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サイクル ロードレース コラム 2024年7月20日

【Cycle*2024 ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第19ステージ】“タデイ・ポガチャル劇場”ここに決まる イゾラ2000で驚異の追い上げ、クイーンステージ完勝でツール覇権奪還へ大きく近づく

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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計画通りパーフェクトな勝利をきめたポガチャル

すべてを悟らせるには、これ以上ない表現だったのではないだろうか。終始アシスト陣がレースをコントロールし、ここぞという局面で勝負を決める。総合争いだけでなく、先を急いでいた逃げメンバーまでをもみずからの力で食い止めてみせた。マイヨ・ジョーヌでクイーンステージを勝つ。3週間の旅の答えが、より明確になっている。

ツール・ド・フランス2024第19ステージ。2つの超級山岳と1つの1級山岳。標高2000m超の山々が3つ詰め込まれた144.6kmの難関コースを征服したのは、やはりタデイ・ポガチャル (UAEチームエミレーツ)だった。最終登坂の1級山岳イゾラ2000でライバルを振り切ると、逃げていた選手たちをすべてパス。今大会4勝目は、個人総合2位のヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)らとの差をより大きくするものとなった。

「トレーニングキャンプの頃から、このステージをどう攻略するかをチームと話し合ってきたんだ。計画通りのレースができたよ。パーフェクトだ!」(タデイ・ポガチャル)

アルプス山脈での最終決戦を迎える。前日までの2日間は逃げを容認し、イージーにレースを終えていた総合勢にとって、今大会最後の3ステージにすべてがかかっている。

山岳比重の高いこの大会にあって、とりわけ難易度が高いとされたのが第19ステージだった。レース前半で1つ目の超級山岳ヴァール峠(登坂距離18.8km、平均勾配5.7%)、中盤で2つ目の超級シム・ド・ラ・ボネット(22.9km、6.9%)、締めが1級イゾラ2000(16.1km、7.1%)。

シム・ド・ラ・ボネットの頂上は標高2802m。フランスにおいて最も高い位置にある舗装道路であると同時に、3つのグランツールを見通しても最高標高地点にあたる。本来は1位通過が20点の超級山岳ポイントは、この場所に限って特別に2倍に設定される。最後のイゾラ2000は、上り口と中腹で10%を超え、フィニッシュに近づくにつれて緩やかに。とはいっても、2つの超級山岳で消耗した脚には厳しく、それはまさにクイーンステージと呼ばれるにふさわしいコースがセッティングされた。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ツール・ド・フランス 第19ステージ|Cycle*2024

始まりは比較的スムーズに事が運んだ。リアルスタート直後に20人を超える選手たちが前をうかがうと、メイン集団はUAEチームエミレーツがマルク・ソレルを配してペースメイク。これが効いて、早い段階で22人による先頭グループが編成された。追う立場にあるヴィスマ・リースアバイクがクリストフ・ラポルト、マッテオ・ヨルゲンソン、ウィルコ・ケルデルマンを送り込んだ。

逃げに送り込めなかったチームがこの状況を嫌って、先頭グループを追走。1つ目の超級ヴァール峠に入ったところで、リチャル・カラパス (EFエデュケーション・イージーポスト)やサイモン・イェーツ (ジェイコ・アルウラー)ら数人がブリッジを試みる。結局前線合流できたのがこの2人で、先頭グループのメンバーが幾分のシャッフル。長く厳しい上りも相まって、レースを先導するのは9人になった。この頃にはメイン集団のペースも落ち着いて、タイム差は3分30秒まで広がる。頂上はカラパスが1位通過して、山岳ポイント20点を獲得。この段階で山岳賞3位につけた。

集団のベースメイクするUAEチームエミレーツ

標高2109mの山頂から1232mまで下って、続くはシム・ド・ラ・ボネット。長く険しい上りに先頭グループもメイン集団も、人数が減っていく。集団では、個人総合11位でスタートしたフェリックス・ガル(デカトロン・AG2Rラモンディアル)が遅れる。20人ほどまで絞られた集団は、UAEチームエミレーツがきっちり人数を残す一方で、ヴィスマ・リースアバイクはヴィンゲゴーを単騎にしてしまう。依然コントロールを続けるUAEチームエミレーツは、最大で4分あった先頭グループとのタイム差を3分40秒とした。

ここも頂上はカラパスが1位通過。超級山岳ポイント2倍の40点を獲得し、この段階で山岳賞トップに立った。

「今日の目標は山岳賞ジャージだった。逃げに乗り遅れたのだけれど、チームが全力で追ってくれて、僕を前へ送り出してくれたんだ。このジャージを最後まで守りたいね」(リチャル・カラパス)

前線をキープするヴィスマ・リースアバイクの2選手だったが…

先頭はカラパス、ヨルゲンソン、ケルデルマン、サイモン、ジャイ・ヒンドレー (レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)の5人。上り同様に長い下りをこなして、イゾラの街に達すると残りは約16km。勝負の最終登坂、イゾラ2000である。高度にして904mから2024mまでを駆け上がる。

上り始めて3kmほど進んだところでヨルゲンソンがアタック。カラパスが追う姿勢を見せるが、ケルデルマンが抑えに回ったことでヨルゲンソンはリードを広げていく。この時点でメイン集団とのタイム差はおおよそ3分20秒。

集団はUAEチームエミレーツのペーシングで変わらず。アダム・イェーツの牽引で残っているのは個人総合上位陣のみとなる。

あっという間にタイム差を縮めていくポガチャル

その瞬間は、フィニッシュまで10kmを切ったところで訪れた。マイヨ・ジョーヌの腰が上がった。レースリーダーのポガチャルみずからの攻撃には、誰もついていくことができない。ヴィンゲゴーはポガチャルを追わず、個人総合3位につけるレムコ・エヴェネプール (スーダル・クイックステップ)をマークしながらの登坂。残り5kmでのレムコのアタックはチェックして、総合2番手キープにシフトした。

こうなると、ポガチャルが別次元の走りをしていることを認識させられる。3分以上あったヨルゲンソンとのタイム差はあっという間に縮まって、フィニッシュ前2kmでついに追いついた。背後につくや、再びのアタック。ヨルゲンソンに反応させる余地を与えない。

「ヨルゲンソンは今日一番強かったと思う。絶対に追いつかれたくなかったから、追い抜くときに思い切ってスピードを上げたんだ。最後の2kmは苦しかったけど、ステージ優勝が目標だったから残っていた力を振り絞ったよ」(ポガチャル)

完全に独走に持ち込んで、残すミッションは一番にフィニッシュ到達のみ。スロベニア応援団も待つイゾラ2000の頂上にやってくると、ステージ4勝目をアピールしながらのウイニングセレブレーション。3年ぶりのツール制覇へグッと近づいた。

「イゾラ2000はジロ・デ・イタリアとツールの間のトレーニングで走っていたんだ。特徴を把握できていたことは今日の走りにプラスに働いたね」(ポガチャル)

あと一歩でステージ優勝が叶わなかったヨルゲンソン

現在のプロトンでは誰も成し遂げていないジロとツールの2冠「ダブル・ツール」へ。その強さは、もはや誰にも止めようがなくなっている。残る2ステージは、大記録へどう走るつもりだろうか。

「最後の2日間は普段のトレーニングコースなんだ。すべて知り尽くしているよ。やるべきこと? マイヨ・ジョーヌを守るだけさ」(ポガチャル)

これで終戦なのだろうか。ヴィスマ・リースアバイクは、ヨルゲンソンとケルデルマンを前線に送り込むところまでは予定通りだった。しかし、肝心のヴィンゲゴーの状態がいまひとつだったという。レース途中に、ヨルゲンソンでのステージ狙いに切り替えていた。指揮官のグリシャ・ニールマン氏が事情を明かす。

「マッテオとウィルコを逃げに送り込んで、その後のレース展開はヨナス次第だった。2人に前待ちさせる選択肢もあったけど、彼らでステージを狙うようヨナスが判断したんだ。ヨナスは最大のライバル(ポガチャル)と戦える状態にないことを感じていたんだ」(ヴィスマ・リースアバイクDS:グリシャ・ニールマン氏)

結果的にヨルゲンソンはあと一歩まで行きながら、ステージ2位。

「僕にできることはすべて出し尽くした。全身全霊で戦ったよ。今日は本当に勝ちたかった。ポガチャルが追ってきていると知った瞬間にものすごいプレッシャーに襲われた。この悔しさは忘れない」(マッテオ・ヨルゲンソン)

ゴール後にレムコに握手を求めるヴィンゲゴー

総合力のあるヨルゲンソンとケルデルマンの逃げは、ポガチャルにしても脅威に感じていたという。シム・ド・ラ・ボネットでヴィンゲゴーが2人めがけてアタックするのではないか、との想定までしていた。

「正直に言うと、シム・ド・ラ・ボネットはとても苦しかった。ヨナスがアタックするかもしれないと思って彼をチェックしていたけど、本当に動かれていたら対応できたか分からなかった。それくらい厳しい上りだったんだ」(ポガチャル)

しかし、ヴィンゲゴーにはもう、その力は残っていなかった。フィニッシュするや、待っていた妻のもとで泣き崩れた。

「非常に高いレベルで戦えたことを誇りに思うよ。本当は2位争いではダメなんだ。でも、その思いは第2週までだった。今はもうそんなことはないよ。あとは、2位を確実なものにするために最善を尽くすよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)

きっちり人数を残すUAEチームエミレーツ

最終目的地、ニースが見えてきた。というか、次のステージはニースがスタート地なのだけれども。覇権争いの終結を感じるけれど、実際のところはまだハードなステージが2つ残されている。まだ、物語そのものは終わっていないのだ。きっと、われわれの思いもよらないシナリオが何か、残されているに違いない。

●マイヨ・ジョーヌ タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「ヴィスマ・リースアバイクがステージを通して僕たちに脅威を与えていた。だからこそステージ優勝でチームメートに報いたかった。今日は長い時間レースをコントロールしてくれたからね。

シム・ド・ラ・ボネットは昨年、スポンサーの要望で一度上っていた。ツールのコースに組み込まれると知ったときは、把握している山岳が加わったからうれしかったよ。イゾラ2000はジロ・デ・イタリアからこのツールまでの間に何度も上っていたんだ。おそらく15回は上っただろうね。むしろ上らなかったのは、新型コロナウイルスにかかっていた4日間だけじゃないだろうか。シム・ド・ラ・ボネットも6月に再確認のために上っていたんだ。だから、今日のコースはしっかりチェックできていた。

昨年、一昨年とツールで負けているけど、シーズン自体は充実していた。2年前はヨナスとプリモシュ(ログリッチ)を気にするあまり失敗し、昨年はリエージュ~バストーニュ~リエージュでの負傷が響いた結果だった。特に昨年は5月下旬にトレーニングを再開して、第1週は包帯を巻きながら走っていたからね。二度と手首は骨折したくないと思ったよ。

今年はジロとツールに照準を定めるため、冬場のトレーニングはゆっくり行ったんだ。ウォーキングやランニングも多く取り入れた。昨年のイル・ロンバルディアから今日にいたるまで、失敗することなく日々を送れているよ。たくさんの経験を積んで、強くなっている実感もある。自信がないときは失敗をしがちだけど、今年はそれがまったくないんだ。ストレスもプレッシャーも全然感じていないよ。

僕のライバルは間違いなく、ヨナス・ヴィンゲゴー、プリモシュ・ログリッチ、レムコ・エヴェネプールだ。僕たちは今、素晴らしい時代を生きていると感じている。何よりレースが大好きで、自分が出場していないレースも観るのが楽しみなんだ」

残るステージはあと2つ

●個人総合2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「今日はベストな状態になかった。レース途中に戦術変更を余儀なくされてしまった。マッテオ(ヨルゲンソン)とウィルコ(ケルデルマン)は、僕のために前でレースを進めていたんだ。でも、今日の僕は勝負するには厳しい状態だったから、代わりに彼らにステージ優勝を託すことにしたんだ。2人は素晴らしいレースをしたよ。負けてしまったのはレースだから仕方がない。

タデイは今日より第15ステージの方が良い状態にあったのではないだろうか。もちろん今日も強かったよ。2位ではダメだと自分に言い聞かせて第2週まで走ってきたけど、今はもう違った心境だ。大事なステージがまだ2つ残っているけど、個人総合2位を確保できるよう最善を尽くすよ。

今日はレムコをチェックしながら走った。彼からタイムを失わなかったことについては成功だと思っているよ。明日も彼をフォローしながら走ることになるだろうね。ツールを勝つためにあらゆるトライをするつもりだったけど、今は状況が異なっている。

もちろん勝つことを目指してツールに参加したけど、今の状態(怪我明け)ではそれが難しいとも分かっていたよ。心の準備はできていたんだ。1カ月半の準備で3週間を戦うなんてクレイジーだよね。でも、僕は少なくとも2週間半はチャレンジを続けられたんだ。ステージ優勝(第11ステージ)できたのも今となっては奇跡だよ。夢にも思っていなかったからね」

●ステージ2位 マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「本当に悔しい。あと一歩だったのだけどね。去年もステージ優勝に近づいたことがあったけど、なかなかうまくいかないね。全力を尽くしたけど…タデイに食らいついたとしても、僕には勝ち目がなかっただろうね。残り3kmで彼が迫ってきていると知ったときはものすごいプレッシャーに襲われたよ。

今日の僕の役目は、逃げに乗ってヨナスを待つことだったんだ。でも、途中で戦術が変更になった。ステージ優勝を狙うよう言われたんだ。ウィルコは僕のために最高の働きをしてくれた。彼がいなかったら今日のようなレースは絶対にできなかった。僕と彼のどちらでステージ優勝を狙うかは特に話し合わなかった。僕の調子が良いことを知っていて、何も言わずに彼は仕事をしてくれたんだ」

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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