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モーター スポーツ コラム 2023年7月19日

HRCの速さは当然!伏兵はAstemoとオートレース宇部?〜鈴鹿8耐合同テストを終えて〜

モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ
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Team HRC

Team HRC

今年も鈴鹿サーキット(三重県)で真夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」が8月4日(金)〜8月6日(日)に開催されます。

FIM世界耐久選手権(FIM EWC)を放送・配信するJ SPORTSでは今年も「鈴鹿8耐」を生中継。その放送をさらに楽しんでいただくために、7月5日〜6日に開催された合同テストのレポートをお届けします。FIM EWCのレギュラーチームを含めたプレビューはまた直前にお届けするとして、今回は全日本ロードレース選手権など国内で闘うチームを中心にその勢力図を探っていきましょう。

カワサキワークス「Kawasaki Racing Team」が不参加を表明した今年の8耐の優勝候補はホンダワークス「Team HRC」です。そんなこと言われなくても分かるよ、と熱心な8耐ファンの方からのツッコミが入りそうですが、初心者の方も読んでいると思いますので、一応記しておきますね。もう盤石だと思います。これは誰もが認める事実で、テストでも2日間の総合結果で2分6秒077をマークして堂々の一番時計を記録。昨年の圧倒的な速さを見ても分かる通り、ワークスマシン「ホンダCBR1000RR-RSP」のポテンシャルは強烈です。

今年は鈴鹿8耐4度のウイナーの高橋巧、スーパーバイク世界選手権に参戦中のイケル・レクオーナ、チャビ・ビエルゲの3人のラインナップを発表していますが、昨年の優勝ライダーである長島哲太もテストで走行していました。全日本ロードレースには出場せず、鈴鹿サーキットでプライベートテストをしながら開発されているワークスマシン。その中心に居るのが長島哲太なのですが、4月のテストで怪我を負ってしまい、つい最近まで松葉杖で全日本の現場に来ていました。ただ、先日のテストでは好タイムをマークしていたので、レース本番での起用というのも選択肢としてはあり得るでしょう。

最終的にどんなラインナップになろうが、「Team HRC」はきっと圧倒的。それは見る側だけでなく、ライバルたちも同じ意見です。ホンダワークスに迫る1発のタイムを出しに行こうとは思ってはいません。代わってチーム側から聞こえてくるのが「鈴鹿8耐はあくまで耐久レース」という意見。これは負け惜しみという訳ではなく、「ライダー3人の平均タイム、レースペースを揃えること」に注視しながら各チームが体制を作っているということです。

2019年まではスプリント耐久と呼ばれる鈴鹿8耐に特化したワークスマシンをホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキが作っていました。これらのワークスマシンだけが持つ最大の武器は特別に最適化された電子制御システム、具体的に言うとECU(エンジンコントロールユニット)にありました。メーカーワークス以外のプライベーターにはそういったマシンが回ってくることはそうそうなく、ワークスが主役のレースになっていました。

しかし、近年は各メーカーでそれぞれのアプローチが変わってきています。スズキは2020年から24時間レース3回と鈴鹿8耐の全4レースを闘うFIM EWCのチーム「Yoshimura SERT MOTUL」にワークスマシンを供給。8時間耐久だけでなく、24時間耐久を想定した強いバイクを作るようになったのです。ヤマハも同じで「YART YAMAHA」をトップチームとして位置づけ、ワークスマシンに近い仕様のマシンを供給しています。コロナ禍を機にヤマハワークスが撤退したと思われがちですが、鈴鹿8耐だけに特化したマシンに資金投入するのではなく、グローバルな耐久選手権であるFIM EWCに各メーカーが注力しようとしていた流れがコロナ禍前からあったのです。

メーカー予算で開発されるワークスマシンが持つECUはマレリ製のものが使われており、MotoGPでもマレリ製のECUが全メーカー共通で採用されています。非常に細かい設定ができるECUで、FIM EWCでも鈴鹿8耐でも全日本でも圧倒的な強さを誇るブリヂストンタイヤとの組み合わせは最強です。

実はマレリ製ECUとブリヂストンタイヤの最強パッケージを使用するチームはメーカーのトップチームだけではありません。「#95 S-PULSE DREAM RACING・ITEC」(ジョシュ・ウォーターズ/渥美心/マーセル・シュロッター)、そして「#76 オートレース宇部 Racing Team」(津田拓也/ハフィス・シャーリン/ダン・リンフット)の2チームは「#12 Yoshimura SERT MOTUL」が使用するスズキGSX-R1000Rのワークス仕様と同等のマシンを使っています。

「#76 オートレース宇部 Racing Team」は新規参戦のチームながら、6月のテストではトップタイムを獲得。津田拓也が全日本で走らせるマシンはデータが揃ってきて、鈴鹿8耐に向けて仕上がってきている様子です。津田と組むライダーはスーパーバイク世界選手権に参戦中のハフィス・シャーリンとイギリスのスーパーストック選手権に参戦するダン・リンフットの2人。スズキで鈴鹿8耐に出た経験があることからオファーを受けたようですが、共に2分8秒台をマーク。驚いたことに彼らは普段ホンダでレースをしており、ブリヂストンタイヤを履くのも初めてだったということで、彼らのアジャストがまず凄いと思いますが、それだけ乗りやすいマシンに仕上がっているということでしょう。

この「#76 オートレース宇部 Racing Team」は新規参戦の謎多きチームですが、ワークス仕様と同等のマシンを自費購入し、組み上げ走らせているという野心的なチーム。7月のテストでは津田拓也が納得できるロングランができたと語っていましたし、ちょっと伏兵になりそう。「初出場で表彰台」というチームの意気込みは決してビッグマウスな発言じゃない気がします。

「#95 S-PULSE DREAM RACING・ITEC」は全日本へのレギュラー参戦を予定していましたが、チームの中心に居る生方秀之の怪我でスポット参戦になってしまいました。しかし、この仕様のマシンを以前から使用して「第2のヨシムラ」的な見方をされてきたチームですからデータは充分にあり、去年は表彰台目前の4位フィニッシュを果たしています。今年は昨年までMoto2を走り、今年はスーパースポーツ世界選手権でランキング上位のマーセル・シュロッターが加わりました。天候不順で充分な走りこみができなかったにも関わらず、このチームも2分8秒台でペースを揃えてきていましたから、非常に強力な布陣です。

ちょっとスズキ勢の話が長くなりましたが、ホンダに話を移しましょう。ホンダはワークスチーム「Team HRC」で鈴鹿8耐の勝利を狙うのが大きな目標ですが、国内プライベーター向けに戦闘力が非常に高いホンダCBR1000RR-Rを用意しています。販売されている製品になりますので、俗にいうキット車と呼ばれるレース仕様車です。ホンダは全日本にはワークス参戦していませんが、全日本ST1000で同車が上位を独占していることからも分かる通り、エンジンのパワー含めて元々のポテンシャルが高いのです。

以前はワークスマシンに近いバイクを限られたチームに貸与していたホンダですが、強力なベース車をユーザーであるプライベーターに提供することで、ホンダユーザー全体の底上げを図るというアプローチなのでしょう。昨年、ホンダの社内クラブチームである「Honda鈴鹿レーシングチーム」など小規模プライベーターが全日本で躍進しましたし、特に電子制御/ECUの熟成が進んだ今季は各チームがさらに実力を付けてきたと感じます。レースに特化したマレリ製ECUではありませんが、非常に扱いやすく優れているとプライベーターから評判です。

ホンダ勢のプライベーターで注目は伊藤真一監督が率いる「#17 Astemo Honda Dream SI Racing」(渡辺一馬/水野涼/作本輝介)です。同チームは今年、チームスタッフがほぼ総入れ替えになり、全日本の開幕時にはドタバタ感が否めませんでしたが、7月の8耐テストでは2分6秒638をマークして2番手タイムを獲得。3人のライダーのアベレージも揃い、チームとしてかなりまとまった印象を受けました。

実際に伊藤真一監督も電子制御関連の進み具合に手応えを感じているとのこと。このチームは日立アステモがメインスポンサーですが、同社のスタッフが現場でも電子制御などの開発を担っています。現在はサスペンションのショーワ、ブレーキのニッシンも合併して日立アステモを形成しており、以前はそれぞれ別々の会社としての供給だったものが、同じ会社になったことで、その効果が出ているのではないかと思います。そういう意味でチーム体制としてはかなり大規模と言えますし、その力が鈴鹿8耐で発揮されれば、最強レベルの伏兵になるでしょう。かなり期待です。

今年の鈴鹿8耐はメーカー同士のワークス対決の構図こそありませんが、かつて2003年に「桜井ホンダ」が優勝した例のように、国内プライベーターにとっては大いなるチャンスがある大会と言えます。そういう意味でプライベーターの鼻息が荒い今年の鈴鹿8耐は例年以上にバトルいっぱいのレースになるかもしれません。

文:辻野ヒロシ

辻野 ヒロシ

辻野 ヒロシ

1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。

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