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バトンら15人以上の元F1ドライバーが出場!100周年記念のル・マン24時間への挑戦 | FIA 世界耐久選手権(WEC) 2023 第4戦 ル・マン24時間レース(フランス) プレビュー
モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシトヨタGR010 HYBRID 8号車
「F1モナコGP」そして「インディ500」が終わり、世界三大自動車レースの残り一つ「ル・マン24時間レース」が2023年6月10日(土)〜11日(日)にフランスのル・マン市で開催されます。
今年は1923年に最初の「ル・マン24時間レース」が開催されてから100周年というアニバーサリーイヤー。総合優勝を狙う最高峰「HYPER CAR」クラスはトヨタに加えて、フェラーリ、ポルシェ、プジョー、キャデラックなど自動車メーカーの参入で出場台数が急増し、なんと16台が出場することになり、一気にハイレベルな闘いになってきました。
実はここ数年、ル・マン24時間レースにはその競争の激しさからか、かつてF1を闘った元F1ドライバーの名前がエントリーリストに増えてきているのをご存知でしょうか?。何をもって「元F1ドライバー」と定義づけるかは難しいですが、少なくとも1シーズンをF1で走ったドライバーだけで今年は15人も居ます。
元F1ドライバーが最も多く参戦するのは、やはり自動車メーカーが総合優勝を争うHYPER CARクラスです。日本の「トヨタ」からはチーム代表も兼任する小林可夢偉(元ザウバー/ケータハム)がトヨタ7号車で参戦。さらにトヨタ8号車には、現在もレッドブルF1チームのリザーブドライバーを務めるセバスチャン・ブエミ(元トロロッソ)、そしてル・マン24時間ウイナーから2018年にF1にフル参戦したブレンドン・ハートレー(元トロロッソ)という2人の元F1ドライバーが乗ります。この中で最もル・マンの経験が豊富なのがセバスチャン・ブエミで、2012年からトヨタに加わり4回の総合優勝を成し遂げています。
そのトヨタのライバルとなるのがF1界の巨人「フェラーリ」。真紅のハイパーカー、フェラーリ・499Pを投入して今年、ル・マン24時間の最高峰クラスに帰ってきました。数年前に話題になった映画『フォードvsフェラーリ』でも描かれた通り、かつてフェラーリはル・マンに全身全霊をかけて挑んでいた時代がありました。その時代から半世紀の時を経て、フェラーリがいよいよ1965年以来58年ぶりの総合優勝をかけて24時間に挑戦します。
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小林可夢偉&平川亮が語る今年のル・マン24時間
「フェラーリ」からは2021年まで3シーズンF1を闘ったイタリア人、アントニオ・ジョヴィナッツィ(元ザウバー/アルファロメオ)がエースカーとも言える51号車のドライバーとして参戦。ジョヴィナッツィは2017年からフェラーリF1のリザーブドライバーを務め、現在もフェラーリ・パワーユニットを使用するチームから代役でF1に参戦する可能性がある立場にあります。レギュラードライバーとしては今年からFIA WECにフェラーリ499Pで参戦し、前哨戦のスパ6時間では3位表彰台を獲得しました。ジョヴィナッツィは最も直近までF1に乗っていたドライバーだけにF1ファンからの注目を集めそうですね。
また、フランスの「プジョー」は93号車にポール・ディレスタ(元フォースインディア)、そしてフォーミュラEのチャンピオン経験もあるジャン・エリック・ベルニュ(元トロロッソ)を起用。
ディレスタはマクラーレン・メルセデスの育成ドライバーとして若い時から目をつけられていましたが、F1のシートに空きがなくDTM(ドイツツーリングカー選手権)への参戦を経て、2011年にメルセデスエンジンのフォースインディアからF1に参戦しました。F1で最高位4位が2回と活躍しましたが、2014年以降はシートを喪失。近年、ディスレタは昔から繋がりの深いマクラーレンのCEO、ザク・ブラウンが率いる「ユナイテッド・オートスポーツ」からル・マン24時間に参戦していました。
また、ベルニュはトロロッソで3年間、F1を闘った後、フォーミュラEと耐久レースに転向。LMP2ですでに4回ル・マンにも出場経験があります。そんな2人が乗るプジョー93号車はドライバーラインナップではかなりビッグネーム揃いと言えるでしょう。ただ、戦闘力がプジョー9X8に不足しているのが残念ですが。。。
「HYPER CAR」クラスにはこのように元F1ドライバーが急増する状況になっています。その理由はやはり自動車メーカーが鎬を削る激しい闘いが繰り広げられているからでしょう。100周年の記念の年に勝ちたいという思惑がそれぞれのメーカーにあり、即戦力として元F1ドライバーたちの速さに賭けたいと思うのは自然なことです。
しかしながら、F1のスプリントレースと耐久レースは全くの別物。誰もが通用する世界ではなく、ある程度の耐久レース経験も必要です。ただ、今のレーシングカーは24時間レースでもそう簡単には壊れないですし、「HYPER CAR」クラスは性能調整によってポテンシャルが均一化されるため、長時間に渡ってライバルとバトルをするスプリントレース的要素が濃くなってきています。そのため、今年起用される元F1ドライバーの多くはすでに耐久レースの経験、ル・マンの経験があるドライバーがほとんどです。
そして、忘れてはならないのが、2009年のF1ワールドチャンピオン、ジェンソン・バトンの参戦です。彼が乗るのは、なんとアメリカンモータースポーツのNASCARのマシン、シボレー・カマロZL1です。え?どのクラスに参戦するの?という疑問が湧きますが、ル・マン特別枠となる「Garage56」というクラスで走り、24時間レースの完走を目指します。
あの鉄の塊のようなNASCARマシンでル・マンに出場?いえいえ、NASCARは昨年からより市販車のルックスに近いデザインのカーボンファイバーのボディを纏った「Next Gen」車両に変更され、GTカーのような感じになっています。ただ、エンジンは相変わらずアメリカンマッスルカー的な5.86LのV8で、シャシーは今も鉄フレームのまま。サルトサーキットをどんなタイムで走ることになるのでしょうか。
そして、人気の元F1ドライバーとしてはLMP2クラスに今年もF1優勝経験があるロバート・クビサ(元BMWザウバー/ルノー/ウィリアムズ/アルファロメオ)が参戦。昨年はLMP2クラスの2位表彰台を獲得し、前哨戦のスパ6時間ではクラス優勝。クビサは今回のル・マンでもクラス優勝を争うTeam WRTで中継映像でもかなりクローズアップされると思います。来年はBMWもHYPER CARクラスで闘うことになっており、その母体となるのがTeam WRT。クビサは来年の総合優勝に向けて重要な役割になりそうですね。
また、ベテランではケビン・マグヌッセンの父、ヤン・マグヌッセン(元スチュワート)がLMP2クラスで24回目の出場を果たしたり、LMP2クラスにはモナコGPで奇跡の優勝を果たしたオリビエ・パニスのチームが出ていたりと、長年のF1ファンの方にも親しめる名前がル・マン24時間レースには出てきます。
今年はF1とル・マンの日程が重複しておらず、現役F1ドライバーの出場も可能なのですが、残念ながら現役選手の出場はありません。6月4日(日)の公道を封鎖してのテストデーがF1スペインGPとバッティングしているのも理由の一つでしょう。ただ、今後、F1ドライバーの需要はル・マンでは増してくるはずで、今年の元F1ドライバーたちのパフォーマンス次第ではよりクローズアップされることになるでしょう。
文:辻野ヒロシ
辻野 ヒロシ
1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。
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