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ロッテ・コペッキーが2連覇でアルカンシエル防衛! 雨とライバルの攻撃に苦しむも冷静に立ち回って小集団スプリントを制する【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 女子エリートロードレース:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介女子エリートロードレース 優勝コペッキー、2位ダイガート、3位ロンゴボルギーニ
これぞ女王の偉力。雨と寒さで凍える身体を懸命に動かし、ライバルの攻撃を耐えに耐える。冷静さを欠いたらそこでおしまいと、余計な感情はすべて排除した。頼りにしたのはみずからのテンポと勘。終わってみれば、そこに寸分の狂いもなかった。メンタルゲームを制したのはやはり、現役の世界女王だった。
スイス・チューリッヒで現地9月28日に行われた、UCI世界選手権大会・女子エリートロードレースは雨中の消耗戦に。最後まで前線に残った6選手のスプリント勝負になって、ロッテ・コペッキー(ベルギー)が2連覇。女王の証であるマイヨ・アルカンシエルの防衛に成功した。
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「本当に信じられません。何度振り返っても、今日のようなレースを自分の中で理解できるかは分かりません。それくらい厳しい戦いでした。何より、冷静さを最後まで保ちつつ、エネルギーを巧く使えたことが勝因だと思います。これは頭脳の勝利です」(コペッキー)
数日にわたり、雨が降り続いたチューリッヒ。このレースの2日前には、受け入れがたい悲劇が起こった。女子ジュニアロードレースで、将来を嘱望されていた地元出身のミュリエル・フラーが落車で頭部を強打。病院に搬送されたが、帰らぬ人となったのだった。女子エリートロードレース前日に行われた男子U23の同種目中にフラーの死が発表され、レース後の表彰式は簡素に、そして上位選手を称える国旗掲揚は半旗にて行われていた。
涙雨だったに違いない。女子エリートロードレースのスタート前には、スイス代表の5選手が先頭に並び、1分間の黙祷。同国ライダーを代表して、ノエミ・リュエッグがレース前に心境を明かしている
「私たちには走らないという選択肢はありません。この事実を乗り越えるとともに、ミュリエルを想って走ると決めました。それは彼女に捧げるもので、結果は二の次です」(リュエッグ)
ウスターの街を出発し、グライフェン湖を1周半したのち、チューリッヒを基点とする26.9kmの周回コースを4周半。合計154.1kmのレースは、獲得標高にして2384m。ステージレースを得意にするオールラウンダーや、クラシックハンターに有利なコースとの予想のもとスタートが切られた。
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ハイライト】UCI世界選手権大会 女子エリート ロードレース|Cycle*2024
過酷な環境下でのレースとなった
地元ライダーのカロリーネ・バウアーのファーストアタックに、サラ・マルティン(スペイン)とニナ・ベルトン(ルクセンブルク)が同調し、そのまま逃げの態勢へ。集団内では各所で落車が発生し、さらには大小の上りをこなすたびに後退する選手が続出。グライフェン湖周回を終える時点で、出走198人中半数近くがメイン集団から遅れをとっていた。
逃げる3人も消耗度合いが色濃くなり、チューリッヒの周回コースへ移った段階で崩壊。集団ではコペッキーが早くも前方をうかがう姿勢を見せ、優勝候補筆頭の呼び声高いデミ・フォレリング(オランダ)やツール・ド・フランス ファム覇者のカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)らがチェック。フィニッシュまで100kmを残したところでは、数人が集団から飛び出して、2人に減っていた逃げメンバーに合流。ここでオランダはタリタ・デヨンフを送り込むと、すぐにベルギーも反応してジュリー・ファンデフェルデが続く。ただ、集団も容認はせず、先行した選手たちをすべてキャッチ。レースはふりだしに戻った。
この直後、リーアンヌ・マルクス(オランダ)とニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)がアタック。数人が断続的に合流を図って、やがて11人が先頭パックを形成。マルクスとミーシャ・ブレーデウォルツを前に送り出したオランダだったが、状勢を整えるべくメイン集団の牽引も担う。一番の選手層を誇る同国が主導権を握ったことで、エリーザ・バルサモ(イタリア)やポーリーヌ・フェラン=プレヴォ(フランス)といった元世界女王が脱落する。前を行く選手たちにメイン集団が合流する頃には、人数は50人ほどまで減っており、そのまま残り2周回を迎えた。
オランダがコントロールを続ける流れから、上りを利用していよいよフォレリングが本格的にペースアップ。タイミングを前後してニエウィアドマやマリアンヌ・フォス(オランダ)らが後ろへ下がっており、それを受けてエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア)やジュリエット・ラブース(フランス)らもフォレリングの仕掛けに加勢する。コペッキーも続き、ニーヴ・ブラッドバリー(オーストラリア)もスピードを上げた。
マルクスがフォスのために牽引
これで精鋭15人まで絞られると、キャロライン・アンデション(スウェーデン)の単独アタックをきっかけに、入れ替わるようにしてマルクスとジュスティネ・ヘキエーレ(ベルギー)が先頭に立つ。ここにルビー・ローズマンギャノン(オーストラリア)と集団に戻っていたフォスとが追いついて、4人が先頭パックを形成。スピードを緩めたメイン集団とは1分差となって、最終周回の鐘を聞いた。
数的優位のオランダは、このまま4人が逃げ切るケースを想定し、マルクスがフォスのために牽引。同時に、メイン集団に残るフォレリングの合流を待つ。ベルギーも、ヘキエーレがコペッキーを待ちながら先頭を走り続ける。
メイン集団では上りで自然発生的に分断が起こったのを機に、単騎となっていたロンゴボルギーニがアタック。フィニッシュまで20kmを残した仕掛けにフォレリングが反応した一方、コペッキーが続かない。これを見てフォレリングも踏み込むと、ロンゴボルギーニと協調して先頭に追いついた。
優位に立ったかに思われたフォレリングとロンゴボルギーニだが、それまで逃げていた選手たちがなかなか同調せず、2人で先頭交代を繰り返すような状況。マルクスとフォスがフォレリングのために牽引を引き受けるものの、そう長くは続かない。フォレリングが苛立ちを募らせる間に、テンポで追ってきたクロエ・ダイガート(アメリカ)、さらにはコペッキーも上がってきた。
勝負どころに備え、それまで着ていたレインジャケットを脱いだフォレリング。短い急坂で強く踏み込むが、コペッキーやロンゴボルギーニはこの動きを読んでいた。かたや、それまで後退と合流を繰り返していたフォスやマルクスが完全に脱落。フォレリングはチームメートを失った。
チューリッヒのフィニッシュラインめがけてのダウンヒルでは、下りを得意とするコペッキーがスピードアップ。これで完全に後続を引き離すと、先頭に残ったのは6選手。コペッキー、ダイガート、フォレリング、ロンゴボルギーニ、ローズマンギャノン、そしてリアヌ・リッパート(ドイツ)。この中から、今年のアルカンシエル獲得者が決まる。
(左)コペッキー、(右)ロンゴボルギーニ
残り5kmでのロンゴボルギーニのアタックで他の5人が一瞬牽制したものの、フォレリングみずから脚を使って引き戻す。これによって押し出されるようにして先頭を牽き続ける格好となり、対照的にコペッキーはスプリントに備えて後ろに潜む。残り1kmでのローズマンギャノンのアタックもフォレリングがチェックして、6選手のまま女王の座をかけたスプリント態勢に移った。
フィニッシュに向け、一番に腰を上げたのはロンゴボルギーニ。残り200mで加速をすると、同時にスプリントが始まった。ロンゴボルギーニにフォレリングとコペッキーが並び、その脇からはダイガートも上がってくる。
こうなると、誰よりもスピードに勝るのはコペッキー。4時間を超える激戦にピリオドを打ったのは、トラック競技でも強さを誇る速さとテクニック、そして女王の貫禄だった。世界選手権2連覇である。
「エネルギーがいくらあっても足りないと感じるレースでした。上りでは体が温まるのですが、下りで冷えてしまうのです。それを繰り返しているうちに、完全に凍えてしまって何もできなくなりそうでした。とにかく冷静に、余計なことは考えず、最後まで走り切ることに集中しました」(コペッキー)
レース終盤、上りで一度は終わったかに思われたが、時間をかけながら先頭復帰。そして、それまでの消耗を感じさせない最後のスプリント。明らかにこの日1、2を争う強さを見せていたフォレリングとロンゴボルギーニとの違いは何だったのだろうか。
「パニックにならないよう努めたことと、ペースを維持したことが大きな理由だと思います。あとは…デミ(フォレリング)は少し焦っているように見えました。エリーザ(ロンゴボルギーニ)がアタックしたときも、ローズマンギャノンを追ったときも、勝ちたいと思うあまり脚を使いすぎていたのだと思います。私にとっては理想的な状況でした」(コペッキー)
昨年に続き、表彰台ではマイヨ・アルカンシエルに袖を通した。もう一年、女王の座に君臨する。
コペッキーが2連覇
「信じられません。すごい経験をしていることに、自分が一番驚いているのです。もちろん、アルカンシエルは私だけのものではありません。今回は、ミュリエル(フラー)に捧げたいと思います」(コペッキー)
2位には、フィニッシュライン目前で追い込んだダイガートが食い込んだ。今大会は個人タイムトライアルでも銅メダル。2つのメダル獲得は、このところの苦労を思うと驚きしかない。
「勝ち切れなかったことは残念ですが、銀メダルでも私にとっては十分勝利に値します。怪我や体調不良ばかりの日々で、今週も心身のバランスを崩してしまっていました。正直に言うと、今日のスタートラインに立つことも難しかったのです。銀メダルは私にやる気をもたらしてくれそうです。体調が戻ってフルパワーで走れれば、アルカンシエルも夢ではないと思います」(ダイガート)
3位で終えたロンゴボルギーニも表彰台では晴れやかな笑顔。これまで何度も優勝候補に挙げられながら、アルカンシエルには届いていない。それでも、ポジティブな姿勢は崩れない。
「残り5kmでのアタックは勝ったと思いました。でも、私以上の勢いでデミが追いついてきたのです。私が勝つにはあの形で独走に持ち込むしかありませんでした。もちろん勝ちたかったですが、表彰台に上がることができたので今日のレースには満足しています」(ロンゴボルギーニ)
プック・ピーテルセがU23部門のトップとなってアルカンシエルを獲得
フォレリングは、リッパートにも先着され5位でのフィニッシュ。全体13位で終えたプック・ピーテルセがU23部門のトップとなってアルカンシエルを獲得したとはいえ、一番の戦力を有するオランダ勢にぶつけられる質問は、どれも戦術に関することばかり。改めて、ロードレースの難しさを実感させられる。
「敗因ですか? すぐには分かりませんね。もっと早く攻撃すれば良かったのかもしれませんし、逆にもう少し我慢しなければならなかったのかもしれませんし……。今日のレースを分析する時間が必要です。結論を急ぐわけにはいきません」(デミ・フォレリング)
3選手が出走した日本チームは、與那嶺恵理が73位、木下友梨奈が74位。垣田真穂はDNF。初の世界選手権を完走した木下は、SNSを通じて「強くなって、そしてうまくなって帰ってくる」と誓いのコメントを残している。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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