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2021スーパーフォーミュラ第3戦レビュー|ジュリアーノ・アレジ、SF初優勝という快挙の裏にあった“貪欲な姿勢”
モータースポーツコラム by 吉田 知弘嬉しいスーパーフォーミュラ初優勝を果たしたジュリアーノ・アレジ(左)と舘 信秀監督(右)
オートポリスを舞台にした2021年のスーパーフォーミュラ第3戦。悪天候により途中でレース終了が宣言される大荒れの展開となったが、新たなヒーローが誕生したレースとなり、大きな注目を集める1戦にもなった。
昨年はコロナ禍の影響で11月開催となったオートポリス大会。今年は5月中旬に開催日程が戻されたのが、ちょうど公式予選が行われた5月17日に、九州地方に梅雨入りが発表された。これは平年より3週間も早く、1954年に記録された5月13日頃に次ぐ、統計史上2番目に早いものだった。
この影響もあり、予選・決勝日ともに朝から大荒れの天気となってしまった。特にオートポリスは山間部に位置しているため、天候が不安定になりやすく、特に日曜日は霧に悩まされる。予選からアクシデントが絶えないレースウィークとなったのだが、そんな中で大活躍を見せたのがジュリアーノ・アレジ(Kuo VANTELIN TEAM TOM’S)だ。
これまではヨーロッパを主戦場にして戦っていたのだが、今年から日本のレースに本格参戦を開始。まず1年目である2021年は“勉強の年”と捉えており、スーパーフォーミュラ・ライツとSUPER GT(GT300)にエントリーしている。しかし、TOM’Sの36号車のレギュラードライバーである中嶋一貴が、WEC(世界耐久選手権)参戦の兼ね合いで、いくつかのスーパーフォーミュラのレースを欠場することになり、その代役としてジュリアーノがエントリー。第2戦の鈴鹿に続いて、今回もSFライツとのダブルエントリーという多忙なスケジュールをこなしていた。
SFライツ第8戦では2位。名取鉄平に次いでシーズンランキング2位につけている。
そんな中、予選では雨量が強くなる直前に渾身のアタックを披露し、1分38秒252をマークしポールポジションを獲得したジュリアーノ。決勝では抜群のスタートを決めてトップを死守すると、後続のライバルを寄せ付けない走りで周回を重ねていった。しかし、レースが進むにつれて天候状況が悪くなっていき、11周目にセーフティカーが導入。13周目に入ったところで赤旗が出された。
その後も、レース再開を目指して天候回復を待ったが、残念ながらその見込みはなく、16時30分にレース途中終了が発表された。今回は42周で争われる予定だったが、この途中終了により、全体の75%(32周)をクリアできなかったため、ポイントは半分のみ与えられることとなった。それでもレース結果としては正式に残るため、ジュリアーノのスーパーフォーミュラ初優勝がここで決まったのだ。
来日して、国内トップフォーミュラ参戦2レース目、さらに言うとオートポリスのコースも初体験だった中での初優勝……。特に彼の父は元F1ドライバーのジャン・アレジ氏、母は女優として大活躍した“ゴクミ”こと後藤久美子さんということもあり、その日は様々なメディアが彼の快挙を取り上げ、大きな話題となった。
その一方で、彼のレースウィークを振り返ると、様々な幸運があったことも事実だ。まずは予選ポールポジション獲得の一番の要因と言われたのが“ピットの位置”だ。スーパーフォーミュラでは、前年のチームランキング順で、ピット出口側から並んでいくこととなり、前年チームチャンピオンのTOM’Sは一番出口側に陣取っていた。またコースオープンの際は、ピットレーン場での混雑を避けるため、グリーンシグナルが点灯する前のファストピットレーンへの車両進入は禁止となっているほか、基本的にはピット出口側から順にコースインしていくこととなっている。つまり、ジュリアーノは毎回、先頭でコースインができたため、一番最初にタイムアタックができた。
厳しいコンディションではあったが、強い走りでポジションをキープしたジュリアーノ・アレジ
実際にジュリアーノがタイムを記録した直後にアクシデントが発生し赤旗中断になることが多く、なかにはタイムアタック中で区間タイムでは全体ベストを記録していたにも関わらず、赤旗でタイムアタックを中断せざるを得なかったドライバーがほとんどだった。
そこは、結果をみてもTOM’S勢が有利だったことは否めないのだが、それだけチャンスがあってもミスをして、結果につなげることができないケースも少なくはない。特にジュリアーノは日本のコースやレースに不慣れな部分が多く、路面はウェットコンディション。さらに雨量も刻々と変化しており、経験あるドライバーでも状況を見極めるのが難しい状況だった。いくら一番最初にアタックできるとはいえ、ミスをしてしまうリスクは十分にあったのだが、そのなかできっちりと1周をまとめてくることができたという点は、彼の実力と言えるのかもしれない。
もちろん、SFライツとのダブルエントリーも少なからず役に立っていた。SFライツは大会前に膨大な練習走行時間が設けられており、ジュリアーノのも水曜日に現地入りして木曜日からオートポリスを走り込んでいた。この予選の前にもSFライツのレースに参加しており、ウェットコンディションも経験済み。それも今回の快進撃を支える大きな要素になったことは間違いない。ただ、これも前述と同じように、チャンスをモノにできなければ意味がない。限られた時間で得られた経験を、すぐに“自分の引き出し”にして、走りに繋げていったところは流石だと思う。
そして、何より“貪欲な姿勢”が、この結果につながったと言えるかもしれない。これまでのジュリアーノへの取材を振り返ると、それが垣間見える場面がいくつかあった。取材のたびに彼は「今年は僕にとって日本のレースを勉強する年なんだ」と繰り返しコメントしている。同じモータースポーツとはいえ、ヨーロッパの環境と日本のそれとは大きく異なる部分がある。全て新しく学び直すという姿勢が、短期間での彼のパフォーマンスアップにつながっている。
毎レース進化を遂げているジュリアーノ・アレジ
スーパーフォーミュラの36号車を担当する大立健太エンジニアに聞くと、ジュリアーノはマシンのセットアップのせいにするのではなく、まずは自分自身のドライビングに焦点を当て、そこでの改善やタイムアップを常に目指しているという。さらに走行機会という点ではSFライツと比べると格段に少ないのだが、各セッションで見つかった課題や反省点にしっかりと向き合い、次の走行では確実な進化を見せてくれるとのことだ。
その貪欲な姿勢は、このオートポリスでの記者会見コメントでも垣間見ることができた。予選ポールポジションを獲得した後、ジュリアーノが繰り返し強調していたのが「良いスタートを切ること」だった。
スーパーフォーミュラ初戦となった第2戦鈴鹿では、スタートを失敗してしまい、一時は最後尾近くまで順位を落としてしまった。そこから前のマシンを次々と追い抜いていき、ポイント圏内でフィニッシュすることはできたのだが、ジュリアーノにとっては「スタートの失敗」が大きな課題となった様子。クラッチミートのポイントなども見直し、このオートポリスに臨んでいた。
優勝後の記者会見でも「今日はグッドスタートが切れて本当に嬉しかった」とコメントし、前回の課題克服をどれだけ重要視していたかを感じ取ることができた。
これらのことを加味すると、ジュリアーノの初勝利にはラッキーだった要素もたくさんあったのだが、そのラッキーを一発で活かすだけの準備と実力を持っていたことが、最大の要因だったのかもしれない。
いきなりの初優勝ということで、これからスーパーフォーミュラでの活躍に期待がかかるのだが、ジュリアーノはあくまで“代役”という立場だ。
しかし、このレースを見た舘信秀監督も「ジュリアーノのこれからがすごく楽しみになってきました。SFライツからじっくりと時間をかけて育てていきたいなと思ってましたが、すぐにでも(スーパーフォーミュラで)いいような気持ちがして……中嶋一貴には申し訳ないけど(笑)」と記者会見でコメントするほど。それだけ、ジュリアーノが今回披露したパフォーマンスが、いかに素晴らしいものだったのかを物語っている。
36号車に関しては、基本的に中嶋一貴がレギュラーとして乗ることになると思うが、ジュリアーノの日本での挑戦はまだまだ始まったばかり。本人も「僕はまだ勉強している最中」と謙虚な姿勢をみせ、さらなるスキルアップを目指している。
父と母が著名人なだけに、来日当初は“親の七光り”という意見も聞こえてはいたが、早速その声を払拭するパフォーマンスを見せ始めているジュリアーノ。今シーズンに限らず、これからが非常に楽しみなドライバーである。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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