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SUPER GT 第8戦:坪井 翔(No.36 au TOM’S GR Supra) 「1年間戦ってきた思いとチャンピオンを獲ったことなど色んな思いで泣けてきた」
SUPER GT あの瞬間 by 島村 元子No.36 au TOM’S GR Supra
「SUPER GT あの瞬間」と題して、レース内容をドライバー自身に振り返ってもらう本企画。一部映像化し本コラムの最終ページで視聴可能である一方、本コラムでは余すことなく全文を紹介する。
最終戦を前に、タイトル獲得の権利を手にしていたのは6チーム。その中で、今季初優勝を目指したNo.36 au TOM’S GR Supraが理想のレースを展開。さらに結果として、シリーズチャンピオンが舞い込むドラマチックな一戦となった。”筋書きのないレース”を制し、タイトルを掴み取った坪井翔選手に最終戦のこと、さらに来シーズンについて語ってもらった。
──最終戦で自身初優勝、そしてチャンピオンという劇的な結果になりました。レースから4日経ちましたが、心境は?
坪井:率直にうれしいですね。まさかチャンピオンもついてくるとは思わなかったのですが、少なくとも優勝はしたいと思って臨んだ最終戦でした。僕たちができるすべての力を出し切って勝てたので、やるべきことすべてができたことによって結果的にチャンピオンを呼び込むことができたので、やるべきことをやれたのが僕らにとって最大の収穫だったのかなぁと思います。
──どのタイミングで、チャンピオンになったという実感が湧きましたか?
坪井:実際はチェッカーを受けた瞬間、優勝したという気持ちでうれしかったんですが、本当にチャンピオンを獲れたっていうのは、なんか今イチ……(笑)。ようやく次の日くらいに色んな人から(お祝いの)メッセージをもらったりして、実感が湧いてきたような……そのときままだフワフワしていて、(タイトルを)獲ったのかハッキリしてなかったですね。去年はトヨタとホンダで逆のことが起きていたので、去年のあれ(※1)がトムスであったからこそ、最後まで何が起こるかわからないという思いでうちらもやっていたし、まさかこういう形になるとは思わなかったですけど、最後まで諦めないで戦って良かったと思います。
今年、SUPER GTもそうですが、スーパーフォーミュラや他のカテゴリー含め、僕にとって結構苦しいシーズンで、正直、GT最終戦で勝てなければ今年は何もいいことなく終わっちゃうなぁというくらい、ヘコむ時期もあったし心が折れそうになった時期もあったのですが、それがすべてこの日のためだったのかなみたいなチャンピオンの獲り方もしたし初優勝もできたので、ツラかったけどがんばってきて良かったなという報われた気持ちがしました。
※1:「優勝すればチャンピオン」という条件で繰り広げられていた昨シーズンの最終戦。ポールポジションからスタートを切ったトムスのNo.37 KeePer TOM’S GR Supraが快走を続け、チェッカー直前までトップを走っていた。だが、最終コーナー立ち上がりでスローダウン、背後にいたNo.100 RAYBRIG NSX−GTが抜き去り、優勝。第7戦終了時点のランキング4位から逆転でタイトルを手にした。
レース直後、クルマから降りて喜ぶ坪井選手
──ところで、チャンピオンになったご褒美としてなにか貰ったり、買ったり……という予定はあるのでしょうか?
坪井:今はまだなにもないですけど……。ホント、自分にご褒美をあげたいんですけど、何にしようか迷っているんですよね(笑)。具体的にはまだ何も決まってないんですけど……温泉旅行とか行きたいですね。一回、“非現実感”に浸りたいです(笑)。すごいプレッシャーの中で戦ってきたので、シーズンオフにリフレッシュというか、チャンピオンのお祝いも含めて、一回忘れるというかリラックスしたいですね。今年まだ他のレースやテストもあるので、正直まだ気が抜けないというか。そこはしっかりとがんばらないといけないので、12月が終わるまで気が抜けないのかなと。来シーズンの体制含め、まだ僕今イチわかってないので(苦笑)……それが全部はっきりしたら、少しリラックスというか安心できると思うので、心の安心ができたら、リフレッシュしに行きたいと思っています。
僕……趣味がなくて困っているんです(苦笑)。あれば多分、その趣味に費やすというか、何か買うこともあるんでしょうが、そういうのがなくてちょっと困っちゃってるんですよね(笑)。レースが趣味っていうくらい、10月、11月は毎週末レースで……鬼のようなスケジュールだったので。なのでレースが全部終わったら解放されたいなと思いますね。
No.36 au TOM’S GR Supra
──レースウィークを振り返ると、公式練習が2番手、予選は坪井選手自身がQ2を担当し、4番手という結果でした。クルマのフィーリングはどのようなものでしたか?
坪井:朝から手応えを感じていました。練習走行の時点でポール(ポジション)を狙える位置にいるなとなんとなくわかっていたというか、いけるかなという手応えを感じていたし、(ポールポジションを)狙えるからこそポールの1点(※2)がすごく欲しかったし、チャンピオン考える上で”1点”がすごく大事だと思ったので、なんとしてもポールを獲りたいと思って予選に挑みました。
でも、ちょっとトップとの差が(チームメイトの関口雄飛が担当した)Q1でもあって……。手応えを感じつつも、ちょっとトップには届かないという距離にいるな、という感じでちょっと難しい(Q1)予選になってしまって。悪くない位置にいるだけにそんなに大きくセットアップを変えることができず、(自身が担当する)Q2でなんとかまとめられたらいいなと思ったんですが、ちょっとうまくまとめきれず14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)に(ポールポジションを)獲られてしまったので……。一応、Supra勢としては良かったと思うんですが、同じSupraだからこそ、14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)が獲れたということは……というふうに思ってしまい、正直、予選ではかなり悔しい思いをしたし、ランキングを争っている1号車が予選で2番手となり、うちらよりも前にいってしまったというのは、かなり致命的な予選だったなという感じで印象に残っています。
※2:SUPER GTでは、予選でポールポジションを獲得したチームに対して1点が与えられる。
──チャンピオンに最も近い1号車が予選2位となったこともあり、No.36 au TOM’S GR Supraとしては”首の皮一枚”状態でのタイトル争いになりました。決勝を前に、チームではどういうミーティングをしたのですか?
坪井:今年、36号車(au TOM’S GR Supra)はロングランが速く、決勝が強くてだいたいいつも順位を上げてゴールすることができていました。自信を持っている上に、今回はさらに決勝ペースが良さそうだと練習走行からなんとなく手応えがありました。なので、正直4番手からでも優勝できるなという感じだったし、第2戦で4位からスタートして優勝目前で落としてしまった(※3)こともあり、ある意味(同じ)4位スタートということで、第2戦の”取り忘れたもの”を取り返しに行くぞという強い気持ちで……。一方でチャンピオンはほかのクルマ次第なので難しいとは思っていたんですけど、絶対勝って終わろうという気持ちを持って、最終戦に挑みました。
※3:第2戦富士大会、No.36 au TOM’S GR Supraは予選4位でスタート。早々にトップからレースを牽引した。終盤はトップと僅差の2番手から優勝を目指したが、残り11周目でプロペラシャフトが折れるトラブルに見舞われ、13位に終わった。
──レースは、第1ドライバーの関口雄飛選手がオープニングラップで2位へ浮上。さらに12周終了時、セーフティカー明けのリスタートでトップを奪取しました。どんな気持ちで見守っていましたか?
坪井:時期が寒かったこともあり、タイヤが温まるのに時間がかかる部分があったので、最大のチャンスはそこかなとレース前に話していました。スタート直後だったりFCY(フルコースイエロー)やセーフティカー明け(のリスタート)は、アウトラップ含めてすごく大事になることはレース前からわかっていたので、そこを決勝でどれだけ速く走れるか意識してチーム全体で臨んだのですが、まさかあんなにいきなり行ってくれるとは思わなかったです。そこは関口選手らしいというか、闘志むき出しのレーススタイルというか、オーバーテイクをして実際トップまで来てくれたので、これはなんとしてもトップの座を守り抜かないと何を言われるかわからないと思って(笑)。必死に守ろうと思ったし、見ている間にトップで絶対に勝つぞという関口選手の思いがすごく伝わってきたので、その意志を引き継いで第2スティントを頑張ろうという気持ちでいました。
──レースは、22周を終えてルーティンのピットインを行うチームが出始めました。一方で36号車は25周終了時に実施。この間に緊張が高まることはなかったですか?
坪井:先に(ピットへ)入られるということは、僕が(ピットからコースへ)出たときには、(先にピットインを終えている)”タイヤが温まった組”がうしろから来ることを意味するので、それを(コースインしたばかりで)冷えたタイヤで押さえ切らなきゃいけないという僕の任務がかなり重要になってくるのは、先に入った人たち(の様子)を見ている以上はそういうことになるので かなりドキドキはしていました。で、どのタイミングがいいのかは(レースが)終わってみなければわからないので……。燃費も含めて今年はホンダ勢がピット時間が短かかったりしていて、その辺でいつも前に出られてしまっていたので、今回は『25周目に入って逃げられるのか!?』っていう色んな不安を抱えながら……。もちろん、チームはいろいろ計算してくれて25周目がいいと思ってやってくれたと思うし、そこは信頼しきっていましたが、なにせそのアウトラップが怖いなという思いがずっとありました。
──GT500全車両のピットインが終了し、改めてトップに立ちましたが、背後には14号車(ENEOS X PRIME GR Supra/山下健太)がいました。開幕戦との激しい攻防戦が印象に残っていますが、今回は何か意識することはありましたか?
坪井:14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)に抜かれると勝てないので、なんとしても(トップを)守り切らないといけないと思いました。開幕戦、僕は2位から(14号車の山下を)抜けなかった悔しさもあるし、岡山でのノーウェイトと同じ状況の逆パターンだったので、当然意識はしました。ここで開幕戦で勝てなかった悔しさを最終戦で成長した部分を見せるという意味でもここを守り切ることが一年の集大成だなと思っていたので、意地でも14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)だけには抜かれないと気持ちを強く持って走っていました。
レース後、山本尚貴選手に声を掛けられ頭を下げる坪井選手
──レースは51周目に状況が大きく変化します。4位にいた1号車(STANLEY NSX−GT)がGT300クラス車両との接触で大きく後退。また14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)も3番手に下がり、36号車(au TOM’S GR Supra)にはチャンピオンの可能性が膨らみました。この状況は随時把握していたのでしょうか?
坪井:その都度無線が入っていました。『真後ろにいる14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)が何秒で走っている』、『37号車(KeePer TOM’S GR Supra)が(14号車を)抜いてきたあと何秒で走っている』とか『1号車(STANLEY NSX−GT)が脱落したよ』とか全部……。まぁ、1号車(STANLEY NSX−GT)がどういう経緯で脱落したかは聞いていませんが、順位が変動したことのインフォメーションは常にあって。14号車(ENEOS X PRIME GR Supra)は徐々に引き離せていたので問題ないかなと思っていましたが、その後は(36号車より11ポイント上回る)8号車(ARTA NSX−GT)の順位次第ということで……。そこをやり取りしながらという感じでした。
僕らがチャンピオンになるには勝つしかチャンスがなかったので、この順位をしっかり守り切って優勝しないと、話が進まないのでそれだけを意識しました。そこで何号車が何位になったら……というのは、勝ってその話が生まれてくるので、(自分たちは)結構シンプルに考えられました。ただ最後まで何が起きるかわからないのがレースなので、優勝すること、ゴールまでしっかりクルマを運ぶことに集中して走っていました。
──最後は2番手の37号車(KeePer TOM’S GR Supra)に対し6秒近い差を着けてチェッカー。自身初優勝を果たし、加えてチャンピオンになりましたが、その瞬間の気持ちは?
坪井:まず優勝できたことがすごううれしかったです。開幕戦と第2戦でかなり悔しい思いをしていて、その悔しかった思いが最後に全部吹き飛んだ! じゃないですけど、がんばってきて良かったという思いと、第2戦で獲れたはずの優勝が獲れずにチームとしても悔しい思いをしていたので、全員の思いを想像していたら泣けてくるような気持ちになりました。というか、泣いてましたね。号泣していました(笑)。無線が入ってから感極まったというか……。(チームの)ピットが割と1コーナー寄りだったこともあり、ピット前をゆっくり通過したときにメカニックさんやドライバー、全員が喜んでくれている姿を見て、1年間戦ってきた思いとチャンピオンを獲ったことなど色んな思いで泣けてきましたね。号泣しながら1周走ってました(笑)。お客さんの姿もあったので最高でした。
念願のシリーズチャンピオン
──念願の優勝を果たし、結果としてチャンピオンになれた一番のポイントは何だと思いますか?
坪井:なんですかね(苦笑)。富士はGR Supraとの相性が良くて、(今回も勝つ)チャンスはあることはわかっていました。第2戦も富士だったし、普通にやれれば、実力を出し切れば、十分勝てるチャンスはあるという自信と、第2戦の結果も含めてミスさえしなければ必ずチャンスは来るということがわかっていました。それを全部遂行できたというか全員がミスなくやるべきことをやった結果、優勝がついてきたので、どこかポイントがあったということではなくて、やるべきことをやった結果が優勝に結びついたという感じです。
──今シーズン、新たにコンビを組んだベテランの関口雄飛選手からはどのようなことを学んだのでしょうか?
坪井:関口選手はアツい(タイプの)ドライバーなので……。僕もハンドルを握ると”行くタイプ”だと思うんですけど(苦笑)、それが化学反応を起こすことを楽しみにしていましたが、チームメイトとして彼のレーシングスタイルを間近で見ながら一緒に一年間レースをしてみて、改めてレースに対する取り組み方、準備の仕方、レースウィークの時間の過ごし方などをしっかり自分でマネジメントして、プロの意識を持って時間を有効的に使っているなということをすごく感じました。そこは見習いたいと思いましたし、レーシングスピリッツというかあのアツさは僕も尊敬しているので。レースでのファーストスティントもそうでしたが、見ている人も興奮するような走りをする人なので、それを見習いたいと言うか僕もしたいなと思っているので、そういうところをもっともっと吸収して(ファンに対して)”魅せるレース”ができればいいなと思っています。
──少し気が早いですが、チャンピオンとして挑む来シーズンの目標を聞かせてください。
坪井:やはり二連覇したいので、(タイトルを)獲るための戦いをしたいですし、今年悔しい思いをした人たちが”来年こそは!”と挑んでくるので、今年チャンピオンを獲ったからと結果におごらず、僕自身がもっと高いレベルを目指して連覇にふさわしい走りをしたいと思います。今年は正直”他力”もあって、自力チャンピオンという意味ではなかったので、来年はしっかりとつねにチャンピオン争いをしながらポイントリーダーもしくは2番手くらいで、自力でチャンピオンを獲れる位置にまずいること、その上で自力チャンピオンを獲れるようにしたいと思います。
──では最後に、この企画恒例である今日あった”ちょっとした幸せ”を教えてください。
坪井:今回、お客さんが結構入ってくれた(観戦に訪れた)こともあって、ファンとか色んな方が写真を撮ってくれて……。僕は走っているので(わからないが)、ピットの中の様子や(チームの)メカさんが喜んでいるシーンとか、僕らがピットに戻ってきてメカさんらと抱き合う瞬間とか、客観的に見ることができないものをSNSなどで写真として見た瞬間に、『ホントにチャンピオンを獲ったんだなぁ』とかとか『勝ったんだなぁ』とチームでがんばってきたんだなぁっていう瞬間を画として見ることができて、すごくうれしかったですね。
【SUPER GT あの瞬間】
SUPER GT 第8戦:坪井 翔(No.36 au TOM’S GR Supra)
文:島村元子
島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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