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ディフェンディングチャンピオンとして臨む今シーズン。王者としての強さが表れた開幕戦の逆転勝利だった。
開幕戦から各所で白熱のバトルが繰り広げられている2021年のSUPER GT。GT500クラスではトヨタGRスープラ同士のトップ争いで盛り上がったが、GT300もそれに負けず劣らずの緊迫したトップ争いとなった。
特にレース後半は、トップ4台が接近し、いつ順位が入れ替わってもおかしくない緊迫した争いになったが、その中で逃げ切って優勝を飾ったのが、昨年のGT300王者である藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組のNo.56 リアライズ日産自動車大学校GT-Rだった。
途中のピットストップで逆転を果たし、後半担当のオリベイラが、集中力を切らさずにトップを守り切ったことにスポットライトが当たったが、その相方である藤波の堅実な走りも、56号車の大きな勝因となっている。
ここ数年はスーパー耐久を主戦場にしてきた藤波だが、キャリア当初はミスをすることも少なくなかった。SUPER GTでも2017年にレギュラーシートを獲得したが、それもわずか1年で失うことになり、同年はスーパー耐久でもミスを連発し、勝てるレースを落としてしまう場面もあった。
そんな彼にとって転機となったのが2018年。国内で10年ぶりに開催され注目を集めた富士24時間レースだ。それまで肝心なところでミスをしてしまうシーンが目立っていた藤波だが、終始冷静なドライビングを披露。合計で10時間30分の走行時間を担当し、チームを総合優勝に導いた。
飛躍の切っ掛けとなったのは2018年の富士24時間レースだった。
チームメイトだった星野一樹も藤波の走りを高く評価するなど、着実に国内のツーリングカーレースで存在感を披露するようになった。
そこで自信をつけた藤波は、チームの快進撃に大きく貢献し、その年のST-Xクラスチャンピオンを獲得。翌2019年も富士24時間レース総合2連覇の立役者となり、年間2連覇の座を勝ち取った。
こうした実績が積み重なっていき、気がつくと「富士スピードウェイで日産GT-R GT3といえば藤波清斗」と言われるようにもなったが、その周囲の評価に彼自身はおごることはなかった。
「少しでも気を抜いたらダメだった頃に戻ってしまうと思っています。そういうことがないように今でも意識しています。やっぱりイメージを変えていくのは難しい反面、(信頼を)失うのは簡単。その中で……ここ1~2年でイメージを少しずつ変えられたのかなと思います」
スーパー耐久で結果が出れば出るほど“気を抜いちゃいけない”と強く意識するようになった藤波。そうした地道な努力が評価され、2020年はKONDO RACINGのGT300シートを獲得すると、シーズン2勝を挙げてGT300チャンピオンに輝いた。
7チームにチャンピオン獲得の権利がある状態で迎えた昨シーズンの最終戦。藤波(右)、オリベイラ(左)のアグレッシブな走りで王者の座を掴んだ
ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ2021年開幕戦の岡山。そこには昨年以上に気合いが入っている藤波の姿があった。2年連続チャンピオンを強く意識しており、そのために各レースをどのように戦っていくかを常に考えている様子だった。
タイトル防衛を目標に掲げるのは当然のことだが、藤波の中にはそれ以上に達成したい新たな目標がある。GT500クラスへのステップアップだ。
本人は表立ってコメントはしていないが、その想いは今年に入ってから人一倍強くなっているというのは、取材しているこちらにもひしひしと伝わってくる。そのために、今年どんな走りをして、どういう結果を残さなければいけないのか……。それがしっかりとイメージできているという雰囲気だった。
その力強さが開幕戦から存分に発揮された。当初はライバル陣営が速さを見せるのではないかと思われた中で、オリベイラとともに予選4番グリッドを獲得すると、決勝ではスタート直後の混戦でひとつポジションを上げて3番手に浮上。好ペースで周回を重ねるトップ2台から引き離されることなく、必死に食らいついていった。
前半スティントでトップに立つことはできなかったが、常に射程圏内に留まっていられたことが、ピットストップでの逆転を可能にしたとも言える。
「テストの時と比べて気温や路面温度が全然違って、正直『どうなるんだろう?』と不安もありました。ただレースウィークが始まってみて、予想以上にクルマのコンディションだったり選択したタイヤとのマッチングも良い感じでした。レースでもライバルに離されることなく、ついていけました。ちょうどセーフティカーのタイミングでピットに入りましたが、メカニックの作業が完璧で、そこで逆転できました」
開幕戦ではSCで大混雑したピット作業でトップに躍り出た56号車。チームワークで掴んだ1勝となった。
「後半はJP(デ・オリベイラ)選手が力強い走りをしてくれることは分かっていたので、僕が第1スティントで感じたクルマのフィーリングやタイヤの状況を無線で伝えてもらって、JP選手もその情報を元にコントロールしてくれて、最終的に優勝ができたのかなと思います」
レース後の記者会見でそう語った藤波だが、昨年にも増して自信を深めた表情をしていたとともに、ここでも“チャンピオン”を意識するコメントをしていたのが印象的だった。
「これから先、タフなシーズンになっていくと思いますが、とにかくチャンピオン獲得のためにもポイントの取りこぼしが絶対にないようにしたいと思っています。次戦はサクセスウェイトを積んでのレースになり、難しい状況になると思いますが、チーム一丸となって頑張っていきたいです」
このレースもそうだが、昨年56号車が勝利したレースを見ても、後半のオリベイラの活躍に注目が集まりがちだが、前半スティントでしっかりと流れを作った藤波の走りも、56号車の勝利に大きくつながっていたことは間違いないだろう。
そして迎える第2戦富士。56号車は開幕戦で優勝したことにより60kgのサクセスウェイトを背負ってのレースとなる。さすがに、ここまで積んでしまうと上位進出というのは一筋縄ではいかないだろうが、どんな状況であっても1ポイントでも多く稼いでいくことが、チャンピオン獲得のためには欠かすことができない要素となる。その中で、どんなパフォーマンスを披露してくれるのか。56号車にとっては早くも正念場の1戦となりそうだ。
もちろん、“次のステップ”を狙う藤波にとっても、腕の見せどころの1戦となる。昨年からさらに成長を遂げている彼の走りから、目が離せない。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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