦略でレースに挑みましたか?
No.88 JLOCランボルギーニGT3
小暮:タイヤ無交換は、さすがにちょっとアレなので(厳しいので)、リヤの2本だけ交換っていうことを念頭においていました。あとは、セーフティカーとかFCYのタイミングで、(ピットに)入る/入らないっていうのはあったと思うんですけど、中盤手前ぐらいまで引っ張って周りの状況を見ながらドライバーチェンジするっていう、オーソドックスな感じの戦略でした。(リヤタイヤ2本を交換したのは)クルマの特性上。車両が(エンジンを車両の中間位置に配置する)ミッドシップでリヤが重く、リヤタイヤにすごく負担がかかるんです。対して、フロントには負担がかからないんですよね。ライバルのFR勢と比べても、フロントタイヤにかかる負担っていうのはすごく少ないんです。その分、リヤにはすごい負担かかる。基本的にフロントは交換しなくても意外ともってしまうので、リヤさえ交換すれば走り切れる……どのサーキットでもそういう傾向ですね。
今年になってから、レギュレーション(BoPの関係)で、すごく車両が重くて。だけど、タイヤのグリップは、どんどんどんどん、上がっていくっていうなかで、ラップタイムもすごく速いですし、ウラカンみたいにリヤが重いクルマっていうのは、タイヤにかかる負担っていうのが大きいんです。その部分は、ヨコハマ(タイヤ)さんが頑張って、対応するようにタイヤの開発をつねにしてくれました。セッティングの部分もそうです。ちゃんと活かせるセッティングをエンジニアさんが頑張ってくれたことと、ヨコハマタイヤさんが頑張ってくれたことが何よりのポイントです。
── レースでは、トップをキープして終盤へ。一方、背後にNo.65 LEON PYRAMID AMGが迫っていました。また、部分的な降雨もあり、土砂降りにもなりました。あのような状況におけるドライバーの心境はどんなものなのでしょうか?
小暮:給油時間やタイヤ交換の違いからか、(タイヤ)交換してピットアウトしたら、すぐ65号車に迫られたんですよね。タイヤが温まってない状況のなか、65号車にプッシュされてヒヤッとしたんですが、そこはなんとか防げました。その後も雨が降ったり、違うクルマをパッシングするのに時間を取られちゃったりで迫られたことがあったので、つねに意識はしてましたね。
雨量も多かったじゃないですか。しかも、大きいの(本格的な降雨)が2回来たんですけど、コースが全部濡れてたら良かったんですが、その時は、1コーナーとか5コーナー、特に1コーナーが多く濡れてたんですよね。セクター1あたりがすごく濡れてたんですけど、最終コーナーは、そんな濡れてなかったんです。で、そこから1コーナーに向かってるところも濡れていて、どれぐらいのスピードでコーナーに入っていけばいいのかがわからないんです。なので、すごく神経を使いました。ラップタイムは落としたくない。もちろん、コースアウトも大きなタイムロスもしたくないっていう……。ドライバーはそう思ってるんですけど、トップで走っている自分が一番初めにそこに行かなくちゃいけないので。うしろで走ってると、それを見て修正できるんですけど、自分がはじめに行かなくちゃいけないというストレスはありましたね。
── 不意打ちの雨のなかでトップを死守。「チェッカーは、まだ?」みたいな気持ちになったのですか?
小暮:すごくなりましたね。一回、雨がバーッと降ったとき、“早く止んで、早く乾け!”って思っていたんですけど、また細かいのが2、3回来たんです。ああいう状況って、何もなければチャレンジしがいのあるコンディションで面白いんですけど、一歩間違えれば……トップを走っていて、それこそグラベルに止まるなんて考えたくもないですし、クラッシュなんてありえないんで。トップを走ってるがゆえに、“なんで(こんな天候になるんだ)!?”っていう風に思いました。相当ストレスでしたし、精神的にもすごく疲れましたね。
── “優勝”の2文字が、無意識のうちの意識みたいにあるなか、ようやくクラストップでチェッカーを受けた瞬間、どのような気持ちでしたか?
小暮:正直、ホッとしましたね。雨のときは、65号車に迫られてなかったんですけど、一旦、前のクルマで(差が)詰まって、横に並ばれたこともあったし。今までのレースで2番手、3番手で走ってるときは、“何かないかな”っていうか、“何かあればチャンスが来ないかな”って思いながら走ることが多かったんですけど、今回のようにトップで走っていると、“何もなく、早く終わってくれ”と、残り10周がすごく長かったですし、チェッカーを受けたときは、さっきも言ったようにホッとしたというのが正直な感想です。うれしかったですね。
チームからの無線でも、みんなの喜んでる状況はわかりますし、本当に、優勝ってやっぱり特別だなと思いましたね。GT500では勝ってますが、GT300では表彰台に上がるだけで、まだ優勝はなかったので、今までとは違った感情……ウィニングラップのときもすごくうれしかったです。チームとしては30年目なんですよ、今年。 スゴいんですよね。今年は、JLOCが(SUPER GTの前身である全日本ツーリングカー選手権を含む)GTレースに出はじめてから30年目で、節目の年だったんです。なので、参戦30年目の最後のレースで優勝できたので、余計に、則竹さんもすごく思うところがあったんじゃないかなと思っています。チームのみんなが笑顔で迎えてくれて、僕と元嶋選手もうれしかった。則竹さんの笑顔を見れて、良かったなと思いましたね。
元嶋選手なんて、レース後に僕と会ったときに涙ぐんでましたし、僕もちょっともらい泣きしましたけど(笑)。優勝したことによって、壁を乗り越えられたような気がするんです。優勝した以上にすごく大きいことだと、自分自身とても感じています。これで次のステップに進めるなっていう感覚があるのと同時に、確実にレースをこなしていけば優勝できるってことが証明された。来シーズンは、まずは優勝、そして、より強さじゃないですが、“そこにいて当たり前だよね”っていう風に思われるような存在になって、“そこにいるよね”っていうような感じになれば。 そして最終的に、シリーズ争いがちゃんとできるようになれば、すごくうれしいなと思います。
── オフシーズンは、どのように過ごす予定ですか?
小暮:基本はですねぇ……まぁ年齢を重ねてきたので(苦笑)、今シーズンはトレーニングをちょっと多めにしたいなと。あとは、オートバイが好きなので、冬なんですが、ゆっくりツーリングを……オートバイに乗りたいなと。自分の好きなことに時間を使って、なおかつ、そこでエネルギーを貯めていきたいなと。来シーズンに向けて、自分自身の身体的、精神的にも、より万全な態勢を作りたい。何をするってのはまだ決まってないんですけど。とりあえず身体作りをちょっと……。やっぱり若い元嶋選手と組んで、もうちょっと頑張れるんじゃないかなって、思うときがあるんでね(笑)。
── 今回、久々の優勝となりましたが、ご自身へのご褒美みたいなことは何か考えていますか?
表彰台で手を振る小暮選手と元嶋選手
小暮:来シーズンの開幕戦まで、レースがないじゃないですか。少なからず時間が経てば優勝の喜びは少なくなってくるし、薄れてくるんですけど、次のレースがあれば次のレースに気持ちを切り替えるので、すぐ過去のものになってくるんですけど……。最終戦で優勝して、次のレースまでないっていうのは、なんていうんだろう、この状況がご褒美みたいなものなんです。最終戦に勝って、いい気分のまま……僕だけじゃなくて、則竹監督もそうですし、チームのみんなもいい状態のままオフシーズンを過ごせるんで、それが何よりもご褒美じゃないかな。ふとしたときに、“あぁ勝てて良かったな、うれしいな”っていうのがあるので、もうそれで十分です。僕にとってはご褒美です。特に何かするとかいうのはないんですけど、もしかしたら、このあと、則竹監督が87号車のドライバー(松浦孝亮/坂口夏月)も一緒に、何かご褒美をくれるかもしれないですね(笑)。
── いつも、最後に恒例の質問「24時間以内のちょっとした幸せ」を聞こうと思ったのですが、「優勝の余韻」がそれに当たりますね。
小暮:そうですね。これが仮に、雨で足をすくわれちゃったりとか、危機的な状況で抜かれてたりしたら、今のこの感情は味わえなかったので、優勝できたことに対して、このなんか“ホッとした感じ”……これはもう、僕のなかでも充分ありがたいっていうか、幸せだと思います。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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