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「凡事徹底」を積み重ねる先に待っていた堂々たる戴冠。「地に足の付いた」大津高校がたどり着いた日本一の景色 高円宮杯プレミアリーグファイナル 横浜FCユース×大津高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史プレミア制覇を達成した大津高校
「残留が最大の目標です。良い試合をするとの勝つというのは、プレミアリーグだとまったく別物だということを感じていますし、良い試合の数で言ったら僕らはもう3年前ぐらいに降格しているので(笑)、そのへんをちゃんと抑えていかないと、変に自分たちのやりたいことをやって降格しても次に繋がらないですからね」
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2024年のプレミアリーグが開幕する直前の3月。サニックス杯に挑んでいた大津高校の山城朋大監督は、今季の目標について尋ねられ、こう話していた。もちろん小さくない謙遜は含まれていたはずだが、一方でおそらくはそれが指揮官の正直な想いであったことも間違いないだろう。
彼らはシーズンを通じてとにかく地に足が付いていた。プレミアWESTで独走態勢に入りつつあった7月。前半戦ラストゲームの東福岡高校戦に勝ち切り、リーグ戦8連勝を達成した試合後にも、選手たちに浮かれる様子は微塵も感じられない。
「今は結構勝ちが続いていますし、勝ち続けられるのが一番いいですけど、必ず負けは来ると思うので、そこでしっかり受け止めて、負け癖が付かないようにしたいですし、いつも自分たちは『しっかり全力でやる』という共通理解はあるので、どの試合も相手より1点でも多く獲って、勝って終わることを目標にしています」(嶋本悠大)
「ずっと勝ち続けているので自信はあるんですけど、そうすると慢心したり、勘違いした気持ちが出てくると思うので、そこをどれだけなくせるかというのを意識して、自分自身も結果を求めてやっていきたいと思います」(大神優斗)
もともと持ち合わせていた謙虚な姿勢を、さらに見直すきっかけになったのは、優勝候補筆頭と目されていた夏のインターハイで初戦敗退を喫したことだ。阪南大学高校の徹底した戦い方の前に本来の力を出し切れず、後半終盤の失点で1-2と敗戦。だが、この悔しい経験すらも今年の大津はエネルギーに変えてしまう。
チームを率いる山城朋大監督の言葉が印象深い。「インターハイでは優勝候補だとか、どことどこがどういう組み合わせだとか、自分たちで変えられないいろいろなものに目を向け過ぎていた中で、しっかり対策してこられたチームに変化できずに負けてしまったところで、僕らの内側に反省すべき点があるということは、選手もスタッフもみんな感じたことだったので、かなりショックではありましたけど、1年間を通して見れば、勝ちたい大会を1つ落とすという大きさは痛感して、今ここに立っているのかなと思います」
今季のプレミアWEST制覇の大きなヤマは、間違いなく第12節延期分のヴィッセル神戸U-18戦だろう。リーグ戦9連勝を成し遂げ、猛追してきた2位の神戸U-18との勝点差は7。残り試合を考えても、勝利すればほぼ優勝は決まるものの、負ければ一気に視界が曇り始めるような重要な一戦だったが、その1週間前のゲームで東福岡高校相手に勝利を収めた試合後、キャプテンの五嶋夏生が発した言葉を思い出す。
「次の神戸戦に勝てばいよいよファイナルが見えてくるという中で、この東福岡戦も負けたら苦しくなりますし、チーム全体もここを勝つという意識でこのゲームに臨んだので、今日も朝から移動してきましたけど、神戸戦の話が出ることもほとんどなかったですし、このゲームに集中して臨めたのかなと思います」。彼らは極めて自然体で、一戦必勝を貫いてきた。神戸U-18との決戦は5-0の完勝。今年の大津は、いつだって強かった。
EAST王者の横浜FCユースと埼玉スタジアム2002で向かい合ったプレミアリーグファイナル。「硬い試合になるだろうという想定はしていたんですけど、それ以上に硬いゲームになって、なかなか入れたいところにボールは入らないですし、ゴール前でもボールが収まらない時間が続きました」と山城監督も振り返ったように、決して思い描いていたような試合展開ではなかったが、スコアは“意外な伏兵”の一撃で動く。
45+2分。ゴールまで30メートル近い位置から畑拓海が右足を振り抜くと、大きくブレた無回転ミドルはGKも反応できず、ゴールネットへ突き刺さる。「いやあ、初めて見ました(笑)。でも、あのシュートは畑の強みの1つだと思うので、決めてくれて良かったです」と笑ったのは五嶋。リーグ戦では無得点だったプレーメイカーの先制点。大津は最高の時間帯に1点のリードを奪う。
WEST王者にはツキもあった。後半開始早々には2度の決定的なピンチを迎えたが、1度目は相手のシュートミスに、2度目はゴールポストに救われる。すると、輝いたのはリーグ得点王のストライカー。76分に野口の右クロスに山下景司が完璧なヘディングで合わせて2点目を叩き出すと、90+3分にも再び山下がGKの位置を見極め、40メートル級のロングシュートでダメ押しの3点目。終わってみれば3-0というスコアでの快勝。キャプテンの五嶋がカップを掲げ、大津はとうとうプレミアリーグの頂点に立った。
「実力以上に勝点を序盤で稼ぐことができていましたので、いかに勝負よりもプレーの評価をちゃんと与えていかないといけないかということは、夏のインターハイに負けて凄く感じました。ただ、一方でそのリーグの中心に半年以上い続けられるということは、とても僕らにとっても学びの多い期間でしたし、とにかく大津高校らしさというものを見失わないように、謙虚に、『凡事徹底』ということを頭に入れながらも、あと何試合であと勝ち点をいくつ獲ればと、どうしても計算しがちになるんですけれども、だからこそできることは限られているということを意識して生活してきました」
試合後の会見で、優勝争いを意識せざるを得なかったであろうシーズン後半戦について問われた山城監督は、いつも通りの落ち着いた口調で、いつも通りの地に足の付いた言葉を紡ぐ。五嶋にも同じような質問を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「まずはWEST優勝をずっと目標にやっていましたし、そこは多少意識はしていましたけど、ファイナルを意識している選手はそんなにいなかったのかなと思います。本当にあまり会話の中で出てこなかったですし、逆にそういうことが良かったのかなと思いますね」。10月の東福岡戦の試合後と同じような言葉が口を衝く。やはり彼らは極めて自然体で、一戦必勝を貫いてきたのだ。
監督就任から数えれば32年目で悲願の日本一へたどり着いた平岡和徳テクニカルアドバイザーは、「本当に若いスタッフと、そして何よりも今日のピッチで最善を尽くしてくれた選手たちのおかげだと思っていますし、この大会にこうやって出られるのは、積み上げてきた先輩たちの継続があってこそなので、あらゆる方々に感謝の気持ちでいっぱいです」と喜びを語りながら、すぐさま来たる次の戦いへと気を引き締める。
「今日勝ったことは素晴らしいことなんですけど、綺麗な満月もまた今日から欠け始めますので、選手権に向けて素晴らしいものを作り上げられるように頑張りたいと思います」。稀代の名将が口にしたこの金言こそが、彼らのサッカー人としての在り方を過不足なく表しているのではないだろうか。
「凡事徹底」を積み重ねる先に待っていた、綺麗な満月を頂くような堂々たる戴冠。やっぱり今年の大津は、いつだって強かった。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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