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グレース・ブラウンが史上初となる五輪と世界選手権の2冠! キャリア最終シーズンの快走に「“まだ走れるのでは?”と1000回以上質問されているかもしれないね(笑)」【Cycle*2024 UCI世界選手権大会 女子エリート個人タイムトライアル:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介世界選手権女子個人TT表彰台 優勝ブラウン、2位フォレリング、3位ダイガート
UCI世界選手権大会のエリート種目としていの一番に実施された、女子の個人タイムトライアル。女王の座をかけた戦いは、グレース・ブラウン(オーストラリア)が29.9kmのコースを39分16秒04で走破。デミ・フォレリング(オランダ)や、前回覇者のクロエ・ダイガート(アメリカ)らを退けて初優勝。パリ五輪でも個人タイムトライアルを制しており、史上初となる五輪&世界選手権の2冠を達成した。
「もう、この数カ月は夢の中にいるような気分です。(五輪と世界選手権の2冠は)あまりに壮大な目標で、誰もが実現不可能に思ったかもしれません。でも、私は実際に走って実現させることができました。最高の気分です!」(ブラウン)
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ゴッサウの街を出発し、今大会の主会場であるチューリッヒを目指すルートは、前半に細かなアップダウンが連続し、それを抜けると後半はほぼフラットなレイアウトに変化。趣きの異なる2つのパートをいかに巧みに走るかがポイントに挙げられた。そして実際に、その攻略度合いが最終的な結果へと反映されたのだった。
全45カ国から70人が出走した今回。第1走者のペーチャ・ミンコバ(ブルガリア)のスタートで幕を開けた一戦は、以降1分30秒おきに次々と選手たちがコースへと繰り出していった。
13番目にスタートしたエウジェニア・ブヤーク(スロベニア)が43分7秒で走って、最初に平均時速41km台に乗せた選手に。これが当面の基準タイムになると、24番出走のテニエル・キャンベル(トリニダード・トバゴ)が42分38秒、33番出走ミーエビョルンダル・オッテスタ(ノルウェー)が42分2秒、41番出走ブローディー・チャップマン(オーストラリア)が41分43秒と、次々と最速タイムが更新されていく。この間に、日本勢唯一のエントリーとなった垣田真穂も、エリートとしては初の世界選手権個人タイムトライアルを走り終えている。
のちに控える優勝候補の選手たちが目指すべきベンチマークとなったのが、52番目に走り出したエレン・ファンダイク(オランダ)の41分3秒。10.4km地点の第1計測ポイント、20.5km地点の第2計測ポイントと、連続して暫定トップで通過すると、最後までペースをは衰えず。この種目で過去3度女王に輝き、産休を経て戦線に戻ってきたベテランが復調をアピールした。
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【ハイライト】UCI世界選手権大会 女子エリート個人タイムトライアル|Cycle*2024
エレン・ファンダイクが復調をアピール
しばしファンダイクがホットシートを温めたが、優勝候補ひしめく最後の10人を迎えると、やはり情勢が変わってくる。マイヨ・アルカンシエルをかけたハイレベルの戦いの口火を切ったのが、63番目にコースへ飛び出したアントニア・ニーダーマイヤー(ドイツ)。第1計測でトップタイムを約10秒更新すると、平坦パートに入ってからも加速して第2計測では21秒更新。暫定での一番時計を濃厚とすると、フィニッシュタイムは40分21秒。一気に42秒も引き上げて、残る選手たちにプレッシャーをかける。
次に走り出したロッテ・コペッキー(ベルギー)は、第1計測でニーダーマイヤーから27秒遅れると、第2計測でも29秒差。結局その差を挽回できず、この種目のヨーロッパ女王は今回の優勝争いから後退。パリ五輪銀メダリストのアンナ・ヘンダーソン(イギリス)もスピードに乗せきれず、約40秒遅れてのフィニッシュとなった。
ムードを一変させたのは最後から4人目、全体67番出走のフォレリングだった。スタート直後から軌道に乗せると、持ち味の登坂力を生かして丘陵パートを攻めていく。第1計測でニーダーマイヤーを上回る16分26秒で通過すると、平坦パートへ向かう下りも快調にアタック。第2計測も28分37秒と、ニーダーマイヤーとの差を拡大。あとはフィニッシュタイムがどうなるか。最後の100mをダンシングで踏み込むと、最初の40分切りとなる39分32秒。走り終えるやバイクもろとも倒れ込んだ。
しかし、このレースで誰よりも巧く走り抜いたのはブラウンだった。最後から2人目、69番目にスタートすると、上りを飛ばして第1計測を16分20秒で通過。フォレリングを6秒上回ると、その先の下りを少々抑えて平坦パートに備える。この影響で第2計測はフォレリングから8秒遅れたが、圧巻だったのが最後の約10km。再びペースアップを図ると、それまでの遅れを完全に挽回してみせた。フィニッシュに到達する頃には十分なリードを得て、初優勝は決定的。そのタイムは39分16秒。フォレリングに16秒差をつけた。
ゴールドバイクで世界選手権制覇
最終走者のダイガートが前半からの遅れを最終盤でリカバリーしたが、ブラウンには届かず3番時計。ブラウンの初優勝、さらにはこの後に五輪と世界選手権の2冠を決める男子のレムコ・エヴェネプールよりひと足早く、快挙を成し遂げたのだった。
「最高のシーズンになりましたね。五輪と世界選手権の2冠は私にとって大きな目標でした。それに向かって全力を尽くしましたし、みずからの可能性を最大限に発揮できたと思います。これ以上何も求めることはできませんよ」(ブラウン)
ポディウムでは真新しいマイヨ・アルカンシエルに袖を通したが、これが最初で最後の栄誉になることは変わらないようだ。というのも、この6月に今シーズン限りでの現役引退を表明しており、2冠を果たしてもその意志に変化がないことを改めて強調したのだ。
「“まだ走れるのでは?”と何人に聞かれたでしょうね…おそらく1000人は超えているかもしれませんね(笑)。まぁそれは冗談としても、キャリアを終えることに変わりはありません。メンタル的にも、100%集中して走れるのは今が最後だと分かっていますから」(ブラウン)
自国を離れて6年。夫を残し、単身ヨーロッパに渡って活動することの大変さ、厳しさを十二分に味わったという。帰国しようにも「ときに24時間以上かかってしまう」といい、年にそう何度もは家に帰ることができなかった。「どうしても心身ともに休まらなかった」という生活から、あと少しで解放される。
「サイクリングへの愛がなくなることはありません。キャリアを終えても、何らかの形で自転車に触れていられると良いなと思っています」(ブラウン)
オーストラリアへの帰還は。五輪制覇を示すゴールドのバイクフレームと、今回獲得したマイヨ・アルカンシエルが大きなお土産となりそうだ。もちろん、残るレースにも集中していて、25日に行われるミックスドリレーと28日のロードレースまできっちり走る心づもりだ。
デミ・フォレリングがタイムトライアルでも強さを見せた
そんなブラウンを称えたフォレリングは、自身初のアルカンシエルには届かなかったものの、満足の2位。最重要のロードレースに向けて仕上がりは実感できた。何より、ツール・ド・フランス ファムでの劇的な敗戦をリベンジする場は、まさに世界選手権なのである。
「ツールでの出来事が、私のパッションに一層火を点けました。世界選手権でのリベンジは当然意識の中にありますよ。今日はグレースが一番強かったですが、私も良い走りができました。ロードレースに向けて良い兆候です。あとは運も必要になりますね。うまくいくことを願っていてください!」(フォレリング)
2連覇を狙ったダイガートは3位に終わったが、こちらもポジティブに結果を受け入れる。パリ五輪ではトラック競技で金メダルを手にしたが、ここしばらくの怪我と体調不良の連続は、ロードでの活動に悪影響を及ぼしてきた。ロードでの活動比率を上げていく見込みだという2025年に向け、立て直しを図る。
「今日は負けてしまいましたが、来年に向けて意欲は高まりました。昨年のこの大会で勝ってからは、新型コロナウイルスに感染したり、冬には大きな怪我をしたりで散々でした。今年に入って継続してトレーニングできたのは2カ月あったかどうか。これからはコンディションを維持して、レースとトレーニングを継続できるよう努めていきます」(ダイガート)
併催されたアンダー23部門は、全体で4位だったニーダーマイヤーにアルカンシエルが贈られた。また、垣田は最終的にブラウンから6分42秒差の51位。次はロードレースに挑む。
28日に実施されるロードレースは、チューリッヒを基点とする丘陵コースが舞台。154.1kmで争われ、個人タイムトライアルを走った選手に加えて、このレースにフォーカスする猛者たちが集結。かつてないハイレベルな戦いが見られるはずだ。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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