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モーター スポーツ コラム 2022年11月25日

藤波清斗選手(No.56 リアライズ 日産メカニックチャレンジ GT-R)「レースは最後まで何が起こるかわからないと改めて感じた」 | SUPER GT第8戦

SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子
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藤波清斗選手(右)とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手(左)

藤波清斗選手(右)とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手(左)

レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。レースでの秘話、ドライバーのホンネを“深掘り”し、映像とコラムでお届けします!

シーズン中、つねにポイントランキングトップの座を死守してきたNo.56 リアライズ 日産メカニックチャレンジ GT-R。2番手のNo.61 SUBARU BRZ R&D SPORTとは、わずか2.5ポイント差で最終戦を迎えることになった。一方、その予選は荒れ模様となり、決勝でも波乱が続き、目まぐるしいポジション争いを展開。最後の最後までタイトルの行方が見えない中、“耐える”レースで、悲願のタイトル奪還を果たした藤波清斗に、ハラハラドキドキのレースを振り返ってもらった。

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──2年越しのタイトル奪還を果たしました。一方、レース後半はジェットコースターに乗っているような気分で見守っていたように思います。少し時間が経った今、どのような気持ちか教えてください。

藤波清斗:その日は結構実感できなくて、何が起こったんだろうって感じだったんですが、次の日だったり、SNSだったり連絡をたくさんいただいて。それですごく(チャンピオンを)実感できて。レースでは天国も地獄も見ましたが、チャンピオン獲得2回目ができて良かったなって思ってます。特に、次の日はすごく実感が湧いてきて、(映像で)レースを見返してみたら……すごい感情があふれてきました。まさか、ああいう展開になると思わなかったんで。ほんとにレースは最後まで何が起こるかわからないなって、改めて感じました。

──もてぎでは、まず藤波選手がQ1予選・A組を2番手、しかも僅差で 通過。一方、オリベイラ選手はQ2で6番手になりました。藤波選手やチームとしては、この結果をどのように捉えていましたか。そして、そのQ2では、ライバル61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)がアタックでクラッシュ。これはどのように受け止めましたか?

藤波:正直、僕らとしてはもうちょっといけるかなっていう気持ちはあったんですが、やはりダンロップ勢だったり周りのライバル勢(のタイムの)上がり幅がすごく大きいっていうが、今までもあったんですけど、最終戦でもそれがあったので。決勝ではいつも強いレースができるので、僕らとしては5〜6番ぐらいに出れば何の問題もないとは思ってました。ただ、欲を言えばもう少し前に行きたかったなって気持ちはありました。また、クラッシュを見た時、自分たちも何が起きるか最後まで分からないんで、改めて気を引き締めて決勝レースに臨まなきゃなっていうふうに思いました。

──迎えた決勝日、レースを前に最終ミーティングをされたと思いますが、その中で、近藤(真彦)監督からはどのようなごコメント、叱咤激励があったのでしょうか?

藤波:1台でも前でゴールすることっていうのも大事だけど、今まで1年間通してポイントリーダーを守り続けたっていう気持ちは忘れずに、最終戦もミスなく、しっかり取りこぼしがないよう、チャンピオンシップのことだけ考えてレースしろと後押ししてもらいました。

56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R

56号車 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R

──決勝では、タイトル争いに関係する10号車のGT-R(TANAX GAINER GT-R)や52号車のGR Supra(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)が、56号車よりうしろのポジションでスタート。スタートドライバーの藤波選手としては、さほどプレッシャーを感じることなくスタートが切れたのではないですか?

藤波:今回なんかわからないんですけど、全然緊張もなく、すごいリラックスして臨めたんです。(56号車で)3年目っていうのもあるのか、すごく落ち着いたレースが自分のスティントではできたかなと思ってます。心配事もありましたが、気にしても仕方がないですし。とにかく僕らとしては、もう自分らのペースを崩さず淡々と周りに流されず、しっかり自分たちのやるべきことをやるっていうのを課題にして最終戦に臨んだので。それができてたので、結果的に(タイトル獲得に)繋がったかなと思いますね。

──10号車と52号車がうしろにはいたけれど、自分たちのレースをするという気持ちがあったからこそ、FCYだ、セーフティカーだという荒れた展開になって、(後続と)ギャップが縮まりましたが、その2台の存在をあまり気にせず走りに集中できたのでしょうか?

藤波:欲を言えば、前半はペースを抑えて、後半に向けてスパートをかけたかったので、もっと10号車との差を広げて、(第2スティント担当の)JP(デ・オリベイラ)さんに(バトンを)渡したかったという気持ちがありました。(ヨコハマタイヤの)僕らはアウトラップのペースがダンロップタイヤさんに比べてちょっと悪いんで、そういう部分で差が開いてラクにウォームアップできるようにっていうことをできたらなと思ったんです。でも、セーフティカーが入っちゃったりしたんで……。でも、皆さん同じ条件なんで仕方ないかなと思いますね。

──その後、25周終わりにルーティンワークでピットインしましたが、52号車、10号車はセーフティカーラン中の給油作業をうまく活用し、後半に入るとポジションが入れ替わり、先行されました。この時点で、チャンピオン争いが気になりはじめたのではないですか?

藤波:ピットに入ってJP選手にバトンタッチして、コースインした時には10号車にオーバーテイクされていたので……。ただ、しっかりとタイヤが温まれば、ロングスティントは全然問題はないとは思っていたし、JP選手が必ず抜いてきてくれると思ってました。

──そのなかで、えっ!? ということが起こってしまいました。42周走行中に右フロントタイヤが外れるという、まさかのアクシデント。あの瞬間、藤波選手はどこで見守っていたのですか。

藤波:ピット内にいました。近藤監督と椅子に座って見てました。やっぱり戦力外(ポイント圏外)になってしまったっていうこともあるので、チャンピオンシップはもうほぼ無理なんじゃないかなっていう気持ちは正直ありましたね。直後はちょっと自分も冷静になれなかった部分はありました。ただまだ周回数はあったので、一旦落ち着いて、もう一回ピットの方に戻って応援のほうに回って……。そしたら18号車(UPGARAGE NSX GT3)のペースがすごく良くて、“あれ!? ” っていう感じになって、そこから今度はランボルギーニの2台(No.87 Bamboo Airways ランボルギーニ GT3およびNo.88 Weibo Primez ランボルギーニ GT3)が猛烈なスピードでどんどん追い上げていくので。まあ、10号車のタイヤも結構厳しそうなこともタイムに現れていたので、ギリギリ(逃げ切りに)間に合うか間に合わないかっていうところかなと思っていて……。そこからは、もうあんまり覚えてないです。もう、(展開に)釘付けになっちゃって、とにかくここまでシーズンを通してポイントリーダーを守り続けてきたのに、こんな結末で終わるのは……っていうのがすごくあったので、なんとか勝ち取りたいという思いはすごく強かったのですが。(そのときのことは)あんまり覚えてないです。

──確かに慌ただしい展開で、状況を逐一把握できる状態ではありませんでした。戦略を立てていたサインガード側のエンジニアさん含め、スタッフも落ち着きなかったと思います。

藤波:そうです。最初、ちょっとわかってなかったんですけど、途中でテレビ中継の時に(画面にチャンピオン獲得のシミュレーションが)出てくるじゃないですか。で、あれ!? っていう感じで52ポイントが3台(52号車、10号車、56号車)になったんです。埼玉トヨペットさん(52号車)とゲイナーさん(10号車)とうちらが同ポイントになったんです。ただ、僕らが1番下だったんですよ。“マジか!?” って思って。同ポイントなのに、しかも僕らは開幕戦で勝ってるのに……って。多分表彰台の数で負けちゃってたと思うんです。だからちょっと複雑でした。それは鮮明に覚えてます(苦笑)。

──そういえば、終盤の20周くらいはチームと無線での交信をしていなかったと、あとの記者会見でオリベイラ選手がおっしゃっていましたね。

藤波:ピットのほうからは何も(オリベイラと)やり取りはなくて……。ここだけの話、(オリベイラは)チェッカーを受けて1コーナーでチャンピオン(獲得が)わかったみたいで……。チームラジオ(無線)が入ったみたいです。JPさんも何がなんだかわからない状況だったらしく、僕はホームストレートでチャンピオンボードを持って待ってたんですけど、気づいてないんですよ、JPさん。普通にストレートを全開でレコードラインで(走って)行っちゃったんで、“あっ、やっぱり。チャンピオンとったのに、JPさん、 レース結果が悪いとやっぱり怒るんだな”って思っちゃって(笑)。そしたら、(タイトル獲得を)知らされてなかったっていう状況だったらしいです。サインガードでこうやって(チャンピオンボードを)持って待ってたのに(笑)……(オリベイラが全開で)行っちゃったんで。まあでも、もうチャンピオンを獲れたんで何の問題もないです。

──まさか激動のレース展開でタイトル奪還になるとは……というものでした。

藤波:すごく浮き沈みがすごかったというか、もういろんなことがありすぎて。とにかくどんな形であれ、シリーズタイトルを獲れたのは、やっぱりデカいなっていうのを感じます。去年、すごく悔しい思いをしたので、今年こそはって……インタビューでも言ったんですけど、KONDO RACING、近藤監督はじめチームみんなともう一回(タイトルを)獲りに行くっていう気持ちで、JP選手と今シーズンを戦ってきたので、本当に最終ラップでああいう逆転という形になって……。ギリギリまでわからなかったですけど、本当に(タイトルが)獲れてよかったです。


──その第8戦もてぎを“○○レース”というタイトルをつけるとしたら、どんなタイトルをつけたいですか?

藤波:えー、なんてつけましょうね。ちょっと難しいな。“波乱万丈レース”(苦笑)!? わかんない。ちょっとわかんない。

──改めて今、シーズントータルで戦いを振り返り、「○とX(マルとバツ)」をあげてください。

藤波:まず(チーム加入)3シーズン目になって、今シーズンはより強いチームになったんじゃないかなって、開幕戦以降ずっと思っていました。それは、もちろんチームメイトのJPさんとのコンビネーション、KONDO RACINGの皆さん、メカニックの方々の精度、そしてエンジニアの米林(慎一)さん精度も高くなり、あとヨコハマタイヤさんのタイヤも……そこが一番やっぱりデカかったのかなって思っています。すごくいろいろなタイヤを作ってきてくれて、シーズンを通して本当に強いチームに……そして、NISMOさんもいろいろご協力してくれて。ほんとに3年目にしてすごく熟成されたチームになったなと思いますね。だから、3年間のうちでもすごく自信を持って走れたシーズンでした。一方、“X(バツ)”は、(ポイントの)取りこぼしがあったこと。そこがちょっと心残りっていうところは正直あります。接触というか、そういうところでノーポイントで終わってしまったレースのがあったので、そこに関してはすごく反省ですね。

KONDO RACING

KONDO RACING

──初めてタイトルを獲った一昨年に比べ、GT300クラスはさらに激戦化しました。

藤波:本当にそう思います。GT300でチャンピオンを獲るのはすごく難しいんじゃないかなって。毎年毎年、激しい争いになってきてますし、しびれます。

──しびれる戦いでタイトルを手にしましたが、ご自身はこの3年間でどういうなところが成長したと胸を張って言えますか?

藤波:2年目までは、JPさんがすごく中心となって、土台となって、ポテンシャルをしっかり出してくれていたんですけど、今年の開幕戦(での優勝)だったり、100kg(のサクセスウェイトを)積んだ(第5戦)鈴鹿の予選で4位だったり……。開幕戦は5番手スタートからトップまで持っていってJP選手に繋げられたので、今シーズンは2020年、21年より少しはチームに自分の力を貢献できたかなと感じてます。(シーズン中は)ずっとハイウェイトだったんで、途中でツラいときもあったんですけど、本当にがんばらなきゃって気持ちで……。途中からは、“俺ら100kg(のサクセスウェイトを)積んでないんだよ”っていう、そういう気持ち、マインドにして走ってました。固定観念も捨てて、そういうマインドに持っていきました。でないとちょっと弱気になっちゃうんで、“みんなと同じ”っていうふうに思って、走っていましたね。どうしても“重たいから”とか、やっぱ逃げ場所ができちゃうっていうのもあるので、そこで逃げるっていうのもよくないことですし。そういう部分では成長できたとおもいますね。

──では、チャンピオンとしてどんなオフシーズンを過ごしたいか。また、どんなご褒美を自分に与えたいと思いますか。

藤波:あまりないですね。チャンピオンを獲れたから気を緩めるということもなく。やること……ルーティンは崩さず、オフシーズンもやり続けたいなと思ってます。トレーニングにしろ何にしろ、やり続けた上にさらに新しいものを投入していったりとか、もっと強い自分を来シーズン見せられるように準備していきたいと思います。なので、オフっていう感じじゃなくいつも通りの形で準備していきたいと思いますね。ご褒美ですか!? いや、まだまだダメです。はい、まだダメです(笑)。


──ジェットコースター並みの展開となった最終戦でチャンピオンを獲り、じわっとタイトルを獲れたな喜びに包まれてる今、少し気が早いかもしれませんが、来シーズンの目標を聞かせてください。

藤波:3年間の中で2回チャンピオンを獲れたってことは、自分にとってもデカいですし、レース人生としてもすごく大きいですね。来シーズンはどうなるかわかりませんが、新たなチャレンジをしたいなと思います。でもまだどうなるかはわからないので、しっかり自分のできること……今、目の前にあることをひとつひとつしっかりと消化していきたいなと思ってます。さらに進化した自分を、また皆さんの前でお見せできるように、まだまだがんばっていきたいと思います。

──最後に、恒例の質問。ここ24時間、直近のちょっとした幸せを教えていただけたらと思います。

藤波:いまだにたくさんの方々から、お祝いのメッセージだったり、お花だったり、改めてこんなたくさんの方々に気にしていただいて、支えてもらって、今の自分がいれるんだっていうことを毎日毎日、一日一日しみじみ感じられています。それが幸せですかね。いや、ほんとにうれしいし、ありがたいです。

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【SUPER GT あの瞬間】SUPER GT 2022 第8戦:藤波清斗選手(No.56 リアライズ 日産メカニックチャレンジ GT-R)

文:島村元子

島村元子

島村 元子

日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。

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