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大嶋和也選手(No.14 ENEOS X PROME GT Supra)「自分たちの実力で獲ったポール・トゥ・ウィンだなという実感がある」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子開幕戦を制した14号車 ENEOS X PRIME GR Supra
レースでの出来事をドライバー自身に振り返ってもらう「SUPER GT あの瞬間」。2022年シーズンも引き続き、映像とコラムでお届けします!
レース終盤になって波乱の展開が訪れた開幕戦の岡山大会。レースを制したのは、No.14 ENEOS X PROME GT Supra。大嶋和也&山下健太両選手が岡山での連覇を達成した。レースでは、チェッカーを目前にハプニングもあり、かなりハラハラドキドキの展開だったようで……。お疲れ気味なのか、いつもとは異なるハスキーな声で大嶋選手にシーズン初戦を振り返ってもらった。
──昨シーズンの岡山は予選2位からの逆転優勝。今回はPtioWとさらにバージョンアップした勝利だと思います。改めて今のお気持ちを聞かせてください。
大嶋:ルーキーレーシング、去年できたばっかりですが、(チーフエンジニアの)阿部(和也)さんと主要なメンバーが変わってなかったということもあって。(昨シーズンの開幕戦では)クルマが速くて、展開にも恵まれて2位スタートから優勝できたんですが、その後はチーム力だったり足りない部分が結構あって、なかなか結果がついてきませんでした。(今シーズンに向けて)その辺をしっかり補強したので、今年のポール(ポジション)と優勝は自分たちの実力で獲ったポール・トゥ・ウィンだなという実感があるし、去年の優勝よりもかなりうれしく思っています。
──今シーズンは、日産勢はZ、ホンダ勢は新型NSX-GTとニューマシンを投入。三つ巴の戦いが激しくなると予想される中、GR Supraでチームはどういう準備をして開幕戦に挑んだのですか?
大嶋:クルマのスピードに関しては、去年から十分に手応えはありましたが、チーム力……ピット作業だったり戦略面での経験が少なく(ライバルたちに)負けていたので、(シーズンオフの)テストから、決勝を見据えて燃費のセーブの仕方やレースで強く戦えるセットの方向性だったり……しっかり時間を割いてやっていました。予選よりも決勝でしっかりと実力を出せる準備をしてきました。
決勝レースで1番グリッドに向かう14号車
──予選では、自身通算6回目のポールポジションを獲得。記者会見で「久しぶりにポールを獲れてうれしい」とコメントしていましたね。
大嶋:(2016年第4戦SUGO大会以来のポールポジション獲得だが)前がいつかあんまり覚えてないです(苦笑)。(今まで)僅差の2位みたいなのが結構あって。毎回ちょっと届かずポール(ポジション)じゃなかったので、悔しい思いをしていました。今回ちょっとミスもあったものの(ポールポジションを)獲れたので、獲れる時はこんな簡単に獲れちゃうんだなと思いました。
──久しぶりのポールポジションスタートとなり、レースに向けての緊張感やプレッシャーはなかったのでしょうか?
大嶋:予選からかなりプレッシャーはありました。ここ数年は、相方(山下健太)がアタックに行ってそのサポートを重点的にやって……と、そんなに自分がガツガツと前に出ることをなるべくしないようにしていたし、それがベストであればいいなと思っていたんですが。やっぱりドライバーなので、自分がポールを獲って自分の力で優勝できるという絶好のチャンスですし、絶対決めたい! そう思っていました。
──決勝におけるチーム戦略は? グリッド前でセット変更もしたと聞きました。
大嶋:僕らが(決勝用に)選んだタイヤは、気温があそこまで上がる(※1)とツラいんじゃないかという(レース)コンディションでした。若干、(選択した)タイヤは(他車とは)構造もコンパウンドも違ってて。レンジ(作動温度)はみんなと一緒なんですが、ちょっと種類が違うゴムだったので。温度が上がってきたときの懸念はあったんですが、思ったよりも決勝中はタレもなく最後まで走れたので予想よりも大丈夫だったなという印象でした。決勝日は路面温度もかなり上がっていて、(レース直前のウォームアップ走行ではクルマの)ダウンフォースも減っていましたし、タイヤのムービングも出始めていてフィーリングがかなり良くありませんでした。
ギリギリまでエンジニアとデータを見ながら『どれやる!? あれやる!?』といろんな案が出たんですが、最終的に選んだ変更がかなりいい方向に行きました。スタートして2周目くらいからタイヤも温まってきて、予想以上のバランスの良さに僕も驚いたんですけど、スタートしてすぐに『これならいけるかも!』って感じられました。決勝に向けていろんなデータを取っていたので選択肢がものすごくいっぱいあったし、逆に選択肢が多くて悩みました(笑)。今回は正しい選択ができて良かったです。
※1:決勝直前で気温23度、路面温度33度
レース序盤は39号車の追撃をかわした
──予選後の記者会見では、コンビを組む山下健太選手が「(スタート担当の大嶋選手が)10秒くらい離してくれたらうれしい」とコメント。実際には2位に対して20秒近い大差をつけて、31周終了時にピットインしました。
大嶋:今のSUPER GTでは、セーフティカーが入る(可能性がある)リスクを考えると、ファーストスティントが短くなってしまいます。28周から周りとの兼ね合いを見て入るということだったので、ほぼ予定どおりです。まぁ、近くのピットのクルマが(自分たちと同じ周に)ピットに入ってくるということだったので、1周遅らせましたけど。
──ところが、ピットではライバルより5秒ほど作業時間がかかりました。何があったのですか?
大嶋:実際にはピット作業をゆっくり見ている余裕はなかったので、(ピット作業で)ミスがあったことも後で知りました。ピットから出ていった後のタイムギャップを見て、『あれっ!? なんでこんなに(ギャップが)少ないんだろ』と。その後に確認したら、(タイヤ交換時に)ホイルナットが飛んじゃったのかな? それで時間がかかったみたいです。開幕戦だし、そういうこともあるだろうということで、僕のスティントで気を抜くことなくコンマ1秒でも多く稼いでおかなきゃ勝てないだろうなと思ってがんばっていたので、それが生きたかなぁと思います。
──後半を担当は山下選手。逃げるレースを続ける中でFCY(フルコースイエロー)が2回導入されました。2回目の解除直後にはGT300車両と接触、ヒヤリとするハプニングもありました。
大嶋:(2位との)タイムギャップを見ていたら突然2秒を切ってきた(※2)ので、僕らも一瞬何が起こったのかわからなくて。『何が起きたの?』とチームが無線を入れた時に、GT300車両とぶつかっていたということを聞いて。ただクルマに大きなダメージもないし、(抜きづらい)岡山だからそう簡単に抜かれることもないだろうと思いつつも、結構(2番手の100号車)な勢いで追いついてきてたので、だいぶヒヤヒヤしました(苦笑)。今回、たまたまどっちのアクシデントもFCYで処理してもらえたので助かりましたけど、(FCY導入のきっかけとなった車両は)結構クラッシュも大きかったので、SC(セーフティカー)になってたらさすがに押さえ切れなかったかもしれないし、アクシデントが起こるたびにかなりドキドキしていました。
※2:78周目に9.134秒あった差が79周目には1.948秒まで縮まった
──自身のスティントで完璧な仕事をした分、レース終盤を見守るのは余計に疲れたのではないでしょうか。
大嶋:乗ってる時はアドレナリンが出ているし、(ドライブしている時間は)“一瞬”なんですが、(クルマを)降りてからギャップを詰められながら……という展開を見るレースはなかなかツラいです。本来、(レース中に)2秒あれば大きいギャップだと思うんですが、20秒くらいあったところから詰められての2秒は普段の2秒より少なく感じるんで。ドキドキしていました。
──チームとして体制の強化など、取り組んできたことが初戦で結果となって表れました。士気が上がりますね。
大嶋:オーナーにもかなり投資してもらっているし、新しいガレージも建って、新たに『もっといいチームにしていこう』とすごくみんなが気持ち含めて変わり始めたタイミングだったので。そこで結果もついてきてくれたというのは、すごく今後のチームにとってもプラスになるんじゃないかなと思っています。ただ、ここからが勝負になってくるので……。今回はドライバーがなんとかがんばって勝てましたけど、今後は(サクセス)ウェイトを積んで速く走れないレースも増えてくるので、今後はチームに助けてもらわなきゃいけないレースも出てくると思う。そういう時に向けて、チームにはもうちょっと気合いを入れて(笑)、タイヤ交換をがんばってもらわなきゃいけないなと思います。
パートナーの山下健太選手と談笑する大嶋選手
──今回、改めて開幕戦を振り返って、個人的に一番印象的だったのは?
大嶋:予選でのポールが優勝を引き寄せた一番の要因だと思います。あとは、スタートしてからの1周目。(予選2位の)関口(雄飛/No.39 DENSO KOBELCO SARD GR Supra)がかなり勝負をかけてきたのはわかっていました。僕は(ウォームアップ走行を終えて決勝の)グリッドへ行く時にスタートで使うタイヤへ替えましたが、39号車が20分間のウォームアップ(走行の時)から(スタート用)タイヤを温めていたのは知ってたので、『相当1周目に勝負かけているな』と。そこはなんとしてでも押さえ切らなきゃなと思って、かなり気合いを入れて行ってました。ちょっと(関口に)詰められるシーンも何回かありましたけど、そこを押さえ切れたのがかなり大きかったかな。
──第2戦は富士大会。サクセスウェイトは40kgになりますが、連勝も可能では?
大嶋:そうですね。去年も同じウェイトで勝てるぐらいのポテンシャルが出せているので……。今年はフォーマットも変わる中での450kmレースなので、かなり荒れる展開になってくると思いますが、僕らにとっては連勝の可能性も出てくるんじゃないかなと思っています。去年は(開幕勝利で)最高のスタートを切ったんですが、中盤戦で実力不足でポイントを獲り逃がしたレースが多かったので今年はそういうことがないように、確実にポイントを獲っていきたいと思います。
──では最後に、「SUPER GT あの瞬間」恒例の”ちょとした幸せ”を聞かせてください!
大嶋:ものすごく今回の優勝の反響が大きくて。特に長いこと応援してくれている身近な人たちがすごく喜んでくれました。それがすごくうれしかったですね。(レース明けの)月曜日の朝になってもうれしかったですよ。今回、ドライバー的にはすごくうれしい勝ち方だったので。自分でポール(ポジション)獲って、自分でぶっちぎって、そのギャップで勝てたという……いつもチームが勝てればいいやと思って我慢するタイプなので、今回はなんか昔の自分を思い出すような、”わがままな走り”というかそういうのがちょっと出せたので、自分の中でもうれしさはありましたね。ただ、(自分より)若いヤマケン(山下健太)にもっと気持ちよくレースをさせてあげたいので……。今回は僕が気持ち良い思いをしたんで、次の富士はヤマケンがもうちょっと気持ち良く走れるようにやってあげたいなと思います。
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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