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優勝を果たしたGTNET MOTORSPORTS
今や日本のモータースポーツの中で欠かせない1戦となったスーパー耐久の富士24時間レース。最近ではスーパーGTやスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーが助っ人として、この1戦に登場したり、長丁場のレースを戦い抜くために、各チームもピット内に様々な工夫を凝らしている姿がみられた。
4度目を迎えたスーパー耐久の富士24時間レース。今年は初めて水素エンジンを搭載したマシンが登場し、マスコミも多数駆けつけるなど話題となったが、総合優勝争いに目を転じると、例年にないくらいのサバイバルレースとなった。
前日の予選が大雨で中止となり、ランキング順でグリッドが並べられ、ポールポジションからのスタートとなった777号車D’station Vantage GT3は開始2時間20分のところでクラッシュ。何とか自力でピットに戻ってきたが、修復にかなりの時間を要してしまい、早くも優勝争いから脱落となった。
さらに31号車LEXUS RCF GT3は開始4時間を過ぎてトラブルに見舞われトップ争いから脱落。9号車MP Racing GT-Rも夜10時30分ごろに他クラスと交錯しクラッシュ。マシンは一旦リペアエリアに運ばれて応急処置を行うと、その後も自チームのピットで夜を徹した修復作業に追われた。
序盤からトップを快走していた290号車 Floral UEMATSU FG 720S GT3も、レースの折り返しを迎えようというところで電気系のトラブルに見舞われコース脇に突然ストップした。この290号車と同じく序盤からトップ争いをくり繰り広げていた999号車CARGUY NSX-GT3は日曜日の午前6時を迎えるところでタイヤが外れるアクシデントに見舞われ、優勝争いから脱落してしまった。
そんな中、ST-Xクラスで唯一大きなタイムロスがないまま周回を重ね続け、ライバルの脱落の隙にトップに立ったのが81号車DAISHIN GT3 GT-Rだった。レース終盤は青空が広がり気温も急上昇したが、81号車は冷静かつ確実なドライビングで763周を走破して、エントラントであるGTNET MOTORSPORTSとしては3度目となる総合優勝を果たした。
GTNET MOTORSPORTSは堅実な走りで逆転を掴んだ。
昨年から2018年と2019年の富士24時間覇者であるGTNET MOTORSPORTSとDAISHINがコラボを組み、マシンのカラーリングもオレンジに変更。さらに今年は青木孝行が加わり、2001年の全日本GT選手権にてGT300王者となった大八木信行との“ダイシンシルビア コンビ”が復活し、大きな話題となったチームだ。
序盤はライバルたちが激しいトップ争いを繰り広げていた一方で、81号車は後方から淡々と周回を重ねている印象だった。だが、ここでの“無理をしない走り”が、総合優勝を掴む大きなきっかけとなったのだ。
「周りのチームはプラチナドライバーをスタートで起用してくる雰囲気でした。そこで僕たちはプラチナとか、プラチナと戦えるドライバーを入れたくなかったんですよ。そこで戦ってしまうとマシンへの負担が増えてしまいますからね」
そう語るのは、GTNET MOTOR SPORTSの尾本直史代表。2018年、2019年の総合優勝時も彼が指揮をとったのだが、そこでの経験が今回も存分に活かされた。
「(スタート時刻である)午後3時って、けっこう暑い時じゃないですか。そして、その時ドライコンディションだったら、マシンへの負担がけっこう大きくなるだろうなと思いました。夜のパートは青木選手や藤波(清斗)選手をメインにして、最初はAドライバーの大八木選手に行ってもらうというのを説明して、理解をしてもらってスタートに臨みました」
そんな中でスタートを務めた大八木は、トップ集団に大きく引き離されることなく最初のスティントを終えられたことも、後々の逆転劇への大きな原動力となった。また序盤からチーム全体でマシンを労わる走りに徹したことも後半に向けて余裕を生むこととなった。
多くのライバルチームはレースの折り返しを迎える深夜の時間帯に義務付けられている10分間のメンテナンスタイムを行っていたが、81号車は夜明けまで引っ張っていた。31号車のマシン炎上によりセーフティカーが導入されたタイミング、つまり周りのペースが落ちてタイムロスを少なくできる時にメンテナンスタイムを消化した。こういった動きもライバルにプレッシャーをかける要素となったのかもしれない。
こうして、土曜日の夜間走行に突入する時点では総合5番手を走行していたのだが、そこから徐々に順位を上げていき、日曜日の早朝にはトップを独走する形となった。
それでも、81号車の戦いぶりで特筆しなければいけないのが、独走状態を築いてからの後半戦だ。いくら大きなリードを持っているからといっても、ひとつのミスやトラブルで流れが大きく変わってしまい、最悪の場合は戦線離脱になってしまう可能性だってゼロではない。だが、81号車は逆にトップに立って集中力や緊張感を一段上げて、最後まで確実にレースを続けた印象があった。
GTNET MOTORSPORTSは淡々と、確実に周回を重ねていった。
特に毎回のルーティーンストップの際には、細かなトラブルの兆候がないかメカニックが念入りにチェック。残り1時間を切っての最終ピットストップでは、マシンをガレージに入れて細部を確認するという徹底ぶりだった。
そんなチームの漏れのない動きも尾本代表の徹底したメカニックへの声かけがあるからこそなのだ。
「もう、しつこいくらいに毎回言っています。多分みんな『うるさいよ!』と思っているでしょうね(苦笑)。でも、人間って忘れちゃうじゃないですか。僕でも正直忘れてしまいますからね。だから今回もしつこく言いましたね」
「それでも何か作業が遅れたりとか、ペナルティにはならなくても上手くいかなかったと感じることもありました。そういうのを早めに出しちゃって、次のルーティーンをしっかりやるように心がけていました」
こうして独走で総合優勝を勝ち取った81号車だったのだが、決して順風満帆なレース運びではなく、実際には優勝争いからいつ脱落してもおかしくないトラブルが起きていた。夜間走行に入ったところで電気系のトラブルでディスプレイの表示がおかしくなり、シフトポジションをはじめとした様々な情報が分からない状態になっていたのだ。さらに燃料系統にも異常が発生し、最悪の場合マシンがストップしてしまう可能性もあった。
普通なら緊急ピットインをして修復作業に入るのだが、そこで“諦めない”という選択肢をとったのが、今はこのチームに欠かすことのできないドライバーに成長した藤波清斗だった。
「僕のスティントの時にトラブルが起きて、緊急ピットインの話も出ました。でも、そうすれば勝負権がなくなってしまうので、ギリギリのところまでコース上に残って対処して、何とかトラブルをごまかしながら走れる方法が見つかりました。あそこを切り抜けられたのは大きかったです」
2018年と2019年の富士24時間での総合優勝に大きく貢献した藤波。昨年も81号車の一員として参戦したが、レース後半の不運なアクシデントにより勝機を逃したのだが、それが本人の中で物凄く悔しい敗戦として刻まれた。それもあってか、今年は事あるごとに「今年は絶対に富士24時間で勝ちたい!」と強調してコメントしていたのが印象的だった。
昨年スーパー耐久に復帰したTeam DAISHINにとっては初の富士24時間制覇となった。
その想いがあったからこそ、81号車に見舞われた最大のピンチを切り抜けた原動力になったことは間違いない。
富士24時間レースも4回目を迎え、各クラスともレベルがどんどん上がってきており、よりシビアな戦いが展開されるようになったが、4回中3度の総合優勝という実績を見ても分かる通り、GTNETが完全に頭ひとつ抜けた“強さ”を持っていることが、今回の戦いぶりで証明された感があった。
来年はどんなチームが現れ、彼らに挑戦を挑んでいくのか。そこは楽しみな部分ではあるのだが……この“絶対王者”の壁を崩すのは、そう簡単にはいかないだろう。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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