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吉田広樹選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)「抜かれたらごめん。だけど、これで行くしかない」 | SUPERGT 2023 第6戦 SUGO【SUPER GT あの瞬間】
モータースポーツコラム by 島村 元子吉田広樹選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)
レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!
久々の300kmレースとなった第6戦SUGO。チームの実力をフルに発揮すべく早めのピットイン、安定感ある速さでGT300クラスのレースをリードしていたNo.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GTは、待望のシーズン初勝利が目前だった。しかし、チェッカー寸前、クルマは突如として失速。その横を後続車が駆け抜け、2位チェッカーの吉田広樹選手は茫然自失に。ところが、局面が急転直下し、52号車の元へ優勝が転がり込むこととなった。“泣き笑い”のレース、そして心中を吉田選手に語ってもらう。
── チェッカー目前に起こったハプニング。一体、あの瞬間、何が起こっていたのですか?
吉田広樹(以下、吉田):それまで(チームと無線で)定期的な燃費のやり取りはしていたんですが、最終ラップに入って、“燃費がヤバい”みたいなやりとりは、特にしていなくて……。最終ラップは、チームと、『うしろとはしっかりマージンあるから、もう無理することなくチェッカーまで(クルマを)運んでね』っていうやり取りをしていました。ちょうど、隣のピットのapr(No.31 apr LC500h GT)さんが前を走ってたのですが、途中で(ラインを)譲ってくれたので、“ありがとう”の合図のハザードを出してました。
最終ラップでちょっと雨がパラついていたので、慎重に行こうと思って周の後半に入っていったんですけど、最終コーナーを立ち上がって、そこでシフトアップも終わり、もう、あとまっすぐ……坂道はちょっと残っているんですけど、まっすぐ行くだけっていう段階で、アクセル踏んだ時のレスポンスがなく、そのまま失速というか……。レスポンスがないので、前に進まずに惰性で動いてるっていう状況になってしまいました。すぐ思い浮かんだのは、“もしかしたら、ガス欠かも!?”とは思ったんですけど、坂を上り切るぐらいから、僕が無線のボタンを(押して)……チームとのやり取りしていたので、そのまま、“やばい、急にもう進まないっ”みたいなことを、チームに伝えて。何ができるかわからなかったので、シフトダウンして、もう一回加速できるかやってみたんですけど、シフトダウンもできなかったんで、“ガス欠かも……”と思ってマシンを(左右に)振りました。
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吉田広樹選手(No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT)「抜かれたらごめん。だけど、これで行くしかない」 | #SUPERGT 2023 第6戦 SUGO【SUPER GT あの瞬間】
── その中で、アウト側から18号車が来たのはわかりましたか?
吉田:まず、うしろにいたaprのクルマ(No.31 apr LC500h GT)に追突されないかって……。それぐらい急に減速しちゃったんです。小高(一斗)選手が乗ってたと思うんですけど、(状況を)把握してくれて、(52号車を)避けて、一時は右側後方で待ってくれてたんです。でも、僕が加速しないことに多分気づいて、抜いていきました。で、今度は(残っているはずのガソリンをポンプに吸い上げさせるために)クルマを振る時、最終コーナーから急に平らになるところがコース的にあるので、そこで18号車が来たら(減速した52号車に)気付かないでぶつかるかもしれないと(思った)。別に(走行ラインを)ブロックするわけじゃなく、しっかり(クルマを)振りたいと思ったんですが、それでぶつかったりしたらよくないと思って、ちょっとイン側に避けて振ったんですね。外側……1、2台分ぐらい(のライン)は自分なりに残してスペースを空けて、イン側で振ってたんですが、振ってるときに左側のミラーで18号車が来てるのが見えて……。(フィニッシュ)ラインまでギリギリかなと思ってたんですけど、完全にもう自分らより先に18号車が通ったっていうのは、もう目で見えていましたね。
── 何の予兆もなく突然の出来事に、“頭の中が真っ白”だったかと思います。
吉田:ほんとそうでしたね。怖かったのは、惰性でチェッカーを受けたあと、いろんなアラームみたいなものがメーターに点いてたんです。何も把握できませんでした。一番気になったのが、ピットロードに入るときに使うスピードリミッターの状態というか、そのメーターに近いものが見えた気がしたこと。それでちょっと怖くなったんです。(最終周で)最終コーナーを立ち上がり、もうシフトアップも終わってストレートだけだったんで、無線を入れた時に、“ひょっとして、僕がリミッター(スイッチ)を押したのかもしれない”っていう疑惑が……僕たちのクルマは、無線のボタンとピット(レーン)リミッター(スイッチ)のボタンがちょっと並んでるので。チームからも”ガス欠するかも”っていう情報はなかったし、ということは、“もしかしたら本当に僕のミスかも”って。チームとは、『もしかしたら俺がリミッター押しちゃったかも』と(無線で)やり取りをしながら、1コーナーの内側にクルマを止めました。
── 背筋が寒くなるような話です。
No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT
吉田:想像できないというか、もし本当にそうだとしたら、チームにも、応援してくださるスポンサーさんやファンの皆さん、誰に対しても申し訳なさすぎて。優勝できるであろうレースでしたし、そういうレースはなかなかないし。タイミングを逃して、“じゃあ、次また頑張ろう!”っていうのは……。(開催)サーキットも変わるし、天候やいろんな状況も変わるし。だんだん時間が経つにつれ、その重さが身に染みてきました。表彰台を待つ間もそのことをずっと考えてました。そのときは、まだ原因がガス欠だったというのはわからなかったので、“僕がミスった”っと自分ではほぼ思ってたんで(苦笑)、なかなか普通の精神状態ではなかったですね。
── “自分のミス”という思いが大きくなって、表彰式では、“心ここにあらず”だったのでは?
吉田:表彰式の待機エリアで、(この時点で)優勝した(18号車)小林(崇志)選手であったり、3位だった(No.20 シェイドレーシング GR86 GT)平中(克幸)さんだったり、GT500クラスのNISMOのドライバーさんだったりが、『どうしたの?』って話をしに来てくれて……。僕も含めて(チームの)みんなも、(トラブルの原因が)わかってなかったんで、『もしかしたら、僕がミスしたかもしれない』と話はしたんですけど、小林選手たちも、『本当に残念だね』って気を遣って接してくれてました。そんな状況だったので、もう表彰式(の様子)もなかなか(頭に)入ってこないし、もちろん喜べないし。優勝したチームには、『おめでとう』ぐらいちゃんと伝えないといけない状況だったと思うんですけど、それすらなかなかできなくて。それに、本来であれば(2位は)まぁいい成績なのに、でも、(何も)できないっていうか考えられない状況でした。1位の選手(の名前が)呼ばれたら、拍手もしなきゃと思って手は叩いてるものの、もちろん笑顔にもなれなくて。表彰式の写真を見て、みんなが『お通夜みたいだったよ』って写真を送ってくれてたんですけど、あとから見返すと、他のチームの選手に対して申し訳なかったなって……。それどころじゃなく、自分のことしか考えてなかったっていう感じでした。あの時はもう、“チームに対して申し訳ない、(コンビを組む川合)孝汰に対して申し訳ない”、それしかなかったですね。
── レースが赤旗があったので、長引いて16時20分に終了。そこから18時20分に暫定結果、そのおよそ1時間後に正式結果が出て、“優勝”が確定。トップ繰り上がりの話はどこで聞きましたか?
吉田:表彰式のあとは、GTAさんのYou tubeだったり、J SPORTSさんの 話(取材)とか……取材が終わったあと、チームと今回のレースに対してのミーティングを、チームのトレーラー(の中)でやっていました。そのときに、“もしかしたら、そういう結果(優勝)になるかも”っていう話になって。暫定結果(この時点で52号車が優勝扱いに)が出た時も、チームのエンジニアらとトランポにいました。正式(結果)が出るまでの間も、ミーティングで次のレースに向けての話とかをしてたんで。暫定、正式、どちらの結果も、チームエンジニア、孝汰、ブリヂストンさんと一緒にトレーラーで聞きました。
── 正式に優勝が決まり、うれしく思う一方で、いろんな気持ちが渦巻いてたのではないでしょうか?
吉田:確かにすごいうれしかったですし、チームも頑張ってたんで、良かったです。今回のレースでポイントだったのは、仮に18号車が優勝すると、シリーズ(争い)は、かなり18号車にとって有利になると思ったこと。僕ら含めた他のクルマに関しては、チャンスがすごく減るタイミングだったと思うんです。チャンピオンの可能性があるから全力でやるとかそういうわけではないんですけど、やっぱりそこは気持ち的にも変わってくる部分だと思うので、シリーズ(タイトル)がまだまだ狙えるっていう……狙えるって言ったら変ですけど、もちろん18号車が仮に優勝して、僕らが2位だとしても、残り2戦一生懸命やりますが、(チャンピオンの)チャンスが増えた喜びも大きかったです。優勝できたことの喜びに対し、すごい難しかったのは、18号車の小林選手が表彰式待ってる時に、声をかけに来てくれたことを思い出して……。僕が“リミッターボタン押しちゃったかも”って思っていたのと一緒で、彼らのチームも一生懸命やって……あの重さ(100kgのサクセスウェイトを搭載)であの順位にいるわけだから、やっぱりチーム含めて、みんな頑張っての優勝っていうか、1位でチェッカーだったと思うので。そのあとに、僕が実際に感じていた状況になったので、素直にうれしい気持ちと、彼らの立場を思うと、もうつらいのはハンパないでしょうし……。(18号車の失格の原因が)車高だったとあとでわかったんですが、ドライバーとしては、それを例えば走り方でどうにかできたんじゃないかとか、エンジニアさんだったりメカさんも、もうちょっとマージン取っとけばよかったとか……。そういう気持ちを僕らが(先に)味わっていたから、(18号車のことを)想像するとちょっとツラい。手放しに、自分たちが“優勝できてうれしい”っていうような感覚ではなかったですね。
── なぜガス欠が起こったのでしょう?
吉田:給油時間はちゃんと計っていたんです。自分たちの作戦通りの分は入れていました。なぜその時間で(ガソリンが)入り切らなかったのかは、まだはっきりとはわかっていません。例えば、車両を止める場所……ドライバー交代や給油を行なう際の停車位置を決めて、ピットに枠を貼り、そこで、(給油の)流速測……“何秒でどのくらいのガソリンが入る”っていうのを計算しているんです。実際は(止まる位置が)ズレたんですけど、(リヤタイヤ)2本交換だったので、4本(交換を)やる時よりは影響が少ないかなっていうぐらいでした。まさか燃費に影響があるとは思ってなくて。ただ、給油マンとかエンジニアの話を聞くと、例えば、停車位置がちょっとズレたことで、給油ホースのたるみだったり、不安な部分は正直あったとレース後に聞いてたんで。なので、はっきりとした要因が確定はできていないにしろ、チームで、“これが原因かも”みたいな部分をいろいろ話してます。
── わずかなことですら、ハプニングを招く可能性があるということですね。
吉田:そうですね。でも、SUPER GTは、それぐらい攻めないと多分上位に行けないし、優勝できないような高いレベルだと思うんです。仮に、原因がわかったとしても、(原因を)責めるというよりかは、“しょうがない”というか、次に繋げるられるよう、今後に活かすような方法をとるしかない……みんな、そういうマインドになっていたと思います。
── 予選Q1は、A組がウエットコンディションでした。その中で2番手通過。どんなアタックでしたか?
吉田:(アタックに向けて)ピットから出て、前のクルマとの間(を取る)が難しくて……。“タイヤ的に一番いいだろう”という時に(前のクルマに)引っかかって(アタックを)やめたんです。少し間を開けて、アタックし直したので、本来のタイヤのいいところでタイムが出せたかっていうと、そういうわけではなかったんです。スタートしてすぐ、雨が降るのかこのまま止んでいくのかがわからなかったんで、まずは、タイヤのいい時に(タイムを)出すというより、“タイムを残す”ということを考えてました。とりあえず一発プッシュして、タイムを出して。で、そのまま続けて2周、3周って行きたかったんですけど前に引っかかっちゃったんで、(タイヤコンディションが)一番いい時にやめて、もう一回(アタックを)し直したタイムが、実際のタイムになりました。ブリヂストンタイヤのパフォーマンスがやっぱり高くて、結果だけ見ると他メーカーの3番手以降に対してすごいマージンがあって。自分のアタックがベストだったかどうかは、そんなに大きなポイントではなかったと思ってます。まずはしっかりQ1を通すっていうことが、あの時の僕の役目だったので。例えば、タイムを出しに行こうと思って(タイミングを)待った結果、いきなり雨が強くなって(アタックが)出ませんでしたとか、途中で他のクルマがクラッシュして、赤旗でそのままセッション終わったとか、そういうリスクを避けてアタックした中で、あのポジションに入れたのはよかったと思います。
No.52 埼玉トヨペットGB GR Supra GT
── Q2では、川合孝汰選手がブリヂストン勢トップとなる4番手を獲得。そういう状況の中、決勝の戦略はどういうものでしたか?
吉田:意外にペースが悪くないっていうのは、フリー走行(公式練習)を走った時からわかってました。ただ、サクセスウェイト90kgを積んで、前のクルマを抜けるかは別問題だとも思ってました。SUGOのパッシングできるポイントって1コーナーあたりになると思うんですが、クルマの重さだったりエンジンの特性で、ストレートが伸びないから抜き切れない。だから、前(の位置)からスタートするのが大切だったのと、前のクルマやうしろのバトルのせいでタイムを出せないっていう状態になるのをできるだけ避けたいっていうことがあったので、(ドライバー交代可能となる)ミニマム(の周回数)で入ろうという作戦は、一応考えていました。ミニマムでピットに入ると、後半(スティント)が倍ぐらいにはなるんで、(走行距離は)長くはなるんですが、そこはブリヂストンタイヤの強みである、ロングのペースがいいとわかっていました。はじめは、それを武器にしてミニマムで入ろうと思ってたんですけど、もし雨が降るのであれば、先にタイヤ替えてしまうとちょっと(作戦として)厳しくなる。天候が怪しいなら、1周、1周(ピットインのタイミングを)引っ張って、雨が降るなら、そのタイミングでレインタイヤに(替えて)……もちろん(ピットインを)1回で済ませたいっていう思いはありました。結果、レースが進む中、晴れ間が見てたので、ミニマムでピットに入りました。
あともうひとつポイントだったのは、やっぱり(タイヤ)無交換をするかどうかっていう点です。チームはこの案も考えていたんですが、朝のフリー走行(公式練習)を走って時に、やっぱり摩耗が厳しかったのと、バランス的にリヤタイヤが厳しくなって、トラクションも落ちると感じたんです。結果的には今回が初めてのチャレンジだったんですけど、決勝ではリヤ(タイヤ)2本交換をやってみようっていうことになりました。で、公式練習の時から、わざとすごい使ったフロントタイヤと新しいリヤタイヤを履いてみました。ただ、去年までのSUGOだと、アウトラップでのウォームアップですごく苦労してるイメージがあったんです。だから、リヤの交換だけでスピンしないかっていう不安が僕の中にすごくあって……(苦笑)。リヤだけ交換して、フロント(タイヤ)が温まった状態……全然グリップしないであろう状態での練習をしました。どのくらいでピットアウトのウォームアップができるか、前後のバランスは大丈夫かっていう確認を2回……土曜日のFCY(フルコースイエロー)テストや日曜日のウォームアップ(走行)でやりましたね。
多分、上位にいるチームは、(タイヤ)2本交換なり4本交換を絶対すると思ってたんです。だから、僕らは無交換は厳しいけれど、2本交換で一旦前に出て、あとは後半きつくはなっても、“耐えれるか、抜かれるか”っていうところで勝負ができたらと。抜かれたとしても、もう僕らにはそれしか前に出る方法がなかったんです。あのときは、“後半にきつくなるからやらない”という選択肢はなかった。“抜かれたらごめんね。だけど、これで行くしかないね”っていう作戦を立てていました。
── ピットインを終えたクルマの中でトップ……いわゆる“裏の1位”に立つ一方、レースは35周目に赤旗中断となり、広げてきたギャップが事実上消失。再開後、56号車や18号車の存在は意識していましたか?
吉田:一番怖かったのは、56号車(リアライズ日産メカニックチャレンジGT-R)と18号車が、セーフティカー中に(ピットに)入った時(※1)、僕らの前に出るかもっていうことでした。『今、(56号車と18号車がピットで)作業してる』って無線でやり取りをしたんですけど、もちろんセーフティカー中なんで、僕は前のクルマを抜けないわけです。目の前に1台いたクルマがペースを上げてくれないと、その間に……(SC直前にピットインした)18号車と56号車に前に出られちゃうと思ったんで、(前方車両に)パッシングしました。伝わったかどうかわかんないですが、セーフティカー中ながら、無理のない範囲でペースを上げてもらえるように、と思って(パッシングを)やりました。ちょうど2コーナーを立ち上がって、3コーナーに入る時……3コーナーの出口には作業が終わったばかりの56号車がいて……。ほんとに1秒、2秒の差で、ギリギリ前に出られました。まずは、僕たちの目標が、 ギリギリで成り立ったっていう感じでした。そういう意味ではそこがひとつのキーポイントだったかなと思いますね。まぁ、“後半抜かれたらごめんね”、みたいな状況には違いなかったですけど(笑)。
※1:No.56 リアライズ日産メカニックチャレンジGT-Rは、赤旗の原因となったNo.100 STANLEY NSX-GTのクラッシュ発生直後、セーフティカー導入の前にピットイン。ルーティン作業を終えた。18号車も同じタイミングでピットインし、作業をしている。
── 終盤は、ブリヂストンタイヤのロングライフの強みで差を広げ、優勝を意識しながら周回していたのですか?
吉田:僕らは(タイヤ)2本交換なんで、それに対して18号車がいいところに来るかなと思ってたんです。だけど、僕らが予想外にペースも落ちず、『周りに対してもいいペースで走れてる』状態でした。18号車のこともミラーで見ながら、ちょっとずつ離して、あとは、GT500(クラス車両)との兼ね合いで、(差が)広まったり縮まったりは多少あったんですが、心に余裕が持てるようなギャップはできました。なので、無理はせず、とはいえゆっくり走れるってほどの距離感でもなかったんで、それなりにプッシュしながら走ってました。一番難しかったのは、セーフティカーから赤旗後もピットに入ってないクルマ7〜8台が……自分の前に集団で詰まっていたんです。周回遅れだったら(走行ラインを)譲って……青旗で譲ってもらえるんですけど、彼らは、ピットにまだ入っていないから同一周回なんで。チームからも『自力で抜いて』って言われて(苦笑)。“それができないから、僕らも何がなんでも前に出ようとしてたじゃん!”って思っていました。でも、そんなこと思ってもしょうがないので、一生懸命仕掛けて抜いたり……中には気付いて譲ってくださる他のチームの方もいました。後半の最後の方は青旗も出ていたので、そこからは、GT500クラス車両との変な接触とかもないように気を付けました。チームも、ストレートを通るたびに『何秒うしろにGT500車両……これとこれが行く』、『この周は来ないよ』みたいなことを毎周毎周(無線で)言ってくれたし。チームのサポートもあって、自分の走りに集中できたので、18号車に対してのマージンも作りながら走れたと思いますね。
── 今回の結果で、ランキングもクラストップに浮上。次戦オートポリスは吉田選手のホームサーキットです。今年からアンバサダーに就任されたので、いつも以上に気合も入るのでは?
吉田広樹選手と川合孝汰選手
吉田:地元から近く、アンバサダーをさせていただいてるので、最高の結果を残したいなと思っています。成績も含め、結構いい思い出が多いのですごい楽しみですし、早くレースがしたいですね。僕柄シリーズランキングトップということもありますが、ファンの皆さんにとって、SUPER GTを生で見るタイミングとしては、すごく貴重なレースになると思います。今回のレースもそうですが、現場の空気感と、テレビだったりモニターを通して見る空気感っていうのはやっぱり違うと思うので、ぜひ現場に来て欲しい。今回、僕たちがそうであったように、シリーズがかかる、本当に大きなターニングポイントのレースだと思ってますし、そうじゃなくても、一矢報いたいと思ってるチームも絶対あるので。どっちにしろ、間違いなく熱いレースになると思います。僕らに関して言うと、シリーズを戦う上で、ここでどれくらいポイントを獲れるかによって、最終戦に向けてのリスクも変わってくる。最終戦より、やっぱりオートポリスで先にリスクを負うべきだと思っています。もちろん、勝ちたいですね。今までオートポリス(でのレース)は300kmだったのが450kmになるので、クルマやタイヤメーカーの特性を生かした面白い戦いになると思ってます。作戦の幅もあるはず。僕らにとっても、武器になる部分があると思っているので、現地に来られる方はぜひ来ていただいて、今回の僕らのように苦しい思いで戦っていたような、それぐらいの覚悟とリスクを持って攻めているレースを見てもらいたいなと思います!
── 表彰台の真ん中で、笑ってトロフィーを掲げたいですね。
吉田:そうですね。今回は写真が……表彰式の写真が使えないっていうか(苦笑)、2位だから、優勝の写真がないので。去年、オートポリスでできてたみたいに今年も優勝して、表彰台にしっかり立ってる写真を……写真というか、記録を残したいです。その姿を、応援してくれてるファンの皆さんにも見てもらいたい。(サクセス)ウェイトも半分になるので、そういう部分も生かして熱いレースができたらなと思います。
── では、最後にこの企画恒例である「24時間以内のちょっとした幸せ」を教えてください!
吉田:今回、現場で、優勝に繰り上がったって聞いた時、一瞬、すごいうれしさがこみ上げたんですけど、なんかそのあと、J SPORTSさんで表彰式の映像見たり、いろんなものを見てると、なんか逆に疲れてきて(苦笑)。あの時のこと思い出すと、ほっとした安堵感はあるんですけど、もう、思い出したら疲労感の方が強くて。正直、優勝した時の喜びよりも、そっちのインパクトが強すぎますね。普通に優勝した時みたいく、ずっとうれしい気持ちが続いてるんじゃなくて……。こういう“繰り上がり”っていう形もあったんで、なんかスッキリしない感じのまんまで過ごしてました。ただ、シリーズランキングでトップになったのは、すごくうれしいことでした。今回の結果を知った知り合いが、初めは“残念だったね”、“惜しいレースだったね”みたいな連絡をすごいくれてたんですが、それが“送信取り消し”になって、“おめでとう”と上書きされてました(笑)。送ってくる人たちがほとんどだったんで、そういうのを見てると、結果として優勝という最高の形になったし、チームも頑張ってやってきたのが報われたのかなと。
あのまま2位で終わっていたら、“あの時、こうしてたら……”って誰かを責めるっていうか、その人の中でそういう思いがずっと残っていたかもしれない。次のレースで勝てれば、それも薄まってはいくでしょうけど、レース(で勝つ)っていうのは、そんな簡単じゃないし。この先ずっと勝てないことだってあり得るのがレースだと思うので、そうなった場合、思いが残ったままですしね。僕らのチーム……メカさんは、(埼玉トヨペットの)店舗から来てる人もいるんです。来年いるかどうかわからないので、そういう意味でも、チーム力でカバーして、こういう最高の結果を残せたのはすごいよかった。良かったっていうか、僕、個人的にもうれしいなと思います。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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