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【ツール・ド・フランス2024 レースレポート:第1ステージ】史上初のイタリア開幕を制したのはロマン・バルデ 約50kmを逃げ切って33歳にして初のマイヨ・ジョーヌ「1日でも良いからマイヨ・ジョーヌが着たかった」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介初日のマイヨ・ジョーヌにはロマン・バルデ(dsmフィルメニッヒ・ポストNL)が輝いた
われわれの夏は、いつだってドラマに満ち溢れている。熱く、美しく、感動的な3週間が、今年もやってきた。世界最大の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスの開幕だ。興奮と激動の日々がこれから続いていく。想像のはるか上を行く出来事に魅了され、一層ツールの虜になる。新たな物語が始まった。
2024年のツール・ド・フランスは初もの尽くし。史上初めてイタリアがグランデパール(開幕地)を務めるし、第1ステージで通過する小国サンマリノがコースに組み込まれるのも初めて。いつもなら最後を飾るパリ・シャンゼリゼに到達しないのも初めてのこと。ツール後に控えるパリ五輪に配慮し、第111回ツールの閉幕地は南仏・ニースとなる。
イレギュラーだらけの今年のツールだけれど、こうして歴史が刻まれていくのである。ちょうど100年前、オッタヴィオ・ボッテッキアがイタリア人ライダーとしては初めて、ツールを制した。今回のイタリア開幕には、それを祝う意味合いも込められている。15世紀にルネサンスで栄えた街・フィレンツェが長旅の出発地となるが、ここはジーノ・バルタリの故郷。第1ステージのフィニッシュ地となるリミニは、20年前にマルコ・パンターニが永遠の眠りについた土地でもある。案外、ツールとイタリアのつながりが深いことを実感する機会となっている。
大熱狂である。ジロ・デ・イタリアなどの由緒あるレースで慣れているであろう、イタリアのファンがツールに興奮しているのだ。第1ステージのスタート会場は、導線がふさがるほどの人・人・人。チームパドックには関係者とファンが入り混じってしまって、選手たちが身動きをとれないほどに。そうした中で大ハプニングが起こってしまい、ファンと激突したヤン・ヒルト(スーダル・クイックステップ)が歯を3本折る負傷。ダメージを負ったままレースに臨むこととなった。
多くの観客の声援を受けツール・ド・フランス2024の幕が上がった
スタートライン周辺も、コースが閉ざされるほどの人の多さ。どうにかこうにか扉をこじ開けて、選手たちは3週間の旅へと出発した。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第1ステージ|Cycle*2024
フィレンツェの歴史をたどりながらのパレード走行を経て、いよいよレースはリアルスタート。早速10人以上がアタックを試みて、その中にはロマン・バルデ(チーム dsmフィルメニッヒ・ポストNL)の姿もあった。
ただ、すぐに逃げが決まることはなく、しばし出入りが繰り返される。状勢が変化したのは17km地点。7人が集団から抜け出すことに成功し、先頭グループを形成する。その後追随した2選手までが先行を許される形になって、レースはいったんの落ち着きを見せる。この間には、大会3連覇を目指すヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)がバイクを交換している。
マーク・カヴェンディッシュが苦戦
この日は206kmの長丁場。アペニン山脈を横断するルートは、7カ所ものカテゴリー山岳が設定された。加えて、35度を超える猛烈な暑さが選手たちに襲い掛かった。スタートして1時間を過ぎると、集団のペースに対応しきれない選手たちが次々と後方へ。最多記録となるステージ通算35勝目を目指し乗り込んだマーク・カヴェンディッシュ(アスタナカザクスタン)は、たびたび頭から水を浴び、苦しげな様子。やがて集団から脱落し、アシスト4人がペースメイクを図る。何とか走り続けるカヴェンディッシュだが、胃腸の不調もささやかれ、実際に嘔吐を繰り返す姿も見られている。
快調に飛ばす先頭グループでは、ヨン・イサギレ(コフィディス)と、追走から先頭合流を果たしたヨナス・アブラハムセン(ウノエックスモビリティ)とが盛んに山岳ポイント収集に走る。その流れから迎えた中間スプリントポイント(86.6km地点)は、サンディ・デュジャルダン(トタルエネルジー)がアブラハムセンとの競り合いに勝って1位通過している。
かたやメイン集団では、先頭との差が5分を超えたあたりからEFエデュケーション・イージーポストがペーシングを開始。続いてUAEチームエミレーツ、ヴィスマ・リースアバイクと牽引役が変わっていくと、上りのたびに人数が絞り込まれていく。レース半ばを過ぎ、4つ目の登坂区間である2級山岳コート・ド・バルボットでは、今大会の注目選手が次々と脱落。個人総合上位入りが期待されていたダヴィド・ゴデュ(グルパマ・FDG)やマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)が後方へと下がっていった。
大きな局面を迎えたのは、フィニッシュまでおおよそ50kmを残したタイミングだった。2級山岳コート・ド・サン・レオに入ると、先頭グループで数人がドロップ。ときを同じくして、メイン集団ではバルデがアタックに打って出た。
「多くのライダーが苦しんでいる様子を見て、逃げに入っていたフランク(・ファンデンブルーク)を頼れば何かが起きるのではないかと思ったんだ。アタックした瞬間は“今だ!”という直感だけ。思い切っていったよ」(ロマン・バルデ)
フランク・ファンデンブルークの緩急ある走りがチームを牽引する
バルデの加速を受け、序盤から先頭グループに入っていたチームメートのフランク・ファンデンブルークが意識的にペースを緩めて、チームリーダーを前待ち。さして時間をかけずに両者が一緒になると、前を走っていたヴァランタン・マドゥアス(グルパマ・FDJ)に労せず追いついた。少しばかり3人で走ったが、脚の差は明白。残り40kmを切ろうかというところで、dsm勢2人の逃げが始まった。
メイン集団では引き続きEFエデュケーション・イージーポストやヴィスマ・リースアバイクが牽引。ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が単独で追走を試みたが、15kmほど進んだところで集団へと引き戻される。最後の登坂を終えて、前を行く2人とのタイム差はおおよそ1分35秒。イネオス・グレナディアーズやリドル・トレックも牽引を引き受けて、バルデとファンデンブルークとの差を少しずつ縮めていく。
しかし、レース序盤から積極的な姿勢を崩さなかった2人の勢いは、集団の力でしても食い止められなかった。残り10kmを切って1分を割ったタイム差だが、残り5kmで35秒、残り3kmで20秒…。バルデとファンデンブルークは最後まで捕まることなく、最後の直線へとやってきた。
焦る集団をよそに、最後の最後まで力強いペダリングを披露した2人。勝利を確信するや両者が並んでフィニッシュラインへ。最後はファンデンブルークがわずかに減速して、年長のバルデを立てたのだった。
「予想していないことが起こるからロードレースは楽しい。いつもとは違う心境でツールに臨んでいて、今日のアタックも本能にしたがったまで。総合成績を狙っているわけではないので、今日はステージ優勝か20分遅れかのどちらかだろうと考えていたんだ」(バルデ)
オープニングステージを制し、今大会最初のマイヨ・ジョーヌ着用者に。11回目の出場にして、初めてレースリーダーになる。
2016年には個人総合2位、翌2017年には同3位と、総合表彰台にも立った。当時は紛れもなく、「ツール制覇に最も近いフランス人ライダー」であった。でも、不調や落車負傷に苦しむうちに、そんな周囲の見方も薄れていく。過度のプレッシャーを避け、ジロを走ってみたり、ステージ狙いに切り替えてグランツールを走ったりと、近年はアプローチを変えつつシーズンを送ってきた。このツールも、開幕を前にステージ狙いであることを口にしていた。
「1日でも良いからマイヨ・ジョーヌを着るのが夢だった。正攻法ではうまくいかなくて、本当に寂しい思いをしてきた。だけど、今まで違ったやり方をしてみたらうまくいったんだ。今日の結果こそが、本当の自分だと思っているよ」(バルデ)
先ごろ、来年6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネを走ってキャリアを終えることを明言した。つまりは、実質これが最後のツール。ついに袖を通したマイヨ・ジョーヌは、喜びも苦しみもすべて受け入れてきた彼への最高のご褒美である。
チームを支えた新進気鋭のルーキー、フランク・ファンデンブルーク
dsm勢によるワン・ツーフィニッシュの立役者は、ファンデンブルークで間違いない。文句なしの敢闘賞獲得だ。今季プロデビューした23歳で、4月にはツアー・オブ・ターキーを制した新鋭である。
「開幕からの数日で何かやってみようと思っていたんだ。逃げている間は深くは考えず、僕にできることはひたすら前を目指すことだけだった。フィニッシュして初めて、自分が成し遂げたことの大きさに驚いているところだよ。ロマンを前で待つために先頭を走っていたわけじゃないけど、結果的には成功だったね」(フランク・ファンデンブルーク)
ジロに続き優勝を目指すタデイ・ポガチャル
2人の逃げ切りを許したメイン集団は、最終的に5秒差でのフィニッシュ。ワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)が先着し3位。ジロとのダブルツールを狙うタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が4位で続いた。ポガチャルと並んで“ビッグ4”に挙げられるヴィンゲゴー、プリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、レムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)も同グループでレースを完了。その他総合系ライダーも多数残っており、まずはフラットな状態で大会初日を終えている。
早くに遅れたカヴェンディッシュは、バルデから39分12秒後にフィニッシュ地点へとやってきた。タイムアウトは免れ、ステージ通算35勝目への挑戦資格は守っている。
ここから先の道のりは、さらに険しくなる。旅は始まったばかり。3週間に及ぶ壮大なドラマを見届けようではないか
●ステージ優勝:ロマン・バルデ(チーム dsmフィルメニッヒ・ポストNL)コメント
「言葉にならないほどうれしい。こんな勝ち方は夢にも思っていなかった。それでも、いつも通りレースをして、その結果が勝利だったというだけだよ。チームメートの走りにはとても感謝しているし、そこにはフェアプレー精神が宿っていたね。とにかくレースを楽しんで、今日すべてが終わっても良いという気持ちで走っていたんだ。
フランク・ファンデンブルークを称えるロマン・バルデ
フランクと逃げている間はそれなりに言葉をかわしたけれど、何も心配することはなかった。僕たちが何をすべきかは理解できていたし、手に入れたマイヨ・ジョーヌの半分は彼のものでもあるんだ。明日は1日、マイヨ・ジョーヌを最大限楽しみたいと思う」
●ステージ2位&マイヨ・ヴェール&マイヨ・ブラン:フランク・ファンデンブルーク(チーム dsmフィルメニッヒ・ポストNL)コメント
「大会序盤で逃げを試みようと考えてはいたけど、さすがにここまでうまくいくとは思っていなかったよ。ロマンが追いついてきてくれたことで、思い切ってレースを進めることができたんだ。正直、上りではも脚がいっぱいだったけど、ロマンが何度も助けてくれた。最後の5kmは脚が攣ってしまって大変だったけれど、フィニッシュラインに向かって全力を尽くせたことはものすごい自信になるだろうね」
●ステージ3位:ワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)コメント
「この結果には驚いているよ。怪我が癒えたとはいえ、ここまでのレベルで戦えるとは思っていなかったんだ。今日は走りの感覚がずっと良くて、最後の上りを終えたところでスプリントをやろうと決意した。ステージ優勝に向けて全力を尽くしたけれど、逃げ切った2人にはただただ脱帽だね」
文:福光俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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