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道上龍監督(BUSOU Drago CORSE)「ドライバーふたりも安定感があり、ほとんどミスなく計画どおりに物事が進み、自分の采配もうまくいった」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子34号車 BUSOU raffinee GT-R
レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2022年シーズンも引き続き、映像とコラムでお届けします!
今シーズンはチーム監督として采配を振る道上龍氏。ベテランの柳田真孝、井出有治両選手を新たに迎え入れ、また戦闘車両もGT-Rへとスイッチするなか、早くも第2戦富士で2位表彰台を獲得した。群雄割拠のGT300クラスにおいて新たな体制で挑む道上監督は、ドライバーとしての経験値をどのように活かして富士を戦ったのだろうか。
ーー新体制からわずか2戦目で表彰台獲得。参戦車両がGT-Rになったのは、驚きでもありました。
道上:今年から、スポンサーとしてBUSOUさん(※1)とタッグを組むというか、ともに戦っていこうということになりました。チームは僕が(昨シーズンのドライバーから今シーズンは)監督になって状況は変わっていますが、スタッフはほとんど変わっていません。(道上が代表を務めるレーシングチームの)Drago CORSEとしては今年でGT300(参戦)5年目を迎えましたが、何よりも(使用する)マシンが長年やってきたホンダNSXから日産GT-Rに変わったというところが一番大きな変化ですね。
本来ならNSXで続けていくことがDrago CORSEとしては一番良かったのですが、今年、BUSOUさんと組むにあたり(BUSOUは)日産車のアフターパーツを手がけているメーカーですし、普通に考えても日産車でやるというのが当たり前かなというところで……。(参戦車両が変わる)タイミングとしては良かったかなと思っています。
※1:BUSOUは純国産、開発から製造の全てを日本国内にて行い、商品全てが日産車専用に開発されたカスタムパーツブランド。
ーーチームドライバーは柳田&井出という経験豊富なふたり。監督として仕事がやりにくいことはないですか?
道上:いや、特にやりにくさはまったく感じません。むしろ、一緒に戦ってきたライバル関係でしたが、僕のほうがふたりよりもレース界も若干長いですし、ドライバーとしても去年まで走ってますし(※2)。彼らにとってはドライバー目線でいろんな物事を考えられると思っているので、頼りにしてもらっているのかなとは思います。一緒に(同じクルマに)乗ってレースをしていたわけじゃないですが、長年ライバルとして見てきた……例えば柳田選手や井出選手の走りや性格的な部分も含めてどうやって彼らのいい引き出しを僕が出してあげるかということに尽きるのかなと思っています。
そういう意味でも富士はマシンのバランスもすごく良かったし、タイヤのマッチングも今回の気温とサーキット(のコンディション)に合ってました。ドライバーふたりも安定感があったし、ほとんどミスなく計画どおりに物事が進み、自分が考えた采配もすべてうまくいったので、ああいう結果(2位表彰台)に繋がったのかなと思います。
※2:2013年までGT500に参戦、2018年からDrago CORSEとしてGT300に参戦。昨シーズンまでドライバーとして出場している。
ーーチームとしてベストグリッドからの決勝を前に、どのような作戦を用意したのですか?
道上:今回、下位に沈んだ予選ではなかったので、いろんな状況に対して作戦の幅を広げられるんじゃないかなとは思ってました。ちょうど我々が選んだタイヤはダンロップさんの中でもやわらかめのものだったので、決勝日は天気が良くなることもあり、そのソフトタイヤが前半どれだけ保ってくれるかによって2スティント目にタイヤを変えるかどうか……という作戦を考えていました。タイヤが保ってくれたことで予想よりは(ピットインのタイミングを)引っ張れた感じはしました。本当は35周くらいまで(ピットインを)延ばせそうでしたが、早めに(ピットに)入ったチームもあったり、(コース上で)目の前に周回遅れの車両が来たりして。タイヤは全然問題なかったようです。ただトラフィックに引っかかってしまっていて、そこでのタイムロスが出てきたので30周目にピットインする決断をしました。タイヤも(スタート時と同じ)ソフトにして、ピット作業も結構早くて(コースへ)出て行きました。
ーー実際、ライバル視していた10号車、61号車ともそれぞれ異なる戦略を採りました。
道上:僕らの中では10号車(TANAX GAINER GT-R)をマークしていました。向こうはうちよりもちょっと早めに(ピットに)入ってましたが、一方でその時点で2番手にいたスバルさん(No.61 SUBARU BRZ R&D SPORT)は、ちょうどピットが隣だったということもあり、彼らの動きもよく見えたんです。ざわついているなぁという感じでね……。向こうは僕らよりも何周か(ピットインのタイミングを)引っ張っていたんですが、ピット作業にちょっと時間がかかっていたような雰囲気もあったし。スバルさんが(38周終わりで)ピット作業を終えた時点で、僕らのクルマはちょうど最終コーナーから加速している時だったんです。1コーナーに(61号車が)出てきた直後をアウトから抜くことができたので、2番手にジャンプアップできたんですよね。作戦としてはすごくうまくいきました。もし、ワンスティント目に柳田選手で引っ張りすぎて前も抜けずにいたら、ラップタイムも落ちていたと思うので、その判断が早めにできて良かったと思います。
34号車 BUSOU raffinee GT-R
ーーライバルとピットが隣だと、抜いても”よっしゃーっ!”とガッツポーズはできないですね(苦笑)。
道上:”よっしゃーっ!”はなかったです(笑)。というのも、あのときスバルさんは山内選手がスタート担当だったと思いますが、(1回目のピットインで)ドライバー交代していないし、コースの状況もわかっているだろうと(思っていた)。多分、アウトラップでも(山内はコースに)慣れているだろうし。すぐにタイヤを温めてそこそこの距離感にはいましたからね。そういう意味ではすぐにきちゃうんだろう(背後に迫ってくるだろう)なという感覚はありました。ただ100R(からヘアピン)でのレッドフラッグが出るまで(※3)はずっと等間隔だったし……。なので井出選手にはずっと無線で、「事実上2番手だから、とにかく10号車だけ見て追いかけてくれ」と伝えました。そのなかで今回はダンロップさんのタイヤが良かったですね。ただ、レースではあってはいけない2回の大きなアクシデントがあり……周回数が半分以上残っている中で終わってしまったので。実際、最後までちゃんとしたレースとして行われていた場合はどうなったのかなというのが正直なところです。
僕らは確実に2回のピットで、給油をしてタイヤは全部替えようというのがまず作戦としてありました。実際、30周ちょっとタイヤが保ったとしても、タイヤ無交換で行こうという作戦はできていたかどうかはわからないですし、実際に残り40何周をうまく走り切れたかどうかも定かではないですね。あの順位でいられたからこそ2位で終えられましたが、僕としてはちゃんと戦っての2位ではないから、なんとなく素直に喜べないところもあります。ほんとなら2位でもうれしいんですが、ショッキングなこともあったしチェッカーを受けてからも、なんとなく喜べるような状態でなかったことが残念ですね。
※3:39周目走行中のGT300車両が挙動を乱して、タイヤバリアにクラッシュ。まずFCY(フルコースイエロー)が宣言され、その後はセーフティカーランに切り替わったが、GT300クラスが46周目を走行中(GT500の49周目)に赤旗が提示され、セッションが中断した。
ーー再スタート後、また大きなクラッシュが発生(※4)。思わぬ展開によってレース終了となりましたが、その中でチーム最高位の結果を手にできたのは、予選での好順位が理由とも言えます。
道上:もちろんそうですね。予選でうまくいったことが非常に大きかったです。あとタイヤの選び方も。気温が高くなるから硬めをチョイスするのかしないのか……。そういうことも含めて下した決断は、まず「とにかく予選で前に並ぼうよ」と言うことでした。前に並んだ方がいいということで(やわらかいタイヤを選択した)。それでタイヤが保たなければ仕方ないんでしょうけど、僕が(事前に)タイヤの摩耗を見たときには、自分たちが決めていた周回くらいまでは全然いける雰囲気がありましたからね。タイヤって、保たないからと硬いほうにしたりすると、結局硬いだけでグリップがまったくしないまま終わってしまうということもあって(選択が)難しいんです。30周なら30周だけ保てばよくて、その周まできっちり性能を引き出せればそれでいいんです。仮に40周、50周保ったとしても全然グリップしなければラップタイムが悪くなるだけですから。
もちろん、今回硬いタイヤをチョイスしていたら(展開が)どうなったかはわかりません。予選で確実に前(のグリッド)に並ぶためにはやわらかいタイヤの方がいくらかタイムが出るというフィーリングがあったので、やわらかいほうをチョイスしたんですよね。レースは”これでOK”っていうのがまずないんです。”当てもん”じゃないけれど、すべて”予測”に尽きるんです。コンディションが変われば一気にすべてが変わってしまうこともあるし。そこが難しいところですね。
※4:1回目の赤旗中断後、午後4時25分にSCランによって再開、午後4時33分にリスタートしたが、GT500が59周目に入ったメインストレート上でクラッシュが発生。SCランからすぐ赤旗中断となる。再開は午後6時10分、SC先導のまま最大延長時間である午後6時20分を迎え、62周でチェッカーが振られた。
34号車 BUSOU raffinee GT-R
ーー今シーズンはあと2回の450kmレースがあります。であれば、ファンは”GT-Rに乗る道上選手”が見たい! となるのでは!?
道上:あはは(笑)。個人的には、レースどうこうという話ではなくて、GT-Rに乗ってみたいという気持ちはありますね。強いクルマというイメージがあったし、そもそも僕が(ドライバーとして)ミッドシップばかりを乗ってきたので。途中、GT500では一度HSVっていうフロントエンジンのクルマもありましたが、その後もミッドシップやFF車が多かったので。GT-Rはクルマ自体がすっごく大きいじゃないですか。自分たちのファクトリーに来たクルマを見て、デカイなと最初思ったし、違和感あるなぁ、目が慣れないなぁって言ってたんです(笑)。
でもドライバーふたりのコメントを聞いていると、どんなのか一度は乗ってみたいなぁという気持ちはありますね。ただ、レースのときにドライバー登録して(乗る)っていうのは別の話で。仮にレギュレーション的に問題なく練習できるのであれば(乗ってみたい)……ですが、いきなりレースでポンと乗るのは結構リスクもあるし、プロだからこそ自分の技量がわかるので。基本的には監督業をがんばっていかないといけないしね。これはあってはいけない話ですが、まだコロナ禍なので仮に何かあれば練習なしでも僕がいくしかないでしょうけど。(そのときは)まぁたぶん乗れると思います(笑)。
ーーでは最後に、「SUPER GT あの瞬間」恒例の質問。ここ24時間以内で感じた”ちょっと幸せなこと”を教えてください!
道上:24時間以内の幸せですか!? 僕のチームは別カテゴリーもやってるので、4月に入ってから毎週のようにレースがあるんです。GT富士が終わって、ちょっと(次のレースまで)開くんです。GTのことも考え、次にスーパーフォーミュラが来たら頭を切り替えてミーティングをして……がんばらないといけないとか、いろいろチームとやるなかで最近疲れすぎてなのかもしれませんが、あまり寝られてなかったんです。なので、この前ちょっと休めたことが幸せでしたね。ほんと、毎日毎日眠くて仕方ないんです。昨日とかもう夜9時くらいに寝て、今朝9時くらいに起きましたね。
ふだんはあまり昼寝もしないし、いろんなことを考えすぎて寝ない人なんですが、さすがに”寝たい!”と思うくらいここのところ忙しかったので。どこかに行くとか物を買うとか、何かして遊んだという幸せはなく(苦笑)、家でゆっくりしているのが良かったです。とはいえ、明日はJ SPORTSさんでWTCRのライブ解説があるんです。夜9時くらいからの放送があるので、夜中の仕事ですよね(笑)。まぁ自分のレースとしては今が一旦落ち着けるタイミングなので、それが一番ちょっとした幸せですね。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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