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サイクル ロードレース コラム 2024年9月9日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第21ステージ】プリモシュ・ログリッチが史上最多タイとなる4度目の個人総合優勝「最後は“何としてもやり遂げる”という意志だけだった」 シュテファン・キュングはグランツール初勝利

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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プリモシュ・ログリッチが4度目の大会制覇を果たした

プリモシュ・ログリッチが4度目の大会制覇を果たした

ブエルタ・ア・エスパーニャの戦い方を知り尽くす男、プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が、4度目の大会制覇。ロベルト・エラスに並ぶ、史上最多タイ記録となる大台に到達した。

「戦いの終わりが見えてくるにつれて、“何としてでもやり遂げるんだ”という意志が強くなっていった。最後はその思いが僕自身を奮い立たせていたんだ。始まりから終わりまで、全力尽くして走ったよ。今は本当に幸せな気分だ」(プリモシュ・ログリッチ)

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何が起きようと、決して焦ることはなかった。ピコ・ビリュエルカスを上った第4ステージを勝ち、早々に優位に立ったかに見えたが、その2日後にベン・オコーナー (デカトロン・AG2Rラモンディアル)の大逃げで首位陥落。追う立場に回ったけど、ログリッチ、さらにはレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのアシスト陣は、ライバルチームの動きをうまく利用しながら、要所ではみずからがレースを掌握するスマートな戦いに終始。オコーナーとの総合タイム差をじわりじわりと縮めて、14日間かけてリーダージャージのマイヨ・ロホを取り戻してみせた。

それだけでは終わらなかった。終幕が見えた第20ステージでレッドブル勢を食中毒が襲った。選手・スタッフの多くが体調を崩し、この日だけで3人がリタイア。エースをアシストできたのはわずか4選手という異常事態も、ブエルタを知り尽くすログリッチはマイヨ・ロホをまとってうまく立ち回った。

チーム内で数少ない“食中毒を回避した選手”と見られていたログリッチだが、実際のところは多分に影響を受けていたという。

「実は今日(第21ステージ)だけで20回はトイレに行っている。でも、僕には戦いを終わらせる使命があった。体調については深く考えず、走り切ることだけに集中しようと心掛けていたんだ」(ログリッチ)

結果的に個人総合7位で終えるチームメートのフロリアン・リポヴィッツも同様で、前夜は胃の不調でほとんど寝られないまま最終日に臨んでいたという。苦境に立たされながらも、ログリッチとレッドブル・ボーラ・ハンスグローエの選手たちは勝利への強い思いで走り抜いた。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第21ステージ|Cycle*2024

「今はこの勝利を喜びたい、それだけだよ。(新記録となる)大会5勝目を目指すかって? 価値はあるだろうけど、4回勝てただけでもすごいこと。次を目指すかどうかはいつか考えることにするよ」(ログリッチ)

今季からチームを替え、新たな環境でチャレンジに取り組んできた。ビッグ4の一角として臨んだツール・ド・フランスでは負傷リタイアに終わったが、ブエルタを制したことで、移籍初年度は大成功と言って良いだろう。レッドブル・ボーラ・ハンスグローエにとっては、チーム創設以来2度目となるグランツール制覇。ログリッチ、そしてチームと、目指す高みに到達できたことを素直に喜ぶ。そして、次の一歩へと踏み出す決意にも。

「今日という特別な日が、すぐに私たちにとってのスタンダードになるよう、これからも一生懸命取り組みます」(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエGM ラルフ・デンク氏)

総合表彰式が催されたマドリード・シベレス広場に鳴り響いた、“スーパーカンピオーネ”のコール。祝福の中心には、4度目の戴冠を果たしたログリッチの姿があった。

最終ステージはフラットで直線と直角コーナーの多いコースで競い合う

最終ステージはフラットで直線と直角コーナーの多いコースで競い合う

改めてレースに目を移すと、今大会の最終・第21ステージはマドリードでの24.6km個人タイムトライアル。スペイン最大の通信会社テレフォニカ(モビスターの親会社)の創立100周年を記念し、本社内からスタートした。市街地を抜け、シベレス広場を通過すると、これまたテレフォニカ社の関連施設「エディフィス・テレフォニカ」の前でフィナーレを迎える。おおむね平坦で、TTスペシャリスト向けのレイアウトだ。

個人総合の下位選手から順にスタートが切られていく中、ポイント賞のグリーンジャージを着用するカーデン・グローブス(アルペシン・ドゥクーニンク)や、山岳賞の水玉ジャージを着るジェイ・ヴァイン(UAEチームエミレーツ)も無事にレースを完了。それぞれ同賞を確定させた。オーストラリア人ライダーが同時にこれらの賞を獲るのは史上初めてで、14日間マイヨ・ロホを着続けたオコーナーの活躍と合わせて、オージーの活躍が光った大会となった。

キャリア最後のグランツールにすることを公言していた、トーマス・デヘント(ロット・デスティニー)とロベルト・ヘーシンク(ヴィスマ・リースアバイク)も長旅を完走。マドリードのファンから祝福の拍手を受けながら、フィニッシュラインを通過している。

第21ステージを制したのはシュテファン・キュング

第21ステージを制したのはシュテファン・キュング

このステージで最高の走りを見せたのが、97番目に出走したシュテファン・キュング(グルパマ・FDJ)。7.9km地点に設定された第1中間計測からトップタイムをマークすると、14.8km地点に置かれた第2中間計測ではそれまでのタイムを40秒以上更新。勢いを維持したまま走り切って、フィニッシュタイムは26分27秒。アベレージスピードは、55.755kmに達した。最後までこのスピードに上回る選手が現れず、大会最終日のステージ優勝を決めた。

タイムトライアルスペシャリストとして、さらにはクラシックハンターとしても鳴らすキュングだけれど、意外や意外、これが初のグランツールでのステージ優勝である。

「長かったよ。ずっとグランツールでのステージ優勝を目指してきたからね。今日は絶対に勝ちたいと思っていたし、コースに対する自信もあった。他の選手たちに30秒以上の差をつけて勝ったこともすごくうれしい。次の目標は…そうだね、地元開催のロード世界選手権だよ」(シュテファン・キュング)

個人総合上位陣では、同6位でスタートしたマティアス・スケルモース(リドル・トレック)がキュングから1分1秒差でまとめた一方、ひとつ上の順位にいたダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDJ)が2分15秒の遅れを喫し、両者の順位が入れ替わり。スケルモースは個人総合5位で終えると同時に、ヤングライダー賞(マイヨ・ブランコ)を確定させた。

総合表彰台争いは、同4位のリチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)と同3位のエンリク・マス(モビスター)が、ともにトップから1分33秒差でのフィニッシュ。

総合2位になったベン・オコーナーは「彼(プリモシュ)に近づけたことが誇らしい」とコメント

総合2位になったベン・オコーナーは「彼(プリモシュ)に近づけたことが誇らしい」とコメント

今大会の殊勲者であるオコーナーは、「総合表彰台が最終目標」と述べてコースへ。第1計測を16秒の遅れにとどめると、後半は少しペースを落としたものの、それでもフィニッシュはトップから1分5秒差。マスとカラパスより速く走り抜いて、個人総合2位を決めた。グランツール初の総合表彰台だ。

「今の僕にとって、個人総合2位は勝利に匹敵するよ。最後の最後まで集中して走ることができた。リスボンでの開幕時と比べると、調子の良さがまったく違う。個人総合優勝を意識できる位置を走れたことも大きな経験になったよ。いつかログリッチに勝てるかって? ノー、ノー! 彼はチャンピオンなんだ。でも、そんな彼に近づけたことが誇らしいんだ」(ベン・オコーナー)

そして真打ち、ログリッチである。オコーナーに対し2分以上の総合リードがあり、彼のTT走力を考えれば、よほどのミスがない限りジャージを失うことはない。とはいえ本人は、大逆転で敗れた2020年ツールの経験があるから「最後まで何があるか分からない」と集中してスタートラインへ向かった。

いざ走り出したら快調そのもの。前述したように食中毒の影響があったとはいえ、走りからはそれを微塵も感じさせない。キュングのタイムには及ばなかったものの、大きく遅れることはなく、最終的に31秒差でのフィニッシュ。文句なしの個人総合優勝だ。ブエルタ制覇回数タイ記録と同時に、グランツール5勝目は歴代8位タイの快記録でもある。

最終的に、王者ログリッチとオコーナーとの総合タイム差は2分36秒。3位マスとは3分13秒差だった。

4人はそれぞれ首位をキープしたままフィニッシュした

4人はそれぞれ首位をキープしたままフィニッシュした

各賞は前述のとおり、ポイント賞グローブス、山岳賞ヴァイン、ヤングライダー賞スケルモース。チーム総合はUAEチームエミレーツが獲得し、同チームのマルク・ソレルがスーパーコムバティヴ(敢闘賞)を受賞した。

8月17日にポルトガル・リスボンから始まった3週間の旅。総距離3265kmを走破した勇者たちが、マドリードに帰還した。完走したのは135選手だった。

3つのグランツールすべてが終わり、この先のビッグレースはワンデーが中心に。その最高峰は、9月下旬のロード世界選手権、さらには10月に控えるイル・ロンバルディアとなる。そして、わが誇りのジャパンカップサイクルロードレースも待っている。ここまででも十二分に激動の2024年シーズンだけれど、まだまだ楽しみは残されている。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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