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広報大使に任命された日向坂46の富田鈴花さん
2023シーズンは、開幕戦から例年以上に注目を集めている全日本スーパーフォーミュラ選手権。シリーズを主催する日本レースプロモーションが一昨年の秋に立ち上げた新プロジェクト『SF NEXT50』が軌道に乗りはじめ、今年から新デジタルプラットフォームである『SFgo』も本格稼働している。
これにより、公式映像にリアルタイムでチームラジオを流すことができ、白熱したレースに“ドライバーやチームの声”が加わることで、より臨場感あるものとなった。
さらに、今季は日向坂46の富田鈴花さんをスーパーフォーミュラ広報大使に起用し、モータースポーツを初めて観るような人を対象とした、情報発信の番組等も展開している。実際に富田さん自身も、スーパーフォーミュラの魅力にどっぷりとハマっており、「鈴花ノート」と呼ばれる選手名鑑を自主的に作成しているほど。彼女をきっかけに、サーキットへ足を運ぶ人も増えている。
こういった新しい試みをきっかけに、昨年から今年にかけて、スーパーフォーミュラに興味を持ち始めているという方も、SNS等を見ていると少なからず感じられる。
しかし、モータースポーツというのは、レースを観るうえで覚えておかなければいけない知識も多く、なかにはレース展開についていくことができず、レース観戦から離れていってしまう人も少なくはない。
特にスーパーフォーミュラというカテゴリーはドライバー、チームの争いが非常に緻密かつハイレベルであるがゆえ、その魅力が簡単に伝わりづらい部分もあるのだが……予選や決勝の基本的なルールや、それに対する見どころをいくつか押さえておくだけでも、十分に楽しむことができるレースだ。
そこで、今回は“あえて”レース観戦初心者の目線に立って、スーパーフォーミュラを観る上でおさえておきたい基本的なルールや見どころについて紹介していこうと思う。
※今回の記事は、モータースポーツを何年も観てきた方にとっては“当たり前”の内容になっておりますので、ご了承ください。
■スーパーフォーミュラとは?
スーパーフォーミュラ第3戦
まず「フォーミュラカー」とは、レース専用で設計、製造された車両のことで、運転席やタイヤがボディカウルに覆われていないのが特徴だ。代表的なものでいくとF1(Formula One)が有名だが、このスーパーフォーミュラはF1に次ぐ性能を持ったフォーミュラーカーレースと言われ、現在では日本最高峰のシリーズとして知られている。
両カテゴリーの違いで行くと、F1は世界選手権として世界各国を転戦して年間王者“ワールドチャンピオン”を決めるのに対し、スーパーフォーミュラは日本の舞台を中心に転戦するため全日本選手権という扱いになる。そのため、シリーズチャンピオンに輝くと“日本最速ドライバー”と称されることが多い。
また、F1は各チームでオリジナルの車体を用意することが原則ルールとなっているのが最大の特徴。ドライバーの力量よりも車体の性能が勝敗に影響することは、F1の世界において、よくあることだ。
それに対して、スーパーフォーミュラの車体はイタリア・ダラーラ社製の『SF23』で統一されており、ヨコハマタイヤが全車にワンメイク供給している。エンジンはホンダとトヨタで2社供給制となっているが、車体の差で勝敗がつくことは少なく、純粋にドライバーの力、チームの力が重要視されるレースなのだ。
■多くの海外ドライバーも参戦し、世界への切符を掴む
開幕戦でデビューウィンの快挙成し遂げたリアム・ローソン
そんなスーパーフォーミュラだが、前身のフォーミュラ・ニッポンや全日本F3000選手権の時代から、多くの海外ドライバーが日本にやってきて、自身の腕を磨く場所にもなっている。
あくまで一例ではあるが……過去には、こんなドライバーも参戦していた。
・ピエール・ガスリー
(2017SFランキング2位&ルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得、現在F1アルピーヌで活躍)
・ストフェル・バンドーン
(2016SFランキング4位、2017~2018F1参戦、2022フォーミュラE王者、野尻智紀の元チームメイト)
・ニック・キャシディ
(2019SFチャンピオン、現在はフォーミュラEで活躍)
・アレックス・パロウ
(2019SFランキング3位&ルーキー・オブ・ザ・イヤー、2021米インディカーシリーズチャンピオン)
・パトリシオ・オワード
(2019SFに3レース参戦し、米インディカーシリーズへ転向)
・フェリックス・ローゼンクヴィスト
(2017SFランキング3位、米インディカーシリーズ参戦)
このほかにも、アンドレ・ロッテラー、ロイック・デュバル、ブノワ・トレルイエといったル・マン24時間ウィナーたちも、日本で結果を残し、世界の舞台に進出していった。1990年代に遡ると、エディ・アーバインやハインツ-ハラルド・フィレンツェン、ラルフ・シューマッハなど、のちにF1で活躍したドライバーも参戦していた。
この他にも、挙げればキリがないほどのドライバーが日本で実力をつけ、世界選手権の舞台の切符を掴み取った。そのきっかけを作っているのが、スーパーフォーミュラというレース。視点を変えてみれば、世界から注目され、認められているレースカテゴリーなのだ。
そして、今年も“将来のF1レギュラー候補”と言われているドライバーがやってくる。レッドブルジュニアドライバーで、オラクル・レッドブル・レーシングのリザーブドライバーも務めるリアム・ローソンだ。
2021年にはドイツツーリングカー選手権でランキング2位、2022年はFIA F2でランキング3位を獲得したニュージーランド出身の21歳。同郷の先輩ニック・キャシディの影響で、数年前からスーパーフォーミュラのレースをチェックするようになり、今季はTEAM MUGENからレギュラー参戦を果たしている。早速、4月に行われた第1戦富士で鮮烈なデビューウィンを飾り、早くもチャンピオン候補の一角として、ライバルたちも警戒している。
このほかにも、国内外で実績を積んだトップドライバーたちが集結しているシリーズだけに、優勝はもちろん、表彰台(上位3台)圏内に入るまでの戦いは、非常に熾烈なものとなっている。
■これだけは押さえておきたい!スーパーフォーミュラの予選・決勝の流れ
決勝グリッド
ここからは、レースでのルールについて説明していこうと思う。細かいことを挙げていけば切りがなく、「ややこしい……」と身構えてしまいそうなモータースポーツのルールだが、ここではスーパーフォーミュラを楽しむための“最低限の部分”のみをピックアップしてご紹介していく。
まずは公式予選だ。通常『予選』と聞くと、サッカーW杯のように、本戦ラウンドへ行くための通過点や一次ラウンド(=予選落ちというものも存在する)というイメージをお持ちの方も多いのだろう。
これに対して、スーパーフォーミュラをはじめモータースポーツ競技でも“予選落ち”という概念はあるのだが、どちらかといえば、決勝レース(本戦)のスタート位置を決めるためのセッションという意味合いが強い。
現在はF1と同様にノックアウト方式(勝ち抜き方式)のフォーマットで行われているが、スーパーフォーミュラではQ1(1次予選)とQ2(2次予選)の2段階方式が採用されている。
全車が出走するQ1は、コース上の混雑緩和のために、全体を2グループ(2023年は各組11台)に分けて実施。決められた時間(各組10分)内にそれぞれがコース1周のタイムを計測し、ベストタイム順で順位が決定。Q1では各組の上位6台が、次のQ2に進出ができる。
7番手以下になってしまったドライバーが“ノックアウト”となり、そこで順位が決定。Q1のトップタイムが速かった組が13番手以降の奇数順位に入り、もう一方が偶数順位となる。
各組から勝ち上がった合計12台で、今度は上位グリッドを決めるQ2が7分間で行われる。Q1で記録したタイムはリセットされ、再度タイムを記録しなければならない。ここでの順位で決勝の1~12番グリッドは決定し、トップタイムを記録したドライバーが“ポールポジション(1番グリッド)”を手にするのだ。
なお、スーパーフォーミュラではF1とは違って“予選での速さ”も重要視され、ポールポジション=3ポイント、2番手=2ポイント、3番手=1ポイントと、選手権ポイントが与えられるようになっている。そのため、シリーズチャンピオンを争う上でも、この公式予選は重要なセッションとなっているのだ。
■決勝レースは、複雑そうに見えて“実はシンプル”
タイヤ交換が勝敗を左右する重要なポイントとなる
続いては決勝レース。予選順位を元にグリッド順に各車が整列し、5つ点灯した赤シグナルが全て消えるとスタートとなる。そこから規定周回数を最初に走り切った人が優勝と、一見すると複雑そうに見えるレース内容だが、実際のところは意外とシンプルなのだ。
ただし、決勝レースを走り切る上で、消化しなければいけない条件がひとつある。それが“タイヤ交換義務”だ。
<タイヤ交換義務>
決勝レースでは最低1度はピットインして、4輪のタイヤを交換しなければならない。
さらに義務を消化するタイミングも決まっており、先頭車両が10周目の第一セーフティカーライン(ピット入口)を通過したところから可能となり、先頭車両が最終周回に入るまでに完了していなければならない。
※ちなみに雨が降って『WET宣言』が出された時は、タイヤ交換義務は発生しない。
近年のスーパーフォーミュラでは、このタイヤ交換をどのタイミングで行うかが勝敗を左右する重要な鍵となっている。レース中は、チームやドライバーによって戦略が分かれてしまうことが多く、目の前で起きているトップ争いとは別に、コースの異なる場所を走りながら、全車のピット義務が終わったあとに出くわすであろう“目の前にいないライバル”とのバトルも、見どころのひとつとなる。
こうして、規定周回を走り切った上位10台に対して、選手権ポイント(1位:20ポイント、2位:15ポイント、3位:11ポイント、4位:8ポイント、5位:6ポイント、6位:5ポイント、7位:4ポイント、8位:3ポイント、9位:2ポイント、10位:1ポイント)が与えられる。予選ポイントも合わせ、全9戦で獲得した総合ポイントの一番多いドライバーが、シリーズチャンピオンを獲得するのだ。
もちろん、この他にも『セーフティカー』や『オーバーテイクシステム』など、決勝レースの展開を追いかける上で、押さえておかなければいけない要素はたくさんあるのだが、一度に色々な情報を入れ込んでしまうと、それこそ逆に混乱のもと。そのため、特に押さえておきたい項目だけを最低限ピックアップしてみた。
■最後に……
記事の冒頭でも触れた通り、このコラムページをいつもご覧いただいている方、モータースポーツ歴が長い人たちにとっては、『当たり前』と思うような内容ばかりをご紹介した。
確かにそうかもしれないが……我々にとって“当たり前”のことが、新しくスーパーフォーミュラに興味を持った人からすれば“初めてのことばかりで、当たり前ではない”のだ。
正直なところ、そういった興味を持ち始めた“初心者ファン”の目線になった記事やコンテンツというのは、今の日本のモータースポーツ界には、あまり存在していないのが現状。さらに言うなら「レースに詳しい人、レースをより知っている人が偉い」という風潮も、残念なことではあるが、少なからず存在するような気がする。
もしかすると、それが新たなファン層獲得への障壁になっている部分もあるのかもしれない。
SF NEXT50プロジェクトが始まって、露出度も格段に上がっているスーパーフォーミュラ。それと同時に、初めてモータースポーツというものに触れ、レースを見始めている人も、たくさんいるだろう。そういった方たちが、いざレースを見た時に頭の中がクエスチョンマークだらけにならないよう……そんな想いから、この記事を執筆させていただいた。
1人でも多くの人が楽しんで観戦してもらえるように……この記事が少しでもお役に立てればと思う。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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