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モーター スポーツ コラム 2023年6月7日

フェラーリが半世紀ぶりにル・マン総合優勝を狙う!F1とル・マンの密接な関係 | FIA 世界耐久選手権(WEC) 2023 第4戦 ル・マン24時間レース(フランス) プレビュー

モータースポーツコラム by 辻野 ヒロシ
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ル・マン24時間レース

ル・マン24時間レース

世界三大自動車レースの一つ「ル・マン24時間レース」が今年で100周年を迎えます。2023年6月10日(土)〜11日(日)にフランスのル・マン市で開催される伝統1戦に今年、再挑戦するのがイタリアの名門「フェラーリ」です。

「フェラーリといえばF1」「F1といえばフェラーリ」と言われるほど、近年はF1のイメージが強いフェラーリですが、かつてはル・マン24時間レースに果敢に挑戦した強豪メーカーでした。総合優勝は9回。これはポルシェ、アウディに次ぐ歴代3位の記録になっています。

第二次世界大戦で休止していたル・マン24時間レースが再開したのは1949年のこと(第17回大会)。創業から僅か2年目のフェラーリが製作したフェラーリ166Mはル・マン24時間初参戦でいきなり優勝を飾りました。しかしながら、敗戦国であるイタリアのフェラーリはチームとしては参戦せず、元アルファロメオのドライバーで北米に疎開していたルイジ・チネッティがチームを率いて参戦したイギリス国籍のチームによる優勝でした。

スクーデリア・フェラーリとしてのワークス参戦は1951年から。以降、フェラーリはワークスチームを率いてル・マンに挑戦を続け、1960年から1965年まで6連覇を達成します。この6年間のフェラーリのF1での活躍を見てみると、ドライバーズタイトルもコンストラクターズタイトルもそれぞれ2回だけ。フェラーリはル・マン参戦の全盛期にF1よりもむしろ耐久レースに強かったと言えますね。

フェラーリといえば12気筒エンジンのイメージを持っている人も多いかと思いますが、1965年までのF1は排気量が1.5Lと小さかった時代で6気筒または8気筒が中心でした。F1に本格的なフェラーリV12エンジンが登場するのは3L規定になった1966年からのことです。それがル・マンの活動ではすでに12気筒エンジンが搭載されており、過酷な耐久レースを通じてフェラーリはV12の技術を磨き、3LになったF1でもV12を採用していったのです。

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小林可夢偉&平川亮が語る今年のル・マン24時間

その後、1965年まで最強を誇ったフェラーリは、映画「フォードvsフェラーリ」で描かれたようにフォードGT40にル・マンで敗北を喫し、プロトタイプカー全盛の時代になっても結局勝てずじまい。1973年を最後にル・マンへの挑戦を辞めてしまうことになりました。今年はそれから50年という節目の年。100年の歴史の中の半分を休んでいた跳ね馬がHYPER CARクラスのフェラーリ499Pで復活するというわけです。

1950年代〜70年代は「F1世界選手権」がまだ今のように興行としてちゃんとオーガナイズされていなかった時代で、自動車メーカーはどちらかというとスポーツカー耐久レースに価値を見出していました。70年代になって、ほとんどのF1チームがフォード・コスワースV8を使用する中、独自の12気筒エンジンでF1に挑戦を続けていたのがフェラーリです。ル・マンを辞めて、メーカー色の薄いF1に参戦し続けたことで、フェラーリはF1のアイコン的存在になっていったとも言えます。

当時からF1は「グランプリ」のタイトルで開催される、世界最高峰のレースとして位置づけられていたことは間違いありません。80年代になって、F1がバーニー・エクレストンの手によってオーガナイズされ、世界各国でテレビ中継が楽しめるようになるとF1のバリューは上昇していきます。市販車のイメージ作りに直結するスポーツカーレースに積極的だった自動車メーカーも80年代のF1の盛り上がりに乗じて、F1への参戦を模索し始めます。

その転機は90年代の前半に訪れます。ル・マン24時間レースの華形だった「グループCカー」規定をFIA(国際自動車連盟)が変更。F1と同じ3.5・NA(自然吸気)エンジンを採用した耐久レースを発足させました。SWC(スポーツカー世界選手権)です。

「ジャガー」「メルセデス」「プジョー」「トヨタ」「マツダ」「日産」といったル・マンに挑戦していた自動車メーカーがF1と同じ3.5L・NAエンジンを開発し、新しいチャレンジを始めました。しかしながら、F1と同じ高回転のエンジンではル・マン24時間レースの勝利は難しく、自動車メーカーの関心を惹きつけ続けることは難しく、このシリーズは僅か2年という短命に終わってしまいます。

しかし、シリーズ消滅後、そこで培った3.5L・NAの技術を活かし「メルセデス」「プジョー」などがF1に参入。2000年代には結局「ジャガー」「トヨタ」もF1になだれ込んでくることになったのです。ホンダも復帰し、自動車メーカーが百花繚乱となったF1はモータースポーツ文化が根付いていない新興国でもグランプリを開催し、F1は急激なグローバル戦略でそのバリューを爆上げしていったのでした。

90年代前半の転機となったSWCの時代には後のF1を牽引する人物達がル・マン24時間レースで活躍していました。1991年に「ジャガー」が走らせた名車、ジャガーXJR-14の設計を担当したのがロス・ブラウン。同年にラリーからスポーツプロトタイプカーレースに大胆な転身を図った「プジョー」を率いたのがジャン・トッド。そして、「メルセデス」の若手育成プログラムで育てられ、3.5L・NAのメルセデスC291で腕を磨いたのがミハエル・シューマッハ。当時はそれぞれがライバル陣営にいた3人でしたが、ジャン・トッド(チーム代表)、ロス・ブラウン(テクニカルディレクター)、ミハエル・シューマッハ(ドライバー)として「フェラーリ」で融合し、90年代後半から2000年代にかけて「フェラーリ」のF1黄金時代を築き上げました。

このように、F1の発展はその前に「ル・マン24時間レース」が関係していることが実は多いのです。レギュレーション面でもF1が2014年から運動エネルギー&熱エネルギーを回生するハイブリッド「パワーユニット」規定を採用したのに対し、ル・マン24時間レースを中心とする「FIA WEC」はその2年前、2012年から最高峰LMP1クラスでハイブリッド車にメリットがあるレギュレーションを導入。F1には参戦していなかった「トヨタ」「アウディ」「ポルシェ」「日産」を呼び込むことに成功しました。

残念ながら「FIA WEC」のLMP1規定は欧州のEV化、フォルクスワーゲングループの不正問題の影響を受け、「トヨタ」だけの参戦になってしまいますが、次なる策として、GTクラスで成功していたBoP(性能調整)を最高峰クラスにも取り入れることを発表。イコールコンディションのレースを演出することで、各メーカーがそれぞれの技術、それぞれのデザイン哲学で製作したマシンで戦うことができる「HYPER CAR」クラスを作りました。

また、自動車業界最大のマーケットである米国のIMSA・ウエザーテックスポーツカー選手権のレギュレーション「LMDh」規定の車両も参加できるように調整をしたことで、各メーカーの関心はさらに上昇。北米市場の予算も使いながら、同じマシンでル・マンにも出場できる規定はメーカーにとって好都合でした。

時を同じくして、F1がトップチームとプライベーターの格差を埋める目的でバジェットキャップ(年間予算の制限)を設けるようになり、余ったメーカー予算の使い道として耐久レースに参戦するという選択肢も生まれました。「フェラーリ」のF1とル・マンへの二刀流参戦が復活できたのはこういった環境の変化も大きいと言われています。

「FIA WEC」そして「ル・マン24時間レース」で走るHYPER CAR、LMDhは性能調整されるため、かつてのハイブリッド・LMP1クラスほどの速さはありません。しかし、メーカー間のプライドをかけた過当な開発競争を避ける現在のレギュレーションは、メーカーが永続的なレース活動を続けるためには必要な要素でもありました。F1も過激な開発競争を避けるために2026年以降は熱エネルギー回生(MGU-H)を撤廃し、よりシンプルなレギュレーションで参入障壁を低くし、多くのメーカーを呼び寄せようとしています。

F1、ル・マン24時間、それぞれにバリューは上昇しています。今後、「フェラーリ」だけではなく、F1チームが独自のHYPER CARでル・マンにも挑戦したり、自動車メーカーも参戦したりして、60年代の激闘を描いた映画「フォードvsフェラーリ」のような世界がまた繰り広げられるかもしれませんね。モータースポーツが盛り上がる歴史的転換点となった1923年のル・マン24時間レースがスタートして今年で100年。次の100年に向けた新時代がいよいよ幕を開けます。

文:辻野ヒロシ

辻野 ヒロシ

辻野 ヒロシ

1976年 鈴鹿市出身。アメリカ留学後、ラジオDJとして2002年より京都、大阪、名古屋などで活動。並行して2004年から鈴鹿サーキットで場内実況のレースアナウンサーに。
以後、テレビ中継のアナウンサーやリポーターとしても活動し、現在は鈴鹿サーキットの7割以上のレースイベントで実況、MCを行う。ジャーナリストとしてもWEB媒体を中心に執筆。海外のF1グランプリやマカオF3など海外取材も行っている。

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