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GTワールドチャレンジ・アジア
コロナ禍に揺れ、多くの制限が伴った2020年〜2021年。モータースポーツ界では、渡航制限の影響を大きく受けながらも、世界的になんとかシリーズの開催を成し遂げ、それぞれにドラマが繰り広げられてきたが、モータースポーツ界のなかでも、最も影響を受けたシリーズのひとつと言えるのが、GT3カー、GT4カーで争われるファナテック・GTワールドチャレンジ・アジア・パワード・バイ・AWSだ。2022年はそんなシリーズが復活を遂げた一年となったが、日本チームを中心としたシリーズ再編により、成功裏に終える一年となった。
ヨーロッパやアメリカでも同様のシリーズが開催されているGTワールドチャレンジのひとつとして、もともとマレーシアやタイ、中国などがメインで開催されており、日本では年間1〜2戦が開催される程度だったGTワールドチャレンジ・アジアだが、コロナ禍による渡航制限が大きな影響を及ぼし、2年間シリーズを1戦も開催することができなかった。
そこで、シリーズを運営するSROモータースポーツ・グループが目を付けたのが日本。中国の入国が困難な状況が続くなか、SROは「どの国にいちばんGT3カーがあるのか?」を考え、至った結論が第1戦をマレーシア、第2戦から第5戦を日本で行い、第6戦をインドネシアで開催するカレンダー。さらに日本での4レースに参加する日本人ドライバーを擁する日本チームを対象として、『ジャパンカップ』と呼ばれるシリーズ内のカップをかけた。
残念ながら最終戦のインドネシアがキャンセルとなり、シリーズは9月23〜25日に行われた岡山国際サーキットでの第4戦がラストとなったが、シリーズ全体を総括するならば、今季のSROの試みは“成功”と言えるだろう。第2戦の鈴鹿から、非常に多くの日本のエントラントが参戦。第1戦のマレーシアが8台のみの参戦だったのに対し、毎戦20台を越えるエントリーを集めたからだ。
ジャパンカップでは毎戦20台を越えるエントリーを集めたGTワールドチャレンジ・アジア
GT3のレースということで、すでに日本にはSUPER GT GT300クラス、さらにスーパー耐久ST-Xクラスが存在しているが、このGTワールドチャレンジ・アジアはSUPER GTのマルチメイクに対し、タイヤはワンメイク。一部不満の声はあったが、バランス・オブ・パフォーマンス(BoP)がかなり有効に機能していたことを感じさせ、チーム力、そしてドライバー力が結果に直結した。エントラントからは、タイヤで戦力差が出ないレース運営、車種によるピットストップ時間の差がないことなど、このシリーズならではの公平性に高い評価が聞こえた。
シーズンを振り返ってみると、日本での4戦を含む全5戦で争われたシリーズだが、最終的にチャンピオンを決めたのは木村武史/ケイ・コッツォリーノ組CarGuy Racing。シーズン2勝に加え4回の表彰台と速さを見せつけ、オーバーオールのチャンピオンに加えジャパンカップではオーバーオール、プロ-アマと三冠を達成した。SUPER GTやヨーロピアン・ル・マンにも挑戦するなど、メキメキと速さを身につける木村、そしてコッツォリーノとフェラーリの速さが結果に結びついた。
総合優勝を決めたCarGuy Racingの木村武史/ケイ・コッツォリーノ組
木村/コッツォリーノ組とチャンピオンを争ったのは、マレーシアはジョホール州の王子であるプリンス・アブドゥル・ラーマン・イブラヒムとニック・フォスターのコンビ。彼らを擁するトリプルエイトJMRのメルセデスAMG GT3は2台体制で全戦に参戦し、高いパフォーマンスを披露。日本チームにとって強力なライバルとなった。
そして、オーバーオールでのチャンピオンを狙い第1戦から参戦した唯一の日本チームがYogibo Racing。横溝直輝/藤波清斗/密山祥吾という強力なラインアップで、シルバークラスからの参戦となったが、プロ同士が組むシルバークラスはハンデがあり、初優勝はSUGOまでお預けに。最終大会の岡山までチャンピオンの可能性を残したが、残念ながら届かなかった。しかしYogiboはシリーズ全体への協賛も行い、シリーズが盛り上がる一端を担った。特にウイナーだけが座れるYogibo Maxの贈呈は、表彰式の新たな風景として印象深いものとなった。
SUGO大会で優勝を果たしたYogibo Racing。
GT4にもトヨタGRスープラが登場するなど、車種バラエティも非常に豊富。TOYOTA GAZOO Racingもシリーズへの協賛を開始した。またプロフェッショナルなレース運営と、チーム側に負担が少ない1時間レース×2のフォーマットなど、観る側にも参加する側にとってもコンパクトで楽しいシリーズとなったGTワールドチャレンジ・アジア。今季の成功はSROモータースポーツ・グループにとっても大いに手ごたえを感じていた様子だった。
もちろんGT300と比べるとタイヤの分スピードはわずかに劣るが、GTレースにとって重要なものはなんなのか…? という問いに対し、SROが世界標準で導入したポイントがしっかりと抑えられていた。日本とは異なるスタートシーンの迫力は必見だ。
タイで開幕し、ふたたび日本で4戦、最終戦にマレーシアが予定されている2023年はさらに台数増も噂されている。さらなる盛り上がりが期待できそうだ。
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文:平野隆治
平野 隆治
1976年横浜市出身。モータースポーツ専門誌、サイトの編集部員を経て、2015年からモータースポーツを中心にした“自称なんでも屋”に転身。SUPER GTは10年以上ほぼ全戦現地で取材をこなしてきた。
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