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野尻智紀、リアム・ローソンという強力体制を敷くTEAM MUGEN
4月8・9日に開幕を迎える2023全日本スーパーフォーミュラ選手権。それに先立ち、3月6日・7日に鈴鹿サーキットで公式テストが行われたが、非常に面白いシーズンを予感させるテスト内容となった。
今シーズンから、参戦車両はSF19をベースに空力周りを中心にアップデートが加えられたSF23に変更となる。昨シーズンを通して開発テストを行いデータ収集し、より接近戦のバトルを実現するために、ダウンフォース量が調整されたものが、SF23に反映されている。
また、カーボンニュートラル化への第一歩として、リアカウルには麻などを使ったバイオコンポジット素材のパーツを採用しているほか、ヨコハマタイヤが新たに開発したサステナブル素材を約30%含んだタイヤを今季は使用することになる。
近年は各ドライバー、チームのレベルも格段に上がり、0.001秒のタイム更新を目指して小さな針の穴に糸を通すような、緻密なマシンの調整が毎回行われてきた。それだけに、今回のSF19からSF23に変わるというのは、現場では“大きな変化”として捉えられている。
しかも、例年なら開幕前に鈴鹿と富士で2回(計4日)行われる公式テストが、今年は鈴鹿の1回のみ。直前に行われたモータースポーツファン感謝デーでシェイクダウンとフリー走行のセッションが設けられたが、実質的に2日間のテストでマシンを理解しなければいけないという状況だった。
幸いにも、鈴鹿テストは両日とも晴天に恵まれ、2日間4セッションともドライコンディションに。各チームがそれぞれテストメニューをこなしていた。それでも、逆バンクやターン7(旧ダンロップコーナー)など、スーパーフォーミュラでは普段コースオフが少ない場所で飛び出し、クラッシュを喫する車両もあった。現場での声を聞くと、SF19とは異なる感触があり、全体的にオーバーステア傾向になっているようだ。
加えて、タイヤに関しても、以前と比べてグリップ感が変わっているとのことで、それらを組み合わせた新パッケージを理解し、速さと安定感を見出していくには時間が足りないというのが、各陣営の本音だろう。
結局、2日間を終えて総合トップはチャンピオンの野尻智紀(TEAM MUGEN)の1分35秒955を記録したものの「この時だけで、たまたま良かった。全体的にグリップ感がなくて、開幕戦の富士に関しても『セクター3をどうしようか……』という感じです」と、昨年までとは打って変わって苦戦気味。鈴鹿テストでは、珍しくコースオフを喫する場面もあった。
2022年のランキング3位だった平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も「想定していたより、あまり分からなかったというのが大きな印象。時間が限られているのはみんな一緒で、その中で僕たちはテストの優先事項を決めてやりましたけど、なかなか想定していたところに行かなかったです」と、新パッケージを掴みきれていない様子だった。
#20 平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)
その一方で、SF23に関してポジティブな印象を持っていたのが今季からスーパーフォーミュラに参戦するルーキードライバーたちだ。今季は海外のドライバーたちも複数参戦するのだが、彼らはSF19の経験がない分、SF23のマシンに対して、特に違和感は感じていない様子。
特にレッドブルジュニアチームで将来F1へのステップアップを目指しているリアム・ローソン(TEAM MUGEN)は「F2に出ていた経験もあるけど、その時のピレリタイヤと比べれば、すごくグリップする。マシンもSF19と比べて、そんなに大きく変わったという感じはしない」とのこと。常にトップからコンマ数秒の差につけるなど、コンスタントな走りを見せていたのが印象的だった。
鈴鹿テストだけで2023シーズンの展望を語るのは難しく、それこそ誰がチャンピオン争いの主導権を握っていくのかは、それこそ開幕してみないと分からないのだが……2日間のテストで、比較的調子が良さそうだったチーム、ドライバーがいたもの事実だ。
なかでも好調だったように見えたのが、スーパーフォーミュラで3度チャンピオン獲得経験を持つ山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)だ。4セッションのうち3セッションでトップ3に入るタイムを記録。最終セッションは最下位で終わったのだが、ここでは時間いっぱいを使って決勝を見据えたロングランのテストを淡々と行っていた。そのアベレージタイムを見ても、ライバルより頭ひとつ抜けていそうな印象。以前からオーバーステア傾向のマシンを好む傾向があった山本にとっては、もしかするとSF23とは相性が良いのかもしれない。
#64 山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
同じく、上位につけていたのがKids com Team KCMGだ。昨年は大苦戦を強いられたチームなのだが、今年こそ好結果を残すべく田中哲也氏がレースマネージャーとしてチームに加入し、主に小林可夢偉が乗る7号車を担当しレース戦略の決め込みを行う。これで、松田次生監督はレース中に国本雄資の18号車に集中することができる。それぞれの役職はあるのだが、レース中の指揮系統を分けることで、2台のレベルアップを図る。
さらにメカニックの体制も強化され、鈴鹿テストではトラブルなく2日間を走行。2日目のセッション4では小林がトップタイムを記録した他、国本も上位に食い込むなど、存在感ある走りをみせていた。もちろん、タイムだけで全てを判断することはできないが、他チームより少し理解が進んでいっているのではないかという印象だった。
#7 小林可夢偉(Kids com Team KCMG)
とはいえ……繰り返しにはなるが、各チーム・ドライバーとも新パッケージのSF23と新しいヨコハマタイヤを速く走らせる“答え”を見つけられていない。少なくとも、SF19だった昨年までの勢力図は完全にリセットされていると見て良いかもしれない。
それだけに4月8日・9日に富士スピードウェイで行われる開幕大会は、今まで以上に予想がつかず、最後まで目が離せない展開になるだろう。
1973年の全日本F2000選手権スタートから数えて、今年で50周年という節目の年を迎える国内トップフォーミュラ。この2023年は、間違いなく“見応えのある1年”になることは間違いない。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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