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松田次生選手(No.23 MOTUL AUTECH Z)「いろいろやってきた努力が運として報われた」 | 2023 SUPER GT 第1戦 岡山
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子23号車 MOTUL AUTECH Z 松田次生(右)/ロニー・クインタレッリ(左)
レースウィークの出来事をドライバーに振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2023年シーズンも引き続き、どんなドラマがあったのか、その心境などをコラムにしてお届けします!
予選日の朝から雨模様となった岡山大会。急変する天候が多くのチームの戦略に影響を与えたのは言うまでもない。それは百戦錬磨のベテランコンビとて同じこと。GT500クラスでは、No.23 MOTUL AUTECH Zが、予選でいつもと異なるアプローチを見せることになった。果たしてこの選択が待望の優勝を引き寄せたのか、或いは別に勝因があったのか ……。その舞台裏を松田次生選手に振り返ってもらう。
──23年シーズン初戦で23号車が優勝しました。松田選手にとっても2021年第3戦鈴鹿以来の勝利となりましたが、今回は特別な一勝だったのではないですか?
松田次生(以下、松田):去年(参戦するベース車両が)Nissan Z GT500になり、勝てそうなレースもあったのですが、GT-Rの最後の年(2021年)に23号車で23勝して、ちょっと気が抜けたというか、安心したというか……。それで、Zの年になった去年は、ちょっと入れ込みすきた部分もあって、頑張ってるのに空回りばっかりで。走りもレースもそういうのが多くて、結局、新型Zで一度も勝てなかったんです。今シーズンは、やっと開幕戦で僕自身、新型Zでの優勝が24勝目としてできました。しかも(20)23年の年に勝てたのがすごくうれしいのと、ホッとしたのと両方ですね。
──昨年、日産勢はNissan Z GT500を投入。優勝するチームがいたなか、未勝利は辛かったと思います。
松田:去年、勝てそうなレースで勝てませんでした。(第6戦)SUGOは勝ってもおかしくないような状況でしたが、作戦がうまくいかなかったりだとか、運がないとかいろいろありました。その分、開幕戦は去年の悪かったものを変えられたのかなと思います。いろいろやってきた努力が運として報われたのかなという感じがします。
──予選では、「松田選手がQ1担当」というのが今や周知の事実。しかしながら今回は、相棒のロニー・クインタレッリ選手が担当しました。その理由を教えてください。
松田:土曜日の朝、(公式練習の)走りはじめはそんなに雨も降ってなかったんですが、走るたびに雨が強くなってきて。交代したかったのですが、結局大雨になって赤旗となり、結局フリー走行(公式練習)はまったく1周もできないという状況になってしまいました。Q1 に関して言うと、もうここ数年ものすごく激戦なんですよ。正直、Q2よりもQ1の方が大変という感じなんです。今回(公式練習で)ロニー(クインタレッリ)選手が先にウェット(コンディション)で走り込んでいたので、Q1も行ってもらおうとチームが判断し、Q2を僕が担当しました。
──予選は、通常10分のセッションは、天候状況を鑑みて15分に延びました。この“5分延長”は、有効でしたか?
松田:タイヤのウォームアップもそうですが、僕はフリー走行で走れてなかったんで、Q2の序盤ではとにかくクルマに慣れるというか、タイヤと路面がちゃんとマッチしてるか確認し、あとはタイヤの温めに集中できました。もし時間が短いと、タイヤの温めも結構急いでやらなきゃいけないので、5分延びたのは助けになりました。味方してくれたという感じでしたね。
──予選では不安定なコンディションにも関わらず、 ひとりだけ(2番手に1.175秒差をつける)異次元の速さで走っていたように映りました。自身はどのような手応えだったんでしょうか。
松田:(Q1担当の)ロニー選手からタイヤの温め方とかクルマの状況を聞いていました。とにかくタイム出すために、まずウォームアップでクルマのフィーリングを見て、うまくタイヤを温めて、少しずつペースを上げていくことができたので、結果、いい形で“ビッグタイム”に繋がったのかなという感じですね。正直、チームメイトというか3号車(Niterra MOTUL Z)の高星(明誠)選手も速いので、ミシュラン(タイヤを装着する者)同士の戦いになって、そこにBS(ブリヂストン)勢とダンロップ勢、またヨコハマ勢も含めてどう絡んでくるか、ものすごく不安ではあったんですが、しっかり走りに集中できたのが僕にとっては大きかった。まあ“ゾーンに入れた”っていうこともあって……僕も1分27秒(1分27秒860)も出ると思わなかったのでびっくりしました。幸い、雨が降ってこなかったのは、僕たちにとってタイヤにもいい方向に行ってくれたので、そこも走っていて安心というか、走りに集中できた部分かもしれないですね。
──結果、2010年の第4戦のマレーシア・セパンサーキット以来のポールポジションを獲得。ただ、自身2度目だったとは驚きでした。自分でも把握していましたか?
松田:たしか2010年、そのときもロニー選手とチームメイト(※1)でした。1回はポールを獲ったという記憶はあったんですが、マレーシアだったんだなと思って……。そこまでの記憶はなかったですね。先にも言いましたが、Q1がここ数年、ほんともうすごく激戦なんで(苦笑)。そういった意味では、“Q1賞”みたいなものもあるといいんですけど(笑)。
※1:No.12 カルソニック IMPUL GT-Rでともに参戦。
松田次生選手
──スタート前はドライコンディションでしたが、雲行きは心配だったと思います。どのように先の天候を読んでいましたか?
松田:正直、レーススタート前は全然晴れていたので、雨が降らないのかなって思ってました。ただ、チームと提携しているウェザーニュースさんが、「ちょっと天気が悪くなる」と予報をずっと出していたので、(雨が)降る時間帯は、僕たちと変わる(ドライバー交代)ときぐらいで、一番雨が強くなると……。だから、ドライ(コンディション)から雨が降るときまで(ピットインを)引っ張って、交代すればいいかなって思っていた部分もありました。そしたらロニー選手が数周走ってるときにいきなり豪雨になって。僕自身も雨雲レーダーを見てましたが、「結構土砂降りになるな」と。その判断でウェザーニュースさん(としての見解)も「これは絶対に降る」というのがあったので、ロニー選手とチームの判断はすごく良かったと思います。
──雨が降りはじめたため、クインタレッリ選手は15周終わりでピットイン、ウェットタイヤに交換しました。一方、2位を走る3号車はステイアウト。のち19周目にピットインし、このとき給油も行ないました。この様子をどう見ていましたか?
松田:実は、僕らも給油してたんです。ただ周回数が短いので、満タンにする状況ではなかったので、3号車より短めの給油はしていました。
──ピットインしたために順位が変動しましたが、41周目に36号車を逆転してトップに返り咲きました。路面もどんどん乾くなか、ルーティンのピットインでは逆に3号車が先に動きましたが、この辺りから一番注意すべき相手として、ターゲットは3号車に絞っていましたか?
松田:そうですね。ロニー選手が36号車(au TOM’S GR Supra)を抜きましたが、その差をあまり広げられなかったので、僕たちの一番敵というか、後半(の戦いで)、考えなきゃいけない相手は36号車と3号車だったのかなと思います。
──そのあと、FCY導入直前の46周目のピットインは、チームとしてほぼ予定どおり、戦略どおりでしたか? また、松田選手はスリックタイヤでコースインしましたが、自身のスティントはどういう展開になるのか、想定はできていましたか?
松田:ちょうどウェット(コンディション)からドライへの、ちょうど切り替わりのところで……。ドライ(タイヤ装着車)がちょっとずつタイムが出始めたときでした。あとは、36号車が(ピットに)入った翌周に入ろうっていうのも、 僕たちの作戦にはあったんです。それが結果的にいい形で、あの周回にドライバー交代とタイヤ交換をしようという状況になりました。(装着したタイヤは)ちょっと柔らかめだったので、ウォームアップのことも考えなきゃいけないし、路面もまだ完全にドライだったわけじゃなかったんです。タイヤも新品で皮むきができていなかったし、36号車が結構迫ってきてました。36号車に対してはアウトラップでとにかく押さえなきゃいけないっていう……これが最初のミッションだったのですが、そこはタイヤのウォームアップもよくて、うまく押さえることができました。うまくいったかなと思います。
──その矢先、今度はヘアピンでコースアウトによるFCY導入が解除された矢先、アトウッドカーブで2台の車両によるアクシデントが発生し、セーフティカーランに。松田選手はSCラン寸前のタイミングでピットインしてタイヤをウェットに交換しました。これがレースとして大きなターニングポイントになったと思います。あの瞬間、どんな状況でしたか?
松田:雨は降ってきましたが、まだドライで全然走れたんです。僕は、「雨が降ってきたけど、この先も降り続くか(雨雲)レーダーで見て」ってチームに(無線で)問いかけて。 雨雲レーダーを見たチームは、「多分雨が降り続くし、スリックだと走れなくなるというタイミング」だと(返答した)。たまたまそこでセーフティカーがまた入りそうだったんですよね。で、僕がちょうどダブルヘアピン立ち上がったときに、 「今、SCが出るかもしれないから(タイヤを)替えるなら今がチャンスだよ」と言われて。まだ、クルマのモニターには何もついてなかったので、第1セーフティカーラインを超えられれば(ピットインしても)大丈夫だと思いました。結果、第1セーフティカーラインを超えてちょっとしてから、(SCランを示す)モニターがついたので、「これはすごくいいタイミングだった」と思ったんですけど、もしこのまま雨が降らなかったら、この賭けは失敗するなっていうことも同時に考えていたんですよね。本当に紙一重というか、その先、雨が降ってくれたので、賭けに出て良かったなと思いました。
──チームにウェザーニュースさんが提供するデータがあったからこそ、それを基にして勝負に出たわけですね。一方、ライバル達はSCから赤旗中断となり、レース再開後にタイヤ交換する必要がありました。この様子を松田選手はどう受け止めていましたか?
松田:雨がだんだん強くなってきてたんで、このまま赤旗で終わったら、「僕が(ピットに)入った意味がない」と、すごく不安だったんです。だから「再開しないとまずい」と思ったし、赤旗(中断)時に“タイヤ交換してもOK”とかになったら、それもまずいなと。レギュレーションとしてダメだったので、スリックのクルマは(リスタート後)ちょっと濡れた状況の中で走ってたんですが、その赤旗で終わらなくてよかったなっていうのが正直なところです。
ただ、その後もどんどん雨がすごく強くなってきたので、ちょっと危ないなという気持ちもありました。雨だけならまだしも気温がかなり下がってきたので、僕たちが持ってきたタイヤに対して、雨の量はギリギリ行けたかもしれないですが、冷え過ぎている感じだったので。これで再開すると危ないなと思っていただけに、主催者側があそこで決断(62周走行中に赤旗提示し、レース終了)したのは、すごくいいことだったと思います。(土曜朝)雨でフリー走行で39号車(DENSO KOBELCO SARD GR Supra)がモスエスで大きいクラッシュしていたこともあったので、もし再スタートして、また混乱が起きて大きい事故になってしまったら、結構危険なので。そういうのも考慮して、62周目までセーフティカーをしっかりと走らしてくれたことによってレースが成立することができたし、結果としてフルポイントをもらえたこともすごく良かったと思います。
──62周目、3度目となる赤旗中断をもって、レースは終了。どんな気持ちでしたか?
松田:結構危ないなかでセーフティカーランをしたんですけど、(フルポイントが与えられる)レース成立まで持っていってくれたので、すごくよかったと思います。(SCラン中は)レースの(最大延長)時間が4時30分と決まっていたので、時計を見たときに再スタートはまず難しいと思っていました。セーフティカーランでレースは終わるだろうと予測もしていたし、チームも「4時半に終わるから、多分このままだと思います」と言ってたので、ホッとしました。レースって、流れがすごく大事だと改めて感じました。例えば、僕が予選でポール(ポジション)を獲れずに例えば2位からスタートしていたら、3号車が先に(ピットに)入って、僕たちは(あのタイミングで)ピットに入れずウェットタイヤを履けなかった可能性もあったわけです。それを考えると、ポールポジションがいい形で優勝に導いてくれたのかなと思います。結果的にレースのいい流れを最後まで持続できました。
23号車 MOTUL AUTECH Z
──23勝目を挙げてから次の1勝まで、長い道のりのなかにはいろんなドラマがありましたね。
松田:僕が(GT参戦を)始めたのが2000年。1年間勝てなかったときもあるんですが、今回24勝目を挙げたので、計算上は(年に)1回ずつ優勝していることになります。この24勝から、25勝、26勝と早く実現していきたいですね。もちろん優勝回数を増やしていくと同時に、シリーズタイトルも獲りたい。ロニー選手も自身5度目のタイトルがかかってますからね。レース後の記者会見で、「23勝から24勝まで行くまで結構ハードル高かった」と言ったんですが、ロニー選手は「4回目から5回目のタイトル獲得までに、僕もすごいハードルだ」みたいなことを言ってたので、そのハードルを一緒に超えたい。23年のシーズンに23号車がチャンピオンを獲るという思いは、チーム、ロニー選手含めてみんな同じなので、この開幕戦のいい流れをしっかりと最終戦まで持続していきたいですね。
──第2戦富士に向けての意気込みを聞かせてください。
松田:SUPER GTは、一度勝ってからのサクセスウェイトっが結構響くんですよね。優勝は容易ではないと思いますが、ただ450kmという長いレースですし、たしか、2016年は開幕戦と2戦目で2連勝(※2)したんで。あの時はすごくいい流れで2連勝できたんです。今のSUPER GTはそう簡単に2連勝させてくれないでしょうが、展開がうまくいけば優勝も目指していきたい。42kg(のサクセスウェイト)を搭載していても、チャンピオンシップを考えて、しっかりとポイントを獲りたいと思います。
※2:松田は2014年にNISMOへ移籍、再びクインタレッリ選手とコンビを組んでNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rをドライブ。この年と2015年で二連覇を達成した。さらに、2016年には第1戦岡山、第2戦富士で二連勝を果たしている。
──では最後、この企画恒例の「24時間以内のちょっとした幸せ」を教えてください!
松田:僕自身、最近トレーニングでロックシフターという(エンジン搭載の)ミッションカートに乗ってるんですけど、たまたまGT開幕前の練習で、フレームにクラックが入ってしまって(苦笑)。直そうかな、どうしようかなと思ってたんですけど、優勝して、フレームメーカーからサポートもしてもらえそうなので、新しいカートでトレーニングに挑めるのが、ちょっとした幸せなことですね。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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