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2019年の全日本スーパーフォーミュラ第3戦SUGO。週末を通して様々な波乱があったが、その中で際立った走りを見せたのが2018年のシリーズチャンピオンである山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だった。
金曜日の専有走行から良い手応えを感じていた山本は、今回2グループ制で行われたQ1のB組でトップ通過を果たすと、続くQ2では1分03秒953を叩き出しコースレコードを更新した。最終Q3ではクラッシュ車両が発生し赤旗中断。残り時間はまだ残っていたが、そのまま予選終了のアナウンスが出され、それまでに好タイムを記録しており今季初のポールポジションを獲得した。
十分な説明がないまま赤旗中断からセッション終了となり、山本も納得いかない表情を見せたが、今週末の彼の好調ぶりを考えると、仮に最後まで予選が行われていたとしても彼がポールポジションだった可能性が高かったことは間違いないだろう。
そして何より圧巻だったのが決勝レースだ。山本はスタートからゴールまで全く危なげない走りを見せ、後続を寄せ付けない力強い走りをみせた。レース後には関係者やファンから「チャンピオンらしい完璧な走りだった」と彼を賞賛する声が多かったが、その裏にはしっかりとしたレースの組み立てと一貫した“テーマ”があったのだ。
ポールポジションから抜群のスタートを決めトップを死守した山本は、1周目から後続を引き離しにかかった。予選までのパフォーマンスを考えると、後続を順調に引き離し独走状態になるかと思われたが、彼は“あえて”そうしなかったのだ。
実際にレース序盤のラップタイムをみると、2番手のルーカス・アウアー(B-MAX Racing with motopark)、3番手の牧野任祐(TCS NAKAJIMA RACING)の方がペースが良く、10周目を終えた段階での山本とアウアーの差は、わずか2秒。逃げるつもりが逆に彼らを引き離せていないように見えた。しかし、この状況は山本にとっては“計算通り”の展開だったという。
「1周目で(後ろに)抜かれないだけのギャップを広げられれば、(ペースを)コントロールしようと思っていました。確かに今年のソフトタイヤの持ちはいいですが、必要以上に攻めてタイヤを消耗させてしまうと、(勝負どころで)ペースを上げられなくなってしまいます。それは勝つための戦い方ではないです。」
「ソフトで長く走ろうと思っていたので、タイヤをケアすることも考えていました。だから、抜かれることがないギャップを1~2周で作れたら、そこからは詰められても抜かれないギャップでコントロールしていました」
「最初はルーカス選手も調子よく走っていて、きっと全力で僕を追いかけてくるだろうと思ったので、逆に彼に背後に来てもらってタイヤを消耗させようという考えもありました。ただ、思ったほど彼のペースが上がってこなかったので、それを見て一気にペースアップして1分08秒台前半で走りました」
自分の状況だけでなく、トップを争うライバルの状況まで先読みしてレースを進めていた山本だが、途中“マズイな”と思った瞬間があったという。それが周回遅れのマシンだ。
「1周目にピットインするクルマがいるだろうなとは思っていましたが、例えば2番手の野尻選手がピットインして出てくるのと、最後尾の選手がピットを終えて出てくるのでは(コース上での位置関係が)全然違ってきます。後ろのクルマが早めにピットインしたら、早めに周回遅れに引っかかるだろうなとは思っていました。ただ、周回遅れのクルマのことを考え出してしまうと、逆に僕たちの戦略の幅が狭くなってしまいます」
「(先にピットインして)誰もいないクリアなところで走れるとずっと安定して速いんですが、今回はスタートを決めて逃げ切るレースを前提で考えていました。そうするとバックマーカーに何回も引っかかって、(引っかかると)ペースが簡単に1秒落ちてしまいます。そこは勿体なかったし、それがあればもっと楽をしてレース後半のピットインを迎えられましたが、トップにいるとそういうことも起きるので、仕方ないです」
10周目以降の状況をこのように振り返った山本。周回遅れのマシンを処理するのにある程度のタイムロスは覚悟の上だったようだが、相手も終盤の逆転を狙って先にピットインし、そのポジションにいるだけだから、山本に前を譲って周回遅れにはなりたくない。ただ、その時に強力な助けになったのがチームだった。
「ブルーフラッグが振られているのに、バックマーカーに3周くらい前を塞がれてしまったことが5回くらいあったんですよね。それだけが(レース中)不味いなと感じましたが、そのたびに無線で言って、チームが頑張って動いてくれて、相手のチームに対して譲ってほしいということを言ってくれました」
「そういうのも含めて今回は、“自分が速く走れた”、“チームが速いクルマを用意してくれた”だけじゃなくて、チームが勝つために速く走れる環境をみんなで作り出してくれたということが、一番の勝因だったと思います」
こうして、後続に対して十分なギャップを築いた山本は、51周目にピットインしミディアムタイヤに交換。その後も安定した走りを見せ、終盤にはセーフティカーが2回連続で入り、後続との距離が縮まったものの、最後まできっちりと逃げ切り今季初優勝。予選Q3での鬱憤を見事なまでに晴らした勝利だった。
実は、山本は第3戦SUGOを迎える前、レースウィーク中も一貫して「今週末は勝つために何をしなければいけないかを常に考えながらレースをしていました」とコメントしていた。
それを改めてレース後に聞くと、納得がいくことばかりだ。序盤のタイヤマネジメント、後ろのマシンの思惑も考えたペースコントロール、バックマーカーの処理、ミディアムタイヤに履き替えていこうも徹した冷静なレース運び……。そのどれかが欠けていたら、おそらく結果も変わっていたかもしれない。
だが、山本は常に変動するレース展開の中でチームとともに的確な判断をし、流れを維持した。まさに「チャンピオンらしい勝ち方」だったと思う。
これで合計27ポイントに伸ばし、2位のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)に対して11ポイントの大量リードを築いた。これでシーズンの折り返しを迎える2019シーズンのスーパーフォーミュラだが、山本は早くも“2年連続チャンピオンを獲得するために何をしなければならないのか?”を考え始めていた。
「もちろん、全部のレースで勝つことが一番の理想ですが、これから調子の良いところ悪いところが(今後)出てくると思うんですよね。当日のコンディションにどれだけクルマを合わせられるかというのも、重要です。」
「勝つことも重要ですけど、常に表彰台に絡めるようなレースをすることが、今のスーパーフォーミュラはすごく難しいです。そういう意味では、ここ3戦で3回連続表彰台に登れているのは、周りのライバルからしたら脅威だと思うし、そういうインパクトを与えるレースができているというのは、喜ばしいことだなと思っています」
「この後も僕がひとり勝ちできるような感覚は全く持っていないですし、“次こそやっつけてやる”と思っているドライバーがもっと増えていると思います。そういったライバルたちに対して、自分の気持ちと自信を失うことなく謙虚に前向きに頑張っていきたいなと思います」
完全に頭ひとつ抜け出た走りを見せた王者の山本。それを止めなければいけないという雰囲気は他チームに行くと、かなり増している。
早くもシーズンの折り返しを迎える2019年のスーパーフォーミュラ。このまま王者の山本が好調さを維持して逃げ切ってしまうのか?それとも、彼を止めるライバルが現れてくるのか?残り4レース、今まで以上に目が離せない戦いが待っていそうだ。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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