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ハイタッチと笑顔と3年生の奮闘と。イチフナが見せたホームの底力【高円宮杯プレミアリーグEAST 市立船橋高校×JFAアカデミー福島U-18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
決戦へと臨むメンバーがグラウンドに入ってくる空気が流れると、それまで思い思いに時間を過ごしていた彼らも、ピッチの中央に集まってくる。決してピシッと揃った綺麗な列にはなっていないところも微笑ましい。ズラリと並んだのはこの日の試合には出場しない市立船橋高校の選手たちとマネージャーだ。
「去年の最初からホームの時はやっています。盛り上がりますし、緊張している時もちょっとウキウキした気分になったりするので、アレは自分たちとしてもありがたいですね。バレないと思ってハチャメチャやるヤツもいて(笑)、それもちょっと緊張をほぐしてくれるので」と話すのは今シーズンのチームキャプテンを務めるドゥーリー大河。会場に登場した試合メンバーをハイタッチで迎える“儀式”は、グラスポの名物になりつつある。
「チームがまとまっていくような感じがあって、こっちもやる気をもらえますし、『頑張って!』と思って気持ちを送っています。いつも気合が入っていますし、今日も凄かったです。あれで楽しく気分も上がっていきますし、こっちも見ていて楽しいです」と笑うのは、迎える側の島田華乃マネージャー。とにかく笑顔に溢れた光景が印象的だ。
波多監督も選手たちとハイタッチ!
チームを率いる波多秀吾監督も、この一連がもたらす効果を認めている。「僕もハイタッチしながら、いつもやれないから頭を叩かれたりとか(笑)、そういうのも高校生らしくて、エネルギーを感じられる場だと思いますね。普段はメンバーに入れるか入れないかという競争があって、ライバル心を持ってやっていますけれども、こういう公式戦になったらしっかりチームで一体になってくれていることは凄くありがたいですし、それが凄く大きな力を生み出しているんじゃないかなと感じます」。この日の一戦は残留争いのライバル、JFAアカデミー福島U-18と対峙する大一番にもかかわらず、試合前からグラスポには明るい雰囲気が充満していた。
指揮官は選手たちの様子を頼もしく感じていたという。「選手たちだけのミーティングでも『絶対に負けられねえよ』という声は出ていましたけど、実際に表情がこわばったりというのがあるかと思ったら、そうでもなくて、意外とリラックスしていたりして『アレ?』と思ったんです。プレッシャーもそこまで感じていなかったのかなと」。青いユニフォームはキックオフから躍動したが、先制ゴールを挙げたのは意外な伏兵だった。
10分。左からのCKに合わせたのは、28番という大きな番号を背負った大塚清瑚。シーズン開幕時は登録メンバーに入れなかった3年生が、この大事なゲームでプレミア初ゴールを叩き出してみせる。「本当に嬉しかったです。みんなも自分が決めるとは思っていなかったと思うので(笑)、それで結構驚かれたのかなって」。すぐさま笑顔で駆け寄るチームメイトの輪に飲み込まれた大塚の得点で、ホームチームが1点のリードを奪う。
以降は押し込まれる時間も作られていた中で、貴重な追加点を記録したのもやはり3年生だった。後半終盤の83分。郡司璃来が中央を1人で切り裂き、放ったシュートは相手GKのファインセーブに阻まれたものの、こぼれに突っ込んだ北川礁がボールをゴールネットへ送り届ける。負傷明けで3か月ぶりにピッチへ帰ってきた6番の執念の一撃。大きな、大きな2点目を市立船橋が手に入れる。
マネージャーの島田がそっと教えてくれた。「昨日北川から、ケガからの復帰明けだったので『ユニフォームもらえる?』っていうLINEをもらったんですけど、その時に『明日後半から入るから絶対に勝とう!』というメッセージが来て、それが本当になっちゃって『凄いな!』と思いました!」。試合は1点こそ返されたものの、2-1で逃げ切って勝ち点3を獲得。北川の“予告勝利”は、自らのゴールもあって現実のものになった。
「もう数字上もそうですし、残留というところに向けて、内容じゃなくて結果を求めなければいけないようなゲームだったので、苦しい展開でしたけれども、結果的に勝ち点3を獲れたのは凄く大きなことかなと思います。去年もそうでしたし、何年か前も残留が危ないとなった時に力を発揮するのが市船で、本当に奇跡みたいなことが起きるのがウチのチームの底力だなと思っているので、もちろんこの会場の雰囲気も含めて、選手の力、市船としての力がこういう時ほど大きく働いているのかなと思います」。波多監督の口調にも、少しだけ安堵の色が浮かぶ。
「アウェイと比べてグラスポの方が圧迫感があって、スタンドからの声もそうですし、全体でまとまっている感じがしますね。ホームで勝てるというのは市船の強みかなと思っています」と語った大塚も、さらに大事な試合ばかりが続くここからの戦いに向けて、想いを新たにしているようだ。
「3年生はあと2,3カ月で引退というところまで来ていますし、後輩にプレミアの舞台を残していきたいというところで、今日の勝ちは勝点6ぐらいの大きな意味があるので、勝てたのは良かったです。でも、来週からは選手権予選が始まるので、そこも気を引き締めてやっていきたいと思います」。
「今日は全員で勝てたなって思いました。勝ち点3、メッチャ嬉しいです!」と満面の笑顔を見せてくれた島田は、最後に力強くこう言葉を紡いでくれた。「この3年間のすべてを部活に懸けてきたので、最後まで思い切りやりたいですし、みんなで全国制覇してもらいたいなって思います」。
ハイタッチと笑顔と3年生の奮闘と。執念の歴史を積み重ねてきたイチフナの底力は、やはり侮れない。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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