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2020インタープロト&KYOJO CUP|第4大会レポート:各レースとも最終ラップまで王座争いが白熱!果たして、栄冠を手にしたのは?
モータースポーツコラム by 吉田 知弘今シーズン最終戦となったインタープロト第4大会
新型コロナウイルスの影響で、2020年のインタープロトシリーズ powered by KeePerとKYOJO CUP Supported by MUSEE PLATINUMの最終大会は、年をまたいだ2021年の1月末に開催された。
舞台となった富士スピードウェイでは、大会2日前に降雪が確認されるなど、無事にレースができるか心配する声もあったが、当日は朝から青空が広がり、シリーズ最終戦にふさわしい熱戦が繰り広げられた。
【インタープロト:プロクラスは福住仁嶺が連勝し、初戴冠】
インタープロトシリーズのプロフェッショナルレースは予選から白熱したタイムアタックバトルが展開され、上位8台がコースレコードを更新し、そのうち7台がトップから0.2秒以内にひしめく大接戦となった。インタープロトは全チームが同じ車両・タイヤを使用するワンメイクレースなのだが、それにしても、ここまで接戦になるのは珍しく、ドライバーたちからは「SUPER GTやスーパーフォーミュラに負けないくらい熾烈な戦いをしている」という声も聞こえてきた。
その中で、ポールポジションを獲得したのが佐々木大樹(#88 TOMEI SPORTS)だった。自身のレースキャリアでも久しぶりのポールポジションとのこと。「昨年は本当に何もかもが苦しいシーズンだったので、2021年の年が明けて流れが変わったという感じがして、嬉しく思います」と笑顔をみせていた。
一方、チャンピオンに王手をかける福住仁嶺(#37 K-Design)は3番グリッドを獲得。ポールポジションこそ獲得はできなかったが、王座獲得を考えると悪くないポジションなのだが、ランキング2番手につけるロニー・クインタレッリ(#16 TOMEI SPORTS)が2番グリッドを手にしていたため、福住もかなり警戒した様子でスターティンググリッドについていた。
そのまま午後に行われた決勝レースでは、そのチャンピオンを争う福住とクインタレッリが1周目から激しいバトルを展開する。TGRコーナーからコカ・コーラコーナーにかけて佐々木を攻略した2台は、接近戦のままダンロップコーナーに進入。ここはクインタレッリがトップを死守したが、福住も負けじと食らいついてGRスープラコーナーでトップに浮上した。
2周目以降は2番手以下が集団になってバトルしている間に、福住が大きなギャップを築き、そのままシーズン3勝目をマーク。そして、この瞬間に2020シーズンのシリーズチャンピオンに輝いた。
シリーズチャンピオンに輝いた福住仁嶺(#37 K-Design)
その後に行われた第8戦決勝も、序盤から福住がリードする展開となったが、後方でアクシンデントがあり、セーフティカーが導入されることとなった。これで福住のリードがリセットされただけでなく、2番手に浮上していたのは昨年の王者である坪井翔(#32 GR Garage Yokkaichi)だった。2020シーズンはトラブルでリタイアもあるなど歯車が噛み合わず、シリーズ連覇とはならなかったが、なんとか最終戦で一矢報いる走りをしようと福住の背後で再スタートの時を待った。
残り1周というところでレースが再開されると、2台によるハイレベルなマッチレースが展開された。ここぞとばかりに坪井が攻め立てたが、福住も横に並ばれまいと集中した走りを披露。結果的に順位の入れ替わりはなく福住が最終大会を2連勝で終えたのだが、非常に中身の濃い1周だった。
パルクフェルメでマシンを降り、ようやく安堵の表情をみせた福住。昨年は自身が参戦するSUPER GT、スーパーフォーミュラで悔しさが残るシーズンを過ごしただけに、カテゴリーは違うものの、1つ大きな結果を獲得することができた瞬間だった。
福住仁嶺(#37 K-Design)
「今シーズンは表彰台に乗りつづけて、どのサーキットでも調子が良かったです。クルマの仕上がりも良かったです。とにかくチームの皆さんに感謝したいです。やっぱり、どのカテゴリーにおいても優勝するというのは大事だと思います。僕も確実にステップアップして成長していっていると思うので、常に自分を追い込んで頑張りたいです」(福住)
変則的なスケジュールということもあり、これが2020シーズン最後のレースとなった福住だが、彼自身の頭の中では、これが“2021年の始まり”と捉えている。この勝利をきっかけに、彼の主戦場であるSUPER GTやスーパーフォーミュラでの活躍に拍車がかかることだろう。
【最終コーナーまで盛り上がったジェントルマンレースの王座争い】
インタープロトシリーズでは、プロドライバーたちのレースの前に、同じマシンで戦うジェントルマンドライバーたちのレースが開催されるのだが、こちらもチャンピオンをかけた激闘で盛り上がった。
なかでも注目が集まったのはインタープロトのエキスパートクラス。第3大会を終えて前年王者の永井秀貴(#32 GR Garage Yokkaichi)が首位につけていたのだが、最終大会の予選でポールポジション獲得したのは、永井を2ポイント差で追いかける山口達雄(#44 NAVUL)だった。
午後の決勝レースで、より多くのポイントを稼いだ方がチャンピオン。プロフェッショナルクラスに劣らないくらいハイレベルな“直接ガチンコ勝負”が始まった。
スタートでトップを守り切った山口。後方でスピンした車両もあって混乱が見られたため、一時はある程度のギャップを築くことができたが、そこにすぐ追いついてきたのが永井だった。ここから毎ラップに渡ってサイドバイサイドのバトルが展開された。
永井はスリップストリームを利用してTGRコーナーで勝負を仕掛けようとするが、山口も攻め込まれないようにうまくラインを考えた走りを披露しトップを死守。永井も最終ラップにベストタイムを更新したが、逆転することはできず、1レース目は山口がトップチェッカーを受けた。
熾烈なバトルを繰り広げた永井と山口
これで、もう後がなくなった永井は、2レース目に入ると、さらに積極的に攻めていき、一度思い切ってインからTGRコーナーに飛び込むも、山口が冷静にクロスラインの対応をして順位は入れ替わらなかった。永井は0.3秒前後の間隔で背後に食らいつき、再三再四とプレッシャーをかけ続けたが、山口は全くミスすることなく最終ラップに突入。お互いがベストラップを更新しあうなど、最後まで気を抜かない走りをみせたが、山口が0.590秒差で逃げ切って2連勝を飾った。これにより永井を逆転して、インタープロトのエキスパートクラス王者に輝いた。
「最終戦では平川亮選手から『とにかく落ち着いてまとめなさい』と言われて……難しかったですけど、なんとか勝つことができました。本当にチャンピオンが獲れて嬉しいです」と山口。
これまではCCS-Rで活躍しており、2020シーズンからインタープロトの車両に挑戦を始めたのだが、初めてマシンに乗った時はクラッチをうまくつなげることができず発進もできなかったとのこと。それでも、コツコツと練習を積みかせていき、パートナーを組むプロドライバーの平川亮のアドバイスを受け、頂点の座をつかんだ。
ジェントルマンレースは年々レベルが高くなっている
一方、僅差で敗れた永井は「色々トライしたんですけど、山口選手のブロックもお上手で、抜くことはできませんでした。良いレースはできたかなと思いますけど……悔しいですね」とコメント。レース後は常に山口を讃えつつも、その心の中にある悔しさを隠しきれない様子なのが印象的だった。
2013年から始まったインタープロトシリーズの、もうひとつのメインイベントであるジェントルマンレースなのだが、年々レベルが上がってきており、特に2020シーズンは手に汗握る接近戦のバトルが何度も見られた。この最終大会は、それを象徴するレースだったと言えるだろう。
2021シーズンはどういった顔ぶれになるか分からないが、また彼らの再戦を観てみたい……そう、心から思える最終大会のバトルだった。ぜひ、今後はプロフェッショナルレースだけでなく、ジェントルマンレースにもご注目いただきたい。
【KYOJO:目の前の勝利が欲しい!三浦と翁長の意地がぶつかり合った最終戦】
そして4シーズン目を迎えたKYOJO CUPも、王座をかけた激戦が展開された。
第3戦を終えて、#38 三浦愛(LHG Racing YLT)がライバルに大きく差をつけてランキング首位を快走。予選でもポールポジションを奪い、彼女のチャンピオンはほぼ確実だろうと、誰もが確信し始めていた。
しかし、いざ決勝が始まると、そこに待ったをかけるドライバーがいた。#37 翁長実希(KeePer VITA)だ。
2周目に三浦がシフトミスを犯し、一瞬失速したところを見逃さなかった翁長は、ダンロップコーナーでオーバーテイクしトップに浮上した。2番手に下がった三浦は、このままの順位でもチャンピオンを獲得できる。でも、一番欲しいのは“目の前の勝利”。翁長との間合いを詰めていき、5周目にトップを奪い返した。
好バトルを繰り広げた三浦と翁長
“勝ちたい”という気持ちは翁長も同じ。彼女は、すでに自力での逆転チャンピオンの可能性が絶たれているのだが、最終戦は三浦の前でチェッカーを受けたいと果敢に攻めていき、5周目のGRスープラコーナーでトップを奪い返した。
レース後半は翁長がリードする展開となったが、三浦もペースを緩めず。お互いにファステストラップを塗り替え合うマッチレースを披露した。
もちろん、チャンピオンも重要なのだが、それ以上に“目の前のレースに勝ちたい”、“目の前のライバルに負けたくない”。その想いが彼女たちの走りから伝わってくる中身の濃いバトルだった。
結局、最後までトップを守り抜いた翁長が今季2勝目をマーク。2位の三浦がKYOJO CUP初チャンピオンを獲得した。
2台がパルクフェルメに戻ってくると、真っ先にお互い歩み寄って健闘を讃えあっていた。
レース後健闘をたたえ合う三浦(左)と翁長(右)
「三浦選手とのバトルは、ギリギリの中で戦えましたし、シーズンを通して一緒に戦えたことが自分の中ですごく糧になっています。もっともっと頑張らなきゃなと思いました。決勝ではしっかりとトップでチェッカーを受けられましたが、次に向けて自信になったところ、課題になったところもあったので、これからもっと強くなるためにも勉強になった1戦でした」(翁長)
「決勝では2周目にシフトミスをして失速してしまい、翁長選手に抜かれてしまいました。あれがなければ単独で逃げて勝つことができたかもしれません。もう一度トップに立つことはできましたが、翁長選手のクルマも調子が良さそうでしたし……“チャンピオン”というのをすごく意識していました。ここで無理をするより、最後しっかりとチェッカーを受けることを考えて、少し冷静になれたのかなと思います。最終戦も勝って終わりたかったですが、私にとってはカートの自体も含めて初めてのチャンピオン獲得なので、嬉しいですね」(三浦)
レース人生で初のチャンピオン獲得となった三浦愛
全日本F3選手権の経験者である三浦がKYOJO CUPに参戦したことで、他のドライバーに大きな刺激となったことは間違いなく、開幕戦から「三浦愛を超えるんだ!」という想いでライバルたちが努力してきた。翁長のみならず、3位に入った#86 猪爪杏奈(Dr.DRY VITA)や、終盤までトップ争いに加わっていた辻本始温(#14 オグラクラッチ☆VITA-01)など、KYOJOドライバーたちの著しい成長がみられた1年だった。
【放送情報】
インタープロトシリーズ&KYOJO CUP第4大会の模様をハイライトでお送りいたします。
初回放送:2月22日(月)午後9:30~ J SPORTS 3 / J SPORTSオンデマンド
詳しい放送予定は
https://www.jsports.co.jp/program_guide/05/06/87478_3238403/
番組サイト
https://www.jsports.co.jp/motor/inter_proto/
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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