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「アラートなボールパーソン」の成長譚。柏レイソルU-18・黒沢偲道に備わる“予測”という絶対的な才能 高円宮杯プレミアリーグEAST 柏レイソルU-18×川崎フロンターレU-18マッチレビュー
土屋雅史コラム by 土屋 雅史柏レイソルU-18・黒沢偲道
「僕がサッカーの肝だと思っているところとして、『小さな予測を大事にしよう』ということはチームにもものすごく言っているんですけど、その中でも本当に気が利くというか、セカンドボールを拾うのも速いんですよね。見ていて感心しますよ。『さすが!』というシーンが本当に多いです」
チームを率いる藤田優人監督も、絶賛に近い言葉でその男の才能について言及する。柏レイソルU-18の7番を背負った、黒沢偲道のことだ。
左ウイングバック。右サイドハーフ。時にはボランチ。「どこのポジションをやらせても自分の考えている基準を超えてきますし、サッカーの採点で言ったら絶対に“5.5”以上は出しますね」と語る指揮官は、昨シーズンからさまざまなポジションで黒沢を起用してきた。
本人もその部分には一定の自信を持っている。「自分はいろいろなポジションができるところが良いところだと思っているので、求められたポジションで自分の持ち味を出せるように意識してプレーしています」。そんな黒沢が今シーズンに入って任されているポジションは、右サイドバックだ。
川崎フロンターレU-18と日立台で対峙した、この日の一戦。前半の柏U-18は消極的なプレーが目立ち、シュートを1本も記録することなく、0-1で最初の45分間を終えてしまう。
「立ち上がりから相手のペースで、ずっとボールを持たれてしまって、守備の我慢の時間帯が多かったんですけど、ハーフタイムに監督に喝を入れられました」。そう口にした黒沢も、後半は明らかに高い位置を取り始め、ボールを受けたら果敢にドリブルでの仕掛けを繰り返す。
もともと好きなのは攻撃。「自分は攻守で貢献できるタイプだと思っているので、サイドバックでも攻撃の基点になって、得点とかアシストを狙おうと思ってチャレンジはしました」。セカンドボールへの反応や、相手の裏を取るタイミングの良さは、やはりチームの中でも際立っている。
ただ、この日はその能力も得点には繋がらず、終盤に失点を喫した柏U-18は0-2で敗れ、リーグ戦初黒星。「後半は自分たちの雰囲気もちょっと変わって、ボールを持てる時間帯も増えてきて、敵陣でプレーする時間も長かったんですけど、もう1失点してしまって、良いリズムが勝利に繋がらなかったので、まだ甘いなと感じています」。黒沢にとっても、さまざまな課題を感じる試合になったことは間違いない。
それは今から2年前のこと。柏U-18の試合へ取材に行くと、決まってボールパーソンを務めている坊主頭の少年がいた。聞けばまだ1年生。U-15から昇格してきたという。ゴール裏で写真を撮るために陣取る位置が、いつも彼と隣り合わせになるような場所だったため、その仕事ぶりを間近で見ていたのだが、とにかくすべてが“アラート”なのだ。
ピッチを見つめる集中力も非常に高く、ボールがゴールラインを割った時には、すぐにゴールキーパーへ代わりのボールを投げ入れる。いつでも動けるようにということだろうか、90分間はほとんど中腰状態。あれだけ「ゲームに入り込んでいる」ボールパーソンは、ちょっと他に見たことがない。
そのうちに本人とも言葉を交わすようになり、「そういう積極的な姿勢は絶対に試合でも生きるよ」なんて知ったような口を利いてしまった年配の取材者に対しても、「はい!頑張ります!」と元気に返事してくれるようなパーソナリティも魅力的。珍しい名前も相まって、頭の片隅ではずっと気になる存在だった。
1年時の黒沢。まだあどけなさが残る
昨年の春。福岡で開催されたサニックス杯というプレシーズンの大会で、柏U-18を取材する機会があった。試合を見ていると、大半のチャンスに絡んでくる25番の好パフォーマンスが目に留まる。写真を撮っているうちに気付いた。「あ!あのボールパーソンだ!」
メチャメチャ良い選手だったのだ。テクニックも、アジリティも、アグレッシブさも標準以上。そのポテンシャルの高さに驚きながらも、一方で彼の“ボールパーソンぶり”を知っている者としては、それも腑に落ちた。だって、もう「このチームの中でどう自分が生きるか」はイメージし尽くしていたはずだから。
2年時の黒沢。サニックス杯で25番を背負って躍動した
「試合を見ていて思うことと、実際に試合に出て感じることは全然違って、相手のスピード感だったり、強度だったりは、見ていた時より全然高かったので、それを上回れるように自分も意識してやっていました」という黒沢は、結果的に2023年シーズンのプレミアリーグでも複数のポジションをこなしつつ、21試合に出場して5得点をマーク。チームに欠かせない戦力として、大きな飛躍を遂げることになった。
迎えたアカデミーラストイヤーとなる今シーズン。主力としての自覚もしっかりと携えている。「去年から出ている人は今のメンバーにも5,6人いる中で、自分はほとんどスタートから出ていたので、自分のプレーで味方に喝を入れられるような、味方を引っ張っていけるような選手になりたいなと思っています」
藤田監督の黒沢に向ける賞賛は止まらない。「自分もどちらかと言うと予測で勝負していたタイプだと思っているので、感覚的に近いものはあると思います。彼本人にも『オマエの予測のレベルはプロレベルだ』という話はしていて、あとはそれに身体がどう付いてくるかですね。他の選手よりも『こうなるだろう』の感覚が一歩どころじゃなく、二歩先を行っているというか、優れすぎていると思います。本当に頼りになりますよ!」
本人も自身の武器はハッキリと認識しているようだ。「去年から藤田さんには『予測の部分が人より優れている』と言われていて、そこは自分でも意識してやっているところですね。藤田さんが言っていることは自分のイメージと似ている感じもあって、やりやすさはありますし、自分も“予測”をさらに磨けるように意識しています」
秘めたる野望も頼もしい。「まずは世代別代表に選ばれて、そこで活躍するのが今の目標で、1回代表に選ばれるだけではなくて、そこから呼ばれ続けるというのが大事なことなので、プレーに波がないような、常に活躍し続けられる選手でありたいなと思っています。あとはチームとしても全国1位を目指しているので、そこで個人としてもチームの中で目立てる選手でありたいなと思います」
かつての『アラートなボールパーソン』は、より上のステージを見据える選手になるための成長曲線を、のびやかに描き続けている。“予測”という絶対的な能力を宿した異才。黒沢偲道が突き進むサッカー道の先に、これから何が待っているのかは、とにかくメチャメチャ楽しみだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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