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サッカー フットサル コラム 2024年10月1日

日常の軸に据えるのは「AJA」(A=遊びに行ける、J=城西に、A=会いに行こう)の精神 鹿児島城西高校がホームでプレミアリーグを戦う意味 高円宮杯プレミアリーグWEST 鹿児島城西高校×ファジアーノ岡山U-18マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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エスコートキッズと写真に納まる鹿児島城西高校のイレブン

プレミアリーグのホームゲームを戦う、鹿児島城西高校サッカー部の朝は早い。まだ13時のキックオフまで4時間近くはある9時頃。運営のために部員は『半端ない人工芝サッカー場』の周囲に集まってくる。

ある者はテントを設営し、ある者は選手の名前がプリントされた幟を立て、またある者はチームグッズの販売ブースを準備。それぞれが、それぞれに与えられた役割を、スムーズにこなしていると、いつの間にか美味しそうなピザやパンを搭載したキッチンカーも到着。着々といつものホームゲームの雰囲気が醸成されていく。

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10時過ぎ。グラウンドにちらほらと子どもたちが姿を現す。鹿児島城西はホームゲームの日の試合前にサッカースクールを開催しており、そこに参加するために“未来の才能”たちが集結。大半の子は「JOSEI」の名前の入ったTシャツを着用していることから、“リピーター”が多いことも窺える。

もともと鹿児島城西のサッカースクール自体は1週間に1回行われており、選手たちも子どもとの触れ合いは慣れたもの。「自分は小学生に教えるのが好きなので、積極的に取り組んでいます。スクール係という担当があって、班を決めているんですけど、自分は自分の班の担当じゃなくても、行ける日は行くように心掛けています」と話すのは2年生の北川光樹。とにかくグラウンドには、至るところに笑顔があふれている。

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参加者の中には、まだ2,3歳くらいの子どもたちも。ただ、選手たちは彼らが思い切りボールと遊べるように、寄り添いながら、気を遣いながら、楽しい雰囲気を一緒に創り上げていく。

1時間近いスクールの最後は、全員が参加する“スペシャルマッチ”。場内アナウンスのブースには即席の実況と解説も登場。チームスタッフが「アイツら、最近喋りが上手くなってきているんですよ(笑)」と教えてくれる。おなじみの入場曲に合わせて、みんなでピッチイン。“でこぼこ”の円陣が解かれると、絶対に負けられない試合の幕が上がる。

ゴールが決まれば、子どもたちは思い思いのパフォーマンス。得点者の名前は、実況が大きな声でアナウンスする。ここでもピッチの中は、笑顔、笑顔。「子どもと触れ合うことで“教えること”の大切さを学べて、とてもありがたい経験をさせてもらっています。『こうやったらいいよ』というような言葉掛けを考えたりすることで、スクールを通して自分も成長できているのかなと思います。一緒にボールを蹴るの、凄く楽しいです!」(北川)。最後は参加した子どもと選手とスタッフ全員で記念写真。きっとこの日のスクールでボールを蹴った少年たちは、またこのグラウンドに帰ってくるはずだ。

 

 

サッカー部以外の部活の生徒たちも、ホームゲームを盛り上げている。キックオフ15分前にはダンス部が登場し、ピッチの中央でパフォーマンスを披露。試合中は女子生徒が放送係を務めつつ、吹奏楽部の重厚で軽快な演奏に合わせて、チアリーディング部も華やかにピッチサイドを彩ってみせる。

 

メガホンを持って声援を送る応援団にも、スクールに参加していた子どもたちも含めて、サッカー部員以外の顔ぶれが。しかも“トラメガ”を持って一番会場を盛り上げていた1人は野球部員だということで、ディフェンスリーダーの當眞竜雅も「シンプルに違う部活なのに、アレだけ盛り上げられるのは凄いなと思いました」と笑う。このあたりに学校自体が有する雰囲気の良さも垣間見える。

この日の対戦相手のファジアーノ岡山U-18を率いる梁圭史監督も、試合前に「今日は声が通らないと聞いてきました」と話していた。実際に応援の音量と熱量は、間違いなくプレミアリーグの会場でも屈指のレベル。醸し出される“圧倒的ホーム感”がピッチに立つ選手の背中を後押しする。

スタンドにも少なくない観衆が詰めかけていたが、選手の保護者はもちろんのこと、この地域で暮らしている方々も観戦に訪れてくれるという。なぜならサッカー部は普段から積極的に、主体的に、さまざまな地域貢献活動へ取り組んでいるからだ。

「毎週朝に“あいさつ運動”というのがあって、近くに小学校と中学校があるんですけど、その通学路の『危ないな』と思うところにサッカー部のみんなが立って、あいさつ運動と交通整理をしています。あとは地域の清掃活動もしているんですけど、その活動をしている時は地域のおばあちゃんたちがメチャクチャ良くしてくれて、去年は試合の日に地域のおばあちゃんたちで1つのテントが埋まったりしていて(笑)、そういうのは嬉しいですよね」(當眞)

日常的に接している高校生が、ピッチの中で必死に戦っている姿を見れば、応援したくならないはずがない。地域との触れ合いが生み出している絆も、ホームゲームがポジティブな空気に包まれる大きな要因だ。

 

ここまで未勝利の最下位と苦しんでいた鹿児島城西の選手たちはこの日、逞しく戦い抜いた。前半に先制点を許しながら、エースの大石脩斗がプレミア初ゴールとなる同点弾を叩き出し、終盤にはデザインされたセットプレーから福留大和が逆転ゴール。歓喜の予感が会場に充満していく。

1点リードで突入したアディショナルタイムは5分。必死に、懸命に、相手の攻撃を凌ぎ続けると、主審の吹き鳴らしたタイムアップのホイッスルが、青空へと吸い込まれていく。「もう、なんか、真っ白になるというか、力が抜けるというか、内からこみあげてくるものがあって、凄く嬉しかったですね」とキャプテンの藤吉純誠が話せば、渾身のガッツポーズを繰り出した新田祐輔監督は「嬉しかったです。それしかなかったですね」と声を振り絞る。

実に開幕から14試合目で手にした、歴史的なプレミアリーグ初勝利。会場中が一体となって、いつまでも続く歓喜の光景を眺めていた指揮官の言葉が印象深い。「アレは“中”から出てきているものですよね。日頃の生活とか人間関係もそうですし、スクールとかもそうですし、それがあふれ出ているよなという感じがあって、応援されるというのが形になったかなと。淡々と試合をして、イベントもしないで、『はい、プレミアです』という形もあると思うんですけど、オレらはみんなを巻き込んでやっているわけで、『ああ、やっぱりこれだよな』というのは再確認させられましたね」

 

試合が終わって1時間は経ち、グラウンドに静けさが戻ってきた頃。新田監督はチームで共有している“野望”を、そっと明かしてくれた。

「今みんなで言っているのは、A、J、A、ですね。『(A)遊びに行ける、(J)城西に、(A)会いに行こう』で、“AJA”だと。『AKBって何だったっけ?』というところから、オレたちも城西に遊びに行けて、会いに行けて、だよなと(笑)。だから、来季もプレミアに残ったら、いつもはここが会場ですけど、今度は地方にみんなで行ってホーム戦をやりつつ、そこの高校とかを呼んで、一緒にスクールをやりたいんです」

「ここまではスクールに来れない子たちもいますし、たとえば鹿屋とか霧島にはいいスタジアムがあるんですよ。もっと城西のファンを増やす意味でも、そういうところでのホーム戦を来年はやりたいよなって、後期の初めに言ったんです。『ホーム戦、凄く面白いよな』って。それをもっといろいろな人に共有してもらおうということで、そういうマインドはオレらの武器ですよね」

この日のホームチームのベンチには、『日本一応援される選手・チームを目指せ』というスローガンが印刷されたボードが掲げられていた。彼らが日常の軸に据えるのは、サッカーを媒介にした地域貢献と、そこから得られる体験を生かした選手たちの人間的成長。鹿児島城西が携える『AJA』の精神は、これからもきっとこのチームに関わる多くの人たちに、笑顔の花を咲かせていく。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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