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いつだって目の前のゴールへと突き進むアグレッシブなストライカー。帝京長岡高校・安野匠が創り上げる新しい14番像 【NEXT TEENS FILE.】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史帝京長岡高校の14番を託されている安野匠
たとえば先輩の小塚和季や谷内田哲平のような、高い技術を駆使してゲームを掌握するようなタイプではない。ただ、その圧倒的な力で試合を決め切ってしまうという意味では、彼らのような存在へと駆け上がるポテンシャルは十分に秘めている。今季の帝京長岡の14番を託されている、安野匠のことだ。
ここまでのプレミアリーグでは7得点をマーク。第2節からは5試合連続でゴールを記録するなど、その得点感覚は今年から身を投じている高校年代最高峰のステージでも遺憾なく発揮しているが、自分の中では全然足りていないという。
「今は自分よりもっと獲っている大津のフォワードがいるので、そこは負けたくないですね。チームのために自分が点を獲りたいですし、得点王を狙っていきたいので、もっとゴールを狙っていけたらなと思っています」。力強い決意にストライカーらしさが滲む。
とりわけハイパフォーマンスを披露したのは、ホームで快勝を飾った第4節のサガン鳥栖U-18戦だ。サイドからのクロスに飛び込んで、完璧なダイレクトボレーをねじ込んだチームの2点目はもちろん素晴らしかったのだが、よりその特異性が際立ったのは、自身のゴールではなかった先制点と3点目のシーンだったように思う。
先制点のシーンは、安野がエリア内でのルーズボールを太ももでコントロールすると、躊躇なく反転してシュート。中に詰めていた柳田夢輝がゴールネットを揺らす。その柳田が口にした言葉が興味深い。「安野は後ろ向きになっていたんですけど、安野ってオーバーヘッドとかも普通にやってくるので、『シュート打つんかな』みたいに思っていました」
3点目のシーンは、安野がセンターサークル付近から強引なドリブルで突き進み、ペナルティエリア内まで侵入。シュートは打ち切れなかったが、こぼれ球を遠藤琉晟が豪快に叩き込む。このシーンも遠藤の振り返りが面白い。「安野がドリブルしていって、結構突っ込んでいったんですけど、安野はそういうところがあるので、『突っ込んでいったらこぼれてくるかな』と予測していたら、本当にこぼれてきました」
シチュエーション自体は異なるものの、柳田も遠藤もほとんど同じような趣旨のことを話している。つまりは安野のプレースタイルを過不足なく把握し、その上で自分がゴールを奪える可能性をしっかりと見定めていたわけだ。実際に得点シーン以外にも、安野のアグレッシブなプレーから、決定機に近い場面は何度も訪れていた。
本人は「アイデアは豊富だと思うので、ボックス内とか相手陣地に入ってからは、自分の好きなようにアイデアを発揮して、スピードとかドリブルを生かしながら、攻撃に関わるのが得意かなという感じです」と語る。基本姿勢は前へ、前へ。最優先はゴールに向かうこと。それがチームにもたらしているポジティブな影響は計り知れない。
一方で現状を把握する目も、きっちりと装備している。第10節のヴィッセル神戸U-18戦。3試合連続でノーゴールに終わっていた14番は、改めて自分のプレーを見つめ直していた。「自分で分析したら、1節から6節までのシュート本数と、7節からのシュート本数が全然違うなと思っていて、今日は最初からシュートを打っていこうと思っていました」
前半から積極的に足を振っていた安野へ、ビッグチャンスがやってくる。52分。左からクロスが入り、ゴール前にこぼれたボールへいち早く反応すると、歩幅を合わせながら右足でのループシュートを選択。緩やかな軌道はゴールネットへと吸い込まれていく。
「谷口(哲朗)総監督からも『振らないと入らないから、まずは振ってみろ』と言われていましたし、あそこでトラップという判断もできたんですけど、ペナの中でしたし、振ったら入った感じでした。狙いはしましたけど、あんな綺麗に入るとは思わなかったです(笑)」。4試合ぶりに生まれた得点は、間違いなく積み重ねてきた日常の結晶。この男、ただ無鉄砲にゴールへ向かっているわけではない。
好きな選手にネイマールを挙げるあたりにも、サッカーに対する考え方が垣間見えるが、最近は果たすべきタスクを考慮して、参考にしている選手たちがいるという。「レバンドフスキとかスアレスの動画を見ています。あまりゴリゴリ行くプレースタイルではないですけど、そういうのも採り入れなきゃなと思ったので」。プレーの幅を広げる努力にも余念がない。
前述したように、今シーズンは帝京長岡の中で代々エースナンバーとして知られている14番を与えられている。「最初はなるとは思っていなかったんですけどね。あまりそういうキャラじゃないので(笑)」とは言いながら、伝統の番号を背負うことの意味はハッキリと自覚しているようだ。
「歴代の14番とはまた違う色があると思いますし、そこは自分の良さでもあるので、そういうところを生かしていきたいですし、チームのためにできることをもっと増やして、『ああ、アイツは帝京長岡の14番だな』と言われるプレーをしたいと思っています」
ひとたびピッチに立てば、何をするかわからない底知れなさを漂わせる一方で、必ず結果を計算できる実力も兼ね備えている。2024年の帝京長岡の14番を任されている不思議なストライカー。安野匠はいつだって、目の前のゴールへと力強く突き進む。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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