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モーター スポーツ コラム 2023年11月1日

”マッチに会う”……それでいい。多くの方に会って、力を貸してもらいたい

モータースポーツコラム by 島村 元子
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10月28、29日、三重・鈴鹿サーキットにおいて全日本スーパーフォーミュラ選手権最終大会が開催された。本大会では、今シーズンを締めくくる第8戦、第9戦を開催。秋晴れの下、チャンピオン争いの行方を見届けようと、両日で4万3千人の観客が訪れる盛況ぶりだった。

これに先立ち、今年4月に同レースを運営する日本レースプロモーション(JRP)の取締役会長に就任し、シーズンの戦いを見守ってきた近藤真彦氏に、会長として取り組んできたこと、そして次なるステップとして思い描く構想などを語ってもらった。

話を訊いたのは、金曜日の夕方。ちょうど専有走行が終わったばかりで、近藤会長はどことなく険しい表情だった。というのも、自身がチーム代表を務めるKONDO RACINGでは、4号車の小高一斗が走行中にスピンを喫してクラッシュ。赤旗中断の原因を作っていた。チームとして好ましくない状況に、近藤”監督”の気持ちが勝っていたようだ。だが、すぐ”会長”は穏やかな笑顔を見せ、ときに真剣な眼差しをもって、終わりが近づく今シーズンを振り返った。

■客寄せパンダで構わない

就任会見の場では、自らを「客寄せパンダ」と表現した近藤会長。「本当にそれでいいと思ったから言っただけ」と笑う。事実、開催サーキットがある自治体への表敬訪問では、知事を筆頭に、会って話を聞いてくれる人が増えた。さすがは、アイドル時代からの絶対的な知名度。「近藤真彦、つまり”マッチに会う”……それでいい。ひとりでも多くの方にお会いして、力を貸してもらう。まずそのスタイルで行きたかった。想定内の仕事ができたと思う」。最終戦でも、サーキット入りする直前、一見勝之三重県知事や末松則子鈴鹿市長を表敬訪問。結果として、地元のテレビ局や新聞社が取材にかけつけた。

自身が持つ大きな訴求力を武器にする一方、レース関係者には、今の時代に合わせたプロモーションへの協力を懇願する。日曜日に行われた最終戦。チェッカーを受けたドライバーたちが、クールラップダウン中にファンがいるスタンドに向けて手を振っていた。これは、レースウィークの金曜日の夕方、ドライバーが一堂に会するブリーフィングにおいて、近藤会長自身が「応援、サポートに対する感謝の意を示して欲しい」とリクエストしたものだった。もちろん、これまでも自ら率先して手を振るドライバーはいた。だが、「各コーナーにいるお客さんに、『最後まで見ていただいてありがとうございます』と手を振ってほしい」と近藤会長が後押しした。「勝っても負けても、悔しくても嬉しくても、手を振ってほしい。そして”アレ”も使えばいい」。近藤会長が言う”アレ”とは、今年から本格活用されているアプリ「SF go」のこと。ユーザーはレース映像に限らず、オンボード映像やチーム無線などの視聴が可能。多方向からレース情報を入手できるものだ。レース中は、チーム陣営もライバルの動向把握のために活用している。「最終戦なんだから、チーム無線でチームスタッフに1年の感謝の気持ちを、そしてアプリを使ってくれている自分のファンの人たちに向けて、メッセージを送ってほしい」。参戦するすべてのドライバーが、自分の言葉で発信できる貴重なツールとして積極的に活用すべき、という考えだ。「このカテゴリーとしては、ドライバーの個々のキャラクターを伸ばしていきたい。そこに興味を持つファンがレースを観に来てくれるはずだから」

「SF go」はJRPがリリースするデジタルプラットフォームだが、プロスポーツ選手自らが発信するSNSも、今やファンにとって欠かせない情報共有ツールだ。ただ、近藤会長は、参戦ドライバーにおける情報発信力は「まだまだ物足りない」と感じ取っている。「自身のアピールポイントを発信する力が弱い。照れてるのか恥ずかしいのか……でもそういう時代じゃない。この(参加台数である)22席の1席1席がいかに大事であるか、ドライバーひとりひとりが、もう少し肝に命じてほしい。自身によるマネージメントが必要な時代なのに、ちょっと甘えているんじゃないか」と手厳しい。また、ドライバーに限らず、「チーム自身のプロモーションも必要」とけしかける。「ウチのチーム(KONDO RACING)もそうだけど、みんなから力を借りて一緒に取り組まないと」。”会長”と”監督”のふたつの視点から感じた気づきをすぐ行動に移す。たとえそれが小さくても、変化を生むのであれば取り組む。それが近藤会長の躍動に繋がっている。

■自ら発信し、人を惹き寄せる

近藤会長は、JRPとして取り組むプロモーションのなかで、手応えがあったもののひとつとして「Out of KidZania in SUPER FORMULA」を取り上げた。鈴鹿でも、場内アナウンスやグリッドボードスタッフ、そしてジャーナリストなど、参加した子ども達が、イベントを支える人たちの仕事を体験していた。「今のドライバーが子どもだったときもそうだったと思うが、レースを観たことでレースに憧れるようになったはず。また、ドライバーだけでなく、いろんな形でレースに関わることに憧れる子どももたくさんいると思う。レースが好きな親と一緒に子どもがサーキットに来て、『また行きたい』と言ってくれるようなイベントにしないと。だからサポートレースも”熱くして”いきたいと思っている。1日中、サーキットに居てもらいたいから」。”サーキットに足を運んでもらう”理由付けとして、”プラスアルファ”の仕掛けも模索しているようだ。

なお、第8戦土曜日には、メディア向けのサタデーミーティングも行われたが、普段のような会見ではなく、今回は座談会としてフランクな形が取られた。ときに冗談めかした話も盛り込み、さりげなく自分の思いを伝える近藤会長の姿を見た上野禎久JRP社長は、「もう尊敬しかない。近藤さんとはほぼ同期なので、モータースポーツの浮き沈みも一緒に経験している、それだけに経験値が近いのでよくわかる。加えて、エンターテインメントからチームオーナー、経営者と全部やられていて、その引き出しの多さにびっくりする。なにより声が遠くまで届く。その反響が素晴らしい」と存在感の大きさを認める。

一方、日本のトップフォーミュラが50年という節目を迎えるなか、ファンにとっても気になるのが、”海外とのつながり”ではないだろうか。かつて、全日本選手権フォーミュラ・ニッポンの時代には、シリーズの1戦をマレーシア・セパンサーキットで開催したこともあるが、近藤会長は、これからの海外戦略をどう見ているのか。「僕がJRPの会長になってから、『アジア向けに発信しよう』とずっと言い続けている。それが、JRPの内でも浸透しはじめ、レースエンジンを供給する両メーカーも、アジアの方を向いていろいろとやっていくのは”あり”だという感じになってきた。今年は、参戦しているリアム・ローソンがF1ドライバーとしてデビューしたことで世界への情報発信ができたが、JRPとしても『これからアジアのどの扉をノックしに行こうか』という考えになっている。ただ、まだ『ここをノックすれば、少し扉が開くのでは』という見分けが全然できていない。残念ながら、メディアに報告できるほどのレベルとは言えない」と断りつつ、近藤会長自らが描く青写真は、粛々と進んでいるように感じ取れた。

折しも、今シーズンのチャンピオンに輝いた宮田は、来シーズンから海外レースへのチャレンジが噂されている。会見では、「挑戦できるかはわからないが、海外に出ることによって、今まで日本のファンしかいなかったのが世界中でファンが増える。彼らは、”スーパーフォーミュラでチャンピオンを獲った宮田莉朋”(の存在)を通して、スーパーフォーミュラを観るようになると思う。それが僕にできること」と、F1デビューを果たしたリアム・ローソン(TEAM MUGEN)を押さえて王座に就いた自分が、世界へと羽ばたくことでこのレースをアピールできると語ったが、JRPにも、”国内最高峰のレース”に留まらないようなプロモーション展開が期待される。

「会長だから威厳を保とうとか、そういう気持ちは毛頭ない」と、今後もチームとJRPの間に立ち、相談される会長を目指すという近藤会長。ドライバー、チーム代表、監督、そしてJRP会長……さまざまな立場からモータースポーツに携わってきたキャリアをどう活かし、どのような風を吹かせるのか。その挑戦は、まだ始まったばかりだ。

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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