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国内唯一の24時間耐久レースとなるNAPAC富士SUPER TEC 24時間レース
今年も国内唯一の24時間レースの季節がやってきた。5月21日~23日に富士スピードウェイでスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankookの第3戦「NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース」が行われる。
4回目を迎えるスーパー耐久の富士24時間レースだが、すっかり国内モータースポーツの風物詩として、早くも年間カレンダーの中では欠かせない存在となりつつある。開催初年度は各チームとも手探りの部分が大きかったが、2回目以降はそれぞれが工夫を凝らし、24時間を快適に過ごせるような設備を用意するなど、トラブルやアクシデントに迅速に対応するべく、そのマシンと同型の“パーツ取り車”を準備するチームも増えている。
また、24時間と長丁場であるためレギュラードライバーに加えて“助っ人”を用意するチームが大半なのだが、最近ではSUPER GTのGT500クラスやスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーが参加するなど、豪華な顔ぶれとなっている。今年は元F1ドライバーでWEC(世界耐久選手権)でもチャンピオンを獲得した小林可夢偉がST-Qクラスに参戦。実はコロナ禍の影響もあり、今季はスーパーフォーミュラにレギュラーエントリーしているものの開幕3戦連続で欠場を余儀なくされていた。そのため、小林が今季日本でレースをするのはこれが最初。そういう意味でも注目が集まる1戦になりそうだ。
小林可夢偉は水素エンジン搭載するカローラ・スポーツ(ORC ROOKIE Racing)にて参戦する。
過去のレースを振り返ると、様々なドラマが生まれたことでも知られている。開催1回目となった2018年には序盤のアクシデントでNo.59 DAMD MOTUL ED WRX STIの右側のドアが大きくへこんでしまったのが、チームは急きょサーキットへの移動用として使っていた市販のWRXのドアを外し、59号車に移植。もちろん、SUPER GTなどで絶対に見られない光景ということもあり、大きな話題となった。
昨年大会、奇跡の逆転優勝を遂げたNo.888 HIRIX GOOD DAY RACING AMG GT3。
また昨年の富士24時間では、No.888 HIRIX GOOD DAY RACING AMG GT3がピット作業中に火災に見舞われるアクシデントが発生した。何とか火は消し止められたが、修復のためマシンはガレージイン。優勝争いから完全に脱落かと誰もが思ったが、見事復帰を果たし、大雨となったナイトセッションで挽回。大逆転で総合優勝を飾った。
この他にも、語り尽くせないほど様々なドラマが生まれたのだが、この富士24時間での活躍をきっかけに、他のカテゴリーでもチャンスを掴んでいるというドライバーも少なくない。その中でも有名なのが藤波清斗だ。GTNET MOTOR SPORTSからST-Xクラスにエントリーし、2018年、2019年と2年連続で総合優勝を獲得。特に2018年には1人で合計10時間以上の走行を担当するなど、その貢献度は大きなものがあった。
藤波にとって飛躍の切っ掛けになった2018年大会。富士24時間は若手ドライバーのステップアップの場にもなっている。
そこでの活躍が評価され、昨年はSUPER GTのGT300に参戦するKONDO RACINGのシートを獲得し、見事シリーズチャンピオンに輝いた。藤波は今年もNo.81 DAISHIN GT3 GT-Rのメンバーとして参戦する。自身の飛躍のきっかけとなったレースだけに、今年も総合優勝は必ず獲りたいと意気込んでいた。そして藤波のように、この富士24時間で活躍し、次のステージにステップアップしていく新たな若手ドライバーが現れるのか……こちらも注目である。
そんな中で迎える2021年の富士24時間なのだが、一番の注目ポイントはタイヤが変わったことだ。スーパー耐久は今年からオフィシャルタイヤサプライヤーを韓国に本拠地を構えるハンコックに変更した。ワンメイク供給に関しては実績のあるタイヤメーカーで、最近の例で行くとDTM(ドイツツーリングカー選手権)に参戦する全車の足元を支え、フォーミュラEにも2022-2023シーズンからの供給が決まっている。
ただ、これまで使っていたピレリとは異なる部分も多く、セットアップや走らせ方、戦略なども見直しをしているチームがほとんどだ。さらにコロナ禍の影響で、昨シーズンのスケジュールが変則的なものになってしまった。そのため、準備のために必要なシーズンオフの期間が極端に短くなり、各チームとも十分なデータを集められないまま開幕戦を迎えた。
第2戦まで終了し、それなりに対処法は掴みつつあるようだが、今回は24時間の長丁場で、天候も雨絡みになるのではないかという予報も出ている。未知数な部分が多い中で迎えるレースということもあり、波乱含みの展開になっていく可能性は十分にありそうだ。
さらに参戦マシンも昨年と比べると車種が増えて豪華なラインナップとなっている。おそらく総合優勝嵐を繰り広げるST-Xクラスには日産GT-R、アストンマーティン ヴァンテージGT3、レクサスRCF GT3、マクラーレン720S GT3のレギュラー参戦メンバーに加えてホンダ NSX GT3、アウディR8 LMSも参戦。計6車種によるトップ争いになりそうだ。
また今シーズンは新たにST-Qクラスには、ROOKIE Racingの2台が参戦。レギュラー参戦している28号車のGRスープラに加えて、開幕2戦はGRヤリスでST-2クラスを戦っていた32号車もエントリーすることになった。
使用するマシンは、水素エンジンを搭載したカローラ・スポーツ。“カーボンニュートラル”が世界的に叫ばれ、モータースポーツ界でも動きが少しずつ始まっている感がある。その中で、この水素エンジン車の24時間レース参戦は、次世代に向けた大きな一歩となりそうだ。このマシンには前述で紹介した小林可夢偉が乗り込むほか、MORIZOことトヨタの豊田章男社長もエントリー。社長自らが次世代のマシンのステアリングを握り、サーキットを駆け抜けることとなる。どんな走りをみせるのか、興味津々だ。
32号車は参戦に向けてピット裏に水素ステーションを設置。15〜20分くらいの間でピットインしていく予定だ。
その他も、今年は台数が大幅に増えたST-Zクラスや、全クラスで最も参戦台数の多いST-5クラスの激戦からも目が離せないなど、見どころは盛りだくさんだ。
今年もJ SPORTSでは富士24時間レースの模様を生中継する。現地に来られなくても、週末はぜひご自宅から24時間レースをお楽しみいただきたい。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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