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サイクル ロードレース コラム 2024年8月29日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2024 レースレポート:第11ステージ】ダンバーがこれまでの不運を払拭する勝利…ログリッチが総合でじわり接近

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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激しく動くこととなるレースの始まり


第79回ブエルタ・ア・エスパーニャは8月28日、パドロンのカンプス・テクノロヒコ・コルティソを発着とする166.5kmで第11ステージが行われ、エディ・ダンバー (ジェイコ・アルウラー)が38人の集団からロングスプリントを仕掛けて成功。グランツール初優勝を遂げた。

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総合優勝を争うプリモシュ・ログリッチ (レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)とエンリク・マス (モビスター)は、最も急峻な最後の峠でメイン集団からスパート。第6ステージから首位に立つベン・オコーナー (デカトロン・AG2Rラモンディアル)との差をこの日だけで37秒縮めた。オコーナーはリーダージャージのマイヨ・ロホを6日間守ることに成功したが、総合2位ログリッチとの差は3分16秒と接近してきた。

スペイン北西部のガリシア地方で開催される4つのステージのうち2番目のステージだ。この日の第11ステージはカンプス・テクノロヒコ・コルティソを発着とする距離166.5kmのアップダウンの多い中級山岳コース。標高は500mにも満たないが4つの山岳ポイントがあって、とりわけ最後の峠からフィニッシュまではわずか7.9km。

レースはパドロンという町にある産業用・建材用アルミ工場をスタート・フィニッシュ。4つの山岳の獲得標高は3000m以上になる。ガリシア地方を舞台としたこの日のレースは激しく動く展開となった。

アップダウンの連続なので当然、攻撃的なライダーが勝ちにいく。戦いは0km地点から始まり、ステージ優勝を目指すアタッカーは逃げるのに必死となる。ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)が口火を切り、この日最初の上り坂であるプエルト・サン・シュスト(42.4km地点)を先頭で通過した。

逃げの口火を切ったカンペナールツ

カンペナールツを追って、その日の2番目の峠であるプエルト・アグアサンタス(81.2km地点)に向かう下り坂でアタッカーたちが合流してきた。ステフェン・クライスヴァイク、アッティラ・ヴァルテル(ヴィスマ・リースアバイク)、ブランドン・マクナルティ(UAEチームエミレーツ)、ジョナタン・ナルバエス、ブランドン・リベラ(イネオス・グレナディアーズ)、ジェームス・ノックス(ティーレックス・クイックステップ)、カルロス・ベローナ(リドル・トレック)、ニコ・デンツ、パトリック・ガンパー、ダニエル・マルティネス(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、クインテン・ヘルマンス、クサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・ドゥクーニンク)、ジョージ・ベネット、マルコ・フリーゴ、マシュー・リッチテッロ、コービン・ストロング(イスラエル・プレミアテック)、アリエン・リヴィンズ、エドゥアルド・セプルベダ(ロット・デスティニー)、スヴェンエリック・ビーストルム、ロレンツォ・ジェルマーニ、ルーベン・トンプソン(グルパマ・FDJ)、カルロス・カナル、ペラヨ・サンチェス(モビスター)、フラン・ミホリェヴィッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ダンバー、フィリッポ・ザナ(ジェイコ・アルウラー)、マティス・ルベール(アルケア・B&Bホテルズ)、マックス・プール、クリス・ハミルトン、ハイス・レイムライゼ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)、ギヨーム・マルタン、ヨン・イサギレヘスス・エラダ(コフィディス)、ジャンマルコ・ガロフォリ(アスタナカザクスタン)、ウルコ・ベラーデ、イボン・ルイス(エキポケルンファルマ)、シャビエル・イササ(エウスカルテル・エウスカディ)。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第11ステージ|Cycle*2024

この中からアルペシン・ドゥクーニンクのムーリッセが単独で抜け出し、1分のギャップを開けた。この動きに対してイスラエル・プレミアテックがこの第1集団を牽引する。この第1集団には9分50秒遅れの総合16位、ニュージーランドのクライマー、ベネットがいる。115km地点で第2集団との差が6分15秒まで広がると、オコーナーを擁するデカトロン・AG2Rラモンディアルが第2集団のペースアップを始めた。

先頭のムーリッセは約60kmを単独で走ったものの、フィニッシュまで残り32kmで第1集団に追いつかれた。さらにイササがカウンターアタックを試みるが、すぐに追いつかれた。ステージ優勝をめぐる戦いは、残り7.9kmをピークとするこの日最後の峠、プエルト・クルセイラス(距離2.9km、平均勾配8.9%)に持ち越された。

攻撃的なライダーたちを追う集団

ヴェローナ、ザナ、ベラーデが最後の上りで積極的に仕掛ける。プールは下り坂でその差を縮めるが、残り1.5kmで追撃者が追いついてきた。ベラーデとヴェローナがさらなるアタックを試みるが、失敗。満を持していたダンバーが最後の1kmで全員を追い抜き、そのままロングスプリント。フィニッシュラインまで逃げ切ってグランツールのステージ初優勝を飾った。

ダンバーは2018年9月にチームスカイ(現イネオス・グレナディアーズ)でワールドツアーチーム入り。アイルランドのクライマーで、アシスト役としてジロ・デ・イタリアに3回出場。2023年に総合成績のエース格としてジェイコ・アルウラーに移籍してきた。今回のブエルタ・ア・エスパーニャは2回目の出場。一方でツール・ド・フランスの出場はまだ果たしていない。

この日4つの峠で激しい戦いを繰り広げた後、最終的に38人逃げのライバルたちを打ち負かしたダンバーは、「ちょっと不思議な感じがする。開幕時は本当に調子が悪くて、かなりタイムをロスした。総合優勝を狙ってここに来やけど、すぐに脚力がないと分かった。準備は入念にしたつもりなので、やり方を変える必要があった。ステージ優勝は予想していなかったチャンスとなった」とゴール後にコメントした。

ロングスプリントでうまく抜け出したダンパー

「正直に言うと、このような状況は久しぶり。自分の経験を生かしただけだ。急な上り坂で少し苦しんだけど、他のみんなも苦しんでいることに気づいた。チームメートのピポ(ザナ)が先頭にいたので、私はかなり後ろに位置していた。そこからカードを切ってギャンブルをした。どんなにレースが厳しくても、フィニッシュでスプリントできると分かっていたが、長く走らなければならないことも分かっていた。残り600mとスプリントとしてはかなり長い距離だ。でも、それは私がしなければならなかったことだ」(ダンパー)

2023年のブエルタ・ア・エスパーニャ出場以降、ダンバーは7、8回落車したという。体力的にも精神的にも追い詰められていた。落車や怪我のせいで、このスポーツで将来はないかもしれないと何度も思ったという。

「今年のジロ・デ・イタリアの後に左膝を負傷したとき、これが私の自転車競技人生に終止符を打つことになるかもしれないと思った。でも、周りには信じられないほどのサポーターがいた。ガールフレンドはいつもそばにいてくれるし、素晴らしい友人や家族がいた。彼らが私をとても支えてくれる。長い道のりだったが、今日、彼ら全員に恩返しができたことは大きな意味がある」(ダンバー)

一方、後方のメイン集団では、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエが上り坂でペースを上げ、総合2位のログリッチが攻撃を仕掛けた。これにすぐさま反応できたのは総合4位のマスだけだ。マティアス・スケルモース(リドル・トレック)、カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)、ダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDJ)、ミケル・ランダ(ティーレックス・クイックステップ)もなんとか追従して3分31秒遅れでフィニッシュ。リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)はさらに15秒遅れ。そしてオコーナーはログリッチらから37秒遅れでゴールする。

「フィニッシュは急勾配で大変だった。今日は超強い選手が何人かいた。最悪のシナリオではないし、僕の詰めが甘かったわけでもない。このレースには本当に危険な選手がたくさんいる。もっといい日もあったわけで、それがこれまでのブエルタ・ア・エスパーニャのストーリーだ。いい日、普通の日、いい日、普通の日…、できればこの状況を変えて、毎日いい日を過ごせるようになりたい」(オコーナー)

徐々にタイム差がなくなっていく総合勢の今後に注目

この日の山岳ポイントは逃げた選手らが全ポイントを獲得したため、トータルの山岳賞1位アダム・イェーツ(UAEチームエミレーツ)、同点で2位につけるワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)の順位に変更はなかった。

「エディ(ダンバー)はとてもいい人で、彼が優勝できたことをとてもうれしく思う。彼は今年、そして去年も不運に見舞われた。彼はトップクラスの選手なので、その勝利を心からうれしく思う」(イェーツ)

「今日は最後に非常に速い上りの戦いがあり、8分間ほぼ全力疾走だった。厳しい1日だった。チームメートのパベル(シヴァコフ)も非常に調子がいいので、このあとの数日でなにができるか楽しみだ」(イェーツ)

ヤングライダー賞ではレッドブル・ボーラ・ハンスグローエのアシスト、フロリアン・リポヴィッツを逆転したカルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)がトップに立った。

「どちらも重要だ。白ジャージを着るのはもちろん名誉だけど、総合順位を上げることも目標。また、ベン(オコーナー)との差も縮めることができたので、今後数日間のレースで自信を持たなければならない。もちろん、総合順位でできる限りいい成績を残すことが主な目標。マイヨ・ロホを着ることができれば素晴らしいが、ここにいる優秀なライダーのレベルを考えると非常に困難だ。でも、最終日のマドリードで白ジャージを着ることができれば、とてもうれしい。長い距離を走る方が自分に合っていると思うので、楽しみにしているし、いい結果を出せることを願っている」(カルロス・ロドリゲス)

翌日の第12ステージはオウレンセ テルマルからモンターニャ・デ・マンサネーダスキー場までの今大会最短距離137.5km。距離が短いということは高速レースになることは必至で、最後は山頂フィニッシュだ。最後の坂は距離15.4km、平均勾配4.7%、ラスト2kmは勾配8%前後ときつく、12%ゾーンも待ち構える。コース上にポイントのつく山岳はここだけ。スタートからフィニッシュまで、果敢な高速バトルが繰り広げられるに違いない。

徐々に追い詰められていくオコーナー。屈強のアシスト陣をそろえるログリッチ。表彰台争いとともに頂点をうかがえる位置につけるマスとカラパス。距離の短いステージは総合成績における波乱がつきもの。どうなるかに注目したい。

文・山口和幸

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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