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『大西の壁』に『菊浪の1ミリ』。大宮アルディージャU18・丹野友輔監督が選手に問いかける勝負の本質 高円宮杯プレミアリーグEAST 大宮アルディージャU18×尚志高校マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史大宮アルディージャU18・丹野友輔監督
それは3年ぶりに帰ってきたチームの指揮官として挑んだ、プレミアリーグ開幕戦の試合後だった。
大宮アルディージャU18を率いる丹野友輔監督は「選手は本当によく頑張ってくれましたけど、正直いろいろな意味での差が出てきているなと。それはクラブとしての差もそうですし、フロンターレさんとプリンスで戦っていた時は『これはもう無理だな。勝てないな』という印象はそこまでなかったですけど、そこから積み上げていったもので、これだけ変わってきていると。自分たちはちょっと弱まっているなとは感じたので、その差を埋めていかないといけないし、ここからどうにかしないといけないかなとは、今日試合をやってみて思いましたね」と厳しい表情で語る。川崎フロンターレU-18に1-4で敗れた90分間は、彼らにとって現在地を突き付けられるような厳しいレッスンだったことは間違いない。
以降も勝敗という意味では、決して望んだような成果は出ていない。開幕2試合で連敗を喫し、第3節の市立船橋高校戦で初勝利を手にしたものの、再び流通経済大柏高校と横浜FCユースに連敗。プレミアリーグの5試合を終えて、1勝4敗という数字が残った。
「どの試合でもシュート数が相手よりも下回っているのが現状なんですよ。だから、どれだけそのシュートに対してこだわりを持てるかというのは、トレーニングから意識していかないといけないですし、シュートをどれだけ打たれてもそれが枠から外れれば別にゴールにならないわけで、それをどれだけ徹底できるかですよね」
丹野監督が話したのはごくごくシンプルなこと。少ないシュートでゴールを奪い、多くシュートを打たれてもゴールを奪わせない。とりわけ守備面ではシュートブロックのトレーニングにも注力しているそうだ。
「GKコーチの江角(浩司)はU15でも一緒にやっていたんですけど、セットプレーのトレーニングで彼に去年も任せていたシュートブロックをやると、ゴール前で身体を張れる選手が増えるんですよ。ゲームの中で最後のシチュエーションで出るんです。それは青森山田さんで言うところの『ゴールを隠せ』ということなのかもしれないですけど、一番はシュートを打たせない、打たせたとしてもコースを外れるとか、みんなでゴールカバーするとか、そういう部分はちょっとずつちょっとずつ浸透してきているかなと思います」
最後まで粘り強く身体を張ったことで勝利を手繰り寄せた市立船橋戦からは、2つのシーンを抽出して選手と共有したという。「相手に打たれた強烈なシュートを大西(海瑠)が胸でブロックしたシーンがあって、それには『大西の壁』というフレーズを付けたんです(笑)。あとは菊浪(涼生)が際どい局面でスライディングして、中島(大翔)が抜け出していってボールをキープするシチュエーションになったんですけど、それは『菊浪の1ミリ』だと。勝った試合だったので冗談っぽくは言いながら、『これが大事なんじゃないの?』という形で振り返ったりしました」
迎えた第6節の尚志高校戦も、決して楽な試合展開にはならなかった。前半はお互いに探り合うような流れの中で、43分に丹野豊芽のファインゴールで先制。後半も57分に右サイドでの完璧な崩しから、斉藤秀輝のアシストで野口蒼流が2点目をゲットしたものの、そこからはロングスローも交えた相手のアタックに耐える時間が続く。
90分。相手フォワードのシュートに、前節まではボランチを務めながら、この日はセンターバックに入った山中大智が身体を投げ出し、執念のシュートブロックでボールを弾き出す。「自分は下手だったので、走るとか、頑張るとか、戦うとか、そういうことをやってきた」という山中が見せたこのシーンは、まさに『山中の壁』。試合はそのまま2-0でタイムアップ。後半唯一のシュートを得点に繋げ、3倍近く打たれたシュートにも失点を許さなかった大宮U18が、今季ホームでの初勝利をみんなで喜び合った。
現役引退後の2004年に大宮のアカデミーで指導者の道へ足を踏み入れた丹野監督は、20年近くこのクラブとアカデミーの変遷を見つめてきた、いわば生き字引的な存在だ。それゆえに2年間のU-15年代での指導を経て、改めてU-18年代へと帰ってきた今、現状に感じていることは少なくない。
「中村順さんがアカデミーを確立されて、伊藤彰さんが中心となって、当時は『バルサみたいなサッカーをしよう』ということでやっていて、大宮のアカデミーの色ができてきたと思うんですね。その中でトップに昇格したある選手が『アカデミーだったらあそこにサポートに来るのに』とトップの選手に言った時に、『いや、ここはアカデミーじゃないよ。トップだから』と返されたようだと。そういう話を聞いて、順さんや彰さんが築き上げたものに加えて、以前は4-1-4-1でやっていたところから、自分は4-4-2にして1人の守れる範囲を広げたりして、ちょっと個人が伸びるようにというところに目を向けてやってきたんです」
「もっと守備の強度だとか、ボールを奪いに行く守備だとか、そういうことを強調したトレーニングをやることによってフィットネスも上がりますし、その中でハイプレスに対してアンチプレスできるようにならないと世界と太刀打ちできないなと思うところもあって。でも、それってやっぱり日常からそういう意識が必要ですし、そういうところも含めて最終的に『ゴールを奪う』『ゴールを守る』というサッカーの本質的なところにしっかりフォーカスした中でやるというのはすごく大事だなと。どこかに偏ってしまうと、何か失うものもあるなとは思っています」
「2試合負けて、1試合勝って、2試合負けて、1試合勝ってというのが今なので、次のゲームをどうするかは非常に悩みどころではあるんですけど(笑)、でも、1試合1試合良くなっている部分もあるので、そこにちゃんと目を向けてあげたいですし、あとは選手を信じてあげたいなと。全部こっちが思っていることをやるのはちょっと違うなと感じますし、選手は急には変わらないので、ちょっとずつちょっとずつ積み上げていくしかないですよね」
トップチームは今シーズンから初めてJ3リーグを戦っている。クラブを取り巻く環境もさまざまに変化している中で、アカデミーの“出口”でもあるU18を任された指揮官に掛かるプレッシャーが、小さいものであるはずがない。「朝起きた時に気持ち悪くなることもありますよ(笑)」と明かした丹野監督は、それでも自身の為すべきミッションについて、こう口にする。
「今のアルディージャ自体をより良い方向に持っていくのはかなりのパワーが必要で、『それをどうにかしたい』と思ってやっているところなんですけど、なかなか難しいミッションだなとは思っています。いろいろ悪い方向に考えてしまうこともありましたけど、(長澤)徹さんは『僕らにしかそういうものは感じ取れないから、それはネガティブなことじゃない。その瞬間瞬間は自分たちにしか味わえないんだ』と言ってくれていて、そういう人の言葉を聞いて、自分なりにどう解釈して、どう進めていくかみたいなことが、凄く大事なんだなって」
「U18の選手はよりプロに近い選手というところで、彼らを『送り出さないとな』『育てないとな』というプレッシャーもありますし、『勝たないとな』というプレッシャーもありますし、彼らの進路もありますし、アカデミーも良くしていかないといけないですし……、と考えるとパンクしそうになります。でも、ここのスタッフも本当に頑張ってくれているので、何とか選手とスタッフのためにもチームを勝たせたいなって。やっぱり勝ったら気持ちが変わるじゃないですか。奥さんには『寝れてるから大丈夫だよ』と言われながらも(笑)、そのぐらいいろいろなプレッシャーがありますね。だから、今日の勝ちは何よりの薬ですよ」
頑張ったからと言って、結果が出るような甘い世界ではない。勝ったからと言って、すべてが解決するような単純な話でもない。だからこそ、前を向く。上を見据える。これからに想いを馳せる。確かな熱量を持った40歳の監督と、確かな野望を携える高校生たちが、勝負の本質を見つめる大宮アルディージャU18の2024年は、まだまだ始まったばっかりだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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